Act.8-334 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.21
<三人称全知視点>
傭兵上がりの執事のスティーブンスは銀縁眼鏡と共に謹厳実直な執事の仮面を投げ捨て、飢えた獣のように瞳孔をぎらつかせ、丁寧にセットされた髪を無造作に掻き乱すと、俊身と空歩を駆使して戦場を駆け巡り、オーレ=ルゲイエに次々とすれ違い様に斬撃を浴びせていく。
「黄泉の焔剣――黄泉の焔包。――矢筈斬り」
フェイトーンはオーレ=ルゲイエ達に次々と黄泉の焔を放ち、包み込んで凍らせて身動きを封じると、圧倒的な速度故に相手が斬り殺されたことに気づかないという、連続殺人鬼〝辻斬り〟のフェイトーンの代名詞である矢筈斬りを放って次々と撃破していく。
そんなラピスラズリ公爵家の使用人達に比べれば数段劣るものの執事のヒースも武装闘気を纏わせた剣で必死にオーレ=ルゲイエと渡り合っている。
普段からアクアやローザに沈められている印象の強いヒースだが、やはりラピスラズリ公爵家の使用人に求められる最低限の実力はあるのだ。……「心無き天使の破滅の翼」を前に若干涙目になっているが。
これまで戦法が地面に魔法陣を設置して爆破させるというものだったジェイコブも爆発魔法と風属性魔法で作り出した圧縮空気弾を組み合わせることで不可視の時限爆弾の生成に成功し、この「風撃爆破弾」で多くのオーレ=ルゲイエを葬り去っている。
「うふふ、お義父様は恐ろしい相手だと言っていたけど、そう大したことは無かったわね」
「光聖剣」で創り出した光の剣に武装闘気を纏わせ、光の速度の斬撃を次々とオーレ=ルゲイエに浴びせながら、つまらなそうにリスティナは呟いた。
オーレ=ルゲイエは断末魔を上げないし、命乞いもしない――リスティナにとっては張り合いのない相手だった。どれだけ甚振っても面白くない……それが分かった時点でリスティナは速攻でオーレ=ルゲイエを仕留めるスタイルに変えてきている。
「フォフォ、まあ気持ちは分からぬことはないぞ、姉上。……オーレ=ルゲイエの本体にとっては奴らは替の効く人形程度のものなのじゃろう。死んだところで何も困らぬのだからこのような所業ができる。……とはいえ、このブライトネス王国に攻め込んできたのじゃから慈悲など掛ける余地はないがな」
リスティナの弟であるジュラは裏武装闘気で創り出した剣でオーレ=ルゲイエを屠り続ける。
例え、その身体の持ち主がブライトネス王国に敵対しようという意思を持ち合わせていなかったとしても、オーレ=ルゲイエの人形として選ばれてしまった不運な被害者達であったとしてもブライトネス王国に牙を剥いた時点で同情の余地は皆無なのだ。
そして、それは濁った瞳をオーレ=ルゲイエ達に向けながら淡々と裏武装闘気で創り出した長剣で刺し殺していく精悍な面差しをした中年紳士――ハーベイ、仕込み杖の刃で的確にオーレ=ルゲイエの心臓を貫いていくキュラソー、広げた際に刃物として使える檜扇の先端の弧が刃になっている仕込み武器の鉄扇を使って近距離で次々とオーレ=ルゲイエを撃破していくティフィナ、そしてラピスラズリ公爵家の全使用人達にも共通している。
「……皆様、戦闘を中断して退避して頂けないでしょうか? 戦略級魔法を使います」
「承知致しました」
「うふふ、分かったわ。次期当主に相応しい力があるのか、私が見極めさせてもらうわ」
ジーノがラピスラズリ公爵家の使用人達をリスティナが先代ラピスラズリ公爵家の使用人達と『瑠璃色の影』の全戦力、バラライカ侯爵家、バーネット伯爵家、ウォールバンガー子爵家、クレオパトラ男爵家の各当主を下がらせる。
「……ボクは王家に忠誠を誓う気は更々無いのですが。まあ、義姉さんに敵対しない限りはこの国をついでに守ってもいいと思っていますが。――龍宿魔法! 火竜帝の眷属」
十体の少し小さな火竜を作り出すと、オーレ=ルゲイエ達を取り囲むように展開し、少しずつ追い詰めていく。
「灼煉烈旋空針暴颶嵐域」
そして、オーレ=ルゲイエの群れを一塊にしたところで「烈旋空針暴颶嵐域」にカリエンテの力を融合し、燃え盛る巨大な暴風の領域を展開した。
風が数百ナノメートルサイズという微小な刃状に形態変化し、領域に存在する全ての切り刻むと同時に圧倒的な高火力でオーレ=ルゲイエを焼き尽くしていく。
「……ネスト、それはカリエンテさんの力よね?」
「えぇ、義祖母上様。カリエンテさんにお借りした龍宿魔法です。本来、炎の適性は皆無な僕でもこうして桁外れの炎の力を使えるようになりました」
「……しかし、あの孤高の古代竜さんがよくネスト様に竜の力を貸しましたね。……スティーリアさんとは別の意味で力を貸してくれそうにありませんが」
「そうでしょうか? 『スパイス亭』の麻婆カレーを奢ったら喜んで竜の魔力を貸し与えてくださいましたよ」
マジか……という顔になるヒース。
ちなみに、『スパイス亭』はエイミーンの元メイドが緑霊の森の多種族同盟加盟後にビオラの資金援助を受けて始めた本格スパイス料理専門店である。
ブライトネス王国の王都の料理店の中でも人気ランキングの上位に入るお店だが、内容があまりにも特化しているため、『Rinnaroze』ほどの人気はない。その分、根強い辛党に信奉されているが。
余談だが、ラピスラズリ公爵家の使用人達のほとんどはカリエンテがローザに頭が上がらない姿を度々目撃しているので、偉ぶりたいお年頃のちょっと微笑ましい存在として認知されている。
だが、ヒースにとっては未だにカリエンテは恐ろしい存在らしい。まあ、古代竜は圧倒的な力を持ち、古来から人間に恐れられてきた存在ではあるのだが……。
……ちなみに、ヒースはカリエンテと一時期同僚として働いていたことがあったが、嫌々使用人の仕事をしていたカリエンテの方がヒースよりも信頼されていた。
安定の、コイツ本当にラピスラズリ公爵家の戦闘使用人なの? と不安になってくるダメダメ使用人のヒース君である。
オーレ=ルゲイエの群れを焼き尽くしたネストだが、まだまだオーレ=ルゲイエの群れはブライトネス王国の王都の上に蔓延っている。
ネスト達はオーレ=ルゲイエ達を根絶やしにするために更なる戦いに身を投じるのだった。
◆
ルヴェリオス共和国の辺境にある廃街マルシャワの旧領主館の地下にて――。
カノープス、メネラオス、ベルデクトの三人はオーレ=ルゲイエ達と交戦を重ねながらオーレ=ルゲイエの本体のいる地下研究所の最奥を目指していた。
「闇魔法/闇纏暗殺剣・黒一文字」
「闇黒六砲」
「闇魔法・漆黒闇纏剣」
オーレ=ルゲイエに魔法を使われる前に確実に仕留め、地下施設の遭遇戦で快進撃を続けてきたカノープス達だった……が、地下研究室には似つかわしくない闘技場のような円形の施設に辿り着いた時、カノープス達は足を止めた。
「ようこそ、飛んで火に入る【血塗れ公爵】共。我らはオーレ=ルゲイエの中でも特に優れた四人――ルゲイエ四天王! 我ら最強の四人が貴様らを地獄に案内してやる!」
皇牙「黒の暴君」を開発した経験を生かし、生み出された「白銀の龍騎士」を纏った全身鎧の男、「修羅道《修羅の装甲》」を基にしたパワードスーツのシステムを更に改良した皇牙「死を呼ぶ機械骸鎧」と化した老人、宝石型の皇牙「大地の女王」を身につけた真紅のドレス姿の美女、そして、「凍結宝石」の技術を基に創り出した皇牙「氷寒宝石」が埋め込まれたグランディネのクローン。
オーレ=ルゲイエがとっておきと考える最強の四人だ。これまでのオーレ=ルゲイエとは明らかに違うと感じさせる風格を持っていたが、カノープス達はこれまでのオーレ=ルゲイエを倒してきた時と変わらない態度で四人を突破すべく、それぞれ剣を構えた。
『逆転領域』
最もローザが旧ルヴェリオス帝国で対峙したオーレ=ルゲイエに近い老人のオーレ=ルゲイエ――デス・ルゲイエが皇牙「逆転領域」を使用した。
攻撃が回復に、逆に回復が攻撃になるという極めて厄介な効果を持つ。これと「治療方陣」を組み合わせるのが老人のデス・ルゲイエの基本戦法だ。
『ヒャヒャヒャ! 闇の魔法を使うラピスラズリ公爵! 確かにその力は恐ろしい……が、闇の魔法では回復魔法は使えぬじゃろう? お主ら三人、ワシ一人で十分殺せ――』
「暗黒治癒術式」
ローザの「ダーク・ヒール」を基に編み出したカノープスのオリジナル闇属性回復魔法「暗黒治癒術式」がデス・ルゲイエに深刻なダメージを与える。
更にメネラオスとベルデクトが間髪入れずに神水を投げつけ、デス・ルゲイエを撃破すると、「逆転領域」の効果が切れた。
「「「まさか、こんなあっさり!?」」」
「……随分と舐められたものだね。情報交換をしていないとでも思ったのかな?」
デス・ルゲイエが撃破され、三対三になったところで、カノープスは全身鎧の男に、メネラオスは真紅のドレス姿の美女、ベルデクトはグランディネのクローンに狙いを定めると、それぞれ戦闘を開始した。
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