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Act.8-322 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.9

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>


 挨拶をしようとしていたアーネストとミランダ、ニルヴァスの元にはナジャンダ=アストラプスィテ大公の姿があった。


「ローザ嬢、お久しぶりだ」


「ご無沙汰しております、ナジャンダ様。大公領ではお世話になりましたわ。王太后様と王女殿下には後ほどお会いになるのですか?」


「先に主要な方々にご挨拶をしてから、と思ってね。途中でモルヴォルとバタフリアを誘って行こうと思っていたところだ。……お世話になったということだが、寧ろ私の方がお世話になったと思っているよ。貴女のおかげで名産品を作ることができた訳だからね。ジリル商会の方で人気商品になっているとモルヴォルが嬉しそうに手紙で知らせてくれたよ」


「お力になれたようで何よりですわ。ミランダ様、ニルヴァス様、ご無沙汰しておりますわ」


「ご無沙汰というほどでもないと思うのだけど。ところで、ローザ様のことを私の友人達に紹介したいと思っているのだけど……やっぱり王女宮の仕事がお忙しくて難しいかしら?」


「お気遣いありがとうございます。……そうですねぇ、姫殿下と相談してその日に休暇を取ることができましたら、是非参加させて頂きたいと思います。私はあまり人脈が広くありませんし、とても有難い申し出だと思いますわ」


「そうかしら? 正直、人脈は私よりも遥かに広いと思っているわ」


 ……まあ、貴族社会に囚われない(・・・・・・・・・・)人脈はミランダよりも広いかもしれないねぇ。

 ミランダの申し出はボクにとっても嬉しいものだ。面倒で社交的な活動はほとんど行ってこなかったから若干孤立しているところがあるんだよねぇ、ボクって。まあ、それならそれで別に問題はないんだけど、ちょっとは貴族との人脈を広げておいてもいいかな? って思っていたところだし。

 そして何より、シェルロッタとプリムラが一緒に過ごせる時間も作ることができる。……うん、そっちの方がメインだよ。


「お久しぶりです、ローザ様。ソフィスはしっかりとやれていますか?」


「えぇ、本日もとても堂々と給仕をなされていました」


「こうやってソフィスが外の世界に出て他の侍女に混じって働くことができるようになったのも、全てローザ様のおかげだと思うわ」


「私はただ切っ掛けを作っただけですわ。最初の一歩を踏み出したのも、そこから努力を重ねたのもソフィス様ご自身です。……本当に、ソフィス様はとても強くなりました」


「そうだな……ソフィスは強くなった。ローザ嬢の気持ちを動かしてしまうくらいにな。それだけ、ソフィスの存在がローザ嬢の中で大きくなったということだ。……正直、ソフィスが引きこもりを克服したあの日よりもよっぽどその時のほうが嬉しかったぞ」


「……まだ確定ではありませんので、そこまで喜ぶことでもないかと思いますわ」


「ところで、ローザ嬢。……物凄く聞きたくないのだが、聞かなければならないことがある。トラブルは起きていないか?」


 ……まあ、アーネストの立場じゃ確認しないという訳にはいかないよねぇ。


「トラブル……ですか。では、軽いものから順にご報告致しましょう。まず、アクアとディランが食事中に隣国の貴族に『可愛い娘さんですね』と言われ、二人が真顔で『何言っているんだ、親友に決まってんだろう?』と言い返して場を凍りつかせたということが、八分ほど前にありましたね」


「……それで、マシなのか!?」


「大公領に来た時にお会いしたが、とても個性的な方々だね」


「まあ、気持ちも分かりますわ。どう考えても、あれは親子じゃなくてとても深い絆で繋がった最高のペアだと思います」


「……やっぱりローザ様も少しズレていますね」


「そうでしょうか? ……えっと、後は……ウォスカー閣下が迷子になっていますね。あの人はファイスほどではないものの被害をもたらす方なので即刻対処に回るべきだと思いますわ。丁度こちらに迷い込んできているので、私の方でオニキス閣下とファント閣下の元にお連れしようと思います」


「……ウォスカー殿か。……なかなか個性的な方だったな」


 ナジャンダはウォスカーの名前が上がると苦笑いになった。……まあ、突然の嫁にもらっていいですか発言、すぐに腹事情と話を繋げてしまう迷宮入りした思考回路、そして、迷子癖。

 ……それを加味しても、やっぱりファイスの方が厄介だけど。


「ファイスについては、やはりセクハラをしようとしたのでフレデリカ様によって撃破され、現在は欅に捕縛されています。……そして、最も大きな騒ぎは、現在進行形でシューベルト総隊長とラピスラズリ公爵家の使用人のカレンが交戦を続けているというものですね。シューベルト総隊長がアクアを嫁にもらうことを未だに諦めていないので、私と同じくアクアをシューベルトに渡したくないラピスラズリ公爵家の使用人が動いた次第です」


「……アクア達が問題を起こしたと思いきや、一番騒ぎを起こしているのはラピスラズリ公爵家か。……それは、止めなくて大丈夫なのか?」


「流石に二人とも周りに被害が出ないように動いていますし、オルパタータダ陛下が何故か率先して賭け事を始め、そこから何人かの貴族が賭け金を賭け始めて、お祭りみたいになっているので多分大丈夫……だと思いますわ」


「それはそれで大丈夫ではないと思うのだが……まあ、ローザ嬢が大丈夫だというなら、大丈夫なのだろう」


 ……ボクに対する信頼度エゲツないねえ。というか、ただアーネストが現実を受け止めきれなくなって思考放棄しているだけか。

 淑女の鑑のミランダすら、ナジャンダとニルヴァスと一緒に呆れて物が言えないって顔になっている。


「……まあ最悪の場合に備えてシューベルト総隊長を止められる戦力は待機しています。樒達が動けば流石のシューベルト総隊長といっても勝ち目はありません」


「だから、トラブルが起こっていても余裕なのか」


「そもそも、園遊会でトラブルが起こることは想定の範囲内です。この園遊会という舞台でいくつかの策謀を巡らせているようですし。まあ、一介の侍女に過ぎない私の知るべきことではありませんが」


「……寧ろ、ローザ嬢は策謀を巡らせる側ではないのか? まあ、この機会に多種族同盟諸国の蜜月をアピールするとともに、それに反対するものを暴き出そうとしているのは事実だ。まあ、世界の存亡を左右する『戦争』に比べたら些細な話だが」


「……早速、その罠にロッツヴェルデ王国が引っ掛かったようですね。メアレイズさんがたった一人でロッツヴェルデ王国を制圧するとラインヴェルド陛下に宣言なさいました」


「……それは正直困る話だ。メアレイズ閣下は文官としてとても優秀な方だからな。トラブルを増やす者達が猛威を振るう中、メアレイズ閣下に抜けられたら困ってしまう」


「そのロッツヴェルデ王国への侵攻を口実に事実上の有給を得ようとしていますね」


「……仕方ない。メアレイズ閣下が抜けた穴埋めができるように一時的に人材の補強ができないか各国に相談するとしよう」


 ……というか、一国に対して宣戦布告をすることよりもメアレイズが抜ける方がアーネストにとっては問題なんだねぇ。



 アーネスト達の周りに人が集まってきたということで、ボクは三人に挨拶をしてからナジャンダと共にアーネスト達の側から離れた。


「おお、ローザ殿! ナシャンダ大公様もおいでとは、お久しゅうございますな」


 そのタイミングで声を掛けてきたのは、クィレル=ルーセント伯爵だった。


「これはルーセント伯爵様」


「クィレル、久しいね。最近は薔薇を見に来てくれなくなったじゃないか」


「いやいや、最近領地で研究していた新しい布地を発表してから忙しくて。落ち着きましたらまたそちらに薔薇を眺めに参りたいと思っていたところですよ。今度は是非妻とも」


 ちなみに、クィレルの妻――ルーセント伯爵夫人は体調を崩したらしく園遊会を欠席している。

 楽しみにしていたそうだから、とても残念そうにしていたみたいだ。


「しかし、流石はローザ嬢だ。アストラプスィテ大公領の名産品を発案し、見事に大ヒット商品にするとは……話を聞いた時にはとても驚いたよ」


 「おやおや、相変わらず商売も上手だねえ。私も見習わないといけないかな」、「ははは、何を仰いますかな! 最近貴族間で人気が出ている薔薇ジャムとやらは大公領の新商品だという話ではありませんか」と朗らかに社交辞令を交わしつつ、腹の探り合いをしていたナシャンダとクィレルが腹の探り合いが終わったところでボクの方に話を振ってきた。……いや、話を振ってきたのはクィレルだからナジャンダにその気はなかったのかな?


「私はただの一介の侍女です。プライベートでもただの公爵家の令嬢に過ぎませんわ。そのような過分な評価を受けるに値するとは思いませんが」


 いや、今のボクは普通にただの侍女だし、プライベートでは公爵を父親に持つただの令嬢、しかもデビュタント前……大公や伯爵の方が断然立場は上だと思うけどねぇ。


「……ただの令嬢がアストラプスィテ大公領の名産品を発案し、見事に大ヒット商品にすることができるとは思えないが」


「あれは、モルヴォル様のご依頼でしたので、ご依頼されたモルヴォル様の顔に泥は塗れないと頑張った次第です。それに、あれはアネモネ閣下にとっても利益のあるお話でしたからね」


「ビオラでいくつか特殊な蜂蜜の販売を始めたと聞いています。単花蜜と、ブレンド蜜というもので、計算し尽くされた素晴らしい蜂蜜だと。……そういえば、薔薇の蜂蜜はお売りになっていないとお聞きしていますが、ジリル商会とかち合う可能性を考えたのではありませんか?」


「……あの方は市場は戦いの場だと、独占市場ではなく競争市場こそが良き品を生み出すものだと仰るような方ですよ」


「まあ、そういうことにしておきましょう。我がルーセント領の布地を広める切っ掛けもローザ嬢だ。確かにアルマ嬢が社交界にデビューした際に注目を集めたことが切っ掛けとなったが、そもそもの話、アルマ嬢のピンチを救う切っ掛けはローザ嬢が作ったとお聞きしています。そういった意味では、お二人がルーセント領の布地を広めることに大きく貢献してくださったといっても過言ではありません」


「それでしたら、お礼はレイン先輩に仰って下さい。後輩想いのあの方がもしお越しにならなければ、私が関わることはありませんでした。それに、あの方がもし私と同じ立場――王女宮の筆頭侍女であれば、お一人でも十分解決できたことでしょう。それに、私もどこぞのクソ殿下に一撃見舞いつつ、婚期を逃しつつあったレイン先輩の願いを叶えたいと思っていたので、あれは良い機会だったのです。まあ、前者はモルヴォル様、後者はレイン先輩とアルマ先輩のおかげ、ということで良いと思うのですが、どうでしょう?」


 ……と言ってみたものの、ナジャンダもクィレルもあんまり納得がいっていないようだ。

 結局ボクも利益を上げているんだし、Win-Winの関係で綺麗に相殺ってことになると思うんだけど……駄目なのかな?

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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