Act.8-355 園遊会の終わりと戦後処理。 scene.7
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「王女宮の……今回は貴女に迷惑を多く掛けてしまいましたね。エルヴィーラの件、本当に申し訳なく……」
「……個人的にはエルヴィーラさんに期待していたんですけどねぇ。アルベルト様を射止める気があってもし仮に射止めたら寧ろ天晴れと手放しで褒めて応援するつもりだったのですが」
「……前々から思っていましたが、こういう時の貴女は本当に鬼ですね。……アルベルトはようやくスタート地点に立ったとお聞きしました」
「……そもそも、こういう恋愛ごとは苦手なんですよ。第三者として見守り、掻き回すのは大好物なんですけどねぇ。……まあ、アルベルト様は優良物件ですし、実際好意を抱いている人も多いですし、茨の道になるんじゃないんですか?」
「他人事ですね……いえ、実際、貴女にとっては他人事ですか。これから血反吐を吐きながら貴女に振り向いてもらうために血の滲むなんて生易しいと思えるような地獄に挑んでいくんですから同情してしまいますね」
事情を知っているノクト、アルマ、ニーフェ、シエル、エーデリアはアルベルトに同情しているみたいだった……けど、この件に関しては被害者ってボクだよねぇ? なお、ファレルは全く状況を理解できていないらしい……まあ、アルベルトって妾腹とはいえ宮中伯の子息でオマケに近衛のホープという優良物件だからねぇ。まあ、ボクには関係ないことだけど。
「まあ、個人的には心からエルヴィーラさんのことを心配していた近衛騎士のエディル殿に報われて欲しいと思いますけどね……あの話を聞かない脳筋なところは嫌いですが、一途に誰かを愛せる気持ちがあるって素晴らしいことだと思うので。今回の件でそれを気づかせられたらとは思っていますよ。そこからは知りません、どう生きようと死のうとそれはその人の人生、誰にもその人生を決める権利はないですからねぇ」
まあ、それ以上の話題もないので解散となった。……外宮筆頭侍女は随分とショックを受けているみたいだったけど、とりあえずエルヴィーラが恨まれていないということが分かったようでホッとしたみたい。
今回の件、ファレルはやっぱり可愛いと一生懸命教えていた後輩がまさかの辺境に戻りたくないが故に地元に恋人キープしつつ婚約者を作って、挙句に他の男にまで言い寄っていた、なんてスキャンダラスな現実は受け入れ辛かったというだけで、基本的には内宮筆頭侍女のエーデリアより真面目な人だし(エーデリアの立場に立たされても普通にヴィオリューテ相手に真っ当に注意できるタイプの人だと思うんだよねぇ)、悪い人って訳じゃないから嫌いってことはないんだけど……もうちょっとだけ応用ができる余力ってものを持ってもらえるといいんじゃないかと思うんだけど、難しいかな?
まあ、働けばイコール他人への迷惑になることが大半のラインヴェルド達に比べたら遥かにマシなのは確かだねぇ。
◆
その日の午後、ボクはアルベルトを伴って近衛の詰所に向かった。
応対したのはエアハルト……まさか、近衛の副隊長自ら担当してもらえるとはねぇ。
「お疲れ様です、ローザ様。面会の準備は整っております。……今回の面会、実りあるものになると良いですね」
「まあ、正直大して期待していません。本丸を落とす前にできるだけ情報を集めておきたい、エルヴィーラさんへの質問はそれに向けた準備の一環ですが、メインはジョナサン神父ということになりそうです。上手くマリエッタに近づいてくださったようなので」
アルベルトは少々意外だったと思うけど、エルヴィーラからの情報だけを信じるというのは無理があると思うよ。
「面会時間に今回制限はかけられていませんが、もし対象者が暴れるなどの様子が見受けられた場合はそちらで直ちに対処頂いて構いません。拷問も含め、全てラインヴェルド陛下から許可は出ています」
「そんなことをしませんよ……まあ、最悪の場合は記憶の複製を行いますが」
「……それだと話を聞くとかの話ではなくなってしまいますね」
まあ、それが一番手っ取り早いちゃ早いけど、それは最終手段だよ。
エアハルトに見送られて詰め所の一角へ。……あんまり待遇は悪くなさそうだ。
室内にあるのは簡素なベッド、クローゼット、小さなテーブルと椅子とランプだけだけど、独房じゃないだけマシじゃない?
「約束通り面会に来たよ。まず、改めて言っておくけど近衛騎士のエディルとの関係は潔白……というか、ああいう脳筋とは間違っても付き合わないよ。一緒にいるだけでストレスが溜まるし、そもそも会話成立しない肉体派の脳筋って嫌いなんだよねぇ、コンクリートで固めて海に沈めたくなったりとかしない? まあ、それはいいや。ついでにアルベルトとの関係も始まったばかり? だし、もし本気でアルベルトに恋をしたのなら遠慮なく頑張って? というか、ボクも全力で応援するけど、どう?」
「……どう、って言われても」
「ローザ様、流石にそれは酷くありませんか? 大好きな人に全力でそういう応援をされると私も凹んでしまうのですが」
いきなりペースを崩されたエルヴィーラは困惑している。下手に怒り狂われて話が進まなくなるよりこうやって話を進めて行った方がいいねぇ。
アルベルトがガチ凹みしているけど、ボクは事実を述べただけなので。
「まあ、正直誰が何と言おうとアルベルトはフリーだからねぇ。誰かが告白して両想いになったところで何も問題にならないっていうのは事実でしょう? ……ただ、エディルを捨てるっていうのは、少々彼のことが可哀想になってくるというか、脳筋だし自業自得って片付けてしまってもいいと思ってしまうような」
「……ローザ様、フォローするか放棄するのかどっちかにしてください。エディル殿も貴女がここから出て来られることを望んでおります」
「……嘘よ……だってエディルは、全然来ないじゃない!」
「それは当然でしょう。貴女の罪を重くするわけには参りません」
「え?」
……あっ、やっぱりペースを崩されているといっても感情的なのは間違い無いんだねぇ。
まあ困っている時に恋人が助けに来てくれなかったら憤慨しちゃうかもしれないけど……エディルは上司に彼女が今回の事件に関与していないと陳情しているらしい、ってか、そのシモンもエアハルトもそのこと知っているんだけど。
ちゃんとボクの言いつけを守って彼女の振りになる行動は謹んでいる。駄犬だと思っていたけど、ちゃんと言いつけ守れるじゃない。
「下手に護衛騎士が勾留されている人間に婚約者だからと安易に面会すれば、脱走の幇助を疑われかねないからねぇ。壁に耳あり障子にメアリー、肩にフェアリーだよ。無実を証明する――それがもっとも恋人のためになると理解して行動しているエディルは真摯に対応していると言えるんじゃないかな? まあ、ただ、それはシモン近衛騎士団長もエアハルト副団長も承知の上。なんでエルヴィーラさんが拘留されているかっていうと、まず一番はボクが君に話を聞きたかったってことがある。その後、近衛からも調書を作らないといけないから取調はされると思うけど、しっかりと答えていけばすぐに釈放される。……問題はそれからの身の振り方なんだけどねぇ。まあ、それは娑婆に出てから考えてもらうべきだと思うし、その時はボクも相談には乗るよ。……さて、君の友人――マリエッタについて話を聞かせてもらいたい。先に言っておくけど、ボクには嘘を見抜く力がある。そのつもりで話をするように」
「アタシ、知っての通り辺境の出身で……アタシの両親が他国からの難民で来た二世なんです。だから、辺境でもあんまり地位が高くないっていうか……差別の対象になっていて、仕事はキツいのばっかりだったし、女とみれば娼婦とか愛人になれとかそういうのばっかりで……。勉強して出世なんてできる環境では無かったの……そんなアタシは子供の頃にマリエッタに出会った。アタシよりもいくつか年下で……でも、あの子は村の子供の誰とも違った。魔法を自在に操って、大人も知らないようなことを言ったり、計算して見せたり……そんな彼女はアタシがいずれ王城で働けるようになるって言ったの。その時はアタシもそんな馬鹿なことって思ったわよ、だってその時のアタシは薄汚れて、字も書けないような子供だったから。あの子がいたからアタシはここまでこれた。あの子が言ったことは本当になったわ。王城に勤められて、近衛騎士の男性に求婚もされた。魔物の出現だってそうだった! ……でも、王女様は意地悪でも太ってもいなかったわ。それに、悪役令嬢だって言われた貴女だってマリエッタが言っていたよりも恐ろしいし……あの子の予知は完璧じゃないんだわ」
「……そんな馬鹿な」
あり得ない……マリエッタが仮に転生者だったとしても、エルヴィーラは没ルートの登場人物。
それを知っていてエルヴィーラに声を掛けた? もし、仮にそうだとして、ローザ=ラピスラズリにエルヴィーラを助けるメリットはあるのか?
「ローザ様、どうかしましたか?」
「どうやら、今回の件……もうちょっと深く話を聞かないといけないみたいだねぇ。とりあえず、マリエッタが転生者っていうのは確定でいいと思う。ただ、ボクの予想していたシナリオとかなり違うというか……マリエッタは傀儡だと思っていたんだけどなぁ」
「……傀儡? あの神童のマリエッタが? 一体誰の?」
「誰って? 悪役令嬢ローザ=ラピスラズリのだけど」
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