Act.8-323 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.10
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「では、そろそろ他の方にもご挨拶をしなければなりませんのでお暇を」
「それはいけないね、お役目中に引き留めて申し訳なかった」
「……と言っても、私も後ほどモルヴォル様とバタフリア様にご挨拶に伺いますので、タイミングが会えばまたお会いすることになるかもしれませんね」
「私はもう少しこの近くの薔薇を見てから二人を誘いに行くつもりだから、多分すれ違いになるだろうね」
「クィレル様、後ほどよろしくお願いしますね」
「分かっているとも。どれほど力になれるか分からないが、元近衛騎士として全力を尽くす所存さ」
「……まあ、あまり無理はなさらないでくださいませ。命大事に、ですわ。それでは、失礼致します」
まあ、クィレルは熟練の騎士だし、引き際もちゃんと分かっていると思うけど。
ナジャンダ達と別れて向かったのは、内宮の管轄区画の外れの方だった。
「お久しぶりですわ、ウォスカー様」
「うむ? 久しぶりだな」
「もしかしなくても迷子になりましたか?」
「……俺は迷子になったのだろうか?」
「多分そうだと思いますよ。誰がなんと言おうとウォスカー様は迷子です」
「……そうなのか?」
「オニキス閣下とファント閣下の元にお送り致しましょうか? それとも、アクアとディラン閣下の方がいいですか?」
「……そういえば、アクアさんとディランさんに挨拶をしていなかったな」
「では、決まりですね。――行きましょう、ウォスカー」
ウォスカーに手を差し出すと、ウォスカーが不思議な顔をしつつもその手を取った。
ボクが手を引く形で人垣を掻き分けていく。目指す先はアクアとディランがエイミーンと共に食事を取っている地点。そのままアクア達にウォスカーを押し付けてしまう作戦だ。
「……うむ、やっぱり不思議な感覚だな」
「何がですか?」
「やっぱり、ローザさんは、アクアさんとオニキス隊長によく似ている」
「光栄ですわ」
別にこの言葉に他意はない。アクアとオニキスはぼんやりでうっかりで、時に大きなやらかしを起こすけど、基本的には素晴らしい騎士だからねぇ。
そのまま二人で歩いていく。やっぱりアンバランスな組み合わせだから注目を集めたけど、トラブルに巻き込まれることもなく無事にアクア達の元へと辿り着いた。
「あっ、お嬢様? ……またウォスカーが迷子になっていたんですか?」
「いつも通りねぇ。で、二人にまだ挨拶をしていないって聞いたから連れてきた。ウォスカーさんのことお願いできるかな?」
「分かりました」
「任せとけ、親友!」
アクアが手綱を握ったし、ウォスカーがまた迷子になってしまうということはないだろう。
「エイミーンさん、お楽しみになるのは結構ですが、少しは社交も行ってください」
「大丈夫なのですよぉ〜。全てミスルトウがやってくれるのですよぉ〜」
「……エイミーンさん?」
「わ、分かったのですよぉ〜!! これ食べ終わったら行ってくるのですよぉ〜!!」
少しだけ覇王の霸気を放って威圧したら、エイミーンが怯えながらミスルトウ達の元に走って行った。
……まあ、気持ちも分かるけどさぁ。でも、族長だよねぇ? エルフの代表だよねぇ?
まあ、威圧したところで全く通用していないみたいだけど。これ食べ終わったら行くって言いながら新たに二、三個カップケーキを取ったのをボクはしっかりと見ていたんだよ。
「ディランさんも大臣なんだからしっかりと挨拶回りをしないといけないよ。アクア、副隊長はしっかりと君が監督する。……ってかさぁ、戦争終わったら祝勝会するんだし、その時に好きなだけ羽目を外せばいいと思うんだけど。まあ、腹が減って戦はできぬというし、しっかり食事をとっておくのも大切だと思うけど」
「うーん、まあ、一応大臣としての仕事はしっかりとしておいた方が……いいのか?」
「えっ、もしかして祝勝会ってお嬢様が腕を振るってくださるのですか!?」
「……まあ、そのつもりだけど。あー、でも、どうしよっかな?」
「行くぞ、ディラン! ウォスカー! しっかりと働けばきっとお嬢様が美味しいものを沢山作ってくれるぞ! さあ、挨拶回りだ!」
「……相棒、目の色が変わり過ぎだろ。……まあ、気持ちが分からない訳でもないけどな。……仕方ない、俺も働くか」
「別にアクアと一緒に仕事できるんだし、ディランさんにとっても悪くない状況だと思うけどねぇ」
「まあ、そりゃな。親友と一緒にまた仕事ができるっていうのは一昔前に比べたら断然いい状況だ。今はアクアの前世がオニキスだってことも周知されて一緒に会議にも参加できるし。まあ、頭脳プレーは苦手だからいっつも爆睡していて戦力にならないけどな」
「俺は身体を動かす方が得意なんだよ」
「ってか、ディランさんも頭脳派といいつつ、ブライトネス王国ではやや脳筋寄りだよねぇ? 王弟殿下と同じで」
「そりゃ、ラインヴェルドとか、アーネストとか、親友みたいな頭脳は流石に持ち合わせていないって。ってか、お前ら本当に何手先まで読み合ってんの? ラインヴェルドといい、オルパタータダといい、親友といい、俺よりも遥かに先を見て行動している気がするんだけど」
「気のせいじゃない? ボクって割と受け身だし。相手が仕掛けてから速やかに判断して返り討ちにしているだけだし」
「まあ、親友が自分から動いて……っていうのはなかなか無いか。放っておいても『管理者権限』を狙う奴らは光に集る蠅みたいに集まってくるしなぁ」
「……蠅、ねぇ」
まあ、言い得て妙かもしれないねぇ。
「それじゃあ、俺とアクアとウォスカーは挨拶回りしてくるぜ」
「行ってらっしゃい。……戦争になった時は三人とも戦力として期待しているから」
「任せてください、お嬢様!」
「任せとけ、親友!」
「うむ、任せておけ」
アクアとディランとウォスカーが挨拶回りに向かったことを確認して、ボクも挨拶回りを……。
と思っていたところに、偶然、これまた迷子になっているシュピーゲル=プラードンを発見したので、陰陽術の「奇門遁甲」を掛けて魔法省組のいる方に誘導した。
……三人も迷子を保護して保護者の元に連れていくのは流石に、ねぇ。
◆
次に向かったのは外宮の担当している区画だ。
その途中、アルベルトに遭遇した。
「ローザ様」
「アルベルト=ヴァルムト様。警備お疲れ様です」
「問題はないようですね」
「……問題は、とりあえず大体見逃して差し支えないレベルのものばかりですね。そういえば、お手紙にあった例のお相手とはお会いになられたのですか?」
シェールグレンド王国の大臣の息子のギルデロイ=ヴァルドーナ公爵令息――アルベルトに時候の挨拶の如く決闘申し込んでくるっていう兄弟弟子だ。
一応、シェールグレンド王国の大臣と立場上挨拶をしないといけないかなぁ? と思っているので、ボクも近いうちに邂逅しそうな気がするんだけど。……会いたくねぇなぁ。
ボクの質問に、アルベルトはあからさまに嫌そうな顔をした。やっぱり、逃げているんだねぇ。
「……できるだけ会いたくないんですよ」
「でも警護の立場からそのようにはいきませんよねぇ?」
「ええ、その通りです。……でもできる限り会いたくないんですよ」
「そうしょぼーんとした顔にならなくても気持ちは良く分かりますから。……私がポラリス=ナヴィガトリア師団長とお会いしたくない気持ちと似たようなものですよね?」
「ポラリス=ナヴィガトリア師団長? フォルトナ王国の【刺突の蒼騎士】ですか? ローザ様とご親交が?」
「えぇ、まあ。彼はフォルトナ王国最強の【漆黒騎士】オニキス閣下の自称ライバルですが、私のこともライバル視なされているようなのです。まあ、私も実は彼にライバル視して頂けるのは光栄なことだと思っているのですが……あー、これはご内密にして頂けると助かりますわ」
「なるほど? ……ところで、先程一緒に居られた騎士の方はどなたでしょうか?」
「元漆黒騎士団隊長補佐で、現在はフォルトナ王国の近衛騎士団騎士団長を務められているウォスカー閣下です。あの方はよく迷子になる方でして、アクアとディラン閣下の元にお届けしただけでございます」
「……迷子、ですか?」
「あれは大きな子供みたいな方ですからね。フォルトナ王国勢ではある意味ファイスさんとドロォウィン閣下と並ぶ危険人物です。まあ、アルベルト様はお関わりにならないと思いますので、多分大丈夫だと思いますが」
「……ローザ様はフォルトナ王国の騎士の方々とお知り合いなのですか?」
「えぇ、少し前にフォルトナ王国に留学していたことがあったので、その時に」
「そうですか……羨ましいですね。彼らは私の知らないローザ様の一面をきっと沢山知っているのでしょうから」
「……この園遊会が終わったら私について色々とお話しすると確かお伝えした筈ですが。それまで待てませんか?」
「いえ、そういうつもりでは。……フォルトナ王国の時のローザ様のこともお話しして頂けるのでしょうか?」
「えぇ、私がどのような人生を送ってきた包み隠さずお話しするつもりですわ。ご安心ください」
まあ、ボクの正体とか知ったら流石にボクのこと受け入れられないと思うけどねぇ。
仮に受け入れたとしてもボクはアルベルトのことを好きでもなんでもないんだし、流石にそれで諦めてくれると思うけど。
しかし、アルベルト……随分と注目を集めているなぁ。そして、一緒にいるボクに対しては冷ややかな視線が注がれる。
まあ、一応今回の園遊会は半ば崩壊しているとはいえ公式行事だからねぇ、お客様に我が国の近衛が強くて格好良いということをアピールする場でもある。
しかし、やっぱり憧れの眼差しをあちこちから向けられているねぇ。流石は、表向きはこの国の精鋭部隊を務めているだけである。えっ、実際はって? ラインヴェルド達の方が戦力的には頼りになるよねぇ。
「それでは私は王太后様の元へ戻っておりますので、何かありましたらいつでもお声をお掛けください」
「はい、ありがとうございます。……あっ、そうでした。もし戻る途中でうちの使用人とフォルトナ王国の総隊長が喧嘩をしていても決して止めようとしないでくださいね。……楽には死ねませんよ」
「……分かりました」
バトル・シャトーの剣武大会でのラピスラズリ公爵家の使用人やシューベルトの活躍を目の当たりにしているアルベルトは一瞬にして真顔になってボクの助言を受け入れてくれた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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