Act.9-18 王女宮への来訪者達〜予想外の訪問者〜 scene.3
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
ラインヴェルドとの死闘を終えて執務室に戻ると、メイナはヴィオリューテの進めている課題を見ながら良い雰囲気になっているし、アフロディーテとエルヴィーラは仲良く談笑している。
「……尊い……お邪魔虫は失礼させてもらうよ」
「待ちなさいよ! ここアンタの執務室でしょ!」
「ヴィオリューテさん、駄目でしょ! ローザ様をアンタなんて!!」
「……ローザ様、お客様を待たせているのに流石にそれは……」
「分かっている分かっているって。……ヴィオリューテ、課題終わったかしら?」
「勿論! メイナに見てもらったけど完璧だったわ! えっへん!」
「ヴィオリューテ、お疲れ様。メイナと一緒にゆっくり休んでくると良いわ」
この話をメイナに聞かせたくないんだなぁ、と悟ったらしいヴィオリューテはメイナの腕を引っ張って執務室を後にした。
「ちょ、ちょっと痛いわよ!」
「早く行きましょ! 午後のおやつに料理長が用意してくれたタルト無くなってしまうわ!」
……違ったみたい。
「初めまして、妖怪と鬼斬だねぇ」
「さっきの国王も菊夜さんのことを妖怪だと見抜いたけど、貴女、何者かしら?」
「何者って……分かるでしょう? 君の同類だよ」
灼熱の炎を纏った刀で斬撃を放ってきたので、ボクも裏武装闘気の剣を作り出して霊力を纏わせ応戦する。
「勘違いしているようだけど、ボクは《鬼斬機関》に所属はしていない。まあ、師匠は《鬼斬機関》所属の鬼斬の千羽雪風さんだけどねぇ」
「あの冷血の鬼斬姫の弟子……沙羅さん、危険だわ!」
「へぇ……沙羅さんっていうんだねぇ。正直、君の名前は知らなかったから助かるよ。……さて、絡新婦の妖怪と言えば、ボクも名前くらいは聞いたことがある。……なんで、生きてるの? 天蜘蛛菊夜さん?」
ボクが彼女の名前を呼んだ瞬間――菊夜と沙羅の気配が変わった。
……事情を聞き出したいところだけど、まずはボクの方で情報を出して誤解を解かないとねぇ。
ボクはこの世界のこと、前世のこと、全て包み隠さず話した。……端折ったところもあったけど。
蓮華森沙羅が、一瞬、「百合薗圓って、あの予言の?」と言っていたけど、その点について後ほど話を聞かないといけないねぇ。
「あの赤鬼小豆蔲さんの盟友で、渡辺御剣や千羽雪風の協力者で……財閥七家とも交流を持つ。化け物かしら?」
「化け物扱いは心外だねぇ。しかし、まさか生きていたとは思わなかったよ。小豆蔲さんから死んだって聞かされていたからねぇ。……後に山城国ホテル濱本爆破事件と呼ばれる大規模爆発事件……犯人は瀬島奈留美一派の暗殺者――田村勲。あの事件はボクの大切な人の人生にも影を落とした事件だった」
「……そう、それは申し訳なかったわ」
「天蜘蛛さんは悪くないさ。……さて、聞かせてもらえるかな? 君達がどのようにこの世界に辿り着いたのか、そして君達の目的が何なのかを」
沙羅の話はボクにとっては非常に実りのあるものだった。
『這い寄る混沌の蛇』の邪神と敵対する『太陽の神』の死亡と、その転生者を探す『炎獄の裁定者』のクラウド・グローディンヴェーグの存在。
そして、あの事件で生き残っていた斎羽朝陽の存在と、彼女と菊夜の絆を断ち切った白銀髪と黒髪を半分ずつで持ち、銀色に輝く瞳を持つ、踊り子風の露出度の高い衣装に月を模した髪飾りを合わせた少女。
菊夜にお願いして記憶を覗かせてもらって分かった。
あれは、ヘリオラじゃない。……似ているけど、違う。
「状況から考えて、朝陽さんは火走狼を襲った者と同一人物に襲われたということで良いと思う。菊夜さんが覚えていないのも、火狼華達火の一族の者達が覚えていなかったのと理由は同じ……『絆斬り』によって絆を断ち切られているからだと思う。ただ、幸いボクはヘリオラ戦でヘリオラを抹消するという方法で闇堕ちしたミレーユ姫を救った経験があるし、『這い寄る混沌の蛇』の信徒だったオシディスと『這い寄る混沌の蛇』の絆を断ち切って救った経験もある。ヘリオラに似ている元凶を殺さずとも救うことはできるよ。というか、そう心配することでもないんじゃないかな? 『這い寄る混沌の蛇』に利用価値があるから攫われた。だから、斎羽朝陽さんが危険に晒されることはない……それは、火走狼にしてもそう。どの道、今回の臨時班はペドレリーア大陸にも赴くつもりだから、二人もついてくるといい。……問題はそこじゃないんだよねぇ」
「どういうことかしら? 天蜘蛛さんと朝陽さんの絆が断ち切られてしまって、その結果こんな風になってしまったのよ。生きる気力を失ってしまった天蜘蛛さんを立ち直らせて、一刻も早く朝陽さんと再会させないといけない、それ以上に大切なことがあると思っているのかしら!!」
「……沙羅さん、落ち着いて。……まあ、沙羅さん達にはあんまり関係ないことかもしれないけど……そうだねぇ、エルヴィーラさんって一人っ子?」
「えぇ、兄弟姉妹はいないわ。それがどうしたのかしら?」
「そうか……まあ、居ても居なくても想像するのには然程問題ないか。変なイメージが付かないだけまだマシ? まあ、いいや。アフロディーテも、エルヴィーラさんも、沙羅さんも、菊夜さんも自分が朝陽さんになったつもりで話を聞いてもらいたい。朝陽さんには一人兄がいる」
「話には聞いていたわ。斎羽勇人さん、運動神経抜群、成績優秀で自慢の兄だって朝陽さんは話してくれたわ」
「……そう、か。……先程の話と被るけど、朝陽さんは修学旅行中にホテル濱本爆破事件に巻き込まれた。朝陽さんはその事件で死亡……まあ、実際には生きていたんだけど、既に鬼籍に入っている。朝陽さんが、勇人さんを兄として尊敬し、親愛の情を持っていたように、勇人さんも、朝陽さんを大切に思っていた。シスターコンプレックスと言っても過言ではないくらい溺愛していたそうだよ。勇人さんにとって、朝陽さんを喪うということはどういうことか。……朝陽さんには元の世界に戻れば勇人さんに会えるという心の支えがあったかもしれない。でも、勇人さんは自分の預かり知らないところで、大切な人を殺されたも同義なんだ。……朝陽さんは、何故エレベーターホールに置き去りにされたのか分かる? その階に居た妊婦を助けるために、自ら降りたんだよ。ボクはその妊婦が悪いと言いたい訳じゃない。……誰かが降りるべきだった。そこで、無言の圧力で朝陽さんをエレベーターから下ろし、その後のうのうと生き延び、「代わりに降りてくれてありがとう」という意味で毎年花を贈っていたエレベーターを降りなかった六人に対して、勇人さんが殺意を抱かなかった訳がない」
「……まさか、気持ちは分かるわ。でも、そんなの……」
「許されないって? 勇人さんはねぇ、大切なたった一人の妹も見殺しにされたもの同然なんだよッ! ボクだって、同じ立場に置かれたら……もし、月紫さんがそんな目に遭わされたら楽な殺し方はできないと思う。どんなに恨んでも殺してはいけませんって? そんな教科書通りの道徳みたいなクソみたいなもの、もし、実際に大切なものを奪われたのなら薄っぺらい紙みたいに吹っ飛ぶものだよ。……勇人さんは六人を殺し、その事件の犯人である田村勲を殺そうとしている。そのために暗殺者になり、生きているんだ。……それだけが彼の生きる意味になっている。朝陽さんの愛した花を愛で、ゆっくりと生きる彼の時間は朝陽さんが死んだ日に止まってしまったんだよ。……朝陽さんが例え生きていたとしても、血塗られた手は元には戻らないし、勇人さんはもう止まれない。もう、戻れないところにまで来てしまっている。朝陽さんはきっとその事実を知ったら勇人さんのことを拒絶してしまう。それに、仮に朝陽さんが勇人さんのことを受け入れようとしても、今度は勇人さんが遠ざける。堅気ではなくなった自分は朝陽さんには相応しくないと、合わせる顔がないと突っぱねるんじゃないかと思う。……朝陽さんは、日向の道を歩むべきだ、きっと、勇人さんもそう言うと思う……だから」
「何、弱気になっているのよ! ローザ=ラピスラズリッ!! ……長い時間一緒にいた訳じゃないけど、アタシは知っているわ! アンタがそんなことで諦めるような人じゃないって! 裏が何よ! 表が何よ! 朝陽さんと勇人さんが再会するのが幸せなら、それ以外に道はないでしょ! ……相思相愛じゃない! 両片思いじゃない! 互いに今も相手を思い遣っているんじゃない! だったら大丈夫よ! 朝陽さんが罪悪感に苛まれるかもしれない、勇人さんが朝陽さんには相応しくないと身を引こうとするかもしれない。それでもッ! 貴女なら止まっている二人の時計を動かせるんじゃないのッ! 園遊会の時みたいに、悪の参謀みたいに盤上を思い通りに動かせばいいじゃない!」
「……はっはっはっ、悪の参謀ねぇ。悪くないかな。……そうだねぇ、ごめん、エルヴィーラさん。ボクが弱気になっていた。駄目だなぁ、家族のことになると、大切な人なことになると視野が狭くなる。そうだねぇ、言う通りだよ、ボクは勇人さんと朝陽さんが幸せになれないことが許せない。だったら、変えるしかないか……ボクの、いや、ボク達の手で運命を」
……そのためにも、まずは朝陽さんを救出しないといけないねぇ。
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