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Act.8-317 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.4

<三人称全知視点>


「多種族同盟加盟国、ユミル自由同盟より獣皇ヴェルディエ=拳清(チュェン・チン)=ラシェッド=ティグロン様、獣王メアレイズ=淡霞(ダン・シァ)=ブランシュ=ラゴモーファ様、獣王アルティナ=狐尾(フー・ウェイ)=フェオリエス=ウゥルペース様、獣王サーレ=信楽(シン・ラ)=ソルティ=ニュクテレウテース様、獣王イフィス=凛咲(リン・シァォ)=ケットセ=フェーレース様、文長オルフェア=思慮(スー・リュ)=フォール=ロフォストリクス様、護衛のラーフェリア=白風(バイ・フォン)=アンゴラ=ラゴモーファ様、メラルゥーナ=霞花(シァ・ファ)=レプス=ラゴモーファ様、ヤオゼルド=蒼光(ツァン・グゥァン)=レプス=ラゴモーファ様、ガルッテ=餅月(ビン・ユェ)=カニーンヒェン=ラゴモーファ様、ヘルムート=迅虎(シュン・フー)=フーウィン=ティグリス様、ラミリア=巻尾(チュェン・ウェイ)=セブレス=アングイス様、フォッサス=百獣(バイ・ショウ)=ドイルツ=レーヴェ様、ご到着になられました」


「続いて、兎人姫ネメシア教よりカムノッツ=澄月(チォン・ユェ)=トリアンタ=ラゴモーファ教主臺下、ペコラ=綿毛(ミィェン・マオ)=ニヴェア=オウィス教主臺下、フィルミィ=木実(ムー・シー)=フォチィル=スキウールス教主臺下、ご到着になられました」


 次に到着したのは、獣人族のグループだった。

 このうち、狂信者の三教主は天上の薔薇聖女神教団と金色の魔導神姫教が激しい論争を繰り広げているのを見ると、ネメシアこそが本地であり、リーリエ、マリーゴールド、ラナンキュラスは垂迹の姿であると訴えに行くために王族への挨拶を放り投げて狂信者達の元へと走っていった。


「……カムノッツは変わってしまったわね」


 そう小さく呟いたのは、カムノッツと幼馴染の関係にあったラーフェリアだった。

 ネメシアへの信仰に目覚めてから人が変わったようになってしまったカムノッツにどう対応していいのか分からなくなっているのが、ここ最近……というか、ずっと昔からの悩みとなっている。


「族長はあんまり緊張していないみたいですね。俺なんか、緊張でガクガクしっぱなしなんですが」


 少年から青年に成長しても、なおも髪で顔のほとんどが隠れている陰気な気配を感じさせるガルッテ……だけでなく、ラーフェリア、メラルゥーナ、ヤオゼルドも緊張している。

 男性陣は黒のスーツ姿、女性陣は一部を除いて戦闘にも対応できる特注の動きやすさとデザイン性を見事な両立させたアネモネ手製のドレスを纏ってしっかりと決めている……が、族長達に比べると明らかに緊張で挙動不審になっており、こうしたパーティーには全く参加経験がないことが丸わかりだ。


 一方、流石は族長衆。全員が堂々とした姿で園遊会に臨んでいる。


 ところで、ほとんどのメンバーが近代的なスーツと革新的なドレス姿で参加している中、若干浮いた姿で参加しているのはヴェルディエ、メアレイズ、アルティナの三人だ。

 ヴェルディエはこの世界では珍しい旗袍(マンダリンドレス)を、メアレイズは濃紺のスカートタイプの軍服を、アルティナは巫女の衣装をそれぞれイメージした特注の衣装を纏っており、ヴェルディエの衣装からは嫣然とした美の中にある勁さを、メアレイズから衣装は軍を指揮する者の放つ統率者の風格を、アルティナの衣装からは古式ゆかしい和の美を感じさせる。

 ちなみに、アルティナの衣装は見た目に合わせたものなので、口を開いた瞬間にいつも以上のギャップが発生するのはご愛嬌である。


「さて、まずは国王陛下に挨拶に行くとしようかのぉ」


 ヴェルディエ達に向けられる隣国の一行からの視線は嫌悪一色に染まっている。

 一方、ブライトネス王国の貴族達からはまだ受け入れ難いという心境が伝わってくるが、概ね良好な感情を向けられていた。

 そして、最後に警備をしているブライトネス王国の騎士達からは……怯えられていた。


 実はメアレイズ、警備の全権を預かって真っ先に各騎士団のほとんどの面々に戦力外通告を出しており、それに不服を唱えた騎士達全員をたった一人で圧倒し、ボコボコにしている。

 その結果、今回、会場警備に配置され、その後避難誘導要員となる騎士達からは殺戮兎として恐れられていたのである。


「扱いが酷いでございます! ただ、日頃の鬱憤を晴らすつもりでボコボコにしただけなのでございます!!」


 かつての臆病さはどこへやら、最近はどんどん怒りっぽく残虐な性格になっていっているメアレイズである。

 仕事に追われてブラックな毎日を過ごしているメアレイズには長期的な休暇が必要だが、獣人族内では頭脳労働分野で活躍できる人材が不足しており、当分は仕事漬け生活から抜け出せそうになさそうだ。


 ヴェルディエ達はラインヴェルドに挨拶をするために真っ直ぐラインヴェルドとノクトがいる庭の中央の方へと向かって歩いていく。

 その進行を妨げるように、突如、銀髪碧眼のどことなく品のなさを感じさせる少しだけぽっちゃりとした派手な宮廷服を纏った男が無数の護衛を引き連れて現れた。


「ここは獣臭いなぁ。誰だ、この園遊会の会場に獣を入れたのは」


 グランビューテ=ロッツヴェルデが遠回しに馬鹿にすると、それに合わせてロッツヴェルデ王国からやってきた貴族達がクスクスと嘲笑した。

 一方、ヴェルディエ達はまるで何もなかったようにグランビューテ達を無視して進んでいく。


「――ッ! この獣人がッ! 奴隷になるしか能のない劣等種風情がこのロッツヴェルデの王子である俺の言葉を無視するだと! 獣は獣らしく俺達人間様を敬っていればいいんだ!!」


 グランビューテは兎人族は獣人族でも最弱、自分でも簡単に御せると踏んだのだろう。

 抜刀してラーフェリアへと斬りかかる。そして、その瞬間――グランビューテが見たのは真っ青な空だった。


「……私の大切な家族に、手を出すのは許せないでございます。……高貴な身分だかなんだか知りませんが、ここはブライトネス王国、お前はただ来賓として招かれただけでございます。――ブライトネス王国に入ったらブライトネス王国の法に従うべき、貴方はお客様として招かれたのかもしれませんが、やっていいことと悪いことがあるでございますよ」


 グランビューテの手にあった筈の剣を素手で粉砕したメアレイズが圧倒的な殺気を孕んだ瞳でグランビューテを見下していた。


「お、俺は王子だぞ! こんなことをして許されると思っているのか!!」


「王子ということは、父親が国王って言うだけのただのガキってことでございますよね? というか、本当に王子なのでございますか? 全く育ちの良さも品も感じませんが。そこで嘲笑なされているお仲間の貴族さん達も、本当に高貴な血を引いているのか、甚だ疑問でございます」


「やってしまえ! ここにいる獣人共に俺達人間の恐ろしさを見せつけてやれ!!」


 グランビューテが声を上げた瞬間、護衛の騎士達が一斉にグランビューテを守り、メアレイズを斥けようと動き出し(どうやら、他の獣人族に攻撃するよりも主人を守る方が重要だと考えたようだ)、そして次々と倒れていく。

 メアレイズから放たれた圧倒的な霸気が、騎士達の意識を刈り取ったのである。


「お前らも大変、でございますね……って、主人もクズなら、騎士もクズ、でございますか。私達獣人を随分と馬鹿にしていたようでございますからね」


「おい、近衛騎士! お前達、一体何をやっている! これがどういう状況なのか分かっているのか! 一国の王子が殺されかけているのだぞ!」


「動くな、でございます! 今回の園遊会、誰が軍の全権を握っているのか忘れているでございますか? もし、このクズのために動くというなら、騎士を辞めて頂くことになるでございます。……それとも、またボコボコにされたいでございますか?」


 近衛騎士達は動かない。グランビューテの擁護に回るということは多種族同盟を瓦解させるに等しい行為だ。

 ブライトネス王国から始まり、築かれた巨大秩序。これは、ラインヴェルドにとっての悲願であった。

 もし、それを壊そうとすれば一体どうなるか。先程の大粛清を覚えている貴族出身の騎士達はその恐怖と、メアレイズに刻み込まれた恐怖を思い出して、一歩ずつ後ろに下がった。

 その後退りを敵意無しと受け取ったのだろう、メアレイズもようやく纏っていた霸気を解いた。


「おっ、メアレイズ。派手にやったな!」


「ぶ、ブライトネス国王! 貴様、わざわざこの私が出向いてやったというのに、何たる無礼だ! お父様に言いつけてやる!」


「で、どうする? 宣戦布告か? やってくれるのか? だったら嬉しいぜ、俺もお前らの国をクソ笑って滅ぼしてやれるからなぁ」


 生まれたての子鹿のように立ち上がり、涙目でラインヴェルドを睨め付けるグランビューテに対し、ラインヴェルドは心底楽しそうにゲスな笑みを浮かべた。


「……てめえの父親に伝えろ。園遊会で行ったユミル自由同盟に対する一連の無礼な行動、俺はそれをブライトネス王国に対する宣戦布告と受け取った。……そもそも、お前らの国はマラキア共和国で率先して奴隷売買を行っていただろう? 正直、この大陸から奴隷制度を無くすためにどうしても潰しておかないといけない国だったんだ。いやぁ、この園遊会で騒ぎを起こして戦争の大義名分を与えてくれるかなぁ、とちょっと期待していたんだが、本当に感謝しているんだぜ?」


「ラインヴェルド陛下、ちょっと待つでございます」


「なんだ? メアレイズ、せっかくいい所なのに」


「相変わらずのドS国王なのでございます。……喧嘩を売られたのは私達獣人でございます。我らは人間に庇護される立場ではない、そうではございませんか?」


「ああ、対等な関係だと俺は思うぜ」


「だったら、ロッツヴェルデ王国との戦争は獣人族が、いえ、私一人で蹴りをつけてくるでございます」


「……おいおい、なんか企んでない? メアレイズ。まさか、戦争に託けて有給以外の休みを捻出しようとか思ってないよなぁ? 俺達がサボるためにお前達優秀な人材は遊ばせておけねぇんだよ。そいつはちょっと審議が必要だと思うぜ」


「ラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、エイミーン様、三人が揃ってしっかり仕事をすれば何も問題はないのでございます!」


「……ってか、さ。そいつ気絶してない?」


 メアレイズが興奮してブンブン揺らしながらラインヴェルドと主導権争いをしていた結果、グランビューテが泡を吹いて倒れてしまったようだ。


『そちらの王子、医務室までお運びしましょうか?』


「おっ、梛、いいところに来た。医務室じゃなくて、高貴な身分の面倒な罪人をぶち込んでおく牢屋が王宮の地下にある。そこにぶち込んでおいてくれないか? 蔓でぐるぐる巻にしておけば大丈夫だろ」


『承知致しましたわ』


 グランビューテを蔓で縛り上げた梛は、美しくカーテシーをしてからその場を去る。

 その様子を、他の隣国から訪れた来賓達は青褪めた表情で見送った。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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