Act.8-336 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.23
<三人称全知視点>
北上空からブライトネス王国に進軍してきた刻曜黒華率いる黒の使徒達に対し、防衛のために派遣されたのは紫の女神アメジスタ、美青木汀、クレール、デルフィーナの四人だった。
「刻曜黒華に、『烏羽四賢』の【桜砲女】咲良坂桃花、【熾熱姫】炎谷篝火、【リボンの魔術師】絹紐美結、【魔法画家】菱川小筆。幹部が全揃いじゃん! こんなに大勢でどこに行くのか、あたしに教えてくれないかな?」
「……誰かしら? 貴女達」
「これは失礼したね。あたしは美青木汀、元『這い寄る混沌の蛇』の那由多彼方の配下の魔法少女だよ。圓さんにコテンパに負けてからは圓さんに従っているけどねー。で、この二人がクレール=ナイトメアブラックさんとデルフィーナ=イシュケリヨトさん、二人も同じく元『這い寄る混沌の蛇』所属の魔法少女だよー。後一人は元『唯一神』の紫の女神アメジスタさん。……刻曜さんと似たような存在って言えば分かってもらえるかな?」
「……『這い寄る混沌の蛇』に所属していたのね。それなら、真白雪菜の居場所を知っているわよね? ……彼女はどこにいるの! 教えなさい! いえ、貴女達を拷問して彼女の居場所を吐かせるわ!」
「ま、待ってよ! 真白雪菜ってあの真白雪菜でしょ? あたしもおかしいって思ったのよ……いえ、あたしは関係してないわよ。名前を聞いてびっくりしたし……落ち着いて聞いて刻曜さん。彼女は今、このブライトネス王国にいるわ。ただ、恐らく彼女は刻曜さんの知っている真白雪菜ではないわ。……『這い寄る混沌の蛇』の有する『絆斬り』、もし『這い寄る混沌の蛇』の手に堕ちているなら絆が断ち切られている筈。咲良坂さん、貴女は真白雪菜の名前を聞いたことがないじゃないかしら?」
「そんな馬鹿なことがある筈ないでしょ! 彼女は……」
「ずっと疑問に思っていたのだけど……真白雪菜さんって一体どなたなのかしら?」
「……そんな」
黒華の顔が蒼白に染まる。かつて一度桃花に問われた質問だが、その時は気が動転した黒華の耳朶を打つことはなく独り言となってしまった。その衝撃的で決して受け入れたくはない問いに、黒華はようやく向き合うことになったのである。
『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』が異世界と化した時、黒の使徒達は超新星の新人魔法少女である真白雪菜の名を覚えていた。それを、今の桃花は覚えていない。
「……一つだけ、助ける方法があるよ。圓さんなら、きっと彼女を救うことができるわ」
「……圓なら……しかし、それでは」
「えぇ、恐らく対価は『管理者権限』となるわね。そもそも、それはハーモナイアに与えられた力なのだそうね? それを簒奪したのは貴女達神――だったら、本来、その力を持つべき人に返すべきじゃないかしら?」
「クレールだったかしら! 何を馬鹿なことを言っているの! 刻曜様がそんなことなさる筈がないわ! Queen of Heartを倒して魔法の国を支配するという黒の使徒の野望を叶えるために、『管理者権限』は必要な力なのよ!」
「……篝火、申し訳ないのだけど、私にとって重要なのは野望ではなく、雪菜さんよ。私はね、かつて本気で『魔法の国を支配してその技術を独占する』という目的のために行動を起こした。そんな私に雪菜さんは真っ向から間違っていると突き付けたわ。そして、『魔法少女達が地球の一般人達とも手を取り合える世界を創り上げよう』と、彼女自身の願いを叶えるために手助けをして欲しいとこんな私に手を差し伸べてくれたのよ。……荒唐無稽な願いかもしれない。でも、私はそんな彼女の手を取りたいと思った。Queen of Heartを滅ぼすという目的だけは変わっていない……でも、その先に目指しているものは違うの。みんなにとっては不本意なことかもしれないけど、みんなに相談せずに決めてしまって、本当に申し訳ないと思っているわ」
「本当にそうね……非常に不本意だよ。申し訳ないと思っているなら、死んで詫びてくれないかな?」
黒華の、桃花の、篝火の、美結の、小筆の、アメジスタの、汀の、クレールの、デルフィーナの――その場にいた全員の表情が驚愕の色に染まり、黒華が吐血した。
黒華の腹にポッカリと穴が空き、風穴から白い腕が生えている。
「……オルタ……ティブロン!?」
それは、鮫を模したフードを被り、鮫皮のような質感の黒のドレス風の魔法少女衣装を纏い、背中には羽毛が生えていない骨のような形をした翼が左に片翼だけ生えているという容姿の魔法少女だった。
黒の使徒の中でも古株の魔法少女で、異世界化後の黒の使徒では「烏羽四賢」には及ばないものの黒の使徒の中では上位の位置にあった。
「ホント困っちゃうよね? だって勝手に決めちゃうんだもん。『管理者権限』を百合薗圓に返還する? やめてよね、そういうの。それくらいなら私がもらっちゃうよ。そんでもって、この力はアポピス=ケイオスカーン様に献上する。……汀さん、クレールさん、デルフィーナさんの三人は裏切っていたんだね? ……邪魔だから三人とも殺すよ。覚悟してね」
「……貴女、黒の使徒に潜入していた『這い寄る混沌の蛇』のスパイかしら?」
「正解! 私はオルタ=ティブロン! 『這い寄る混沌の蛇』の新しい冥黎域の十三使徒のメンバー。そして、真白雪菜を攫って闇堕ちさせた張本人でーす! あははは!」
「魔法の手術室・入れ替え」
オルタの意識が黒華から離れた一瞬の隙を突いてクレールが自身の魔法で瞬時に黒華と足元にあった小石を入れ替え、デルフィーナが神水を飲ませて黒華の傷を完全に治癒する。
「幻想魔法毒凝膠弾」
「氷槍雨」
と同時に冷静にデルフィーナと汀が攻撃を仕掛ける……が。
「幻影潜り!」
オルタはまるで水の中に飛び込むように地中へと飛び込んで攻撃を無効化し、そのまま撤退を開始した。
自身の色を周囲と同化させることで消してしまう「幻影潜り」は奇襲と逃走に特化した能力だ。この力で汀達に奇襲を仕掛けることも可能だったが、「汀、クレール、デルフィーナの三人を殺す」宣言を反故にしてまで逃走を選んだのは、「管理者権限」を優先したからである。
折角、これまで黒の使徒の中に潜入して黒華の「管理者権限」の強奪に成功したのである。その努力をここで欲をかいて水泡に帰す訳にはいかないと考えたのだろう。
『魔法少女達、死にたくなければそこを退きなさい! アメテュストゥス・ルーメン!』
アメジスタの手に巨大なアメジストの結晶が現れ、結晶から無数の紫の光条が放たれる。
光条は魔法少女達が慌てて逃走した後の王宮の庭の一角を焼き払い、地面を穿ち、オルタの逃走する地面を見事に狙い撃ちで破壊して逃走中のオルタの姿を炙り出した。
「――ッ! やっぱり、簡単には逃してくれないよね! じゃあ、お望み通り相手してあげるわ! 鮫攻爆」
オルタが持ち手部分に鮫を彷彿とさせる彫刻が施された骨製の不気味な――魔法少女らしからぬ神話級の杖「天地喰らい」を構えると、杖先から無数の鮫型の魔力弾を放った。
アメジスタ達は当然知らぬことだが、無数の鮫型の魔力弾には着弾と同時にダメージを与え、更に傷口に任意のタイミングでダメージを与えることが可能となる紋章を設置するという効果がある。攻撃を受ければ受けるほど相手に確実にダメージを与える機会を与えてしまうという厄介な能力の持ち主だ。
『アメテュストゥス・ショット』
アメジスタは無数のアメジストを結晶を弾丸のように放って鮫型の魔力弾を撃ち落とす。
しかし、その結果はオルタも予想していたことだった。オルタの狙いはアメジスタの注意を鮫型の魔力弾に向けさせること。
そして……。
「巨大爆鮫! 日陰潜り」
オルタは巨大な鮫型の魔力弾を打ち上げ、上空で大爆発を引き起こし、爆発でできた巨大な影の中へと飛び込む。
「日陰潜り」は地面そのものを極限まで柔らかい液体のように変化させて潜って移動する「幻影潜り」よりも遥かに早く移動が可能で、影と同化できるために「幻影潜り」と同じく見た目で場所を特定することはできない。
武装闘気を込めた攻撃を浴びせれば影と同化したオルタにダメージを与えることも可能だったが、影の深部を移動することによって相手の攻撃が簡単に到達できない状況を創り上げている。
「日陰潜り」の弱点は影がないところは移動できないということだが、園遊会の会場には机や椅子の影、木陰など様々な影があった。ここに来るまでに逃走の経路も検討を重ねていたオルタは、「巨大爆鮫」の爆発に意思が向いている隙にブライトネス王国の王都から脱出する。
「……裏切り者の粛清は無理だったけど、これで当初の目的は達成した。全ては一欠片も腐っていない清浄な世界を創り上げるために、この力をアポピス=ケイオスカーン様に献上しなくてはね」
腐った秩序の破壊、そして、永遠の清浄なる国家秩序を作り上げるために、絶えず秩序は生まれ、そして滅ばなければならないと考え、『這い寄る混沌の蛇』に帰依し、冥黎域の十三使徒に選ばれるにまで至ったオルタは最高の手土産を片手に『這い寄る混沌の蛇』の本拠地へと転移した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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