Act.9-27 臨時班派遣間近〜臨時班候補達vsローザの模擬戦〜 scene.7
<三人称全知視点>
ローザがカノープスの魔法を改良した魔法をいくつか使用していた傾向から「闇牙黒竜撃」の改良版をいつかは使うだろうと踏んでいたネスト達とは異なり、雪菜達にとっては今の魔法は大きな動揺を生じさせるに足るものだった。
その動揺を抱えたまま戦えば、戦いはより一層不利なものになるが、桃花を一撃で下したあの攻撃の衝撃を拭い去るのは困難を極める。
「……や、やるしかないわね。紐縛り！ 崩魂霊聖砲」
武装闘気を纏わせた無数のリボンを作り出してローザを捕縛、更にリボン魔法で作り出した魔法の銃火器の中でも最大火力を誇る砲台を創り出し、神聖魔法「魂霊崩壊」を込めた砲弾を射出する。
当たれば一撃で消滅する弾丸をローザは裏武装闘気で作り出した壁を盾にすることで無力化すると、「弾力空気」を使って美結の目の前に現れ、圓式の斬撃を放って的確に魂魔宝晶を砕いて消滅に追い込んだ。
「――ッ！ やるしかないですね。幻想戯画・吸血姫神」
小筆はありったけの魔力を消費してリーリエを描き、戦場に召喚する。
「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒！！」
小筆が技の名を叫んだ瞬間――刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣を顕現し、その剣が一斉にローザへと降り注ぐ。
「《天照日孁大御神》――《太陽神》」
光の速度で攻撃を回避するか……と思われたが、ローザはなんと降り注ぐ二振りの巨大な剣の柄に触れ……何とそのまま剣を変形させて得物としてしまった。
これには、ローザの戦いを幾度となく見てきたプリムヴェール達も驚愕している。
「そういえばまだお披露目していなかったねぇ、この技。『天津神叢雲剣』は攻撃判定に柄が含まれていないことを利用し、『虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒』を威力そのままに掌握してそのまま剣として使用するという技だよ。バリエーションとしては、今披露した細身の剣を作り出す『天津神叢雲剣-韴魔-』と刀を作り出す『天津神叢雲剣-斬魔-』に加え、元々の「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒」と同じ大きさの大剣を作り出す『天津神叢雲剣-滅魔-』、元々の「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒」ほどではないものの大剣と呼べるほどの大きさの大剣を作り出す『天津神叢雲剣-宿魔-』、レイピアを作り出す『天津神叢雲剣-幻魔-』、短刀を作り出す『天津神叢雲剣-逢魔-』、薙刀を作り出す『天津神叢雲剣-降魔-』がある。……さて、『天津神叢雲剣-韴魔-』と『天津神叢雲剣-斬魔-』、二刀を手に入れたローザと、『漆黒魔剣ブラッドリリー』と『白光聖剣ベラドンナリリー』を持つリーリエ……どっちが強いか勝負といこうか？」
竜属性の光を纏った剣で三十回連続で神速の飛斬撃を放つ物理系単体攻撃技――「衆生地ニ伏ス神龍ノ劔」を放ってくるリーリエに対し、ローザは《天ツ巫女姫》を使い光背を背負った巫女服姿に変化すると、俊身を使って全ての飛斬撃を躱しながらリーリエに肉薄する。
「――飢餓狂暴走！！」
瞬間――優勢に見えた筈のローザが壁まで吹き飛ばされた。
「……本来は一定期間の吸血、食事を取らない場合に発動する『飢餓狂暴走』を無理矢理使用したってところか。……どの道単調な戦いしかできないなら、デメリットの存在しない『飢餓狂暴走』を使った方がいい。……速いねぇ」
「吸血姫の翼」を顕現し、一回の羽撃きでローザの目の前に現れたリーリエが「万象無ニ還ス靈劔」を放つ。
一条、二条、三条、四条――無数に伸びた線状の斬撃がローザに殺到する……が、その頃にはローザの姿は無く、線上の斬撃は戦場の壁に突き刺さり、消滅する。
「殺意高過ぎる攻撃だけど、だからこそ読みやすい。終わりだよ――圓式比翼」
リーリエは「天津神叢雲剣-韴魔-」と「天津神叢雲剣-斬魔-」から繰り出される光の速度の圓式斬撃に耐え切れずに消滅――その後、リーリエを生み出して魔力切れに陥っていた小筆も全身に武装闘気を纏って抗おうとしたが、ローザの二刀から繰り出される光速を超えた斬撃に耐えられず、そのまま両断されて消滅した。
◆
「さて、お待たせしたねぇ、雪菜さん、黒華さん。別に難しいことをして欲しいって言っている訳じゃない。ただ、修行の成果をここで見せてもらいたいというただそれだけだよ。気負うことはない……まあ、欲を言えばボクを倒すくらいの気概で掛かってきてもらいたいものだけど」
「それは無理ね」
最初から諦めムードの雪菜と黒華に「もう少し気合い出して欲しいなぁ」と苦笑いになるローザ。
……まあ、残っているメンバーも含め誰もローザに勝てると思って挑んでいる者はいないのだが。
「最初から全力でいかせてもらうわよ！ 霸気式限界突破！ 魂魄の霸気――《黒愛之焔》！！」
黒華の魂魄の霸気《時弄悪魔》には二つの効果がある。一つは時間属性に対して耐性を持つ相手にも時間属性の攻撃を届かせる《時間耐性突破》、そしてもう一つが愛の感情をエネルギー変換する《黒愛之焔》だ。
既存の魂魄の霸気の効果で比較すれば、スティーリアの持つ愛する者への愛を燃やすことで力を際限なく引き上げていく《親愛》に近い効果を持つ魂魄の霸気である。
「霸気式限界突破」は雪菜と黒華が試行錯誤の末に完成させた能力で霸気そのものを全身に巡ることで限界を超えた力を引き出すことができるようになるというものである。
シャマシュ教国の聖代橋曙光が持つ「限界突破」の霸気バージョンと言えば分かりやすいかもしれない。
「感情共鳴！ 友愛の繋絆！！ オイリー・アロー！」
固有魔法である「願いと感情エネルギーに干渉する」力を使い、感情エネルギーを魔法少女同士で共振させることで互いの戦闘能力を上昇させる「感情共鳴」と固有魔法である「願いと感情エネルギーに干渉する」力を使い、「友愛の繋絆」で繋がった仲間同士で力を分け与え合い、強化する「友愛の繋絆」を使い、黒華から力を僅かに借りて放つのは雪菜の新魔法――「オイリー・アロー」。
水属性と火属性を融合させることで誕生した油属性と風属性の融合魔法で油の性質を有する特殊な風の矢を放つ。
命中した部分に可燃性質を付与することで、次に放つ火属性魔法の「ブレイズ・アロー」の火力を高めるという戦法だ。
ちなみに、雪菜は他に相手の精神に直接ダメージを与える矢を放つ無属性魂魄魔法「スピリット・アロー」も開発し、この三つの魔法が現時点で雪菜のオリジナルの魔法ということになる。
「聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖光浄弾！ 聖極十字光！」
「オイリー・アロー」を回避したローザに無数の浄化の力を持つ聖光の弾丸が殺到する。更に光を収束した巨大な十字架を作り出して放つ……が。
「相殺させてもらうよ！」
ローザも同じ数の聖光の弾丸と光を収束した巨大な十字架を放って相殺する。
聖光の弾丸と十字架の相殺による眩いほどの光の領域を突破し、光の速度に達したローザが雪菜に肉薄する。
「偃月斬-覇潰-ですッ！」
「稲妻のように迸る莫大な覇王の霸気を纏わせた薙刀で斬撃を放つ一撃か……『雷霆覇勁・猛打衝』の薙刀バージョンみたいだねぇ。ならば、ボクも応じよう！ 圓式――」
覇王の霸気を纏わせた双刀で斬撃を放とうとした直後――ローザは「弾力空気」を利用して後方に飛んだ。
「そんな簡単にキングは落とせないわよ！」
「時停の盾」から取り出した「S&W M500」の銃口をローザに向ける黒華。
市販されているハンドガンで最強のハンドガンと言われる「S&W M500」による狙撃だが、ローザは警戒するべきなのは銃の性能でも、春海の「武器匠の天恵」によって強化されているという点でもない(黒華が天恵の巫女達とも良き関係を築いて春海から「武器匠の天恵」で武器を強化してもらうレベルまで仲良くなっているというのは、それはそれで大きな進展ということにはなるが)。
その弾丸によって発動する魔法の方が危険であると判断したのである。
弾丸を起点に発動し、周囲の時間を爆破することで修復することのできないダメージを時空に与える黒華の新魔法「時爆刻撃」。
もし、時空耐性が機能していれば耐えられるが、魂魄の霸気《時弄悪魔》には耐性を突破する効果があるため、耐えるのは不可能――流石のローザでもこれを直撃で浴びれば確実に撃破される。
「……仕切り直しか。まあ、雪菜さんもまだ手札を持っているようだし、ここで仕留めなくて結果的には良かったのかもしれないけど。さて、第二ラウンドと行きましょうか？」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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