Act.9-7 バトル・アイランドのお披露目 scene.4 下
<三人称全知視点>
「バトル・ルーレットッ! 特別ルールの五番勝負! 中堅の美結嬢が敗北し、次は副将のネスト殿! それでは、早速ルーレット行ってみよう!!」
フィーロの顔が真剣味を帯びる。これまでの相手とは違い、ネストは手練れだ。
圓を、愛する義姉を守りたい――その一心で魔法を学び、【血塗れ公爵】の技を学び、研鑽に研鑽を重ね、少しずつ、しかし、確実に強者へと至った。
これまでのようにはいかないだろう。それに、フィーロの奥の手である「運命操作の赤い糸」の存在がバレているというのも厄介だ。
何かしらの対策を立てていると考えて戦いに挑むべきだろう。
タキシードを着た司会のギドゥーが口上を延べ終えるとルーレットが回り出す。
「今回のイベントはこちら!! 敵上昇マーク! フィーロ様の全ステータスが二段階上昇した状態でバトルとなります!! それでは、バトル開始!!」
状況は圧倒的有利だが、だからといって気を抜いていい相手ではない。
「寄生スル絲」
「無意味だよ! 嵐流天鎧」
即興で編み出したオリジナルの風魔法で暴風に包まれると、見えない糸を相手の手足にくっつけて、指を動かして相手を自分を思うがままに操るフィーロのオリジナル糸魔法「寄生スル絲」の糸をズタズタに切り裂いた。
「ダークマター・スピューリアス」
「運命操作の赤い糸」
咄嗟に防御が間に合わないと判断したフィーロは無属性因果干渉系魔法の「運命操作の赤い糸」を発動して攻撃を浴びるという運命を回避した。
「……フェイク系魔法ね」
「ああ、義姉さんのフェイク魔法、プリムヴェールさんのフォージ魔法とカンタフェイト魔法、ソフィスさんのエピゴーネン魔法に継ぐボクのフェイク系統の魔法だよ。スピューリアスもまた偽物という意味を持つ言葉だ。『ダークマター・スピューリアス』には暗黒物質の中に微細な風属性の魔力が込められていて、やろうと思えば微小な刃状に形態変化させることもできるんだけどね。……しかし、その運命操作、厄介だね。邪魔だから無効化させてもらうよ。――因果反転式攻撃必中」
ローザが開発した遠距離攻撃補助用無属性因果干渉系魔法――「因果反転式攻撃必中」。
因果を反転させ、結果を確定させることで過程を改変する……つまり、「絶対命中」するという結果を決定することで命中しないという可能性を排除する魔法ではあるが、圓は別の運用方法をメインに考えていた。
つまり、因果干渉系魔法の無効化――「干渉封殺」である。
因果干渉系の能力が二つ以上発動された時、互いの因果干渉は無効化される。これは、イリーナの《箱猫》とヴァケラーの《飛去来》により確認されている。
当然、ローザが「因果反転式攻撃必中」を開発し、魔法術式を公開した時点でネストを含む大半がこれが因果干渉封殺のためのものであることを理解していた。単なる「絶対命中」のための補助魔法とはほとんどの人は考えていない(真面目なプリムヴェールはそのままの意味で受け取っているようだが)。
「……くっ、このままではダメね。私も奥の手を使わせてもらうわ」
「へぇ、奥の手ねぇ。『運命操作の赤い糸』以外にどんな奥の手があるのかな?」
「魂魄の霸気《絲》」
フィーロが施設長になるための修行の中で獲得した魂魄の霸気《絲》の効果は二つ。一つはこれまでの糸魔法では不可能だった自身の肉体そのものを糸に変えることができるようになる《糸人間》。
そして、もう一つが本来ならば「マナフィールド」を発動した状態でしか使用することができない戦略級魔法の発動を可能にする《覚醒》。
フィーロはこの《覚醒》を使い「マナフィールド」を使うことなく上位魔法の使用条件を整えた。
「荒レ狂ウ白絲波」
周囲から大量の糸を出し、津波の如く相手を襲う。
フィーロのオリジナル糸魔法の中では規模の大きいものの一つだが、「マナフィールド」や《覚醒》に頼ることなく使用することができる。
フィーロが《覚醒》を発動しているにも関わらずこの魔法を選んだのは自分の実力を過小評価させ、油断を誘うためである。
「この程度の魔法ではボクは倒せないよ! 滅刻風針の極大竜巻!!」
ローザ開発した「エアリアル・ウィンドテンペスト」と「烈旋空針暴颶嵐域」を融合した無数の風の針からなる巨大な竜巻を創り出す奥義を放ち、糸の津波を断ち切ろうとするネスト。
しかし、それを待っていたとばかりにフィーロは新たな魔法を発動する。
「荒レ狂ウ白絲大波」
ネストは驚愕のあまり目を見開く。ネストが作り出した竜巻が一瞬にして糸と化し、糸の津波の中に飲み込まれてしまったのだ。
ただ大量の糸を生み出すだけではなく、周囲のものも糸へと変化させて創り出した大量の糸を出し、津波の如く相手を襲うフィーロのオリジナルの糸属性戦略級魔法「荒レ狂ウ白絲大波」。
「荒レ狂ウ白絲波」とは比較にならないほどの白波がネストを飲み込もうとしていた……が。
ネストは視界内の何処かに転移すると同時に、その場所に自分の残像を設置する魂魄の霸気《陽炎》を発動して何とか白波を回避して上空に転移する。
「突キ刺ス槍襖ノ絲」
しかし、それはフィーロの予想の範囲内。
建物などを糸に変えて相手を串刺しにするフィーロのオリジナルの糸属性戦略級魔法を発動し、フィーロは白波を構成する糸全てをネストに嗾しかけた。
自身の全ての闘気を使い切る勢いで糸へと纏わせ、漆黒に染まった糸の波から伸びた無数の糸束がネストを貫いた。
◆
「バトル・ルーレットッ! 特別ルールの五番勝負! 副将のネスト殿が敗北し、ラストは大将のルーネス殿下! それでは、早速ルーレット行ってみよう!!」
タキシードを着た司会のギドゥーが口上を延べ終えるとルーレットが回り出す。
「今回のイベントはこちら!! おっと残念! 今回はイベント無しだ!! それでは、バトル開始!!」
戦闘開始早々、ルーネスは武装闘気を纏わせた剣を持って加速――超高速の刺突を放つ。
ポラリス=ナヴィガトリアの剣技にそのまま圓式を加えた最高速度の刺突をフィーロは瞬時に発動した「守護スル壁絲」に武装闘気と覇王の霸気を纏わせて迎え撃つ。
刹那――漆黒の稲妻が戦場に迸った。それと同時に衝撃波が駆け巡る。
「やっぱり覇王の霸気を纏わせていたのね」
「それだけではありませんよ。魂魄の霸気《光陽》」
フォルトナの三王子もそれぞれ魂魄の霸気を獲得している。
中でも対照的なのはルーネスの魂魄の霸気である《光陽》とサレムの魂魄の霸気であるちだ。
ちなみにアインスの魂魄の霸気は《求道の錫杖》――様々な形に変形することが可能な極めて強力な求道の霸気と同性質のエネルギーから作り出された漆黒の球を九つとその球と同素材から作られた錫杖を作り出すというものである。
求道の霸気の要素を持つため、アインスの求道の霸気を上回る霸気でなければ破壊することはできない。この極めて強力な求道球と求道錫杖には触れたものを消滅させることもできる……その場合、求道球も消滅してしまうが。
話を戻そう。ルーネスの魂魄の霸気《光陽》はルーネスの右の瞳に宿る。
一つ目の能力は《光付与》といい、あらゆる攻撃に光の属性を付加することが可能になる。
二つ目の能力は《光操作》と呼ばれ、ローザの持つ《太陽神》のように光を操作することも可能になる。ただし、ローザのように自身の身体を光へと変えることはできない。
そして、三つ目の能力は視点を合わせた部分を破壊する《光ノ眼》である。
一方、サレムの魂魄の霸気《闇陰》はサレムの左目に宿る。
一つ目の能力は《闇付与》といい、あらゆる攻撃に闇の属性を付与することが可能になる。
二つ目の能力は《闇操作》と呼ばれ、闇を操作することも可能になる。ただし、ルーネスの魂魄の霸気と同じく自身の身体を闇へと変えることはできない。
そして、三つ目の能力は視点を合わせた部分を修復する《闇ノ眼》である。
まるで、対のようになっている二人の魂魄の霸気は特別なものだ。
二人が手を繋いだ時に霸気を発動すると、新たな能力を二つ使用可能になる。
一つ目は二人の霸気を共鳴させることで、本来は人間的な成長でしか高めることができない霸気を一時的に増幅する形で高めることができる《対極》。
そして、もう一つが《求道球》である。
お気づきだろうか? アインスの魂魄の霸気《求道の錫杖》から作り出される求道球と全く同じものである。
アインスの魂魄の霸気に霸気の増幅の効果はないが、ルーネスとサレムが力を合わせて初めて使用可能になる魂魄の霸気に限りなく近い力をアインスは有しているのである。
……だからといって、アインスの魂魄の霸気の方が優れているということはできないのだが。
では、ルーネスとサレムの二人の霸気の方が優れているかというと、二人揃わなければならないという制約があるため、こちらはこちらで難点を抱えている。
「《光ノ眼》」
ルーネスの右瞳がフィーロの「守護スル壁絲」を打ち破る。
「乱打スル鞭ノ絲」
素早く掌から出した糸を束ねて、武装闘気を纏わせてから鞭の如く相手目掛けて叩きつけるフィーロのオリジナル糸魔法を放つが、フレデリカの教えで習得した圓式の斬撃によって断ち切られてしまった。
そのまま斬撃を浴びればフィーロの負けが確定する。万事休すというタイミングでフィーロの口元が緩み、弧を描いた。
「神誅滅殺-殺人戯曲-」
「乱打スル鞭ノ絲」を構築していた糸が解け、切られた部分が少しずつ伸びて繋がり、再生していく。
本来ならば、新たに糸を作り出して放つ魔法だが、フィーロは新たに糸を作り出すのではなく「乱打スル鞭ノ絲」の糸を使い、武装闘気と覇王の霸気をありったけ乗せて勝利を確信して一瞬の油断が生じたルーネスに向けて放つ。
無数の糸を張り巡らせてから、それを一斉に襲い掛からせるフィーロのオリジナル糸魔法が炸裂し、ルーネスの身体は細切れになった。
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