Act.8-350 園遊会の終わりと戦後処理。 scene.2
<一人称視点・リーリエ>
まあ、ほとんどが一人暮らしをしていたり、友人もいなかったりと一人で暮らす時間が長かったことも相まって泣き出す人は少なかった……けど、家族のことが大好きな結城は泣いていた。
……雫と綾夏は大切な人が側にいるからそれで十分なようで、元の世界に未練はないようだ。
天音は、家と深く結びついてきた子だけど存在しないなら仕方ない。ただ、私の記憶にしっかりと残っているならそれが事実だ……と割り切ったらしい。
燕は独身。会社が無くなったことで束縛から解放され、これ以上に嬉しいことはないそうだ。
春海は両親が普段から世界中を飛び回っていてほとんど会えなかったこともあって家族との関係は希薄。ただ、友達みたいに距離の近かったメイドさんに会いたいと思っているみたいだ。
火憐、玲華、瑞穂は元の世界に対する未練は特になし。
玲華は魔法のある世界に興味津々みたいだ。火憐も全力で体を動かせるこの世界が気に入ったらしい。
瑞穂は絶世の美女としてちやほやしれるならどこの世界でもいいみたいだ。
残る美姫は妹に会いたいらしい。とても仲の良い姉妹だったみたいだからねぇ。
「とりあえず、希望はその辺りでいいかな?」
「……えっ?」
「イヴ=マーキュリーを倒して『トップ・オブ・パティシエール〜聖なるお菓子と死の茶会〜』の『管理者権限』は手に入れた。この力で『トップ・オブ・パティシエール〜聖なるお菓子と死の茶会〜』のデータをサルベージして結城さんの家族、春海さんの会いたいと願うメイドさん、美姫さんの会いたい妹をこちらの世界にアクティベートすることはできるよ。……まあ、その辺りは後日どうしたいかを教えてもらいたいかな? 今、決めてって言っても難しいだろうし。勿論、こっちで生活するためのサポートはボクの方でしっかりとさせてもらう。流石にずっとという訳にはいかないからいつかはこっちで働ける基盤を確保して行ってもらいたいけどねぇ」
しかし、複数世界観統合計画[Multi-world view integration plan]って三十のゲームを完全に融合するってものだと思っていたんだけど、現時点では『スターチス・レコード』を基盤にした世界だし……今後の拡張でいずれは三十のゲームの世界全てを本当の意味で飲み込んだ世界になるのかな?
その場合は、それこそ結城達の家族もこの世界にやってくることになるだろうし、それが早まるか遅くなるかだけの話だと思う。
……まあ、ただこれに関しては一度連れてきたら戻せないし、じっくり考えた上で決断してもらいたいけど。こっちの世界に来て不幸になったってことになったら目も当てられないし。
結城達の意見は後日聞くことにして、ボクはペルちゃんと交代するために三千世界の烏を殺してブライトネス王国の王宮に戻った。
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
ローザの姿に切り替え、負傷した風に見せるためにガーゼを貼ってからボクはペルちゃんの寝ているベッドに向かう。
医務室には誰もいない。人払いしてあるからねぇ。
『ご主人様、お疲れ様でした』
「ペルちゃんこそお疲れ様。さて、ここからはボクと交代だ。ラピスラズリ公爵家に戻ったらゆっくり休んでねぇ。戦功に見合った褒賞っていうのは残念ながら出せないけど、しっかりとボクの方でお礼を出すつもりだから安心してねぇ」
『そんな……ご主人様のお役に立てただけで十分です』
とペルちゃんは言っているけど、大戦に参加していたら間違いなく手柄を上げていたからねぇ。それに、このボクの身代わりという仕事も重要なものだったし、当然報酬はしっかり支払うよ。
ペルちゃんと入れ替わりでベッドに入り、ペルちゃんはラピスラズリ公爵家に転移させた。さてと……しばらく怪我人のフリをしておかないとねぇ。
「お戻りでしたか、ローザ様」
ペルちゃんが戻ったタイミングでやってきたのは救護班所属の看護師のリューナ=グレーダスだ。
お戻りといっている時点で分かるとは思うけど、ボクの正体を知っている人物……まあ、リディア達と同じ白夜の直属の部下で救護班に潜入しているビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局の潜入捜査官ということになる。
「後で映像を確認すれば問題ないかとは思いますが、今のうちに現在の避難状況についてお伝え致します。招待客を含め、王宮に居た全ての者達の避難は無事に済んでおります。王宮内が二割、地下シェルター内が八割、藍晶殿のチームが建造を急いだ地下鉄を使う状態にはなりませんでしたので、使用者はゼロです。未来からお戻りになったローザ様は結果をご存知だと思いますが、現時点でほとんどの敵軍が壊滅しております」
「間も無く終戦宣言のタイミングになると思うよ。今なら人がいないと思って狙って戻ってきたからねぇ。報告ありがとうリューナさん」
「では、私はローザ様の様子を見ている看護師としてしばらくこちらに留まりますね。お疲れだと思いますから、少しゆっくりお休みください」
「それじゃあ、お言葉に甘えてちょっと休ませてもらうよ」
今日はあんまり疲れていないって思っていたんだけど、いざ目を閉じるとすぐに寝られるものだねぇ。……もしかして疲れていたのかな?
そうして寝ること三十分……医務室の扉がノックされて目を覚ました。
リューナが扉を開けると飛び込むように入ってきたのはメイナだ。
「ローザ様! 大丈夫ですか!!」
「心配を掛けましたね。えぇ、まあ、幸い大事に至らなかったというか、ただ、吹き飛ばされた時にちょっと意識が飛んでしまってという状況です。先程一回起きた時に治癒魔法を使って傷を治したので、ほらこの通り。大丈夫です」
「ぅぇぇ……良かったぁぁ」
ボクを見た途端に泣き出したメイナを見ると罪悪感が込み上げてくる。
うん、あの程度の魔物如きで死に掛けるとか本当はあり得ないから。
……その後のアントローポスとエクレシアでは実質一回死んだけど。
「王女宮の侍女のメイナさんですね。初めまして、救護班所属の看護師のリューナと申します。王女宮筆頭侍女様の外傷の方は特に問題もなく、後遺症の心配も全くありません。ただ、慢性的な睡眠不足で意識を失う可能性はあるかと思います。異常なほど早く眠りに落ちていたので可能性は高いと思いますので、もし万が一気を失うようなことがあればすぐに医務室なり筆頭侍女様の部屋のベッドなりに運んでください」
「……まあ、多分大丈夫ですよ、ちゃんと寝ましたし」
「三十分寝ただけではありませんか。寝溜めはできないとはいえ、あまりにも身体を酷使し過ぎです。……一応看護師として無茶はしないようにと言っておきます。どうせ聞かないでしょうけど」
「無茶はしていないんですけどねぇ」
ジト目の看護師に見送られ、ボクはメイナと共に医務室を出た。
向かう先は王女宮のプリムラの部屋。地下のシェルターに避難していたみたいだけど、随分と心配を掛けたみたいだからねぇ。ボクの無事を確認しようと見に行って止められてってこともあったようだ。……しかも、シェルロッタとソフィスは敵掃討のために行動を開始しちゃうし、きっと心配が絶えなかったと思う。
安心したらしいメイナは皆に言ってくると走って行っちゃった……いや、廊下は走っちゃ……まあ、いいか。気持ちは分からない訳ではないし、ボクのせいで心配させたってこともあるからねぇ。
まあ、ソフィスとシェルロッタは心配していないと思うけど。あの後、ボクがリーリエとして戦場を駆け巡ったことも知っているし。
「失礼致します、ローザでございます」
入室の許可を得るために扉の前で声を掛ける。
返事がない。……もしかして心配し過ぎて疲れて眠ってしまったのかな?
じゃあせめて寝顔だけでも……と思ってドアノブに手を伸ばした私の前で、大きく扉が開いた。
「ローザ!」
「プリムラ様!?」
ドアを開けて飛び出てきたプリムラをキャッチ、よろめかないよ、これくらいじゃ。
ぎゅっと抱き着いたまま離れず、顔も上げないプリムラの小さな肩が震えている気がする。……本当に心配掛けたねぇ。
「プリムラ様、ご心配をおかけいたしました。さ、中に入りましょう」
「うん……うん……」
まだローザがリーリエと同一人物であることを明かすのには早かった。だから一芝居打ったんだけど、その結果、ボクのことを母と慕ってくれるその優しい心にどれだけ負担を強いてしまったんだろうと思うと本当に申し訳ない気持ちになる。
「だから言ったじゃねぇか。俺の親友があんな魔物如きの攻撃で死ぬかよ」
「あっ、陛下居たんですか」
「酷くね!」
何故か部屋に居たラインヴェルド……なんでいんの?
隣にいたシェルロッタが「お帰りなさいませ、ローザお嬢様。ご無事のようで何よりです」とボクの姿に特に驚いた様子もなく(まあ、当然なんだけど)声を掛けてくれたので、「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」と伝えた。えっ、ラインヴェルド? 無視無視。
「まあ、怖かっただろうなぁ。あれだけ派手に吹き飛ばされたら……しかも気を失っていたんだろ? 常時、過去の魂を起源とする魂の蘇生魔法『起源再成』と二十四時間まで肉体の履歴情報を遡り、外的な要因により損傷を受ける前のデータを上書きすることで傷を修復する蘇生魔法『複写再成』が待機しているから余程のことが無ければ死なないというか、実は殺す方が大変なんだが、まあそんなことプリムラは知らないし怖かったよな」
「……ローザも、お母様みたいに私の側から消えちゃうのかと思って怖かったの」
「……それは、本当にすまん」
「……そんなことにはなりません。情けない話ですが、魔物にやられたタイミングで慢性疲労と寝不足の影響が出て意識を失ったのです。傷の方も無事に治癒は済んでおりますから問題ありません」
「よか、た」
「プリムラ様……」
「良かった、良かったよぉ……」
目元が赤くてどれだけ泣いたんだろうと思ったプリムラの目から、また雫が零れ出す。
姫としてはみっともないと言われるかもしれないくらい大声で、わんわん泣き始めたプリムラのその気持ちにボクは正直撃ち抜かれる思いだ。
……本当に罪悪感が込み上げてくるねぇ。
愛されているってことは分かるし本当に嬉しいんだけど、それをシェルロッタに……っていうのはダメか。
その後は気が済むまで泣いたプリメラさまの為におしぼりを用意したり、ラインヴェルドにお茶漬けを出したり、スカーレット達のところに顔を見せてやっぱりここでも心配されたり、ソフィスの奮闘ぶりを労ったり、まあ、とにかく色々なことをしてからノクトの執務室に報告に向かった。
「ぶぶ漬けって、やっぱり俺に帰れってこと!? なんで心配してきたのに追い出されようとしているの!?」
心配して見にきたんじゃなくて、サボりたくて来たんでしょう? ボクを誤魔化そうったってそうはいかないよ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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