Act.9-9 バトル・アイランドのお披露目 scene.5 下
<三人称全知視点>
モニターで戦闘を見ていた面々と、その時バトル・ダンジョンを訪れていた面々がローザ一人を除いて「エゲツない」という顔になった(ローザは「当然だよねぇ……警戒しない方がおかしい」といえ顔をしている)青の女神サファイアによる篝火の撃破以降も戦闘は継続している。
松枝雫は「天恵の実」の力を使用せず、戦闘用に学んだ格闘術で赤の女神ルービィに攻撃を仕掛ける。
雫の能力によって使用可能なのは「障壁生成」と「壁生成」の二つである。
「障壁生成」は特殊な障壁を展開するというものだ。障壁はハニカム構造の青い光で構成された半透明なもので、一度に展開できる障壁の数は九つで、一つにつき縦二メートル、横二メートルまでという制限がある。
「壁生成」は床面や壁面から壁を生み出すというものだ。壁は高さ二メートル、幅一メートル、厚み三十センチのもので、材質はその面と同じとなる。
非常に頑丈であり、盾としてだけでなく、攻撃や妨害、足場などにも利用可能だ。
雫の宵霧綾夏を守りたいという願いが結晶した結果、効果は極めて防御に偏っている。
綾夏は攻撃手段も持ち合わせているので二人で組めば攻守ともに隙が無くなるが、万が一に備えて雫は少しでも役に立つならと格闘術を学んでいたのである。そして、必ずしも攻撃特化とはいえない上に、能力が強くても本体の強化はできないという事例のある天恵の巫女と格闘術の相性は抜群で、自慢の格闘術で天恵の巫女達を討伐したこともある。
しかし、赤の女神ルービィに攻撃を受け止められた。
三重に重ね掛けされた武装闘気を纏った赤の女神ルービィは雫の攻撃を受け止めた……だけでなく、その圧倒的膂力で雫を吹き飛ばし、すかさず「マキシマムブリザード」を放った。
「壁生成! 障壁生成!!」
「雫さんになんてことを!! 許さないわ!! 濃霧の森――霧の造形者!!」
「夜霧の天恵」で濃霧を生成し、濃霧で拳銃を作り出して実体化――赤の女神ルービィを狙撃する。
『……こうやってあからさまに敵意向けられると私も困るのよ。お仕事の一環だし、好きで痛めつけている訳じゃないの。正直、私も二人の関係は応援したいと思うわ。でも、これは真剣勝負よ。雫さんは綾夏さんが大切だし、綾夏さんは雫さんが大切なんでしょう? ならば、強くなりなさい。大切な人を奪われないくらい強く――弱かったら、何も守れないのよ』
霧色の弾丸から青の女神サファイアの「ホーリーライト・ハニカムバリア」で身を守った赤の女神ルービィが青の女神サファイアと融合し、紫の女神アメジスタとなる。
『アメテュストゥス・ルーメン!!』
巨大なアメジストの結晶を顕現し、結晶から無数の紫の光条が放たれる。
『不思議のダンジョン;ゲートウェイフロンティア』時代のアメジスタの固有技が雫が瞬時に張った障壁を貫通し、雫と綾夏の心の臓を貫いて撃破した。
綾夏には後二つ――体内に霧を侵入させることでその部分を思うままに操作する「霧の支配者」と、霧を使って幻影を見せる「霧の幻影」という手札があったが、仮にその二つの手札を駆使しようともアメジスタを撃破するには至らなかっただろう。それだけの戦力差がアメジスタと雫、綾夏の間にはあった。
残るは玲華、ルイーズの二人だ。そして、この状況で玲華が動く。
「魔女宗の魔術・淫落の宴!!」
「魔女の天恵」によって習得できる魔法はほとんどが非戦闘系である。
玲華の求めた魔法が怪しげな魔術だったからである。悪魔と契約を交わし、男女のまぐわいと密接に繋がった怪しげな術を操る。
視線を合わせることで対象を魅了する「魔女宗の魔術・魅了魔法」や魔法陣の効果で男女の性的興奮を著しく上昇させ、淫落の宴を催すことでその性的エネルギーを魔力に変換して自分のものにできる「魔女宗の魔術・淫落の宴」、視線を合わせることで対象の認識を改変する「魔女宗の魔術・認識改変」……こういった技のレパートリーを見ればいかに彼女が趣味に極振りしているのかよく分かるだろう。
「魔女宗の魔術・邪神の触手」
玲華は「魔女の天恵」の数少ない攻撃手段の一つである「魔女宗の魔術・邪神の触手」を使い、無数の邪神の触手を召喚する。
触手は粘液を纏ってヌルヌルと気味悪く赤光りしており、アメジスタの生理的嫌悪感を掻き立てた。
「魔女宗の魔術・大悪魔召喚」
更に玲華は「魔女の天恵」の力を使い、黒ミサを司る、山羊の頭を持った悪魔を召喚する。こちらも、攻撃手段の乏しい「魔女の天恵」の数少ない攻撃手段の一つだ。悪魔と融合することでその力を得ることもできる。
悪魔バフォメットをまるで触手を守らせるかのように配置すると、無数の触手と悪魔バフォメットで一斉攻撃を仕掛ける。
『アメテュストゥス・ショット』
しかし、悪魔バフォメットが雷撃を放つ前にシステムの束縛から解放されたアメジスタの技。無数のアメジストを結晶を弾丸のように放つ。
バフォメットと触手は耐えきれずに一瞬にしてポリゴン化して消滅する。
「時間超加速」
玲華は鞘から『時空魔導剣クロノスソード』を抜き、その力で触手の時間を加速させる。
「魔女宗の魔術・邪神の触手」にはもう一つ効果がある。それは、触手を一本でも二十四時間残しておくと大邪神ク・リトル・リトルを召喚することができるというものだ。
しかし、戦場において二十四時間触手を誰にも攻撃させずに残すなど不可能。『トップ・オブ・パティシエール〜聖なるお菓子と死の茶会〜』時代には戦闘前に予め大邪神ク・リトル・リトルを召喚していた。
しかし、『時空魔導剣クロノスソード』という手札が手に入った今、わざわざ事前に大邪神ク・リトル・リトルを召喚しておく必要はない。
元々は切り札として運用が難しかった大邪神ク・リトル・リトルだったが、今では大邪神ク・リトル・リトルの召喚も十分視野に入れられるくらい使用難易度が下がっていた。
『アメテュストゥス・ルーメン!!』
だが、その力で確実に勝てるかと言えば、また別問題である。
巨大なアメジストの結晶を顕現し、結晶から無数の紫の光条が放たれる。
光条は大邪神ク・リトル・リトルを一薙して焼き尽くし、そのまま一緒に玲華にも光条を浴びせてポリゴン化する間も無く蒸発させた。
残るはルイーズただ一人、そのルイーズは『時空魔導剣クロノスソード』を構え、一つの魔法陣を展開する。
「――ッ! 時空召喚魔法・アザトホート・ゴーレム!」
ルイーズが時空魔法により召喚したのは二体のアザトホート・ゴーレムだ。
本来は戦争の戦力として使われる予定だったが、結果はアダム・アドミニスト・カリオストロ・フィリップス・アウレオールス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム・アルケミカル・ニコラス・フラメル・サン=ジェルマン・ヴァイスハウプトの独断専行にやる気を無くしたルイーズが参戦しなかったため、実際に実戦投入されたことはない。
ルイーズが仲間になったタイミングで圓は解析を掛けて量産体制を整えており、その戦闘力についても解明されているが、圓以外にお披露目はしていないためアメジスタにとっては未知の敵だ。
『……来ると思ったわ。なら、私も本気を見せてあげる。魂魄の霸気《迷宮女神》』
魂魄の霸気《迷宮女神》はアメジスタが獲得した魂魄の霸気だ。
その効果は二つ。
一つはアメジスタ自身の不思議のダンジョンを作成する能力の拡張――新たに『Eternal Fairytale On-line』の設定を色濃く受け継いだ大迷宮も作成することが可能になった。更に両者をハイブリッドすることも可能になっている。これに付随して捕らえた魔物を解析し、作成した迷宮に設置することも可能で、これは魔物生成と呼ばれる。これら能力を纏めて《迷宮掌握者》と呼ばれる。
もう一つはアメジスタ自身を強化する能力だ。霸気を消費することで戦女神の装束という鎧とドレスが一体になったような装備を纏う。
霸気の消耗が激しく現時点では戦闘開始から十分で十分間一切の闘気・霸気が使用不能状態に陥る。
ただし、このモードでは霸気の威力が十倍に跳ね上がり、霸気以外に関してもあらゆる能力が底上げされ、そしてこの状態の時のみ作り出せる《神紫結晶剣》を使用することができるようになる。これら能力を纏めて《迷宮皇統者》と呼ばれる。
『さあ、決着をつけましょう。――《神紫結晶剣》』
紫色の結晶で作り出された剣――求道の霸気とアメジスタの力の結晶を創り出して構えると、アメジスタは地を蹴って加速――アザトホート・ゴーレムに斬り掛かる。
「万理滅ぼす真滅の光!!」
ルイーズが二体のゴーレムに命じて消滅属性魔法で万物を消滅させる光条を放つアザトホート系の魔物の専用技を放たせる。
当たれば流石にアメジスタでも耐えきれないが、紙躱を駆使してアザトホート・ゴーレムの攻撃を二撃ともしっかり躱すと、左のアザトホート・ゴーレム、右のアザトホート・ゴーレムと斬撃を浴びせて一撃で撃破する。
そして、無防備になったルイーズに袈裟斬りを放って綺麗な断面で両断した。傷口から無数のポリゴンが溢れ出し、ルイーズは戦場から消滅していく……。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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