Act.8-324 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.11
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
アルベルトと分かれたボクは外宮の区画に向かった。
「久しぶりだな、嬢ちゃん」
「お久しぶりでございます、モルヴォル様」
到着早々、モルヴォルに声を掛けられたボク。その隣にはルアグナーァの姿もあった。
「あの誕生日会でお目に掛かって以来でございますな。ラピスラズリ公爵令嬢。私のことは覚えておいででしょうか?」
「えぇ、勿論。お久しぶりでございます、ルアグナーァ=マルゲッタ様。……以前の誕生日会の時は大変申し訳ございませんでした。あの時の招待状は……その、ある方々が暴走した結果でして。面識のない私のような娘の誕生日会に呼ばれて嘸かし苦痛でしたでしょう」
「いえいえ、そんなことはございませんよ。私もアネモネ閣下のご友人であるというローザ様にお目に掛かってみたいと思っておりましたから、あの招待状が届いた時は渡に船だと思いました。……あの時はなかなかお話しできる機会がありませんでしたが、今度是非お話を聞かせて頂きたいものですな。……しかし、まさか貴女様がヴァルムト宮中伯令息と共にマルゲッタ商会にいらっしゃるとは思いませんでした」
「……あれはアルベルト=ヴァルムト宮中伯令息のお願いに付き合ったというもので、元々私に店を選ぶ権利はございませんでしたわ。……それに、ビオラばかりを優遇していてはよろしくありません。寡占状態の市場、談合、そういったものは市場の発展を妨げる……とアネモネ閣下も仰っていたのではありませんか?」
「えぇ、まあ……あのお話は本当に目から鱗でした。しかし、ローザ様はアネモネ閣下からあの時の話を聞いていらしたのですか?」
「あははは。いや、すまない。ルアグナーァ、宝石を見る審美眼はあっても、人を見る目は俺と同じくないようだな」
ルアグナーァはモルヴォルの言葉に僅かに怒りの表情を見せたが、その言葉に引っかかりを覚えたらしく、金融のスペシャルと言われる彼が「人を見る目がない」と自身を評価しているのを理解し、驚いたようだ。
「……それはどういうことですか?」
「俺もお前も、俺の妻に比べたら目が節穴ということだ。……嬢ちゃん、例の話、こいつに話してやってはくれないか?」
「そうですわね。……話しておいた方が良いかもしれませんわ」
ボクとモルヴォルが以心伝心しているのを、ルアグナーァは一人だけ除け者にされているのが気に食わないのか、少しだけ不機嫌そうなオーラを出した。まあ、普通は分からないレベルでオーラを出しているから、流石は狸爺と思ったけど。
「ルアグナーァ様、近日中に招待状をお送りさせて頂きますわ。その時にゆっくりとお話し致しましょう。元冒険者で、現在王女宮の料理長を務めているあの方についてもお話ししたいと思っていますし」
「……ほう」
ボクが意味深に笑うと、ルアグナーァは一瞬だけ心の底から楽しそうに笑った。……勘当しても、やっぱり大切な息子っていうことは変わらないってことだねぇ。
「モルヴォル様、バタフリア様によろしくお伝えください。また近いうちに宝石飴を購入するために伺おうと思っています」
「おう、しっかりとバタフリアに伝えておくよ。……ところで、ナジャンダ大公様をお見掛けしなかったかい?」
「先ほど、もうそろそろこちらにおいでになると思います。その後、一緒に王女殿下と王太后様のところに向かわれるということですので、きっとナジャンダ様のご友人であるモルヴォル様を伴って一緒にご挨拶に向かわれるのかもしれませんわね」
「……そうか。気を遣わせてしまって申し訳ないなぁ」
孫と祖父……身分さえなければもっと親密になれるだろうけど、王女と平民ってことになるとやっぱり色々と難しい。
ヴァルムト宮中伯家に降嫁なされたら、これより少しはマシな状況になるかもしれないけど……。
「それでは、私はそろそろ。ご挨拶する方は全てご挨拶致しましたが、一応筆頭侍女として各区画トラブルが起きていないか確認しなければなりませんので」
「嬢ちゃんも大変だなァ……トラブルねェ、今年は特に色々なところで揉め事が起こっているみたいだが、そういうのも止めるのかい?」
「いえ、流石にフォルトナの総隊長様と公爵家のメイドの戦いに割って入るのは自殺行為なので、私にも解決できる小さなトラブルであれば対処し、無理ならば統括侍女様にご報告するという形ですね」
「……つまり、あのトラブルは放置しておいていいということか。まあ、嬢ちゃんがそう言うなら心配はないな」
……それ、どういう信頼感なんだよとルアグナーァが疑問符浮かべているよ。
「それじゃあな、嬢ちゃん」
モルヴォルとルアグナーァと分かれ、ボクは王子宮の対応している区画に向かう。
……トラブルが起きていないといいなぁ、と思っていたけど、どうやらアルベルトの不安が的中した模様です。あー、面倒だ。
◆
どうやら、不運な状況に巻き込まれたのは王子宮筆頭侍女のアルマだったらしい。
「うん? 貴様はここの侍女か。すまんが人を探している」
「まあ……どなたでしょうか?」
「近衛騎士アルベルト=ヴァルムトだ」
「……大変失礼ですが、お客様は」
「オレはギルデロイ=ヴァルドーナ。シェールグレンド王国の騎士だ!」
シェールグレンド王国という名前を聞いただけで、アルマは嫌な予感を抱いた……ようだけど、うん、それ逃げられない奴だよ。
「そうだ、他にもいるが……侍女ならば知っているか? アルマ=ファンデッドという王子宮の筆頭侍女を勤めている女のことも探している」
「……は」
ターゲットの一人はどうやらアルマらしいからねぇ。
何故アルマがターゲットになっているかっていうと、あの公爵夫人の起こした一件の解決にボクは絡んでいるという情報が出回っていないから。
そりゃ、あの件の解決の立役者がアルマっていう風に受け取られていてもおかしくはない。
「なんだ、どうかしたか」
「い、いえ。お客様が侍女を気になさることは珍しかったもので」
「そうか。黒髪で眼鏡を掛けている女だと聞いていたが…………うん? お前」
「……はい。私がお探しのアルマ=ファンデッドでございます。何か粗相を致しましたでしょうか?」
「そうか、貴様がアルマ=ファンデッドか!」
「は、はい!」
「貴様に会えたら言ってやろうと思っていたことがあるのだ! よくやった! 下らぬ企みを潰えさせた切っ掛けとなったと聞く! あれはシェールグレンドの恥だ。故に、よくやったと褒めてやろう!」
「……あの、どなたかと勘違いをしていらっしゃいませんか? 私は……あっ、ローザ様」
ボクを目敏く見つけたアルマが「こっち来て助けて欲しい」と懇願の視線を向けてきた。勿論、助け舟を出すつもりだよ。
「お初にお目に掛かります。ローザ=ラピスラズリと申します」
「王女宮筆頭侍女のローザ様です。この方がいらっしゃらなければ私は今頃こうして王子宮の筆頭侍女として勤めることはできなかったでしょう」
「アルマ=ファンデッド、私を謀ってはいないだろうな? この小娘があの企みを……いやいや、流石にそれは無いだろう。何故、そのような嘘をつく」
……ギルデロイが「小娘」と言った瞬間、園遊会の会場の一角で猛吹雪が発生した。
急いでテレパシーを飛ばして、スティーリアには少し我慢してもらう。……まあ、気持ちは嬉しいけどねぇ。
「お客様からすれば関係のない話かもしれませんが、筆頭侍女であるアルマ先輩も様々仕事を抱えております。解放して頂けないでしょうか? それとも、クィージィサス=ヴァルドーナ大臣閣下に、貴方様が特に用事もないのに筆頭侍女であるアルマ先輩を束縛していたとご報告すべきでしょうか? ……信じる信じないはどうぞご自由に。しかし、私がアルマ先輩に私の持っているコネクションを使ってご協力したという事実に相違はありませんわ」
「では、何故それを公言しなかった」
「公言するほどの価値のないものだと判断致しましたので。それとも、シェールグレンド王国の醜聞を私がこれでもかと喧伝すれば宜しかったでしょうか?」
「……いや、その必要はない。俄には信じられんが……嘘は言っていないのだろう。シェールグレンド王国の醜聞を潰してくれたのだ、何か褒美を与えてやりたいところだが」
「……はぁ、そういうのは結構なのですが。アルマ先輩、どうぞここはお任せください」
「……よろしくお願いします」
さて、と。一応、ギルデロイの注意は引きつけられたかな? しかし、この脳筋、本当に面倒な奴だ。まだウォスカーの方がマシだと思ってしまう。……勿論、ドロォウィンの方が断然嫌いだよ。
「さて、ギルデロイ殿。貴方の知りたいのはアルベルト=ヴァルムト宮中伯令息の居場所ではありませんか?」
「……そうだが、知っているのか?」
「えぇ、先程お会いしましたので。王太后様の警護についておられるかと。あちらの方角でございます」
「そうか、感謝する!」
「いえ、仕事ですので。それでは、私はこれで」
「まだ確認を取らなければならないが、もしお前の言っていることが事実ならば褒美を与えないといけないな! 考えておこう!」
「ですから、結構です」
……本当に人の話を聞かねぇなぁ、おい。
猛烈な速度で走っていく猛牛みたいなギルデロイを死んだ魚の目で見送ると、ボクは一旦王女宮の区画に戻る前に一応、ラインヴェルドがいる区画を見つつ、統括侍女のノクトに今回の飲み物や食事の売れ行きを報告し、足りないものの追加をお願いしに行こう……と思っていたんだけど。
またもやトラブル発生のようだ……ただ、今回のトラブルは大当たりのようだねぇ。
さあ、餌にかかった魚を回収しに行きますか。
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