Act.8-345 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.32
<三人称全知視点>
「【氷竜之王】――絶対零度の咆哮」
ジェシカの『永久凍土の竜杖』から猛烈な吹雪が放たれる。
猛吹雪が天使の全身を凍らせ、飛翔能力を封じたところで落下する天使に『闇に染まりし勝利の剣』を構えたディルグレンと『永久凍土の薔薇剣』を構えたジャンローが俊身と空歩を駆使して肉薄――首を斬撃を放って確実に仕留める。
「魂魄の霸気《飛去来》! さて、見せてやるッスよ! 俺の本気! 雷霆覇勁・猛打衝」
ヴァケラーの手に百発百中でどんな風に投げても必ず手に戻ってくるという因果干渉の効果を有するブーメランが現れる。ヴァケラーは天使の群れを目掛けて《飛去来》を投げると、『雷光鬼神の金砕棒』に聖属性の魔力と武装闘気、覇王の霸気を纏わせ、空歩を駆使して肉薄すると天使の頭目掛けて振り下ろす。『雷光鬼神の金砕棒』を振り下ろされた天使の頭は攻撃に耐え切れずスイカ割りでスイカを棒で叩いた時のように四散した。
「――汝、六属性の一角を担う火の精霊王よ! 今こそ契約に従い、我が下に馳せ参じ給え! 精霊召喚・イフェスティオ!」
レミュアの手の甲に赤い魔法陣のようなものが浮かび上がり、呼応するようにレミュアの目の前に灼熱の渦が生じた。
現れた燃え上がる炎でできた扇情的なドレスを身に纏った赤髪の女性――精霊王イフェスティオは戦場を見渡して天使の群れとアザトホートのコケラに一瞥を与えると、レミュアに小さく頷き、武器型の精霊武装と衣装型の精霊衣装に形態変化した。
炎と化したイフェスティオは『妖精剣士の彗星細剣』とレミュアの独創級の装備の服を変化させ、灼熱の炎を纏った真紅の細剣を持った真紅の焔でできたドレス姿となる。
「天壌焼き焦す聖焔の剣」
レミュアは精霊王の力を宿した『妖精剣士の彗星細剣』に更に聖属性の魔力を込めて、聖なる炎の斬撃――否、灼熱の奔流を天使の群れへと放つ。
無数の天使は炎に耐え切れず炭化して砕け散った。
◆
「アルベルト、先程は邪魔が入ったが今度こそどちらが多く魔物を倒せるか勝負だ!」
「まだそんな馬鹿なことを言っているんですか!?」
レジーナに殴られても全く考えを改めないギルデロイはアルベルトに絡み続けた。
アルベルトはそんなギルデロイに構っている暇はないと真剣そのものの表情で武装闘気を纏わせた剣を構え、天使達と斬り結んでいる。
これまでもアルベルトと他の者達の間に圧倒的な実力差があることは度々理解させられてきた。
しかし、実際に天使の群れがこのブライトネス王国に攻めてきて、その実力差がより一層目に見える形で現れている。
各国の時空騎士達は天使達相手に互角以上の戦いを繰り広げている。
一体の天使相手に手間取ることもなく、一撃、或いは数撃で撃破するか、複数の天使を纏めて撃破している。対するアルベルトは天使一体と斬り結び、光属性の魔法に警戒するだけで冷や汗が流れる。
これでもアルベルトは剣の腕に多少の自信を持っているつもりだったが、その自信も音を立てて崩れ落ちた。
寧ろ、ギルデロイが何故あれほど打ちのめされ、相次いでボコボコにされてもそうやって自分こそが『剣聖』に相応しいと考えることができるのか理解できないといった有様である。
そんなギルデロイだったが、こちらも戦闘の状況は芳しくない。
アルベルトは習得した闘気と八技を駆使することでようやく天使相手に斬り結ぶことができていたが、ギルデロイは全く闘気を扱えず、八技も当然使えない。
ようやく天使一体を撃破したところで、アルベルトは五体の天使を撃破していた。その差は歴戦である。更に言えば師匠のミリアムは二十五体、藍晶は同じ時間で二十三体の天使を撃破しており、最も『剣聖』に近いのは藍晶と言える。
「『ジュワイユーズ流聖剣術 聖ノ型 聖纏魔祓』」
ミリアムと藍晶は聖属性の魔力を剣に纏わせ、その上から武装闘気を纏わせて空歩を駆使して天使に肉薄、次々と天使を切り捨てていく。
ミリアムの剣は実戦で鍛え抜かれた『剣聖』の名に相応しい無駄の削ぎ落とされた美しい剣技。一方、藍晶の剣はミリアムの剣技をベースにしつつももう一人の『剣聖』ダラス=マクシミランの荒々しく鋭い剣技が加わり、より破壊的な力を得ている。
二人の『剣聖』の弟子は二つの剣技の特性を理解した上で見事に融合させていた。
「……しかし、愚かな弟子だ。今の私ならアルベルトでなく、藍晶に『剣聖』を継いでもらいたいと思っているくらいだが」
『俺程度が言うべきことではないとは思いますが。『剣聖』とは強くなった者が自然とそう呼ばれるものであって、その称号を目指しているうちは真の猛者に至ることはできないのではないかと』
「真理じゃな。……ギルデロイ、聞いておったか!」
「えっ、師匠、俺を次期『剣聖』として認めてくれるのか!?」
「……全く、人の話を聞かない弟子には困ったものじゃ。……そもそも、今でこそアルベルトが次期『剣聖』の最有力候補などと巷では騒がれておるし、儂もそれでいいと思っているのだが、実のところ、ラインヴェルドとオルパタータダの二人こそが本来なら『剣聖』の称号に相応しいと思っている。儂以上にな……あの二人に『剣聖』の技を教えた時についでに『剣聖』になる気はないかと戯れに聞いたことがある。その時、奴ら、何といったと思う? 『剣聖とか興味ねぇな。称号を得たってクソ面白いことになる訳じゃねぇだろ?』……まあ、奴ららしいがのぉ。そもそも、儂ももう一度初めから剣の修行をやり直そうと思っている。『剣聖』と呼ばれて自分でも驕っていたところがあったからのぉ。そういったものを捨ててもう一度初めから剣を学びたい。そうでなければ、この新たな激動の時代に対応することができないことがよく分かった」
『師匠は戦えている部類だと思いますけどね。…… 圓様からも剣の指南をして頂けることになりましたので俺ももっと剣の道、精進していかなければと思っているところです』
「羨ましいのぉ。……そうか、それは良かった。儂も藍晶に置いていかれないように頑張らねばならないな」
『剣聖』とは終わりではない。更なる高みを目指すことをミリアムとその親友――藍晶は戦場で誓い合う。
『剣聖』という称号だけに拘るギルデロイの目には、そんな二人の姿は映らない。
◆
「『典幻召喚』――出てきて! 仮面の伯爵様」
『典幻召喚』が組み込まれた『エメラルドの王女と仮面の伯爵』が紐解かれ、仮面をつけた美しい黒衣の伯爵が姿を見せる。
細剣を構えた仮面の伯爵はマントを蝙蝠の羽に変化させると飛翔し、無数の天使を相手取って戦闘を繰り広げ始める。
天使達は光の剣で仮面の伯爵に応戦するが、全ての斬撃を仮面の伯爵は華麗に躱しながら高速の刺突を心臓を狙って放ち、次々と天使達を一撃で仕留めていく。
「さて、私も……陰陽陣」
ソフィスを金色に輝く光の炎と、漆黒に燃える闇の炎が包みこむ。
半円状に燃え上がり、ソフィスを囲む聖属性と闇属性の炎は鎮火し、聖属性と闇属性を象徴する半円の魔法陣が一体となった陰陽の魔法陣を形成した。
「ダークマター・エピゴーネン! ホーリーマター・エピゴーネン!」
光の刃を生成し、仮面の伯爵が離れ、無防備となったソフィスに狙いを定めた天使達が地上から噴き出した光と闇の奔流に飲まれる。
愛する女性――百合薗圓の十八番である「ダークマター」の派生のフェイク魔法「ダークマター・エピゴーネン」と、その属性を聖属性に置き換えた「ホーリーマター・エピゴーネン」。
エピゴーネンとは文学や芸術の分野などで、優れているとされる先人のスタイル等をそのまま流用・模倣して、オリジナル性に欠けた作品を制作する者を指す言葉である。最愛の人の魔法を模倣した取るに足らない紛い物の魔法という意味で付けられた名前だが、その威力は紛い物とは思えないほど高い。
「卑屈な名前ですね、その魔法。私はプリムヴェール様のフェイク魔法に僅かに劣る程度の魔法だと見ましたが。……正直、まさかここまで戦えるとは思いもよりませんでした。侮っていたこと、心から謝罪致します」
「シェルロッタ様……姫殿下は」
「既に安全なところへ。真月が護衛についているので問題ありません。……流石に私も時空騎士として剣を授かっている立場ですので、この戦争に参加しない訳にはいきませんからね。……ソフィス様、恐らくですが今回の戦争の終結時点でソフィス様は時空騎士の一人に選ばれると思います。それだけの活躍をなさっていますからね。……ただ、お嬢様はあまりそれをお喜びになられないと思います」
「えぇ、圓様から『君には守られる側で居て欲しかったと思うけどねぇ』と言われてしまいました。……私も圓様の気持ちはよく分かります。危険なところには行って欲しくない、戦いから戻ってくるのを待っていて『お帰りなさい』と迎えて欲しい。……私だって圓様に危険は冒してもらいたくありませんから。でも、ずっと守られているのは、大切な人が危険な場所にいるのに何もできないのはもどかしいのですわ。私の力でできることは微々たるものなのは自覚しています。それでも、私は――」
「お気持ちはよく分かりました。……圓様は本当に幸せですね。いえ、これまで圓様が蒔いた種が芽吹いただけですか。……偽悪的ですが、あの方はなんだかんだで優しい方ですからね。悪になり切れないし、慈悲深さが根底にある、だからきっと多くの方に好かれるんだと思います」
「……それが圓様の良いところですが、ライバルが増えてしまうのは困りものですよね」
シェルロッタはソフィスと会話しながら莫大な魔力を凝縮した九つの透明な魔力弾を自由自在に操作する「九蓮宝燈」を放って次々と天使達を撃破していく。
シェルロッタとの圧倒的な実力差を目の当たりにし、ソフィスは人知れずもっと強くなろうと決意したのだった。
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