Act.8-319 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.6
<三人称全知視点>
「多種族同盟加盟国、ニウェウス自治領より領主レジーナ=R=ニウェウス様、ユリア=ニウェウス様、次期領主リィルティーナ=レイフォートン様、ご到着になられました」
「続いて、多種族同盟加盟国、風の国ウェントゥスよりアリシータ=エメライン様、〝暴風竜〟ラファール=ウラガン=トゥールビヨン様、ご到着になられました」
「続いて、神嶺オリンポスより〝魔竜〟ナトゥーフ=ドランバルド様、〝竜の神子〟オリヴィア=ドランバルド様、ご到着になられました」
次に到着したのは、ニウェウス自治領、風の国ウェントゥス、神嶺オリンポスの一行だった。
〝巌窟竜〟が現れただけでも騒然となった園遊会の会場は、新たに二体の古代竜が現れたことで張り詰めた空気に包まれる。
上位クラスの魔物が当然のように園遊会の会場を闊歩している状況を目の当たりにし、魔物を会場に持ち込んだエルヴィーラの辺境伯時代の幼馴染でブラックソニア辺境伯名代として参加しているアレゴラ=コルフールは、その光景を面白くなさそうに見つめていた。
『フハハハハ! 久しぶりである! 調停者気取りの小娘と、平和ボケした竜よ!』
『オリヴィア、一緒に国王陛下にご挨拶に行こうか』
「……ちょっとだけ自信ないな。国王陛下にちゃんとご挨拶できるかな?」
「……あのクソ陛下に挨拶をするのに礼儀作法なんて必要ないさ。無作法が服を着て歩いているようなものだからね! リィルティーナ、領主代理としてしっかりとクソ陛下に挨拶してきな! あたしゃ、ユリアと二人っきりでデートしてきたいからね!」
「えっ、はっ? わ、わたくしが挨拶ですか!? ユリアさん、一緒に師匠を止めてください!」
「うーん、私もレジーナさんと二人でゆっくりしたいわ。申し訳ないけど、一人で挨拶回りをしてきてくれないかしら?」
「ゆ、ユリアさんは常識人だと思っていたのに!!」
「私のことは何とでも言っていいけど、でも、ユリアのことをそんな風に言うのは許さないわ!」
「……つまり、レジーナさんのことを常識人じゃないと思っていたのですね。私の大切なレジーナさんにそのようなことを言わないでください。――今の発言、撤回してください」
「えっ、私って何か間違ったこと言いました!? ってか、なんでユリアさん『串刺しの竜舌蘭』咲かせているの! えっ、まさか、私を串刺しにしようとか思ってないですよね!? ミーヤさん、助けて!! えっ、ご主人様の意向には逆らえないって!! はい、分かりました! 分かりましたから! 僕一人で挨拶してきます!」
「僕じゃなくて私、だよ! 全く物覚えの悪い子だねぇ!!」
レジーナに二、三度杖でコツコツされ、ユリアからも脅されたリィルティーナは涙目になりながらラインヴェルドの方に向かって歩き始める。
ミーヤとトビハリネズミはそんなリィルティーナに憐憫の視線を送っていた。
『私達もご挨拶に向かいましょう、アリシータさん』
「えぇ……でもいいのかしら? その方は」
『放置で問題ありませんわ。このお調子者の邪竜はただの構ってちゃんです。無視をするのが一番効くのですわ。ほら、ナトゥーフさん達も何事も無かったように素通りして謁見に向かったでしょう?』
「そうですわね。……参りましょうか、ラファール様」
レジーナ達にもラファール達にもナトゥーフ達にもスルーされ、ちょっぴり涙目になったポーチヴァだった。
◆
「多種族同盟加盟国、ルヴェリオス共和国よりピトフューイ=スクロペトゥム首相閣下、稀人神・建速須佐之男命様、トネール=フードゥル副首相閣下、護衛のイリーナ=シャルラッハ様、プルウィア=ピオッジャ様、ネーラ=スペッサルティン様、ヴァルナー=ファーフナ様、ホーリィ=グリムリッパー様、リヴァス=ライトレッド様、クラリス=チェルシー様、ご到着になられました」
「続いて、多種族同盟加盟国、ラングリス王国よりクラウディア=ラングリス女王陛下、エリザヴェータ=ラングリス王太后殿下、護衛のエルセリス=シルヴァレスト様、ゲリュミュス=ルッツドーファ様、ガンティツ=ファドォーマイル様、ご到着になられました」
次に到着したのはルヴェリオス共和国の一行と、ラングリス王国の一行だった。
このうち、エリザヴェータは前王の時代に参加経験があり、クラウディアも幼い頃に両親に連れられて参加した経験がある。
その時にエルセリスも護衛として参加したが、残り二人は初参加だ。
「まさか、元革命軍の俺達がラングリス王国の使節のメンバーとして参加することになるとはなぁ」
そう零したのは、元農夫で革命軍のナンバーツーを務めていたガンティツだ。
彼自身、国を変えるつもりで革命軍のナンバーツーの位置に居たが、革命が終わった後は優秀なゲリュミュスに新国家の運営を任せ、軍事を担うつもりでいた。
肉体を使う労働は得意だが、腕力の通用しないこういった社交の場は極めてガンティツと相性が悪く、今回の件もできるなら参加せずに済ませたいと思っていた。
「……てっきり、私は革命軍のナンバーツーとして王国打倒後の国を率いていくつもりだと思っていましたが」
「そういうのは俺の柄じゃねぇし、そのためにアドバイザーとしてエルセリスさんを迎えたんじゃねぇか。俺みたいな腕っ節だけの奴は、革命が終わったら用済みだって理解していて、それでも国を変えたいと思っていたんだ」
「……いや、革命が成功してもガンティツを手放すつもりは無かったが。共に国を変えたいと願った最初の同志だ。それを、用済みだと捨てる訳がないだろう」
「……なんか、複雑な気分だぜ」
「まあ、仮に革命が成功していたとしても、『這い寄る混沌の蛇』と繋がっていた我々は排除されていただろうが。ラングリス王国はアネモネ閣下が支配する国になっていたかもしれないな」
「……そちらの方がラングリス王国が栄えていたでしょうし、複雑な気分になってきますね」
「いや、俺達は女王陛下の治世を悪いと言っている訳じゃないんだよ。前国王の時代からクラウディア女王陛下はこの国のことを考えた政治を行っていた……まあ、そこに不具合が出ていたのは事実だけどな」
「……あの時のことは反省しているわ。……ごめんなさい」
「お母様、もう過ぎたことですわ。……ガンティツさんの仰りたいことはよく分かります。あの方は……なんというか、別次元なのですよね」
ラングリス王国の革命を止める時に何よりも内政干渉を恐れていたアネモネ。
彼女はあくまで第三者という立場から『這い寄る混沌の蛇』の討伐のみを目的として動いていた。
だが、もしアネモネがラングリス王国を手中に収めるつもりで来ていたらどうなったか? 実際に、アネモネは簡単にラングリス王国を手に入れることができただろう。
そして、クラウディアよりも素晴らしい善世を敷き、ラングリス王国をかつてないほど発展させていくだろうことは想像に難くない。
「よっぽどのことがなければ、アネモネ閣下がラングリス王国を支配するということにはならなかったと思うぞ」
そう断言したのは、ピトフューイだった。その隣ではトネールが小さく首肯している。
「アネモネ閣下は、あまり政治を好まないお方だ。マラキア共和国は彼女が自ら支配しなければならないと思ってしまうほど最悪の状態になっていたのだろう。……ルヴェリオス共和国が多種族同盟に入る以前、まだシャドウウォーカー時代の私達と邂逅する以前の頃に、アネモネ閣下は初めてフォルトナ王国からドゥンケルヴァルト公爵に叙爵されたが、その時も頑なに固辞したようだ。……国を治めるよりも趣味に生きたいと思っているようなお方だ。……寧ろ、政治は芸術を悉く堕落させるものだと忌避しているくらいだからな」
「でも、そういう政治権力を欲しがらない方が政治をしている時の方が良い治世を敷く傾向があるように思えます。ゴールは権力を手に入れることではなく、その権力を持って何をするか、その権力を得ることを目的としている方の治世は長く続かないのかもしれませんね」
「クラリスさん、正論だけどそれ言っちゃうと確実に致命傷受けちゃう人がいるからやめた方がいいんじゃないかな?」
桃色のプリンセスラインのドレスを纏い、一国のお姫様にしか見えないホーリィが止めるが時既に遅し、エリザヴェータだけではなく、すぐ近くを通り掛かったシヘラザードが致命傷を負った。
「しかし、革命か……懐かしいな」
「そういえばピトフューイ様は、革命軍側で革命を成功させたのですよね」
「それがまた微妙なところだ。革命軍のボス――アクルックス=サザンクロスも裏で帝国と繋がっていたからな。『這い寄る混沌の蛇』の干渉こそ無かったが、あのまま革命を成し遂げようとすれば絶対に勝ち目は無かった。アネモネ閣下がいなければ、今もルヴェリオス帝国が存続していただろうな」
ルヴェリオス帝国の革命の実情を詳しく知らなかったラングリス王国の面々にとっては衝撃過ぎる内容だ。
一方、ルヴェリオス共和国組の面々は皆一様に苦虫を噛み潰したような表情になっている。
「まあ、その暗黒時代ももう終わったがな。アネモネ閣下の協力で皇帝は死に、ルヴェリオス帝国の再興を企てていた【討夷将軍】ミズファ=スターベイションも討ち取られた。……ルヴェリオス帝国の暗黒時代は、終わったんだ」
「……そうだな。だから、今度は私達が民が幸せに暮らせる国を作っていかなければならない。そうでなければ、ルヴェリオス帝国を夜明けに導いてくれたアネモネ閣下を失望させてしまうことになるからな」
革命を成し遂げたルヴェリオス共和国と、革命が失敗し、王政が今なお存続するラングリス王国。
その対照的な二国だが、その目指す先は全く同じ――民が幸せに暮らせる国である。
二国を覆っていた暗黒はアネモネによって祓われた。
しかし、その後の二国がどのような国になるかは、その国を背負う彼女達の努力次第である。
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