Act.2-11 黒百合の吸血姫は、語る。 scene.3
<一人称視点・リーリエ>
「大倭秋津洲帝国連邦――ボクの転生前の姿、百合薗圓の出身地なんだけど、この国のある世界は地球と呼ばれ、形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]によって日本という国を持つ地球という世界を基に作られた作為的なパラレルワールドだった。大倭秋津洲帝国連邦と日本という国を相対化して見た時、大倭秋津洲帝国連邦の歴史はその瞬間瞬間で日本という国の歴史と分岐し、その結果全く別物といってもいいものになっている。……まあ、通常のパラレルワールドのような分岐ではないってことだねぇ。その結果、様々な科学では語れない力が誕生することになる。……ただ、その多くが秘匿され、表側の世界の技術自体は大倭秋津洲帝国連邦と日本で大差がないようなんだけどねぇ。だから、普通に見た限りでは『この店の名前が違う』程度のほんの些細な違いしか見つけられないんだけど、一度裏世界へと足を踏み入れれば、全く別種の超常現象的な力に満ち溢れた世界が現れる。まず、ボクが結構な頻度で使用して見せた何もない空間から物を取り出す力は瀬島新代魔法と呼ばれ、元々は西洋と呼ばれる地域で生まれた精霊と契約を交わし霊輝と呼ばれるエネルギーを精霊に手渡して発動する原初魔法や法術、白魔法などと呼ばれるものと悪魔と契約を交わし、対価を支払う代わりにその力の一部を行使する原初呪術に科学の知識を加えることで誕生した空間干渉系魔法ということになる。他に特殊な体術と自然エネルギーを取り込むことで超自然的な力を発現させる常夜流忍術、霊力と呼ばれる特殊な力を剣に宿すことで実体のない存在にもダメージを与えることが可能になる精霊や妖精、種族的な鬼も含めたものを生まれついての鬼、人から堕ちた存在や転化した存在、亡霊などを人から成った鬼とし、その両方の討伐を担った鬼斬の技、夜空の星の持つエネルギー(星脈)や大地の持つエネルギー(竜脈)を利用し、強力な力を発生させ、大陸から渡ってきた陰陽道という考えを根幹に、これらのエネルギーを陰陽五行エネルギーに再編し直すというものが技術の根幹にある陰陽術、かつて九州地方に拠点を置き弧状列島を支配しようとした邪馬台国の女王卑弥呼が編み出した邪悪な法である東洋呪術……こういった様々な技術が誕生したんだよねぇ。ボクは元々はこれらとは縁通い狭義オタク――所謂創作物に命を賭ける者達の一人だったんだけど、どうしても沢山の創作物に触れたくてねぇ、ボクが持っていた物事の浮き沈みを色として視認する超共感覚……まあ、特殊能力の一種だと思ってもらえたらいいよ。この力を使って百パーセント外れない投資ってものを行っていた。でも、そのうち色々なものに巻き込まれるようになってねぇ、沢山の害意に触れていく中でボクという人間も歪んでしまったんだ。まあ、沢山の仲間に巡り合えたし、悪いことばかりではなかったよ。ただ、ボクという人間が残忍な面を持ち合わせるようになったのは確かで、誰かの命を奪うことに対しても躊躇が無くなったのは事実……まあ、別に奪いたくて奪っている訳じゃない。ボクの大切な人達を傷つける人達に対してボクは一切躊躇をしないっていうだけで、ボクの大切な人達を傷つけさえしなければ良好な関係を築くつもりでいるよ? 乙女ゲーム『スターチス・レコード』におけるローザ=ラピスラズリは高慢ちきな我儘お嬢様で、やることも程度が酷いとはいえ一人の公爵令嬢にできる範囲に留まっていたけど、ボクがローザに転生した結果、ボクはかつて大倭秋津洲帝国連邦の裏の世界の中で触れ、時に弟子入りして、時に見様見真似で会得した、既に挙げたほぼ全ての技を持った上で、このリーリエを初めとしてこれまでプレイしてきた三十のゲームのほとんどのプレイヤーキャラクターの力を使うことができる。参考までに言うとアネモネは人間族の剣士系四次元職で女騎士。つまり、人間族という転生システムが唯一存在しない、総合的には劣る種族で、剣士系の最高ランクに到達しているっていうキャラクターなんだけど、リーリエの種族は神祖の吸血姫という何度も転生を繰り返して基礎ポイントを上げたキャラであることに加え、倉庫を最大まで拡張し、イベントのものを含め全アイテムや装備をゴミから幻想級に至るまで入手、百人以上が対象となるオーバーハンドレッドレイドに至るまで全てのレイドを制覇、従魔をイベントやレイド制覇もの至るまで全入手、全職業を四次元職まで強化、所持金カンストを行い『完全制覇』の称号を獲得した名実共にMMORPG『Eternal Fairytale On-line』第一位のプレイヤーキャラクター。この国の全勢力をもって仕掛けても多分勝てないんじゃないかな?」
「……それは、この国と戦争をするということかな?」
「それはそちらさん次第だよ、【ブライトネス王家の裏の剣】。ボクは見た目と性別がオニャノコでも中身はオトコノコだからねぇ、ローザみたいに第三王子との婚約とか絶対に却下だし、二度目の人生は平穏にって思っているからねぇ。……何故かどんどん平凡平穏から遠ざかっている気がするんだけど。とにかく、今のところはここにいるみんながボクにとっての大切な人達だ。勿論、ラピスラズリ公爵家のみんなも大切な人だよ。正直な話、ボクは誰も傷つけたくない。だから、ボクに剣を向けさせないで……」
「つまり、ローザが敵に回ることは今のところないということか。国を守るために命を賭ける我ら【ブライトネス王家の裏の剣】がみすみす国を危険に晒すことなどあってはならないし、最愛の娘を敵に回したくはない。……ローザ、いや、圓さんがこうして仲間を集めた理由は分からないが、決して手を出さないと誓おう」
「あっ、そういえば説明していなかったねぇ。ボクは悪役令嬢って立ち位置でその補正で万が一破滅が迫った時に備えて色々と保険を用意しておこうと思って練り上げた計画を実行する中で出会った人達だよ。元々自分の商品を置ける店はほしかったし、多少なり戦力は持っておきたかった。経済基盤と戦力基盤――『ビオラ』はその中の経済基盤で、極夜の黒狼は戦力基盤ということになるねぇ。……ごめんね、何も言わずに巻き込んで」
「アネモネさん……いえ、圓さんがいなければ私達の店は今頃ゼルベード商会に潰されていました。圓さんに下心があったとしても、助けてもらったことには変わりありません。……そもそも、下心かどうかも微妙ですし、ただ隠していたことがあったということだけで、基本的には経済基盤を得るためという私達と同じような目的のため――それを非難するのは私達商売人そのものの行いを否定するも同然です」
「……姐さんがとんでもない人だってのは分かっていましたが、予想を超えたとんでもない人だったんですね。ところで、私は? 私は当初の目的に入ってなかったのですか?」
「う、うん。入って……いなかったねぇ。ごめんね」
……あっ、一人撃沈した。息を吹きかけたら消えてしまいそうだ。
「アタシからも特に文句はないさ。命を狙ったアタシ達に、アネモネさんは慈悲をかけてくれた。ならば、その恩に報いるのは当然のことよ」
「……私達も当初の目的には入っていなかったということだな」
「ゼルベード商会には寧ろ全力で関わりたくないと思っていました。暗殺者を仕向けられなければ、ただ商売が安定してきた際にご挨拶に一度お伺いしようとは思っていましたが、その程度です。でも、当初の予定に無かったからといって差別するつもりはありませんよ。――ボクはペチカさんに力を貸すって約束したからねぇ。ペチカさんには協力するし、ペチカさんが悲しむことは致しません! こんな可愛い女の子を悲しませるなんて絶対にダメです!!」
「…………もしかして、ローザお嬢様って女の子が好き?」
「えっ? あっ、すっかり言うのを忘れていたけど、ボクって百合好きだよ? 可愛い女の子や凛々しい女の子が絡み合うのを見るのが好きだからねぇ。ただ、勘違いしないでもらいたいけど、ボクはその中に割って入りたいとは思わないからねぇ。元の性別的に男と付き合うのは抵抗感があるし……。というか、アクアさんも似たようなタイプだよねぇ。ローザ姿のボクを見て興奮していたみたいだしさ。……本当に君って何者なんだろうねぇ。設定した記憶もないし……まあ、その雰囲気だとお父様にも隠しているんでしょう? 話したくなったら話してねぇ。……さて、内憂外患だけど、外患は勿論大倭秋津洲帝国連邦を含む地球からやってくる者達。実際にシャマシュ教国が勇者召喚を行った際に召喚された中に大倭秋津洲帝国連邦において最も邪悪な魔女の一派が召喚された。それに、他の連中も一筋縄ではいかない。連中がこちらに来るのも時間の問題だろうねぇ。内憂はこの世界の基になった三十のゲーム。中でも厄介と思うのは『オーバーハンドレッドレイド:銀ノ鍵と門』のレイド最終ボスのヨグ=ソトホート。時空を掌握する神格で、これが出てきたら詰むねぇ。ゲーム時代に勝利できたのは『白百合の楽園』――つまりボクらだけで、しかも当時のギルドの総戦力を注ぎ込んだからボクだけでは到底勝ち目がない。まあ、ボクが死んだら後は頑張りな〜ってことだねぇ。まあ、知っているってことは対策を立てる時間があるってことだから、きっと対策を立てられると思うよ? ……多分」
「まあ、この件は包み隠さず王に報告させてもらうよ。そのつもりで今回のことを私達に話したんだよね?」
「そういうことになるねぇ。……さて、これで少なくとも屋敷の中で隠す必要はなくなったし、ボクも自重なしにやらせてもらうよ。そういえば肝心なことを忘れていたねぇ。お父様、王様にこのことを伝えるなら手土産を持っていった方がいいよねぇ。丁度ここに『スターチス・レコード』と『Eternal Fairytale On-line』があるから渡しておくよ」
「気を遣わせてしまったね。……カトレヤはローザが転生者だってことを知らないから、彼女にはバレないようにね」
「……怪しまれると困るし、ボクが転生者だってことと転生前のことについてはお母様にも伝えておくよ。お母様を仲間外れにするのは気が引けるしねぇ。勿論、全てを話すつもりはないから安心して。あくまで、屋敷の中で不審がられないために話せる範囲を話すってことだから」
「……まあ、確かにカトレヤにだけローザが転生者だと教えないというのは後々のことを考えるとあまり良くないね。ローザ、カトレヤに怪しまれないように、特に【ブライトネス王家の裏の剣】に関することは絶対に話さないでね。それ以外は別に何を話しても咎めるつもりはないから」
……他のことはいいのか。いや、分かっているよ? 素質のない者には代々【ブライトネス王家の裏の剣】の存在を教えないようにしているって。まあ、線引きはしているし、ボクに不利益が生じない程度にカトレヤに事情を説明しておくよ。……大人しい人だからねぇ、お母様は。心労が祟ったら大変だからねぇ。
さて、これで隠す必要も無くなったし、やれることの幅が増えたねぇ。まずは……とりあえず、この二歳児の身体を圓の時のレベルで使えるように調整することから始めるとしようかねぇ。
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