Act.2-7 ゼルベード商会の悪意と極夜の黒狼 scene.2
<一人称視点・アネモネ>
極夜の黒狼のアジトは城下町の外れにある荒屋の地下にある。
設定ではそういうふうに決めたけど、結局ゲームの中で明確な位置が示されたことは無かった。きっと、実際に乙女ゲーム『スターチス・レコード』をプレイしていたとしても、このアジトの位置を特定することは不可能だと思う。まさに、製作メンバーの特権だねぇ。
「…………小娘? 何故こんなところに……もしかして、依頼にあったアネモネって女か! 丁度良い、そっちから来てくれるとはな! 飛んで火にいる夏の虫だぜ!!」
ボクを見るなり仕掛けてくる暗殺者……本当に暗殺者? 山賊崩れとかじゃなくて??
「剣舞嵐撃」
攻撃を仕掛けられる前に音声で技を指定して剣士系三次元職の剣聖の奥義とも言える一撃を叩き込む。
たったそれだけで荒屋は全壊し、斬撃の嵐に巻き込まれた暗殺者(?) は吹き飛ばされた。ちなみに、クリーンヒットしないように狙ったからかなりのダメージを負っただろうけど死んではいない。
『――おい、なんか外で物凄い音がしたぞ!!』
今の衝撃に驚いて何人かアジトから出てきた……まあ、アジトは地下にあるから今のでダメージが入っていないからねぇ。
「千羽鬼殺流・廉貞」
姿と気配を完全に消し、五人の暗殺者に一人ずつ「千羽鬼殺流・太歳」を打ち込む。
「千羽鬼殺流・太歳」って霊力を溜めて放出し暴風を起こすっていう単純なものなんだけど、大量の霊力がないと成立しないんだよねぇ。威力が拡散してしまうから牽制等にしか使えないんだけど、高い霊力を持っていればダメージリソースにはできる。
ボクは割と高めの霊力値だったから、意識を刈り取ることもできるんだけど……これほどの威力だったっけ? やっぱり転生してから前世の能力が何段階か強化されている気がする。……これって、転生特典??
一応、鉄鎖で気絶させた暗殺者達を捕縛しておき、再び「千羽鬼殺流・廉貞」を発動して内部へと侵入する。
外に出た暗殺者達が戻ってこないことを不審に思った暗殺者達が外へと大急ぎで向かっていくのを一人ずつ「千羽鬼殺流・太歳」で意識を刈り取り、鉄鎖で捕縛――先へと進む。
「さて……ここかな?」
そして、部屋の一つに当たりをつけると扉を開けて中に侵入する。
予想通りの人物がいたことを確認したボクは不敵な笑みを浮かべた。
「――誰だい?」
くすんだ赤毛と、頬の引きつったような傷痕があるという特徴的な見た目――まさか、このタイミングでお目にかかることになるとはねぇ。
乙女ゲーム『スターチス・レコード』において最高難度を誇るアーロンルートにおける最重要キャラの一人――暗殺組織・極夜の黒狼の首領ラル=ジュビルッツ。
「初めまして、皆様が受けた暗殺か捕縛の依頼の対象のアネモネです」
「……飛んで火にいる夏の虫って状況ではないみたいだね。さっきの音もアンタの仕業だろ? ところでどうして分かったんだい?」
「内部告発がありましたので。――安心してください、極夜の黒狼の皆様の誰かがという訳ではありませんよ。今回、私の捕縛か、或いは暗殺を依頼した方々の方からです。ですから、私は今回の依頼の大本が何者かも知っています。まあ、騎士団や【ブライトネス王家の裏の剣】に任せても良かったのですが、今回は私にも目論見がありましたので、こちらから交渉を持ちかけるために参りました。ちなみに、ここまで死者は出しておりません。まあ、重症な方もいらっしゃいますが、私も治癒術の心得がありますので傷を癒すことはお約束致しましょう」
「常夜流氷遁忍術・氷鎖縛地」に霊力を練り込み、精霊に霊輝を与えて発動した原初魔法と融合して当たり一帯を凍てつかせてラル以外を縛り上げる。
「…………とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったようだね。……一体どこまで知っているんだい? 【ブライトネス王家の裏の剣】って言ったらこの国の暗殺者を取り仕切っているっていう眉唾物な噂よね? でも、それをこの場で引き合いに出すってことは存在するって確信しているってことだよなぁ? それに、アタシ達のアジトをこんな簡単に突き止められたってのもおかしい。そもそも、アジトの場所はお得意さんにも教えていないし、依頼を受けたのは昨日。――しらみ潰しにやったもしても一日や二日では絶対に見つけられないと思うけど」
流石は暗殺組織の女ボス――頭の回転が早いねぇ。話しやすくて助かるよ。
「私は最初からこのアジトの場所を知っていました。それに、ラルさん――貴女の本当の願いも知っています。悪人だけを殺す、義賊の暗殺集団を目指していたんですよね? ですが、組織も大きくなり、現在は金を積まれれば誰でも殺す殺人鬼集団になってしまった。身代金ビジネスに反対していたラルさんに対して幹部達はよく思っていないので、建前上はラルさんをボスにしながらも実際の支配は幹部たちが行っている……そういう状況ですよね? ……もし、ラルさんやラルさんを慕う初期メンバーの皆様が私に力を貸してくれるというのであれば、ラルさんが望む極夜の黒狼の形を目指せるよう、再出発のためのお手伝いをしたいと思います。私の本業は投資――そして、何より夢に向かって頑張る人を私は尊敬して応援したいと思っていますから。それに、ラルさんの考え方が認められないのなら、【ブライトネス王家の裏の剣】の存在も認められないことになります。――人殺しは悪いこと、そういう綺麗事だけで済むほどこの世界は単純じゃありませんからね」
「……何から何までお見通しってことかい。……それで、アタシ達に何をやらせようって思っているのかい? ……誰かを殺せ、とか?」
「まさか。そうですね……お願いしたいことは私や私の友人達の身辺警護と、後はお仕事のお手伝いもお願いしたいですね。何より人手が足りませんし……後は特に求めませんので、ラルさんの好きなことをすれば良いですよ。勿論、資金援助は致します」
「アハハハ、面白い子だね。……まるで百戦錬磨の大商人を相手にしているような気分になるよ。……まあ、確かにこの国に【ブライトネス王家の裏の剣】が存在するならアタシ達はお役御免……それに、こういう後ろ暗い仕事をいつまでもやらせたくはないっていうのが本音だからね。いいよ、その話、乗ってあげる。……胡散臭い話だけどね」
「……まあ、いつまでも隠し通せる話でもありませんし、説明すべき方全員に話しますのでその時に同席していただくのが一番でしょう」
「……一ついいかい。アタシの息子も連れて行っていいんだよね?」
この人に息子なんて……ああ、そういえばそういうボツ設定もあったねぇ。確か、息子の名は――。
「アーロン=ジュビルッツさんのことですね。はい、勿論構いません。――そうと決まれば、ラルさん。一緒に連れていく部下を教えてください。治療してから一緒に連れて行きましょう。それ以外の方は放置しておけば騒ぎを聞きつけた方々が対処してくださいますから」
「つまり、このアジトを捨てろっていうことね。でも、アタシ達に行く宛なんて無いわ」
「それについては、アテがあります。私はこの後依頼の第二段階を済ませなければなりませんので、そちらに赴いた後に守りをお願いしたいと思います。……まあ、こちらと同じように術をかけておいたのでよっぽどのことがない限りは大丈夫だとは思いますが」
一応、このアジトの周囲にも「奇門遁甲」を発動してある。術を解けば騒ぎを聞きつけた騎士や【ブライトネス王家の裏の剣】の息の掛かった暗殺者達が一斉にここに駆けつけるだろう。
「本当に何でもありなのね。……少し待っていて。すぐに連れてくるから。……でも、アタシ達を雇うってのは危険もあるし、高くつくわよ」
「ええ、勿論です。ラルさん達にはそれだけの価値がありますから……いえ、失礼な話ですね。人を価値で判断するのは……」
ラルはすぐに部下を集めてくれた。「千羽鬼殺流奥義・北辰」で鎖だけを切り裂き、「泰山府君祭」で自然治癒能力を前借して傷を癒す。
「それでは参りましょう――『全移動』」
そして、ラルと古参の本当の仲間達と手を繋いだ状態で『全移動』を発動して『ビオラ』に転移した。
◆
「えっ、姐さん!? 一体どこから!! それに、その見るからに恐ろしい人達は」
「見るからに恐ろしい人達って失礼な人ね」
「まあまあ、落ち着いてください。……まあ、これは原理は違いますが空間魔法や転移魔法みたいなものです。こちらの方々は私の暗殺を依頼された極夜の黒狼の皆様で、こちらはこの店の店長のラーナさんと、店員のアザレアさんとアゼリアさん。それと、フォルノア金物店店主のジェーオさんと、今回の依頼者でゼルベード商会会長の一人娘のペチカさんです」
「「「「えっ!? 暗殺者!?」」」」
「どういうことですか? 姐さん! なんで暗殺者を連れ込んでいるんですか!!」
「まあまあ落ち着いてください。とりあえず、ラルさん達の最初の任務です! ここにいる人達を全力で守ってください。はい、料金は半分前払いです。もう半分は依頼を達成してからお支払い致しますからね。それじゃあ、ペチカさん。行きますよ」
「えっ、あっ…………はい」
「ってことだ。今のアタシ達の雇い主はそこの嬢ちゃんだから安心すればいいさ。――必ず守ってみせる」
「何がなんだか分からないけど……お願いします??」
……なんでお願いが疑問符。
『ビオラ』のことはラル達極夜の黒狼に任せておけば大丈夫。さて……問題はこっちか。
――ここからが正念場だねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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