Act.8-328 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.15
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「ローザ=ラピスラズリ。貴様をオレの愛人にしてやろう!!」
……はっ、こいつ何言ってんの! と不覚にも思ってしまった百合薗圓です。
ウォスカー並みに唐突というか、アホさ加減はウォスカー以上というか、アイツは、まあ、中身子供だから許せるってところがあるけどさぁ。
それと明らかに違うと思うんだよ、ギルデロイの阿呆さ加減は。
「貴様はラピスラズリ公爵家の令嬢だというが、そのラピスラズリ公爵家はブライトネス王国の同格の公爵の中でもあまり力はないと聞く。……しかし、最近は悪目立ちをしていると言うではないか。権力を縦に振るい、王女宮の筆頭侍女にまでのし上ったそうだな。だが、その性格の悪さが祟って婚約者もないという。……容貌もキツい顔立ちで、それも災いしているのだろうが。このままでは誰とも結婚せずに行き遅れるだけだろう。公爵家でも肩身が狭くなる。だが、オレの元にくればシェールグレンド王国の大貴族の内縁とはいえ妻の座を与えることもできるからな、ああ、感謝はせんでいいぞ。確かに身に余る栄誉とは思うがこれはオレから貴様への感謝だからな!」
「大変結構なお申し出ですがお断り申し上げます」
……こいつ何言ってんのっていう空気感が凄い。要するにボクを全面的に否定した上でオレがもらってやるから有り難く思ってことだろ?
ここは、やんわりとお断りする……けど、ダメだろうなぁ、これは。
「そうか! ……うん、何故に断る!! オレの正妻の座が得られんからか!?」
「違いますが」
「オレに既に妻がいるし、お前を正妻にするといえことは無理だぞ。ああ、もしや妻のことが気にかかるのか? 彼女はオレに愛人ができても気にせんだろう。懐の深い良い女だからな、だから安心するがいい!!」
「……ですからそういった事柄全て関係なくお断り申し上げます」
「おほほほ。……それにしてもヴァルドーナ公爵、貴方のご子息は随分と性急なことね。我が国の貴族の娘をあのように申した挙句に愛人にですって? 冗談としては少々……いえ、かなり外聞が悪いのではありませんかしら」
「はっ、いえ……そこの侍女は非常に才女と知りましてな、当家としても彼女が望んでくれるならば是非にと……外聞は外聞、実際はどのような人物なのかは分かりませんが、彼女に婚約者がいないのも事実。息子は物言いこそ良くありませんが、気骨ある真っ直ぐな男で不幸せにするようなことはないと……」
「……そもそも、その外聞を随分と信用しているそうだけど、実際のところの彼女の人物像を理解しての発言ではないわよね? 全て推論、今のはローザに対する名誉毀損だと私は受け取ったわ。……ローザはよく仕えてくれて気の利く、良い娘だわ。侍女としての責任感もありますし、貴族の令嬢としてのマナーもばっちり。だけれどそんな女性を、仲人も立てずに一方的に婚姻の申し込みをする……というのは少々どころか大分礼儀知らずではないかしら? その上、愛人ですって? 言葉のほとんどはローザを貶すものばかり、それで幸せにできると? それを私達王家の者が諸手を上げて賛成するとでも? 面白い冗談ですわねえ。……それに、彼女にはラインヴェルドが直談判して、プリムラの侍女になってもらったのよ。本来なら、一介の侍女として仕えて頂けるようなお方ではないわ。ラインヴェルドの盟友であるこの方に対する今の言葉、よく私が覚えておくわ。……我が国に対するシェールグレンド王国の宣戦布告の言葉を、ねぇ」
「ちょっと待ってください! 何故、そのような話に! 彼女はただの公爵令嬢ではありませんか! 誤解しないで頂きたい、シェールグレンドでは愚息の態度は少々荒っぽいものの、男らしいと評判でして……悪気がある訳では」
「ご存知ないかもしれないけど、ここはブライトネス王国なのよ。自重して頂けるかしら」
「はっ……は、いや、その。そ、そうですな。園遊会のこの開放的な素晴らしい空間に我々も少々甘えてしまっていたようだ。ギルデロイ、貴様も謝罪せんか!!」
「ぐっ……も、申し訳ございませんでした」
「あらあら。私よりも一方的にとんでもない理由で婚姻を申し込まれたローザに言うべきではないかしら?」
「……ローザ=ラピスラズリ。性急な申し出、すまなかった」
「気持ちの籠っていない謝罪など、受け取りませんわ。そもそも、何も理解していらっしゃらないではありませんか。……ただ、その場に合わせて口先だけで謝罪しているだけ。私が謝罪を受け入れたら、どうせ『申し出を受ける気になったならばいつでも』……とでも言うつもりだったのでしょう? ……悪気があるんじゃない、確かにそうかもしれません。しかし、ここは外交の場、言動一つが受け取られ次第で国際問題に発展するものなのですよ。……それに、シェールグレンド王国は私の知る限り、ブライトネス王国に対し、二つの前科がある。お二人も、それは重々承知しているのではありませんか? ……王太后様、今の彼の発言、どう捉えておられますか?」
「私よりも、貴女の意見を聞かせてもらいたいわ」
「私は、今の発言をラピスラズリ公爵家とブライトネス王国に対する侮辱と受け取りました。そして、心の籠っていない謝罪など不要と判断しましたので、弁解の余地はございません。……一度の失敗は許されるでしょう。誰だって間違えることはあります。しかし、三度もこのような行為をしたということは……これはあくまで私的な意見ではありますが、シェールグレンド王国はブライトネス王国を軽んじていると、そう受け取るべきなのではないかと思います」
「良かったわ。私と同じ意見ね。……とはいえ、最終決定は私の息子が決めることだけど……あんまり良い結果にはならなさそうね。ラインヴェルドは私よりも遥かにローザのことを大切に思っているから」
はい、交渉決裂。クィージィサスは地雷を踏み抜いたギルデロイに怒りを露わにしているけど、もうどうしようもないと思うよ。
しかし、シェールグレンド王国の起こした不祥事の謝罪のために来たのに、まさかシェールグレンド王国にトドメを指す事態になるとはねぇ。まあ、これ無くても仏の顔も三度まで、スリーアウトチェンジ!! なんだけどさぁ。
「そうそう、先ほどバルムンクのご子息に試合申し込まれた件はどうするの? ローザが戻ってきたから返事が有耶無耶だったでしょう? 私としては冥土の土産に良いと思うのだけど」
冥土の土産って……殺す気前提か。いや、ボクは王家の血を引いているヴァルドーナ公爵を次の王家に据えつつ、完全な属国として支配してしまう方が世間的には良いと思うんだけどなぁ。……正直、直接支配する方が面倒でしょう? それが面倒だから滅ぼさなかったってこともある訳だし。
「は。……私めはこの国の近衛としての勤めがございます故、私闘は厳しく禁じられておりますことは王太后様もご存じのことかと思います。規則ですので」
「あらあら。相変わらず面白みのない返事ねえ。でもまあそれが当然ね。ということでヴァルドーナのご子息、残念だけど諦めてくださいな」
……とうとう名前すら呼ばれなくなったねぇ。
いや、多分悪い人じゃないんだと思うよ。曲がったことが嫌いだから正せたことに対して感謝しているっていうのがそもそもの発端なんだろうし……ただ、空気が読めないってだけで。
うん、それが致命的なんだよ。貴族社会では。
……しかし、疲れたなぁ。
「あら? なんだかあちらのが騒がしくなってきたわね。ローザ、悪いけれどちょっと見てきてくれるかしら」
「はい、畏まりました」
さて……と、園遊会の平穏も間も無く終わりのようだ。……いや、平穏って割にはトラブルが起きまくっていたけどさ。
少しずつだけど不自然じゃないように猛者達は騒ぎの起こっている魔物達の方から離れた位置へと移動してもらっている。
そうすることで、騒ぎを見に行ったボクが不運な出来事に巻き込まれて怪我を負ったという状況がより自然に作れるようになる。……フォルトナ王国の騎士とか近くにいたら、普通に全部の魔物を排除してしまいそうだからねぇ。
まあ、ボクの本性を知っている者達にとってはただの茶番にしか見えないことだろうけど。
――ゴグァァァァァァァァァァ!
ボクが騒動の中心に辿り着くと、檻の中にいた剥製のようになっていた魔物達が檻の中を飛び出して、大きく翼を広げていた。
更に、檻の中には居たアズダルコ上科アズダルコ科のケツァルコアトルスによく似た魔物とは別の巨大な亀型の魔物や巨大な犀型の魔物のもある。そして、特殊な力姿を消している巨大なカメレオン型の魔物も見気でしっかりと認識することができた。
……よし、丁度いいからこのカメレオン型の利用して園遊会の会場から一旦退出させて頂こう。
アルベルトとラーニャ=ルーシャフ白花騎士団騎士団長は動き始めている。王太后様とカルナ王妃殿下、プリムラ姫殿下、第三王子殿下と第四王子殿下――非戦闘員の王族の避難は重要だからねぇ。
ここで避難を始めておけば、本格的に戦争が起こった時に避難を始めるよりも断然に楽になる。
振り返ると、すっかり顔色を無くしたプリムラの姿があった。予想外の状況でパニックになるのは当然、かもしれない。
「――シェルロッタ、姫さまを連れて避難を!
スカーレット、ソフィス、ジャンヌ、フィネオ、メアリー、メイナ、ヴィオリューテ、為すべきことを成しなさい!」
「承知致しましたわ!」
「はい、私の為すべきことを成しますわ」
「まずは避難誘導だね! フィネオ」
「そうですわね。……まずは、大臣閣下と侍女に置き去りにされたヴァルドーナ公爵夫人を」
「は、はははい!」
「ふ、ふぁい!」
「か、畏まりましてよ!?」
「ローザ殿、どうするつもりですか!」
「私が避難が進むまで時間を稼ぎます。……こう見えて、多少は戦えるのですよ」
アルベルトがプリムラ達を避難させる中、ボクは裏武装闘気で刀剣を作り出すと、地を蹴って加速した。
「ダークマター」
まずはケツァルコアトルスによく似た魔物を三体纏めて暗黒物質に飲み込ませて撃破し、左手に生成した裏武装闘気の苦無二本に武装闘気と覇王の霸気を纏わせて投擲――二体の巨大な犀型の魔物の頭蓋をぶち抜いて撃破する。
「ダークネス・ジャベリン」
闇の魔力を固めた無数の槍を巨大な亀型の魔物の頭上から降らせて撃破――と同時に上空から急降下しながら鋭い爪をボクの方に向けたケツァルコアトルスによく似た魔物を空歩を使ってすれ違い様に切り捨てた。
「ダークネス・スパイラルブラスト」
螺旋状の闇の魔力の奔流を放ってケツァルコアトルスによく似た魔物を撃ち落とす。
……もう少し魔物を減らして、それと、増援が期待できる状況になってから退場するべきなんだけど、まだ増援に来られる者は居なさそう。もう少し戦うことになりそうだねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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