Act.8-315 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.2
<三人称全知視点>
庭に集う、綺麗な衣装に身を包んだ上流階級の人々。
入場したブライトネス王国の王族の頂点に君臨する国王陛下からの挨拶がなされた後は立食パーティーが行われる。昼前から始まって三時のティータイムまでという点も、前年以前の園遊会と同じだ。
しかし、今年は何かが違う……と会場入りした貴族や、隣国から訪れた参加者達の一部は感じ取っていた。
「……ブライトネス王国の最大の同盟国であるフォルトナ王国の一行がまだ到着していない。これは、一体どういうことだ?」
そう、呟いたのはどの国の政府高官であったか。
大なり小なり参加者達が困惑する中、遂にその時がやってきた。
「多種族同盟加盟国、フォルトナ=フィートランド連合王国よりオルパタータダ=フォルトナ国王陛下、ルーネス=フォルトナ第一王子殿下、サレム=フォルトナ第二王子殿下、アインス=フォルトナ第三王子殿下、イリス=フォルトナ王妃殿下、シヘラザード=フォルトナ王妃殿下、ユリジェス・ロワ・フィートランド大公閣下、ベルティーユ・レーヌ・フィートランド大公夫人、ギルヴァーム・ウーノ・フィートランド大公令息、ジェファス・ドゥーエ・フィートランド大公令息、ティアミリス・エトワ・フィートランド大公令息、ファント=アトランタ大臣閣下、護衛の皆々様、ご到着になられました」
「続いて、フォティゾ大教会よりレイティア=ベネディクトゥス最高司教臺下、ヨナタン=サンティエ神父様、ご到着になられました」
明らかに他国の者達とは違う特別待遇だ。
ブルーマリーン王国の一行やロッツヴェルデ王国の一行にも入場時刻がしっかりと担当した外交官から指定されていた。会場入りした際にはこのように到着を知らせる名前の読み上げが行われた。
しかし、明らかに彼らと自分達では待遇が違うことをこの場にいる誰もが理解していた。
「……ブライトネス王国は多種族同盟の国々のみを優遇するというのか。忌々しい」
そう吐き捨てたのは、ロッツヴェルデ王国の第一王子のグランビューテ=ロッツヴェルデだった。
一方、ブルーマリーン王国の第二王女カトリシンシア=ブルーマリーンは、冷静にこの状況を分析する。
このベーシックへイム大陸において、無視できぬ勢力を誇っている多種族同盟。
人類の国家ではブライトネス王国とフォルトナ王国という二大王国に加え、ニウェウス王国の王家の血を受け継ぐ元第一王女が支配するニウェウス自治領、革命が成功して共和制となったルヴェリオス共和国、二大大国には見劣りするものの国家として大きな力を有しているラングリス王国、そして、防衛の拠点として権勢を誇ってきたマラキア共和国を無血で支配したビオラ=マラキア商主国、長きに渡り中立を保ってきた風の国ウェントゥス。
それに加え、エルフ、ドワーフ、獣人、海棲族の一大国家が所属しており、カトリシンシアが把握しているだけでも異次元の強さを持っている。
この先、この大陸で生き残るためにはいかに多種族同盟と付き合っていくということが重要になるだろう。恭順を求めていないということであれば、多種族同盟に加盟するのも一手、多種族同盟には加盟せずにこれまで通りブライトネス王国とフォルトナ王国と付き合っていくのも一手。
だが、決して多種族同盟と敵対するという選択だけは絶対に選んではならない。
ブルーマリーン王国はブライトネス王国で王太子候補最有力でありながら、未だ婚約者のいないヘンリーと婚約を結び、ブライトネス王国との繋がりを強める。そのための縁づくりのためにカトリシンシアは派遣された。
だが、果たしてそのような縁を作る機会があるのか疑わしいとカトリシンシアは思い始めてきた。
ラインヴェルドは一言もヘンリーの婚約に関わる話をしなかった。
ラインヴェルドはカトリシンシアとも挨拶をしたが、ただ形式的な言葉を交わしたのみだった。もし、ヘンリーの婚約者選びについて考えているのなら、その候補に必ず上がってくるだろうカトリシンシアにも何かしらの話をする筈だ。
それをしないということは、即ち、ヘンリーの婚約者問題も既に解決しているということではないのか。
しかし、プリムラ姫に何人かの婚約者候補がおり、その中の筆頭であるルークディーン=ヴァルムト宮中伯子息との間で既に婚約が決定的なものになりつつある、という噂は聞いても、ヘンリーについては不自然なほど何も噂がない。
カトリシンシア側から切り出す訳にもいかず、悶々としたまま、どうか誰かが多種族同盟国を刺激して面倒な騒ぎだけは起きないで欲しいと願うカトリシンシアであった。
◆
「お久しぶりでございます、ラインヴェルド陛下」
「「お招きありがとうございます、陛下」」
「ルーネス、サレム、アインス! 久しぶりだな! ってか、今回の園遊会はカルナが主催だ。後で挨拶してきてくれ」
礼儀正しく挨拶をするルーネス、サレム、アインスの頭を撫でつつ、ラインヴェルドはオルパタータダ……を放置して。
「イリス王妃とシヘラザード王妃も久しぶり……ってほどじゃねぇか。あのデート以来だな。カルナもきっと喜んでいると思うぜ。後で挨拶をしてやってくれ」
「勿論でございますわ。……といっても、カルナ様も主催者でお忙しいですし、本日は軽く挨拶をして、また後日ゆっくりお茶会をさせて頂きたいわね。実は朗報があるのよね、シヘラザード様」
「えぇ、遂にルーネス、サレム、アインスの三人があの御方の婚約者候補に内定したそうなの!」
そのシヘラザードの言葉を聞き、フォルトナ王国の三王子達の婚約者の地位を狙っていた者達は揃って絶望に苛まれた。
「それもこれもソフィス様のおかげだと聞いているわ。是非直接会ってお礼を言いたいわね」
「園遊会で給仕しているし、話す機会は作れると思うぜ。……こっちはダメダメなんだけどなぁ。……ユリジェス大公、ベルティーユ大公夫人は久しぶりだな。えっと……そっち二人は」
「お久しぶりでございます、ラインヴェルド陛下。こちらはギルヴァーム・ウーノ・フィートランドとジェファス・ドゥーエ・フィートランドです」
「お初にお目にかかります、ギルヴァームと申します」
「ジェファスと申します。ティアミリスがいつもお世話に……ヒィ!」
ティアミリスに睨まれたギルヴァームとジェファスの顔が引き攣った。
「学園はまだ休みじゃねぇだろ? 大丈夫なのか?」
「フィートランド大公領も多種族同盟に加わりました。こちらの大陸の催し物にも参加するべきだと思い、二人には届け出を出して園遊会の期間中に学園を休んでもらっていますわ。お招きくださりありがとうございます、陛下」
「……うん、まあ、あれだな。どうせティアミリスの奴が無理に言ったんだろう? ……あれ? そういや、シューベルトの奴はどこに行った?」
「あー、アイツならアクアのところに向かったんじゃねぇか? ここまでくる間にティアミリスがオニキスとのラブラブっぷり……っていうか、オニキスの方は若干嫌そうだったが、見せつけて挑発して喧嘩に発展しそうだったからなぁ。ってか、喧嘩どころか剣交えていたし。それでアクアを見つけて告白しに行ったんだろ? ……ってか、なんで俺には何も言わねぇの! なんでスルーするんだよ!!」
「えっ、別にいいだろ? 挨拶とか。少し前にしっかりと打ち合わせしたばかりだし」
「あのなぁ……まあ、いいや。……ってか、オニキス。ウォスカーとファイスはどこ行った?」
「……ティアミリスに気を取られていて気づいたら……あの馬鹿共。――問題を起こす前に取り押さえて……あっ、ファイスが庭で死んだふりしながら……もう手遅れか」
「馬鹿者! オニキス! とっととファイスを捕まえてこい!」
「何の権利があって俺のオニキスに命令を下していやがる、ポラリス=ナヴィガトリア」
「ティアミリス、貴様! ポラリス様に何という態度を! 天罰が下るぞ!!」
「いい度胸だ。天罰を落とす神諸共切り刻んでやる」
「嗚呼、羨ましい! 是非私に痛い一撃を!」
「親友! 今のうちだぜ! なかなか一緒に行動できなくて親友成分が足りてねぇんだ。一緒に園遊会の会場を回ろうぜ!」
「おい、ファント! ウォスカーとファイスの件は大丈夫なのかよ!」
「ファイスの件はフレデリカとジャスティーナに任せる!」
「副隊長、何故、私があの生ゴミの尻拭いをしないといけないのでしょうか? ……とはいえ、他国のご婦人やご令嬢にご迷惑をお掛けして、ただでさえ低いフォルトナ王国の評判を地に落とすのは騎士の端くれとして見過ごすことはできません。本当に、本当に不承不承ですが、私が対処致しましょう。ただ、本来はあれの保護者である副隊長が対処すべき事案です。これは貸し一つですよ」
「相変わらず毒舌だなぁ……フレデリカ、もうオニキスとファントは行っちまったぞ? 全く聞いてなかったようだぜ?」
「……はぁ、マイペースな隊長と副隊長です。漆黒騎士団のメンバーで唯一真面なのは私なので仕方がないことかもしれませんが」
「一応、俺も漆黒騎士団の真面目枠なんですけどね。なんなら、この脳筋の世話役っていう立ち位置でフレデリカさんよりも苦労しているのですが」
「……これ以上、馬鹿が暴走をしないように目を離さないでください、バチスト」
「俺に対する扱いが酷くないですか!? 絶対俺の方が苦労人なのに!!」
「……フンヌ! どうした! バチスト、気分が落ち込んだ時は筋トレが効く! 俺と一緒に筋トレをしよう!」
「……心中お察ししますわ、バチストさん」
「そうやって言ってくれるのはジャスティーナさんくらいですよ」
悪魔のような弟二人と同じ親から生まれてきたとは思えない、サンティエ公爵家の三つ子で唯一の常識人と言えるジャスティーナの慰めの言葉を任務ではいつもドロォウィンと組まされる苦労人のバチストが有り難そうに噛み締めていた。
一方、その悪魔のような弟二人はというと……。
「「「眼鏡叩き割っていいかな」」」
天上の薔薇聖女神教団の神父となったジョナサンを伴って一見すると愛らしい微笑みを浮かべながら三人同時に裏武装闘気の剣を生み出すと、ポラリスの眼鏡を狙った。
「おい、ジョナサン、ここで暴れるのはやめようぜ。一応、俺の妻の晴れ舞台なんだ」
「眼鏡を割ってもポラリスは撃沈しねぇが、今は暴れるのはやめておけ。後でたっぷりと機会は用意してもらえるからな」
「剣を納めなさい、ヨナタン」
三者三様の言葉と共に、園遊会の会場の一角で爆発的な衝撃が放たれる。
ラインヴェルドは己の手に顕現した裏武装闘気の剣で、ジョナサンの剣を受け止め、オルパタータダは同じく裏武装闘気の剣でジョゼフの剣を受け止める。
そして、ヨナタンの剣を受け止めたのは……。
「それが、レイティア最高司教の魂魄の霸気《聖神顕現》か」
レイティアの背後に現れた光を纏った銀色の長髪を風に靡かせる法衣を纏い、光を背負った絶世の美青年が、光から作り上げた剣でヨナタンの剣を受け止めていた。
その全ての剣は決して触れ合わず、無数の小さな黒い雷を迸らせる。
ラインヴェルドを守ろうと動いた近衛騎士もこの圧倒的な力の激突を目の当たりにして足を止めてしまう。
「……まあ、仕方がないね。今回ばかりは僕達も我慢してあげるよ」
ラインヴェルド達と剣を交えたことでとりあえず満足したのだろう、ヨナタン達三人は裏武装を解除して戦闘モードを解いた。
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