Act.8-366 ブライトネス王国大戦・祝勝会 scene.1 下
<三人称全知視点>
今回、祝勝会に招かれたメンバーの大半が貴族である。
しかし、広く門戸を開かれた会という訳ではなく、普段から交流を持っている者達が集まっている会であるということもあって今更腹の探り合いを行う必要はない。
また、他の貴族達に対する時のように見栄を張る必要もなく、貴族達が行う社交行事のように「このように行わなければならない」という固定観念が存在する訳でもなければ、それに従う必要もない。
そのため今回の祝賀会のメニューは完全に参加者に楽しんでもらうことだけに特化している。
舞踏会では踊る紳士淑女を引き立てるための脇役である音楽も、今日、この祝賀会という舞台では主役となる。
ヴィニエーラ管弦楽団を伴って現れたこの日のために自作したのだろう真紅のマーメイドラインドレスで現れたリーリエの手には愛用のストラディバリウスがある。
指揮者が指揮棒を振り、リーリエが演奏し始めたのはヴィットーリオ・モンティ作曲の『チャールダーシュ』だ。ゆったりとした「ラッセン」の部分は独奏――超絶技巧寄りのアレンジを加えながら演奏を続けていき、いよいよ急速な「フリスカ」に入るというタイミングでヴィニエーラ管弦楽団のヴァイオリン奏者達が一斉に動き出す。
そして奏でられる超絶技巧の嵐。何度練習を重ねたのか、一音も外すことなくリーリエの演奏についていく。
そして、最後はオーケストラでの演奏になり、曲はクライマックスを迎える。
「序盤から飛ばしているなぁ、親友」
「……やっぱりレベル高いなって思ってたけど、親友の演奏についていけるってヴィニエーラ管弦楽団って凄ぇな!」
「……圓様はピアノ以外の演奏も得意だったのですね」
「アルベルト、得意というか、色々な楽器をピアノ並みの技量で扱えるみたいだぞ? 超絶技巧曲とか涼しい顔で演奏するし、他分野でも恐ろしい才能を発揮するし、まあ、才能の化け物みたいな奴だ。……本人は努力の天才くらいにしか思っていないみたいだけどなぁ」
ラインヴェルド、オルパタータダ、アルベルトが立ち話をしている中、曲はルイ・プリマ作曲の『Sing, Sing, Sing (With a Swing)』となり、リーリエはヴァイオリンを愛用のトランペットに持ち替え、先ほどと同じように演奏を引っ張っていく。
二曲の演奏が終了したところで、演奏は中断。ここからリクエストタイムとなった。
「「「ローザ先生! 『ラ・カンパネラ』お願いします!!」」」
「『スターチスレコード・メドレー』をお願いしますわ!」
「では、早かったルーネス殿下、サレム殿下、アインス殿下のリクエスト曲フランツ・リストのピアノ曲『ラ・カンパネラ』のピアノ独奏を演奏してから、フレイ=ライツァファー公爵令嬢のリクエスト曲『スターチスレコード・メドレー』を演奏していきますねぇ」
ピアノに座っていた女性と交代したリーリエが超絶技巧曲をソロで演奏していく。
「ローザ先生、また腕を上げましたね」
「……サレム、もしかして親友ってまだ成長しているの!?」
「確かに私達にピアノを教えてくださっていた頃よりも数段レベルアップしていますね。……既に私達に教えてくださった時点で完成されていたので更に上があるのだと驚きました」
「流石にラインヴェルドの親友でもルーネス達のためにならないなら家庭教師の申し出も断ったんだけどなぁ。……まあ、あのラインヴェルドが親友扱いするんだから凄い面白い奴だって会う前から確信していたけどな」
「厄介な二人に魅入られて悪友扱いされて、ローザも大変よね」
「とは言ったもののローザだってこの関係を楽しんでいるようだし大丈夫かしら?」と心の中で続けるビアンカ。
『ラ・カンパネラ』の演奏が終わったタイミングで『スターチスレコード・メドレー』の演奏に移る。次々と演奏される『スターチス・レコード』を彩る曲を聞き、感動が最高潮に達したフレイが危うく昇天しそうになった。
◆
祝勝会は流石はビオラ商会合同会社全面協力ということもあって盛り沢山の内容になっていた。
オーケストラコンサートから始まった会は、その後昼餐会グループと別室の観劇グループに分かれ、観劇グループでは劇団フェガロフォトwith圓が新作の演劇を上演していた。
「流石は劇団フェガロフォトね。今回の新作演劇もとても良かったわ」
「そうでございましょう! 流石は圓様渾身の脚本! 感動させるところはしっかりと感動させ、勿論、ユーモアも忘れず盛り込んでおられる! そして、その脚本の力を何倍にも引き出す演技力!! このヴィンゼント=ワーグナー、感動致しました!」
「より一層、圓様に劇団フェガロフォトの劇に女優として出て頂きたいと改めて思いました!」
「……まあ、気持ちは分からないでもありませんが……圓様はお忙しい方です。それなのに、援助と脚本だけでなく演劇に役者として出るように求めるなんて本当に理解できませんね」
さりげなく即席の客席に座り観劇していたゴードンとヴィンゼントにルクシアがロザリンドと共にジト目を向ける。真面目な第二王子だけではなく実の娘からもジト目を向けられてゴードンは涙目だ。
「……しかし、何故ローザ様は脇役ばかり選ばれるのでしょうか?」
「まあ、レインの疑問ももっともだと思いますが……ローザさんはいつも一歩後ろに立って引き立て役になろうとする傾向がありますからね。ただ、隠そうとしても隠しきれない気品とか、才能とか、そういうところが実にローザさんらしいなと思いますが」
『そもそも、今回の戦争だって圓様がいなければどうなっていたことか!! アントローポスとエクレシアを倒したのは圓様だというのに!! ……私達だけが表彰され、誰よりも功績を挙げた圓様がもてなす側に回っているというこの状況、私は耐えられませんわ!』
レインの疑問にヴェモンハルトが答えていると、スティーリアが声を荒げた。
MVPを取ったミーフィリアを蔑ろにするような発言だが、隣にいるミーフィリアも首肯でもって同意しているのでトラブルが発生することはなさそうである。……まあ、ミーフィリアもスティーリアもどこかの大人気ない大人と違ってしっかりと分別弁えた大人なので喧嘩に発展することはないのだが。
「……まあ、本人が楽しそうにしているので良いのではありませんか? しかし、凄いですよね、ローザ様って。一人一人しっかりとメイクや衣装を変えていて、一瞬別人かと思ってしまいました。……演技力が一人だけズバ抜けて高いのである意味バレバレですが」
演技力が高過ぎて浮くってこともあるんだなぁ……と珍しい光景を見て驚いているアルマの隣……に婚約者のバルトロメオの姿はない。
ラインヴェルド達は隣の昼餐会用に用意された部屋でボードゲームに興じている。
会場にはビオラがこれまで発売したものから未発売の新作まで揃っている。遊びたい大人達はこの機会を逃したくないと本気で遊びに興じていた。
いつもは暴走する悪餓鬼がそのまま大人になったような大人達に振り回されて胃痛に悩まされているアーネスト達も今日は公休ということで遠慮なく放置して久しぶりの休みを謳歌している。
「……しかし、勿体ないわよね。こんな素晴らしい演劇を見ないなんて」
「シヘラザード王妃殿下、父上は楽しみは後に取っておきたいと言っておりました。……ローザ様は恐らく演劇部の顧問になるでしょうから、また演技を見る機会はあると考えているのでしょう」
「でも、ルクシア殿下? ローザ様は生徒会の顧問をするんじゃないかしら? きっと『主人公』も生徒会入りするのでしょう? 生徒会の顧問になった方が監視しやすいんじゃないかしら?」
「……あのローザ様なら普通に両立してしまいそうですけどね」
アルマの呟きに、あの仕事中毒なら絶対にそうするだろうな、という顔で同意するカルナ達だった。
◆
こうしてブライトネス王国の戦争は幕を閉じ、祝勝会の次の日から同盟貴族制を導入するための時空騎士同士の総当たり戦が始まった。
各国の文官達が圓達の力を借りながら何とか国家運営をする裏で行われた死闘には名試合もあった。特に同盟王位の座を争ったラインヴェルド、オルパタータダ、バルトロメオ、スティーリア、アクア、オニキス、ディラン、プリムヴェールの戦いは熾烈を極めた。
全五日の総当たり戦の結果、第一回の同盟王位の座に輝いたのはスティーリアだった。
ヴァルドーナ=ルテルヴェ市国の君主となった元ヴァルドーナ公爵、現ヴァルドーナ=ルテルヴェ市長のヴァルドーナ一家も旧シェールグレンド王国に帰国し、クレセントムーン聖皇国も本格的に始動する。そのクレセントムーン聖皇国に新たに作られた集落には結城の両親と弟や天音の祖父母と両親と兄と妹、春海のメイド、そして美姫の妹の姿もあった。
メアレイズもロッツヴェルデ王国を滅ぼすためにたった一人で遠征に赴いた。新たな騒乱の幕開けが間近に迫る中で、しかしブライトネス王国は平穏を取り戻していた。
園遊会というイベントも終わり、通常業務に戻った王女宮。……しかし、その裏で王女宮筆頭侍女のローザは新たな遠征計画を立てていた。
百合薗圓、刻曜黒華、那由多彼方、オルタ=ティブロン、Queen of Heart――様々な者達の思惑が交錯する魔法の国の命運を賭けた新たな戦いの幕が今上がろうとしていた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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