Act.8-316 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.3
<三人称全知視点>
「ラインヴェルド陛下、聞いてくださいよ! 遂に俺とナリーサちゃんの婚約が決まったんですよ!」
ラインヴェルドに挨拶をしようと近づいてきた貴族がその大声にビクンと驚いた。
「ナリーサって、ファンマンの想い人だろ? でも、相思相愛でありながらも結局ここまで進展せずだったよな? 俺の記憶が確かなら」
「ナリーサちゃんは本当に可愛くてさ。普段はデレてくれないんだけど、たまにデレてくれるのがまた可愛くてさぁ――」
「あー、また始まったよ。ってか、さぁ、俺の質問に全く答えてくれてなくない? もういいや、おい、保護者」
レオネイドが辺りを見渡して、やっぱりラインヴェルドから視線を向けられていると分かると溜息を吐いて「私はファンマンの保護者ではないんですが」と苦労人らしい疲れ果てた表情になった。
「丁度三人の殿下が婚約者候補として認められた日です。アネモネ閣下は、思い出したようにファンマンの元へ、物凄い凄絶な笑みを浮かべて『お前ら相思相愛なんだろ、見ている方が焦ったいからとっとと付き合えや』ってボロボロのシューベルト総隊長を引き摺りながら言いに行ったようなんです」
「えっ、おい、シューベルトが引き摺られたってどういう状況!? おい、その報告はマジで聞いてないんだけど!!」
「アクアさんを嫁に貰うと言い出した結果、アネモネ閣下の逆鱗に触れたようです。通り掛かったら王宮が半壊していて、シューベルトが全身から物凄い量の血を流してアネモネ閣下を睨め付けていたので、何も見なかったことにしてその場を後にしましたが。どうやら、先にナリーサさんの職場の衣装製作所で話をしていたようで、そちらで既にある程度話は詰めていたようで、ファンマンの休みに『Rinnaroze』と新星劇場でデートをしつつ、なんとか婚約を結ぶところまで話を進められたそうです」
「なんか、聞いたことがあるデートコースだなぁ。まあ、アネモネプレゼンツだとそうなるか。……ってか、そのシューベルトがボコボコにされた事件について詳しく!」
「それは陛下の頼みでもお断りします。後でシューベルトにバレたら絶対にボコボコにされますから」
巻き込まれる苦労を味わってばかりのレオネイドは、もう沢山だとラインヴェルドとオルパタータダから向けられる好奇心の目を無視した。
◆
さて、ファントに面倒な仕事を押し付けられたフレデリカは、ファイスの元へと向かった。
そして、まるで死んだように寝っ転がり、バストチェックに励みつつ、スカート覗きも狙っているファイスを見つけると、思いっきりハイヒールの踵でファイスの腹に一撃を浴びせた。
「――ッ! 痛い! フレデリカさん、もっと加減できないの!? ってか、俺に対する対応が酷くない! 暴力的じゃなくてもっとお淑やかにしていたら絶対にモテるのに」
――ピキリ。
ファイスはフレデリカの顔に恐ろしいほどの笑みが張り付いていることに気づかない。
「モテなくて結構! お淑やかに生きていたら騎士は務まりませんわッ!」
ブチギレたフレデリカは武装闘気を纏った拳を容赦なくファイスの顔面に連続で見舞った。
原型を留めないほどまでボコボコにしてようやく満足したのだろう。凶行を行った、ドレスを着ればそのまま美しき令嬢として通じそうな女性に招待客の貴族達が恐怖を覚えて震える中、フレデリカは気絶したファイスを引き摺っていき――。
『お疲れ様です、フレデリカ様』
突如地面から現れた緑色の髪と同色のメイド服を纏った魔物の美女を見て足を止めた。
「あら、欅さん。居たのね。これの処理をお願いすれば良かったわ」
『私も警備を任されて動いていたのですが、対応が遅れて申し訳ございませんでしたわ。彼のことはしばらく私の方でお預かりしておきます』
手の先から出した蔓で器用にファイスをぐるぐる巻きにして縛ると、欅は美しくフレデリカにカーテシーをしてからその場を後にした。
「……何故、この会場にアルラウネが」
その姿を見た中途半端に知識を持つ貴族は魔物が園遊会の会場に入り込んでいると訴えた……が、警備の副主任を務めていた王国宮廷近衛騎士団副団長エアハルト=ライファス伯爵は、彼女が無害であることをその貴族に伝えると共に面倒な騒ぎが起こる前に口止めを行った。
小さな騒ぎは各所で起こっているものの、また大規模な騒ぎは起こっていない。
園遊会は、まだ始まったばかりである。
◆
「多種族同盟加盟国、緑霊の森より族長エイミーン=メグメル様、族長補佐ミスルトウ=オミェーラ様、マグノーリエ=メグメル様、プリムヴェール=オミェーラ様、護衛のブランシュ=アルブル様、ご到着になられました」
「続いて、金色の魔導神姫教よりマルグリットゥ=グリシーヌ法皇臺下、ご到着になられました」
「続いて、マウントエルヴン村国より族長のポーチュラカ=ヒュームル様、〝巌窟竜〟ポーチヴァ・ファウケース・カブルストーン様、ご到着になられました」
次に到着したのは、緑霊の森、金色の魔導神姫教、マウントエルヴン村国の三グループだった。
このうち、金色の魔導神姫教の法皇マルグリットは本来行うべき王族への挨拶を放り投げてアレッサンドロス達を見つけると宗教論争を繰り広げるために一目散に駆けていった。
「……意外だな。もう少し敵意を向けられるかと思って身構えてきたが。……いや、居ない訳ではないな。各所でまだ偏見・差別的な視線を感じる。それに……あのいかにも高貴そうな衣装を纏った少年からは、生理的嫌悪感を感じるような視線も。……あれは、我らのことを奴隷として見ている者の目だ」
「ポーチュラカ殿、残念ながら完全に亜人差別がブライトネス王国から消えたという訳ではない。それでも、圓様の努力は確実に実を結んでいる。王都を歩いても、まだ少し偏見の籠った視線を向けられるが、それでもその偏見を少しでも取り除こうと努力しているのだと各所で感じられるようになってきた。……とはいえ、それは多種族同盟加盟国のみに限った話だ。多種族同盟に加盟していない国では今なお亜人差別や奴隷売買が行われている」
「彼は奴隷貿易などの闇取引も行われていたあらゆる経済の中継地点、旧マラキア共和国の永世中立に協力していた一国――ロッツヴェルデ王国の第一王子のグランビューテ=ロッツヴェルデです。ローザ様から頂いた要注意人物のリストの中にその名前がありました」
ポーチュラカが感じた生理的嫌悪感の元凶の名前を娘プリムヴェールの話を補うようにミスルトウは口にする。
この会場に集まった隣国の者達のほとんどが亜人種族を要人として、対等な存在として招くことに嫌悪を感じている。しかし、それでも、ブライトネス王国の顔を立てるために、そして、大規模秩序である多種族同盟の機嫌を損ねないようにと表情を隠していた。
しかし、その感情を隠そうとしないのがグランビューテ一行であった。
亜人種族に対する偏見を隠そうともせず、美女であるエイミーン、マグノーリエ、プリムヴェールの三人にも下卑た目を向けている。
『フハハハハ! 実に愚かな男である。……あれでは、時間の問題で滅ぶのではないか?』
「この園遊会は多種族同盟加盟国間の蜜月を他国に示すと共に、恭順が不干渉の二択を迫るという趣旨のものなのですよぉ〜。つまり、ここで敵対の意思を向けるということであれば、戦争の大義名分を創り上げても粉砕するつもり満々なんですよぉ〜」
そう、エイミーンはただの食い意地の張った残念美女なのではないのだ! ちゃんと、頭脳労働もできるのである! ……ただ、あまりにも頭脳労働を優秀なミスルトウに投げるので、最近は少し灰色の脳細胞が錆び付いてきているのだが。
「……物騒な方々ですわね」
「その物騒の急先鋒が圓様と、ラインヴェルド陛下と、オルパタータダ陛下と、うちの族長なんですけどね」
「……本当にうちの母がすみません!」
「……いえ、これはマグノーリエ様が謝ることでは――」
「マグノーリエさんですよ。もう私達はちゃんと婚約を結んだんです。対等な関係だと私は思っていますが、プリムヴェールさんにとっては違うのですか?」
悲しそうに俯くマグノーリエの姿を見ていられなくなり、プリムヴェールは「マグノーリエさん」と訂正した。
途端に可愛らしい笑顔を見せたマグノーリエがプリムヴェールを抱擁する。マグノーリエが見せた涙は嘘泣きであった。
どんどんプリムヴェールを手玉に取る魔性の女へと成長しつつあるマグノーリエだった。
「あー、美味しそうな料理がいっぱいあるのですよぉ〜」
「待ってくださいお母様! まずは、国王陛下にご挨拶をして、それから王妃様や王太后様、王子殿下、王女殿下にもご挨拶を――」
「そんなの待っていられないのですよぉ〜」
「おっ、エイミーンさん。どうしたんだ?」
マグノーリエに左腕をミスルトウに右腕を掴まれながらも料理の方にジリジリと向かっていく姿を不思議そうに見つめていたのは、通り掛かったアクアとディランだった。
「三人が酷いことをするのですよぉ〜。私は料理を食べたいのですよぉ〜」
「まだ国王陛下にもご挨拶できておりませんし、せめて王家の皆様にご挨拶をするまでは……と思ったのですが」
「別にいいんじゃねぇか? ミスルトウさんとプリムヴェールさんとマグノーリエさんの三人で行ってこればいいんだろ? 大体、そういうこと気にする奴ってヘンリー王子くらいしかいないからな。大丈夫だって、大臣である俺を信じろ!」
「……信じられません」
「酷くない、ミスルトウさん。まあ、戦い前に英気を養っておくことも大切だろ? ってことで、俺と相棒は挨拶の仕事を放り投げて食事をしているんだ」
「……そこは放り投げないでください」
「そう堅いこと言うなよ。ラインヴェルドからも許可は出ているんだ。だよな、親友」
「あー、確かに今のうちに楽しんでこいって言ってたなぁ。うちのお嬢様も楽しんで来いって言っていたし……大丈夫なんじゃないかな?」
「それ、明らかに戦力外通告されているんじゃない」と言いたくても言えないミスルトウ達であった。
エイミーンは意気揚々とアクアとディランと共に美味しいものを食べに行き、ミスルトウ、マグノーリエ、プリムヴェール、ポーチュラカ、ポーチヴァの五人で挨拶巡りをすることになる。
結局大したトラブルもなく無事に第一王女と王太后以外への挨拶回りを終え、最後に第一王女と王太后に挨拶に行こうと向かっている途中、五人は給仕をしているローザと遭遇した。
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