Act.8-327 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.14
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「……王女宮筆頭侍女殿、エルヴィーラをどうするつもりだ?」
「どうもしないよ? そもそも、ボクはマリエッタの情報さえ得られればそれで十分だからねぇ。……ただ、このまま王城に侍女として勤めるってのは正直難しいんじゃないかと思う。今回の件で罪に問われることはないと思うけど、ただ、辺境で男を作ってから出仕して、今度は王城で近衛騎士の彼氏を作り、更に別の男にモーションかけた訳だし、まあ、心証は最悪だろう。……正直、その後については彼女が選ぶことだけど、選択肢としては次の三つ。一、王城で侍女として働き続ける。二、辺境に帰る。三、新天地を探す。……ボク個人としては、エルヴィーラさんが頑張ってアルベルトを落としてくれれば、あのクソ陛下の陰謀を大義名分のある形で潰せるし、万々歳なんだけど。これがまた難しそうだよねぇ……今のところ、アルベルトの中での彼女の心証は最悪な訳だし。今の所の見立てだと、エルヴィーラさんの恋人に一番近いのはエディルさんだと思うよ? まあ、今後の努力次第ってところだけど」
「……本当に、エルヴィーラには手を出さないんだな」
「寧ろ出して欲しいの? うーん、個人的な意見を言えば見た目的には殺すのは少々勿体無いというか、ちょっと中身を弄ってボク好みにすれば……って、冗談冗談。……だけど、あの辺境伯名代の方はちょっと厳しいなぁ……っていうのが本音。彼は処刑か投獄は免れない。まあ、それでも何かしらの対処方法は考えているよ。殺したりはしないさ。……エルヴィーラさんを心配する気持ちは分かるけど、しばらくは動かないように。下手に近衛騎士が勾留されている人間に婚約者だからと安易に面会すれば、脱走の幇助を疑われかねない。……勿論、理解はしてくれるよね?」
「……不本意だが、言っていることは分かっている。……エルヴィーラのことを大切に思っているなら、今、この場で動くべきではないな」
「……まあ、脳筋だと思うけど、エルヴィーラさんのことを大切に思っていることは伝わってきたし、きっとエルヴィーラさんにも伝わっているよ」
「……そうだといいな」
「それじゃあ、ボクは仕事に戻らないといけないので。……一応、分かっていると思うけど、こっちがボクの本性だっていうことはご内密に。じゃないと、他の脳筋共と一緒にコンクリートで固めて母なる海に放流するからねぇ」
冗談で言ったんだけど、エディルに怯えられてしまった。……冗談だったんだよ? 一マイクロミリくらいは。
◆
奇門遁甲などを解除してから、ボクは統括侍女様の元にこの件を報告に行った。
「……貴女の予想した通りの結果になりましたね。辺境伯名代と、エルヴィーラを軟禁した件については理解しました。……それで、必要な情報は手に入れられましたか? 貴女に限って失敗はないと思いますが」
「買い被りですわ。えぇ、切符は手に入れました。後はタイミングですわね。当初の予定通りことを運ばせて頂きますわ」
しっかりと防音魔法を掛けておいたから今回の騒動については広まっていない。エルヴィーラ達の起こした騒動が園遊会に直接泥を塗るってことにはならないと思いたいけど……ボクの他にも何人かそれ以前の口論を聞いている者達がいたと思うからねぇ。……魔物の方にほとんど意識が向いていたとは言え、流石にゼロという訳にははないだろうし。
人の口に戸は建てられないというし。
うん、事前に心算できていなかったら流石のノクトも一瞬意識が飛ばしていたんじゃないかな?
ノクトに報告をしてから、ボクは王女宮の区画に戻ることにした。
王女宮の侍女達は王女宮の区画付近で動いているとはいえ、流石に王女殿下の周辺だけを担当するという訳にはいかない。ということで、メンバーのほとんどもこの時間だと散り散りになっている。
プリムラのところに戻る途中、ボクはメアリー、メイナ、ヴィオリューテの三人と遭遇した。まあ、彼女達もたまたま近くで仕事をしていた、というだけみたいだけど。
「あっ、ローザ様」
「お疲れ様です、三人とも。何事もありませんでしたか?」
「わ、私の方では特に何もありませんでした」
「私も大丈夫ですが……その、何かあったんですか?」
「えぇ、まあ……ちょっと色々と面倒なことが多々。いずれも些細なものでしたが」
「ローザ様、先程、ご不在の際にシェールグレンド王国の大臣閣下のご子息がこちらにおいでになり、あちらのご家族が是非お話をと仰っておいででした」
「……そうですか。ヴィオリューテ、報告ありがとう」
「と、当然のことをしただけですわ!」
……また一個トラブル発生か。どの道、あの様子だとあの大臣の息子はボクに絡んでくることは予測の範囲内だからねぇ。わざわざアルマに向けられた注目をこっちに向けさせた訳だし。
「お呼びと伺いました、王太后様、王女殿下」
「ああ悪いわね、忙しいのに。……色々とトラブルが起きていたのよね?」
「えぇ、まあ。……そもそも、フォルトナ王国の騎士関係者を招待した時点で、トラブルの発生は想定されるものです」
ビアンカの問いに返すと、ビアンカが遠い目になった。……フォルトナ勢はトラブルメーカーの御一行様だからねぇ。
ところで、今回ボクを呼び出したのはギルデロイ=ヴァルドーナだけど、侍女としてのボクの主はプリムラであり、ブライトネス王家だ。
えっ、プライベートはって? その時の肩書きによるよ。
なので、まずはビアンカとプリムラに頭を下げて、用件を伺ってからお客様に、っていうのが常識的な対応だ。面倒に思えるかもしれないけど、作法なんだから仕方がない。
さて、シェールグレンド王国側のメンバーは大臣のクィージィサス=ヴァルドーナ公爵、シェーネル=ヴァルドーナ公爵夫人、クィージィサスの愛人でもある公爵夫人付き侍女、ギルデロイ=ヴァルドーナ公爵令息の四人。
このうち、公爵夫人と公爵夫人付き侍女の方は本件に関わってこないだろう。……公爵夫人は我関せずという感じで酒を飲みまくっているし、公爵夫人付き侍女はせっせと空いたコップに椀子そばの如く酒を注いでいる……って、その侍女アルコール中毒で公爵夫人を殺そうとしていない? えっ、違うって?
しかも、あのお酒ってワインとかじゃなくて思いっきりジンやウォッカといったビオラの納品した蒸留酒なんだけど……うん、見なかったことにしよう。
「丁度ローザがいないタイミングでシェールグレンド王国の大臣殿の一行がお越しになったのだけど、そのご子息はパーティ会場でローザに会われたとお聞きしたのよ。なんでも、改めてお話したいことがあるそうで……時間を取ることはできるかしら?」
「はい、王太后様」
ビアンカの心を見気で読むと「無茶振りをして申し訳ないわ」という心の声が聞こえてきたけど、そもそもビアンカも被害者の一人だからねぇ。
この後に起こることを考えると、同情を禁じ得ません。まあ、ボクも面倒ごとに巻き込まれる側、というか、当事者ですが。
「うむ、感謝致しますぞ。さて、ローザと言ったかな。ワシではなく息子がそなたに話があるそうでなぁ。どんな接点があったのかは知らんがまあ、聞いてやってくれるか」
「はい、畏まりました」
「うむ」
しかし、尊大な態度を崩さないけど、この人、本当に凄いよねぇ。
一応、ボクの今の立場は侍女とはいえ、実際のところブライトネス王国の公爵家の令嬢という立場だ。対するクィージィサス=ヴァルドーナ大臣の家の格は公爵……つまり、家のレベルとしては、まあ別の国だしあんまり比較にはならないのかもしれないけど、少なくとも外交上は同格という扱いだ。
そもそも、招かれている立場とは言え、ふんぞり返って尊大な態度を崩さないこの太々しさ。……やっぱり流石は無作法の国シェールグレンド王国の大臣だねぇ。
しかし、正直ギルデロイとはあんまり似てない。……変な勘ぐりをしてしまいたくなるよ。興味ないけど。
そのクィージィサスを押しのけるようにして前に出てきたギルデロイはボクの方を見てにっかり笑った。……うわっ、寒気が。
「うむ、すまんな! だがここでならば丁度良いと思ってな。……ああ、まずは父上の尊大な態度を詫びておかなければならんな。息子のオレが言うのもなんだが態度ばかり大物で敵を作りやすいだけの、基本的には無害な男なのだ。誤解を与えてしまったならば申し訳ないが、別に他意がないので許してやって欲しい!」
「……はぁ」
いやぁ、クィージィサスの態度がアウトだったとしても、このギルデロイの言い方は別の意味でアウトなんだって。父親を貶しているこの言動も無自覚で悪気無しっていう一番タチの悪いパターンだよねぇ? つまり、結局父親と一緒って訳で、見た目は似てないけど中身似た者同士だなぁ。
クィージィサス大臣は諦めてるのか笑顔だけど青筋をちょっと立てただけで何も言わない。
シェーネル公爵夫人は無視して酒をノンストップで飲み続けている。
ビアンカは笑っているし、背後に控えているアルベルトは遠い目をしている。プリムラとルークディーンの二人が心配そうにこっちを見ているっていうのだけが唯一の救いかなぁ?
「それで貴様を呼んだ理由だが、先ほども言ったが貴様には褒美をくれてやろうと思っている。この男は我が父にしてシェールグレンド王国の大貴族。当然、多くの部下を抱えているが、時に監督の目が及ばず部下が愚かしいことをしでかし、それを見逃してしまうこともままあるのだが。……いや、それは言い訳にしかならんな。だがそれにより家名が傷つくことも、父が愚かしい貴族として傷つくこともなかったのは貴様が動いた結果だ」
「……いえ、ですから褒美など頂く訳には参りませんので」
「そこで考えた結果、貴様の主であるプリムラ王女殿下、王太后様の御前にて話をするのが適していると判断したのだ」
うわー、もう、話聞かないし、要らないって言っているのに無視して話すし。本当に身勝手だなぁ。つまり、それってただの自己満足でしょう?
こういう話通じない奴が、ボク、一番嫌いなんだけどなぁ。
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