Act.8-329 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.16
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
我こそ先にと奥へ行こうとする人を掻き分けて、アルベルトが駆けつけたのはそれから十分後のことだった。
「ご無事ですか? 遅くなって申し訳ございません」
「王太后様と姫さまを避難させていたのですから当然です。……正直、状況は最悪と言えます。全く魔物が減っていません」
いや、減らせると思ったんだけど、なんか知らないうちに椀子蕎麦のお代わりをお椀に入れられたというか、魔物を補充されているというのか……これ、無限に魔物が湧くのかなぁ?
「待たせたな、ローザ=ラピスラズリ! よくぞ母上の避難する時間を作ってくれた!」
「待っていません。……アルベルト殿、複数対象同時殲滅魔法を使います」
「――ッ! そんなものまで!? 分かりました、護衛はお任せください!」
「アルベルト=ヴァルムト! どちらが魔物を先に処分できるか競おうではないか! 或いはどちらが数を――」
「何を馬鹿なことを言っているんですか! そんなことをしている状況ではありません!」
「くっ……剣聖の座は譲らんぞ?!」
「要らないと言っているだろう!」
……言い争っている場合じゃないけど、まあ、いいか。
「マルチプルブラックホール・ジャッジメント」
ローザがレベル99で習得する固有最上級闇魔法――「ブラックホール」の派生強化版で、対象とする魔物全ての近くに「ブラックホール」を発動し、範囲内の物体を同時に消し去るという極めて強力な魔法だ。
これでほとんどの魔物を撃破することに成功……だけど、魔物はまた出現する。……やっぱり、地面に触媒が埋め込まれていて、その触媒が自動的に魔物を召喚しているみたいだ。
「……はぁ、はぁ……これでも、ダメですか」
「ローザ殿、先程の魔法は後何度撃てますか?」
「……後二発が限界です。……地面に魔法の触媒を見つけました。それを壊せば、きっと魔物の召喚を、止められると思います」
「ローザ殿、私が引き続き護衛をしますから、触媒の破壊を――」
アルベルトの言葉はそれ以上続かなかった。ボクがわざと見逃したカメレオン型の魔物がボクを舌を鞭のように使って吹き飛ばしたからだ。
吹き飛ばされたボクはアルベルトの目の前で二回、バウンドしながら地面に打ち付けられる。
「……ローザ、殿……ローザ殿!」
驚いたアルベルトがボクが無事かを確かめようと駆け寄ってくる……けど、背後からケツァルコアトルスによく似た魔物がアルベルトに迫った。
でも、大丈夫。アルベルトは助かる。見気で駆けつけた増援の存在を認識し、ボクは安心して気絶したフリに徹した。……いや、実際、今の攻撃を受けたら普通の令嬢なら大怪我か、最悪死んでいたよ。
――漆黒の影が戦場に乱入する。新手か、と剣の切先を向けて警戒するアルベルトだったけど、その黒い影はアルベルトの目の前でケツァルコアトルスによく似た魔物を噛み砕くと、ボリボリと咀嚼しながら触手でボクを丁寧に掴むと背中に乗せた。
「――Sランククラスの魔物クァール!?」
「……はぁ、全く揃いも揃って役立たずだね! 次期剣聖だか剣聖の弟子だか知らないけど、揃いも揃って無能だってことがこれで証明されたってことだ! ミーヤ、ローザを医務室に運んでやりな! ……ほらほら、そこのクソ雑魚騎士共、アンタらは引っ込んでな! ここから先はあたしと――」
「私、ユリア=ニウェウスが担当致します」
◆
<三人称全知視点>
「ご婦人! 邪魔をする気か! オレとアルベルトはここで剣聖にどちらが相応しいか決着を――」
ギルデロイはそれ以上言葉を告げなかった。レジーナが無造作に振り回した杖がギルデロイの剣の刃を打ち砕き、次いで思いっきり腹に叩きつけられた杖がギルデロイを遥か後方へと吹き飛ばす。
細腕から繰り出されたとは思えないあまりの威力の高さに、ギルデロイは意識を手放すまでのほんの僅かの時間に戦慄を覚えた。
「全く、こんな老人の攻撃一つ受け止められなくて何が剣聖だい。笑わせるにももっと面白い冗談ってもんがあるだろ。出直しな!」
「……その程度では『剣聖』の弟子など恥ずかしくて名乗れないと思いますが。レジーナさんの専門は魔法で、剣術の心得など全くない素人ですわ。いくら隔絶した実力の差があるとはいえ、得意分野で勝てないという時点で、クソ雑魚騎士という不名誉な呼び名をされても致し方ないと思います」
武装闘気を纏わせた種から無数の「串刺しの竜舌蘭」を生やして魔物達を涼しい顔で串刺しにしたユリアが冷ややかな一瞥をギルデロイに与える。
「アルベルト、アンタはどうなんだい! そこに転がっているギルデロイと一緒なのかい? だったら見込み違いだったよ! ……ローザのことなら心配する必要はないわ。それより、今はこの魔物達を片付けることが先決でしょう?」
「……そう、ですね。先程のクァールがローザ殿を医務室に連れて行ってくださったようですし、一刻も早く安否を確認するためにもまずはこの魔物達を討伐しなければなりません」
ローザを目の前で吹き飛ばされて重傷を負わされた、そのショックで呆然自失となっていたアルベルトもレジーナに叱咤されてようやく再び剣を握った。
「ローザ殿は触媒が埋め込まれていると仰っていました。それで魔物が召喚されていると……その触媒を破壊すれば」
「そんなもの、見れば分かるよ! もう破壊するための手は打った」
無詠唱で「自律氷塊」を放ち、魔物の間を上手く擦り抜けて次々と魔法触媒を破壊していく。
触媒が破壊されたことで、召喚の魔法が消滅し、これ以上魔物が園遊会の会場に溢れ出すことは無くなった。
「光球爆烈」
「向日葵の光芒」
残る魔物を圧縮した膨大なエネルギーを持つ光弾を破裂させて光の洪水を引き起こす光属性魔法と向日葵の花の中心から激しい光の光芒を放つ木属性魔法で次々と撃破していくレジーナとユリア。
それに負けじと剣を振るい、アルベルトもケツァルコアトルスによく似た魔物を二体撃破した。
「……これでようやく終わりですね」
「……全く、何を言ってんだい! こっからが本番だよ。当初剥製として連れられてきた魔物の他にも魔物が召喚された……ってことは、誰かが園遊会の会場にこの触媒を設置して魔物を召喚し続けたってことだ。――ブラックソニア辺境伯領の一行の中に、おそらくその犯人がいる」
「……状況的にはそうなりますね。まだ危険の可能性もありますし、まずはブラックソニア辺境伯の一行の中にいる犯人を問い詰めて調べて……」
「どうやら、その必要はないみたいだよ」
ブラックソニア辺境伯の一行のほとんどは茫然自失の状態で檻の裏に座り込んでいた。
魔物達は檻の表側に飛び出していったので、後ろ側にいた彼らは運良く襲われなかったらしい。
――そんなブラックソニア辺境伯の一行の元に近づく人影が一つ。
銀色の髪を背中まで伸ばした碧眼の、ドレスと鎧を融合させたような特徴的な装備を纏った美女――アネモネは、『銀星ツインシルヴァー』の白刃を流れるように鞘から抜き払うと、その切先をその中にいた一人の男の眉間に向け、微笑を浮かべた。
「お久しぶりですわね、定吉さん」
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
ミーヤに乗せられて医務室へと搬送されたボク。
それと同時刻、アネモネに変身していたペルちゃんは見気を使ってボクが撃破されだことを知ったという演技をして(まあ、実際に見気で確認はできていたと思うけど)、親交のあるローザのことを心配して様子を見にいくという理由で園遊会の会場を抜け出して医務室へと向かった。
用意された医務室には誰もいない。予め陰陽術の人払いの術式をかけて置いて良かった。
「ミーヤ、ありがとう。ご主人様の元に戻ってくれていいよ」
ミーヤがボクを丁寧に触手を使ってベッドに下すと、ミーヤはレジーナのところへと戻っていく。
それと入れ替わるように部屋に入ってきたのは、アネモネ姿のペルちゃんだった。
『ご主人様、大丈夫でしたか?』
「大丈夫大丈夫、擦り傷だから。……もう傷は治っているけど、一応、不審がられないようにローザに変身したペルちゃんには包帯を巻かせてもらうよ」
ペルちゃんがローザに変身し、ボクがアネモネの姿になる。
そして、ボクが先程擦り傷を負った場所と寸分違わぬところに包帯を巻き、ペルちゃんにはベッドの中に入ってもらった。
「それじゃあ、悪いけどここで怪我人のフリをしていてねぇ」
『……申し訳ございません、ご主人様と共に戦えなくて』
「これも大事な役割だよ。今はまだ、ボクの正体を明かすタイミングではないからねぇ。面倒だと思うけど、こういう手順を踏んでおかないといけないんだ。……ペルちゃんには本当に迷惑を掛けていると思っているんだけどねぇ」
『ご主人様が謝ることではありません! どこまでできるか分かりませんが、頑張ってローザを演じます』
「頑張らなくても大丈夫だと思うけどねぇ……さっきの攻撃を浴びて気絶しているってことになっているから、しばらく寝ていればいいと思うよ。……すぐに終わらせて戻ってくるから、それまで待っていてねぇ」
ペルちゃんの頭を撫でてから、ボクは医務室を後にする。一応掛けていた人払いの術を解くと、ボクは魔物達の剥製が入れられていた檻の方へと向かう。
そして、檻の裏の方に座り込む目当ての人物を見つけると、鞘から『銀星ツインシルヴァー』の両刀を抜き払い、右の剣の切先を眉間に向け、微笑を浮かべた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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