Act.8-351 園遊会の終わりと戦後処理。 scene.3
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「ノクト先輩、色々とご迷惑お掛け致しました」
……慣れないなぁ、と思いつつ統括侍女のノクトを先輩呼び。ノクトはとても嬉しそうだ。
「いえいえ、結局、私達はいつも通りの園遊会を行っただけ、未曾有の危機に際しても私達にできたのは避難行動を円滑に進めることだけでした。圓様がしっかりとご準備なされていたからこそ、死者ゼロ、怪我人ゼロという素晴らしい結果を出すことができたのだと私は思います。後片付けについてですが、多種族同盟関連でも動いておられましたし、避難マニュアルの作成、その他様々な大仕事をされた上に、魔物にやられて怪我を負ったということもあります。来賓や王族の非戦闘員の皆様を守るための時間を作ってくださった功労と併せて、後片付けは免除ということでお願いします。それと、今回の件について表立っての表彰はできませんが、両陛下……特に王妃様からですが、褒賞金を出したいということを伺っております」
「折角のお話ですが、辞退したいとお伝えください。いえ、ボクからお願いすべきことですねぇ。そもそも、火種は間違いなくボクですし」
「確かに、あの戦争についてはそうかもしれませんが、魔物騒ぎについてはブライトネス王国が黙認していたことが発端です。流石に辞退というのは……」
「それに、もう既にボクが本当に欲しいものは受け取っておりますから」
「『管理者権限』ですね。七つ回収することに成功したとか、おめでとうございます」
「皆様の頑張りのおかげですねぇ、ボクはただアントローポスとエクレシアに対処していただけですから。残念ながら刻曜黒華のものはオルタ=ティブロンに奪われてしまったようですが。正直、あれは予測する方が難しいものです、結果として味方も多く確保することができて死傷者もゼロだったんですからいい結果に終わったと思います。……まだ隣国問題が片付いていないことがありますが」
「ロッツヴェルデ王国とシェールグレンド王国ですね。ロッツヴェルデ王国はメアレイズ閣下が既に多種族同盟文官連合にロッツヴェルデ王国への遠征の申請を出して許可を得ているようなのでこちらは時間の問題でしょう。……ブライトネスとフォルトナの陛下が揃って文官衆にクレームを入れましたが、馬耳東風で聞き流されている姿を見て胸が空きました」
……アイツら、どんだけ嫌われているんだよって話だよねぇ。予想通りではあるんだけど、ノクトの中でラインヴェルドに対するストレス相当溜まっているみたいだ。
「シェールグレンド王国についてはブラックソニア辺境伯と纏めて対処したいとスティーリアからお願いされましたので、許可してしまいました」
「……壊滅決定ですね。まあ、これだけブライトネス王国と圓様に無礼を働いたのです、当然の結果ではありますが。ところで、現在、ブラックソニア辺境伯の名代は牢の中に居て、シェールグレンド王国の大臣の一族については来賓扱いで軟禁状態、エルヴィーラについては騎士団が勾留しています。エルヴィーラについては圓様もお聞きになりたいことがあると思うので近いうちに面会の準備を整えますが、ブラックソニア辺境伯の名代はどうしますか?」
「処刑したことにしてボクの方で身柄を預かるつもりです。ビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局の工作員になって頂けないか打診して、可能であれば、彼女には学院都市セントピュセルに潜入している元「烏」所属のミスシスのフォローに回ってもらおうと思っています」
ミスシス・エンディエナはライズムーン王国の諜報部隊「烏」の解体後、ボクに雇われた。
『這い寄る混沌の蛇』の情報をこちら側に送りつつ、リオンナハトとラフィーナという危険分子二人を見張るという重大な仕事を引きつけてもらっている。
ビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局の工作員を派遣してからは仕事量は多少減ったものの、ミスシス本人のフォローに回る人材はいない状態なので、丁度、あの代官にその仕事を引き受けてもらおうかと思ってねぇ。
「では、そのような意向であると陛下にお伝えしておきましょう」
「よろしくお願いします」
◆
王女宮に戻るとオルゲルトが王女宮筆頭侍女の執務室の前で待っていた。
「どうかされましたか?」
「先程、例の近衛騎士殿がお越しになられました。目の前で吹き飛ばされましたからな、怪我の具合を心配して救護室に向かえば既に退院していないという。随分心配されているようでしたよ。もうすぐ戻ってくるでしょうと伝えておきましたので、来てくださるかもしれませんぞ」
「……分かりました。……日を改めて、と思っていましたが、一応、園遊会が終わってからという条件は満たしておりますし、今日、あの件をお伝えしましょうか」
「……玉砕ですな。少しだけあの近衛騎士が可哀想に思えて来ますぞ」
まるでボクが悪いみたいな話だけど、ボクの気持ちを斟酌せずに、というか勝手に無視して周りが……というか、ラインヴェルドが埋めた外堀だよねぇ。
執務室に入って、書類のない片付いた机の上でコーヒーを飲んでいると、ノックの音がした。
「どなたでしょうか?」
……まあ、分かっているけど。
「ローザ殿、その、アルベルト=ヴァルムトです」
「はい、どうぞお入りください」
アルベルトを部屋に招き、紅茶とケーキを出す。
アルベルトは戸惑いながら招かれるままに椅子に座った。
戸惑っている理由はボクが全く怪我を負っている様子がないからだろう。
「まずはご心配をお掛けしたことをお詫び致しますわ。怪我については既に完治しております。後遺症に関しても問題はありません、あの程度、擦り傷ですから」
「……あれは、擦り傷というレベルでは無かったと思いますが」
「確かに、世間一般ではあのような魔物の攻撃を受ければかなりの大怪我を負うものですわね。……ところでアルベルト様、これから少し時間を頂くことはできないでしょうか?」
「……時間ですか? えぇ、特にこの後の時間に仕事はありませんが」
「園遊会は何とか終わりましたので、お約束通り以前頂いた告白の返事と共に、アルベルト様の疑問にお答えしようと思いまして」
「それは、全てをお話しするというあの約束を果たして頂けるということでしょうか?」
アルベルトの顔は困惑の色に染まっている。まさか、このタイミングで打ち明けられるとは思わなかっただろうからねぇ。
椅子から立ち上がり、アカウントを切り替える。……ボクに最も馴染みのあるリーリエの姿に。
「そうですねぇ、いくつか話さなければならないことがありますが、まずはボクとリーリエの関係についてご説明致しましょう」
まずは、リーリエとローザの関係……まあ、定吉があの秘密を打ち明けたからアネモネとも同一人物だということはリーリエの姿を見た瞬間に把握したと思うけど、そこから初めて前世の記憶のこと、この世界の真実、全て包み隠さずに話した。
唯一話していないのは、アルベルトにとっては最も肝心なこと――即ち、告白に対する答えだけ。
「……大丈夫ですか?」
「……正直、衝撃的な話ばかりで頭が混乱しています。…………バトル・シャトーで、私は一度フラれていたのですね」
「まあ、遠回しに諦めたらと言ったのは確かですねぇ。……まず大前提として、ボクの前世は男です。まあ、男の娘として生きてきたし、感性は女性寄りだけど。そして、その延長線でボクは生きているので、その時点でキモいと思うなら遠慮なく以前の告白は無かったことにしてください」
「前世の記憶も性別もどうでもいいことです。私が貴女のことを好きになった、その事実に違いはありませんから」
「……はぁ、そうですか。……ここからは遠慮なく気持ちを打ち明けていきますが、正直、アルベルト様は恋愛対象外です。確かに人間性には好感を持っています。あのような環境でよく歪まなかったと思いますよ。義弟との家族仲も良好で、全体的には好感の持てる人物であると考えています。ところで、ボクには前世から愛する女性がいます。……ボクには勿体ないような素晴らしい方です。ボクは今でもその方を変わらず愛しています。この世界にやってきた彼女が再びボクの元に現れた時、ボクはこの気持ちを打ち明けるつもりでいます。……ボクは一途にその人を愛したいと、そう思っていました。そして、その気持ちは今も変わらない。……ただ、この世界で人生を送ってきて、その方以外にも心からボクのことを慕い、結ばれたいと努力を重ねている方々現れました。そして、ボクもその方達のことをできるなら受け入れたいと、そういう気持ちになったのです。……勿論、それを彼女が望まないなら、不快な気持ちにさせるのであればボクはそれを望みません。その時は申し訳ないとは思いますが、諦めて頂くことになるでしょう。……本当に、愚かだと思います。こんな性格の悪い、残虐でどうしようもない公爵令嬢を捕まえて、結ばれたいからと一生を棒に振るような真似をして……スティーリアだって、ソフィスさんだって、ネストだって、フォルトナの三王子だって、もっと選べる筈なのに。貴方もです、アルベルト=ヴァルムト。貴方ならいつか本当に貴方のことを心から考え、……慕ってくれる方を見つけられると思います。女性にだって苦労することはない……それなのに、何故茨の道を行こうとするのです。ボクの恋愛対象は女性です。条件は厳しい上に、今のボクに貴方に対する恋愛感情は皆無です」
「……思ったよりも状況は最悪でしたね。アネモネ閣下として貴女の仰ったことが全てだったとは……ただ、貴女に嫌われていないということが知れたのは良かったです。……随分と偽悪的に振る舞っていますが、私はローザ様が悪い方だとは思えません。誰よりも貴方は私に真摯に向き合い、そして、嫌われる覚悟で私の告白を真正面から断った。……ローザ様が……圓様が不快に思われるのであれば、告白の件は取り消しさせて頂きたいと思います。……はぁ、困りました」
「気持ちはよく分かります……恋愛感情というものはそう簡単に割り切れるものではないですからねぇ。なので、ここからアルベルト様が選ぶことができる選択肢は二つです。諦めるか、諦めないか。……諦めた方が絶対楽ですし、ボクはそちらをお勧めします。今のボクにアルベルト様への恋愛感情はありませんから、まずはボクを振り向かせなければならない。その上で、超えて頂かなくてはならない試練があります。まあ、条件ということですねぇ。相思相愛になることに加えて、条件の達成、この二つが揃うことで婚約の可能性が出てきます。一つは、その恋愛を心から応援する仲間の存在、そして、もう一つが試練の突破……アルベルト様の場合はヴァルムト宮中伯家のメイド――レイリア=レンドリタとの和解」
「……レイリア=レンドリタですか」
「えぇ、まあ、難易度的にはフォルトナの三王子に比べて一段落ちるレベルですねぇ。期限は特に設けませんが、達成できない場合は例え、ボクにとって大切な存在になったとしても、婚約の段階まで進めないので悪しからず。……正直、貴方は近衛のホープで非常にモテる、選ぶ側に回れる人間です。わざわざ、そんな大変な思いをして高が公爵令嬢と結ばれようとする必要はありません。どうなさいますか?」
「少しでも可能性があるのなら、そして、それを圓様が許してくださるのなら、私は圓様にとって相応しい存在になり、認めて頂けるように頑張る所存です」
「……そう、ですか」
まあ、結局こうなるのか……みんな諦めが悪いよねぇ。それで攻略されちゃうんだから、途轍もない愛のパワーなんだけど……って、月紫さんのことを考えるとヤンデレ並みに愛が溢れ出ちゃうボクが言うべきことじゃないか。
「分かりました。……では、せいぜいボクを振り向かせられるように頑張ってくださいねぇ、近衛のホープ殿」
「えぇ、必ず貴女の瞳に私の姿を映して見せます」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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