Act.8-320 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.7
<三人称全知視点>
順調に見えた園遊会――しかし、一つの誤算が生じていた。
「冒険者ギルドより、本部長のヴァーナム=モントレー様、ギルドマスターのイルワ=ゴローニャグ様、ダヴィッド=ファイフィス様、セリーナ=レヴィスダーツ様、ご到着になられました」
本来は多種族同盟加盟国と魔王の娘よりも早く入場する筈だった冒険者ギルドの面々だが、ダヴィッドが僅かに寝坊したことでルヴェリオス共和国とラングリス王国よりも後の入場となった。
しかし、これが怪我の功名となり、冒険者ギルドは多種族同盟諸国と同等の扱いを受けているという勘違いが生じることになる。
最後まで冒険者ギルドの扱いをどうしようか悩んでいたローザは、「まあ、これはこれで良かったんじゃないかな?」と好意的に受け取ったようだ。
「嗚呼、素晴らしい! モネが羨ましいです!」
「ヴァーナム本部長、国王陛下にご挨拶に……って行っちゃったし」
「イルワさん、諦めた方がいいですよ。私達だけでもご挨拶に伺いましょう。予定時刻に遅れてしまったことも謝罪しなければなりませんし」
イルワとセリーナ、意気消沈したダヴィッドがラインヴェルドに挨拶に向かべく庭の入り口を後にしてから数分後、園遊会の会場に最後の二組が到着した。
「魔王の娘のアスカリッド・ブラッドリリィ・オルゴーゥン様、天上の薔薇騎士修道会副団長エリーザベト=グロリアカンザス様、ご到着になられました」
「多種族同盟加盟国、ビオラ=マラキア商主国よりアネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア大統領閣下、〝白氷竜〟スティーリア=グラセ・フリーレン=グラキエース様、幹部のジェーオ=フォルノア様、ラーナ=フォーワルト様、アザレア=ニーハイム様、アゼリア=ニーハイム様、アンクワール=ゼルベード様、モレッティ=レイドリアス様、ご到着になられました」
魔王の娘――その存在は、良くも悪くも注目を集める。
長きに渡り人間と敵対してきた闇の勢力、その首魁の娘だからだ。
しかし、園遊会に真紅の豪奢なドレス姿で法衣を纏った天上の薔薇騎士修道会副団長エリーザベトを伴って現れたアスカリッドに、会場の注目はほとんど集まらなかった。
魔王の娘以上に注目を集める者達が会場に姿を見せたために、アスカリッドの存在が霞んでしまったのである。
「……てっきり拒否反応が起こると思っていたが、そもそも注目すらされぬとは」
「でも、それはそれで良かったんじゃないかしら〜? アスカリッドさんが貶されたら、私きっと頭に血が昇ってしまうわ〜」
「ぶっ、物騒なことを言うでない! ま、まあ、ちょっとは嬉しいと思ったぞ!」
ツンデレな態度を取るアスカリッドが可愛くて思わず抱きしめてしまうエリーザベト。
いきなり豊満な胸を押し付けられて、一瞬アスカリッドは意識を飛ばしかけた。
「……しかし、どこも混んでおるようじゃな。……比較的に少ないのは」
「王太后様とプリムラ姫殿下のところですね〜」
「我はこういう社交の場に参加経験はないのじゃが、挨拶する順番というのは決まっておるものなのか?」
「そう、ですわね〜、主催者の王妃様と国王陛下にご挨拶しないといけない、とは思うのですが〜、でも、順番は特に気にしなくても良いと思いますよ〜。……挨拶回りをしていない方々もいるようですし〜」
挨拶回りそっちのけで論戦を繰り広げている宗教家達――主に自身の兄に天上の薔薇聖女神教団の上層部の中で希少な常識を持ち合わせている側にいるエリーザベトはジト目を向けた。
アスカリッドとエリーザベトはビアンカ王太后とプリムラ第一王女のいる区画へと歩いていく。
その途中、すれ違ったローザは二人を見て微笑んだ。
「……ご馳走様でした、じゅるり」
「い、今、聞こえてはならない言葉が聞こえた気がするのじゃが」
「きっと気のせいですよぉ〜」
ビアンカとプリムラの元にも数人の客がいた。
当分会話が終わりそうにない、と感じてアスカリッドが近くにいた侍女に食事と飲み物を催促しようとした丁度その時、アスカリッド達に気づいたビアンカが手招きをした。
「ビアンカ王太后様、お久しぶりでございます。プリムラ様におかれましては、お初にお目に掛かりますわ〜。天上の薔薇騎士修道会副団長エリーザベト=グロリアカンザスと申します」
「ヴェルナルド=グロリアカンザス様の妹さん、であっているかしら?」
「えぇ、兄がお世話になっておりますわ〜」
「ところで、そちらの方はどなたかしら? お婆様、ご存知?」
「私もお会いしたことがないわね。でも、お話なら伺っているわ」
「挨拶が遅れて申し訳ない。我はアスカリッド・ブラッドリリィ・オルゴーゥン――現魔王オルレオス・ゼルフェイ・オルゴーゥンの娘じゃ! といっても、人間の世界に興味を持って魔族の国から逃亡し、今に至っておるから魔王の娘の肩書きはあってないようなものじゃがな」
「魔族って恐ろしい存在だと思っていたのだけど、アスカリッドさんはとても可愛い方なのね」
「か、可愛いじゃと!? 現在進行形で圧倒的に可愛い、正しく地上に降臨した天使のような、或いは童話に登場するお姫様らしいお姫様というべきプリムラ姫殿下とお会いして、同じ女として、姫として軽いショックを受けているところなのじゃが……複雑な気分じゃ」
「アスカリッドさんもとても可愛いと思うわ〜」
「お世辞は結構なのじゃ! ……まあ、しかし可愛いというだけではないのじゃろう。あのローザ嬢が可愛いだけのものに仕えるとは思えん。内面からも滲み出る美しさと、そして、聡明さか……我には足りないものばかりじゃな」
「わ、私はそんなことないと思うわ」
「そうなのですよぉ〜。アスカリッドさんはそのツンデレなところも、真面目なところも、可愛い好きなところもみんな素敵だと思うのですよぉ〜」
エリーザベトのストレートな高評価に、頬を染めて無言になってしまうアスカリッド。
そんなエリーザベトとアスカリッドの姿を見て、人知れず「圓さんの仰っていたように、これは応援したくなる関係だわ」と微笑ましく二人を見つめるビアンカであった。
◆
「……とんでもないところに来てしまったわね。場違いな気がしてならないわ」
園遊会の会場の入り口近くに居たほぼ全ての者達の注目を浴びたラーナが、そう静かに零した。
言葉にすることこそないが、アザレアとアゼリアの姉妹も同じ気持ちである。
ジェーオは弱小とはいえ元商会主で、アンクワールはかつてブライトネス王国の三大商会の一角を担っていたゼルベード商会の長、モレッティはその右腕として活躍する裏方だった。
この三人はビオラ商会設立後、大きな取引にも関わっている。二人ほどそうした大物と直に対峙したことが無かったモレッティもマラキア共和国の買収というビオラ商会にとっての一つの分岐点となった取引で実績を残しており、こうした優雅さの裏で腹の探り合いや牽制が行われる社交界でも渡り合う力を得ていた。
しかし、幹部クラスといってもアザレアとアゼリアは店員から店一つを任されるに至ったただの店長で、ラーナもただの服飾デザイナーである。
こうした社交界でのやり取りというのは、どちらにとっても苦手とするものだ。
『ラーナさん、アザレアさん、アゼリアさん、胸を張ってください。貴女達は、あの圓様が最初にこの世界で見出した方々なのです。……こうした場所を苦手としていることは分かりますが、ビオラやアネモネ様が軽んじられるのは、圓様にとっても不本意なことです。……大丈夫、交渉ごとや腹の探り合いは、ジェーオさん、アンクワールさん、モレッティさんがしっかりと対応してくださいます。お三方は毅然とした態度でこの園遊会という舞台に向き合えば、それでよろしいのです』
スティーリアの励ましの言葉を聞き、ラーナ達の表情が引き締まる。
ラーナ達が困っていた時に手を差し伸べてくれたのは圓だ。もし、この園遊会で恥を晒せば、或いは付け入る隙を与えれば、ビオラの看板と圓に大きな傷を与えかねない。
それは、ラーナ達にとっても不本意なことである。……それだけは、絶対に避けねばならないことだ。
「大国の看板を背負ってきていますからね。実際の交渉ごとはアネモネさんと、アンクワールさんとモレッティさんがやるとして……」
「ジェーオさん、まるで自分だけ関係ないという態度を取っていますが、貴方も私と同じ商会の元長ですよ。しっかりと頑張って頂かなくては」
「いやいや、そもそも俺って弱小商会の元長ってだけで……」
「私の記憶が確かなら、真っ先にアネモネ様からはお声掛け頂いたのは……」
アンクワールとモレッティからジーッと視線が注がれる。
そもそも、アンクワールもモレッティもジェーオのことを弱小商会の長だとは思っていない。求道者としての道を歩んでいるラーナやペチカ、店長として店を任されているアザレアとアゼリアとは異なり、ジェーオは自分達と同じ、アネモネから商会経営を任されている同僚であるという認識を持っていた。
……まあ、実際のところ商会の経営の大半は自称「ハンコを押すくらいしか仕事をしないビオラのお荷物」こと、アネモネが行っているのだが。
勿論、ジェーオ、アンクワール、モレッティも要所要所で活躍しているので、仕事をしていないという訳ではない……というか、会長自ら率先して働いている職場でサボっていられるような不真面目な人材はビオラには存在しない。
『もう間も無く陛下へのご挨拶です。……今回はスティーリアさんもいることだし、荒れないと思います、と仰っています』
「本当に凄いですよね……あの方、園遊会での給仕に加えてこっちにも気を配っているとか、とても人間技じゃありませんよ」
「……まあ、色々と規格外なお方ですからな。我々は、その規格外なお方から見込まれ、こうして園遊会の場に招待されたのです。ビオラの代表として相応しい姿を見せなければなりませんね」
ラインヴェルドとの謁見の時は刻々と迫る。そして――。
『お招きくださりございます、ラインヴェルド陛下』
「よく来てくれた、アネモネ閣下。ラーナ殿、アザレア殿、アゼリア殿、ジェーオ殿、アンクワール殿、モレッティ殿、スティーリア殿も。我が妻の主催する園遊会、是非楽しんでくれ」
かつてのプリムラの誕生パーティをなぞるように、その時、ラインヴェルドとアネモネは園遊会という場で同格の君主として相対した。
だが、かつてのように反感を買うことはなく、恙無く両者の対峙は終わり、アネモネは主催者である王妃に挨拶をするためにビオラの幹部達とスティーリアを伴って動き出した。
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