Act.8-357 園遊会の終わりと戦後処理。 scene.9
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「……お前ならプリムラのことを分かった上で導いてくれると確信していたし、それが、プリムラだけではなくお前にとっても良い結果を生み出すんじゃないかとは思っていた、それに偽りはない。……ただ、一番は俺がお前に見捨てられたくないってことだ。ああ、そうだよ、俺は怖いんだ、お前に見捨てられることが。お前は一人で生きていける人間だ、どこでだって生きていける、俺達の力なんて本当は必要ない。……いつかお前がどこかに消えてしまうんじゃないかってずっと不安なんだ。だから形あるもので繋ぎ止めておきたい……それが全てだ」
「だから、どこにも行かないって言っているでしょ? 目の前から消えたりしないって……心配し過ぎじゃない?」
「そうやって言っていたお前は、月紫の目の前から――お前を慕う最愛の女性の目の前から消えたじゃねぇか」
「……それを言われると何も言い返せないというか、でも、あれは仕方なかったよ。あのままだったらどの道、ボクは死んでいた訳だし」
「言っておくが、俺は方針を変える気はねぇぞ。……もうこれ以上、大切な人間が俺の前から消えるなんてこと、絶対にさせねぇ。そんなことになれば、俺は多分壊れちまう。……それに、過程はどうあれプリムラはお前を母親のように慕っている。シェルロッタに丸々今の立場を渡してはい後はよろしくは通じねぇぞ」
「というか、それ決めるのボクらじゃないからねぇ。……まあ、シェルロッタの件もあの似非神父が喋ったことでバレちゃったし……まあ、その上で受け入れてくれたんだから良かったんだけど。……ボクとこれからどういう関係で居たいのかということは、結局ボクが決めることじゃない。プリムラ様が選ぶことだよ。……勿論、陛下にだって決定権がある訳じゃない。ただ、ボクはボクの考えるプリムラ様の幸せのために行動しているっていうただそれだけ。……というか、脱線し過ぎて話す必要のないことまで話しちゃったじゃん。これ、どうするの? この件は最重要機密事項だから、万が一吹聴するようなことがあれば秒で物理的に首が飛ぶよ」
恐ろしくなったのだろうエルヴィーラが首を触った……吹聴しなければ何もないからねぇ。
「とりあえず、マリエッタに関しては思った以上に収穫があった。それと、個人的にそのクソ度胸気に入ったから、もし侍女を辞めるなら、その上でビオラでの仕事に興味があるなら遠慮なく相談してねぇ。……後なんだっけ? デガンドに関してだけど、昨日処刑が執行された」
「……その後、死体が消えていたということですが、シェルロッタ殿と同じパターンですね」
「えぇ、お会いになります? 随分と容姿も中身も変わっていますけど。……ただ、しばらく会えないかも知れませんし、場合によっては一生会えないかも知れませんし……一応会ってみます?」
「……色々と不穏だけど、まず、一生会えないかも知れないってどういうことかしら?」
「彼女にはペドレリーア大陸に出向し、学院都市セントピュセルに潜入している元「烏」所属のミスシスのフォローに回ってもらおうと思ってねぇ。今回の件で『冥黎域の十三使徒』は減ってもすぐに補填されることが判明したし、戦力ダウンは望めない……一応、ペドレリーア大陸にはボクの目を配備しているけど、もう少し睨みは効かせておきたい。そこで、学院都市セントピュセルに拠点を設置してセントピュセルの聖女とライスムーン王国の王子の監視及び、対『冥黎域の十三使徒』の情報拠点……まあ、作戦本部みたいなものを設置したんだけど……流石に白夜も全ての諜報員から情報を吸い上げると大変だし、どこかで情報を纏める役割は必要になる。しばらくしたらペドレリーア大陸に渡ってもらうけど、正直戻るのがいつになるかは分からない……敵さんも思い通り動いてくれたらありがたいんだけど、そういう訳にはいかないし」
「『這い寄る混沌の蛇』っていうのは、随分厄介な宗教団体……みたいなもので、秩序の崩壊のために暗躍している厄介な連中だ。このブライトネス王国にも尖兵を長いこと潜入させていたり、シェールグレンド王国に内優の状況を創り出しつつ、その状況を二次利用してブライトネス王国の下級貴族を上手く切り崩してこようとしたこともあるっていう厄介な奴らだが、中でも危険なのが『冥黎域の十三使徒』。コイツらはコイツらで必ずしも『這い寄る混沌の蛇』の思想に賛同している訳ではなく、それぞれの思想や目的に従って利用し合っているっていうのが真相だろうが、まあ、面倒な連中には違いないな。今回の戦争も結局、別世界線でブライトネス王国を滅ぼしたオーレ=ルゲイエっていう『冥黎域の十三使徒』とリベンジマッチをしようぜ! って話からスタートしているしな。まあ、最終的には圓の予想を遥かに裏切る大捕物になった訳だが。まあ、そのために怪しい動きをしていたシェールグレンド王国とブラックソニア辺境伯の周辺を泳がせていたってのが真相。まあ、ついでにマリエッタの情報を得ておきたいとあのタイミングで工作員に潜入捜査をさせつつ、更に定吉にまで接触させて布石打つんだから何手先まで計算しているのか本当に恐ろしくなってくるぜ。俺もコイツとは敵対したくないし、敵対する奴が可哀想に思えてくるよなぁ」
「……私って一体どれほど愚かなことをしていたのかしら? 恐ろしくなってくるわ」
エルヴィーラが本当に恐ろしいらしくガタガタ震え始めた……ってか、脅かしてやるなよ。ボクってそんなに恐ろしい人間じゃ……えっ、恐ろしいって?
「ちなみに、デガンド……今はアフロディーテ=ナルシスって名前だけど、彼女は君のことはもう恨んでいないそうだよ。お幸せにって満面の笑顔で伝えておいて欲しいって」
「……そう。……彼も新しい人生を進み始めているのなら会わない方が良さそうね」
「ボクもその方がいいと思うよ」
……アフロディーテ、実質エルヴィーラの上位互換みたいな感じになっちゃっているし(エルヴィーラってどっちかっていうと妖艶系だけど、アフロディーテは自分が鏡を見ただけで酔ってしまうほどの妖艶さだからねぇ。
大倭秋津洲の近世なら花魁クラスになれる見た目というか、教養も色々と叩き込んだから基本的に無人島に一人でポイっと捨てられても生き残れるし、国家の影クラスを相手にしても引けを取らないほどの強さにはなっているけど。
その後、ボクは情報提供してくれたエルヴィーラに感謝を述べて、ラインヴェルドの首根っこを捕まえてアルベルトと共に近衛の詰所を後にした。
勿論、シモンとエアハルトに「ご迷惑をおかけしました」と謝りを入れるのも忘れない……二人は「ローザ様に謝って頂く訳には」と頑なだったけど。
◆
今日のお勤めも終了。三千世界の烏を殺して二周目に突入し、まずモルヴォルとルアグナーァに手紙を出した。
園遊会の場でルアグナーァに全てを話すって言っちゃったからねぇ。ちなみに、モルヴォルにはその席に同席してもらうつもりで、詳しい日取りは二人の予定が合う日を示してもらって、二人とも問題ない日に行うことになる。二人とも商会の長で忙しいしねぇ……ボクはいくらでも時間捻出できるから問題ないんだけど。
続いて、ブライトネス王国の王都にある天上の薔薇聖女神教団の旧総本山(現在はフォトロズ最高峰の山頂に総本山が移転しているため、天上の薔薇聖女神教団ブライトネス支部という名前で呼ばれている)に向かった。
この場には天上の薔薇聖女神教団の教皇アレッサンドロス=テオドールと筆頭枢機卿コンラート=シラクサだけでなく、金色の魔導神姫教の法皇マルグリットゥ=グリシーヌ、筆頭法司教のトレーボル=クアドリフォーリョ、兎人姫ネメシア教の主教カムノッツ=澄月=トリアンタ=ラゴモーファ、主教ペコラ=綿毛=ニヴェア=オウィス、主教フィルミィ=木実=フォチィル=スキウールス、竜皇神教の竜皇巫女アリシータ=エメライン、竜皇神教の過激崇拝派代表ミッドレス=ケルファーの姿もある。
まあ、予想通り旧総本山の聖堂の中は荒れに荒れていた。殴り合いにこそ発展していないものの宗教論争が苛烈に行われ、ただ一人常識的なアリシータが頭を抱えて遠い目をしている。
そのアリシータは白夜を伴って現れたボクを見つけると水を得た魚のように少しだけ元気を取り戻したようだ。……なんだか申し訳ないことをしたねぇ。
「さて……君達なんで呼ばれたのか分かっているのかな?」
「……さあ、皆目見当が」
「……アリシータさん以外そこで正座!! それで? なんで呼ばれたのか分かったかな?」
「さ、さぁ……リーリエ様がお怒りなのは分かりますが、何故、そこまでお怒りなのか皆目見当が……」
「君達さぁ、園遊会の場で何をしたか覚えている? 園遊会は王妃様主催で国の内外にブライトネス王国の国力が豊かであることを示す場であることは勿論、それぞれの国が思惑を巡らせる外交の場だ。……そこで君達は何をした? 人目も憚らず宗教論争を続けた。それは、枢機司教達が襲撃を仕掛けてきた後もだよ。……ボクはねぇ、物凄い恥ずかしかった。仮にもボクを崇める信徒達がここまで愚かだなんて……レイティアさんがどんな思いをしていたか。……流石にねぇ、ボクも君達のことを野放しにし過ぎたと思う。信仰は自由だからねぇ、君達が勝手に崇めたいならそれで構わないって……それじゃあ駄目だってことはよく分かった。流石にボクもこの現状をどうにかしないといけないなぁ、と思ってねぇ」
「「「「「「「「お待ちください!!」」」」」」」」
「……異論があるなら聞こうじゃないか」
あんまり威圧でどうのこうのっていうのは嫌いだけど覇王の霸気を放ったら流石に狂信者達も黙った。
「……本当に圓様はお優しいと思いますわ。ここまで彼らを黙認してきたのは、単にその優しさがあったからこそ。……私なら神を崇めていると言いながらくだらない争いを続け、総じて圓様を貶め続けた宗教家とも言えない者達を許すことなどできませんわ」
「アリシータさんには本当に迷惑を掛けたねぇ。……本日、この時を以って天上の薔薇聖女神教団、金色の魔導神姫教、兎人姫ネメシア教、竜皇神教を統合して天上の黒百合聖女神聖法神聖教会を設立する。まあ、流石に犬猿の仲の者達に協力するようにとは言わないよ。これまでの宗教は各派として残り、今後は宗教の内部のみで好きなだけ討論するように。くれぐれも、宗教外のところに……特に公共の場に論争を持ち込まないこと……って、ボクも五歳児でも分かることをわざわざ注意したくないんだけど。兎人姫ネメシア教には一人トップを決めてもらい、各宗教のトップ――教皇、法皇、総主教、竜皇巫女には天法導皇を兼任してもらい、この四天法導皇と総法導皇から成る中庸枢軸教会を黒百合聖女神聖法神聖教会の最上位組織として置く。その総法導皇にはここにいる白夜を指名したい。総法導皇は四人の天法導皇の上に立つ中庸枢軸教会の最高権力者で、天法導皇四人と同等の権力を持っていると思ってもらいたい。ここまではいいかな?」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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