Act.8-314 騒乱を呼ぶ園遊会〜ブライトネス王国大戦〜 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「それでは本日の園遊会、頑張りましょう!」
スカーレット、ソフィス、ジャンヌ、フィネオ、メアリー、メイナ、ヴィオリューテ、オルゲルト――園遊会の給仕を行うメンバーと共に恒例の朝礼をしつつ、それぞれの様子を窺う。
緊張の色を隠せないのは、メイナ、ヴィオリューテ、メアリーの三人かな? 逆に他の面々は堂々とした表情をしている。そのメイナ達も背筋はぴんとしていてとても綺麗だ。うんうん、問題なさそうだねぇ。
迎えた秋の園遊会当日。
秋晴れという言葉が似合う、澄んだ青空が広がっている。
既に多種族同盟以外の隣国からお越しの国賓やブライトネス王国の中でも王都から遠い領地に住む貴族達は数日前くらいから王都に滞在している。第二王女が招待されているブルーマリーン王国と第一王子が招かれているロッツヴェルデ王国も二日前に到着して王都の最上級ホテル(ビオラ傘下)に泊まっている。
一方、多種族同盟加盟国の盟主達一行は本日、園遊会開始後に一国ずつ会場入りすることが決まっている。
他の隣国とは明らかに違う対応を行う理由は、多種族同盟加盟国がただのお客様ではないことを強くアピールするため。
ブライトネス王国とその他の多種族同盟加盟国の蜜月をアピールし、この新秩序に加わっていない国は敵ではないものの、同時に味方でもない、お客様ではあるものの多種族同盟加盟国に比べたら取るに足らない存在であると公に示す。もし、そのブライトネス王国の方針に拒否反応を示し、万が一会場内で亜人差別などを行った場合には(そんなことは無いと思いたいんだけどさぁ)……まあ、重い処罰が下ることになるだろうねぇ。最悪、国が一つ滅ぶ。
各国の代表達には是非その辺り、気をつけてもらいたいものだよねぇ。
本日のプリムラは、緊張の所為か朝食をあまりお召し上がりにならなかった。
予定通り、アネモネ作の少し大人びたデザインドレスに身を包み、今は髪もしっかり結い上げてお化粧をして、マナー通りに仮面をつけて。
胸元にはルークディーン=ヴァルムト宮中伯から贈られたネックレスが輝いていて、それを何度も指先で弄っている姿はとても可愛らしい。
「ローザ、変じゃないかしら?」
「良くお似合いでございますよ」
緊張して思わず部屋の中をウロウロしたり、鏡を何度も見たり、ドレスの裾を摘まみ上げたりと落ち着きがないですが、まあ、まだ子供ですからねぇ。って、ボク達と同年齢なんだけど。
初めての事柄となれば、大人でも緊張するもの……それなのに、全く動じていないソフィス達はやっぱり特別なんだと思う。……本来の正しい反応はメアリーやプリムラのものだと思うよ。
プリムラは後程、オルゲルトが付き添って会場入りをする予定だから、この時間にはお客様への挨拶などをシミュレーションしているようだった。……本当に名残惜しいけど、ボク達は仕事があるので先に会場入りだ。
会場は王宮内の庭園。紅葉を楽しめる木々が植えられ、秋薔薇も咲き誇っている素晴らしい場所だ。王国専属の庭師達が腕を振るったその庭は、普段は王族の方や国賓の方が寛ぐのに使われる。……という割にはラインヴェルド達は来ないみたいなんだけど。……アイツらに風情が分かる心なんぞある訳がない。
園遊会でのボクらの役目は来賓の方々が楽しくお過ごし頂くための給仕達を束ねる中間管理職だ。
それに加え、知っている方にきちんとご挨拶をして、今後とも縁を結んで頂いてそれを次世代に……という役割もある。
そしてスカーレット達のように、次世代を担う若者は集まった国賓の方々や貴族の方々を見てその力関係や才能などを垣間見て付き合う人間を選ぶ大事さを学んでもらうという目的もある。
ちなみに、普通は行儀見習いの立場で園遊会の給仕は行わない。ラインヴェルド達の特別扱いが働いているのは一目瞭然だけど、じゃあ、スカーレット達が特別扱いされるかというと、そうではない。しっかりと他の侍女達と同じレベルのものが求められる。
綺麗な芝の庭園に、いくつものテーブルがあってそこでは白いテーブルクロスがはためいている。
屋外だけでなく、庭に面した部屋を休憩用に開放されている。戦争開始と同時に、その部屋が全て脱出の経路として使われる予定だ。その辺りの避難方針についても筆頭侍女達から通達が行っている……筈。多分、そこは信用するしかない。
他の筆頭侍女達も気合十分だ。……数の多い外宮と内宮は朝礼だけでも大変そうだけど。
ただ、一番厄介なのは外宮は落としたから王子宮の第三王子専属侍女なんだけどねぇ……まあ、流石に今回何かしらやらかすということはないでしょう? ここで何かをしでかせば、第三王子の顔に泥を塗ることになる訳だし。
(……ご主人様、そちらはどうですか?)
(問題ありません、インカムの感度は良好ですね。ペルちゃん、こちらから必要に応じて指示を出します。入場と共にビオラのトップとしての威厳を見せつけてあげてください。大丈夫、周りには沢山の仲間がいます)
(ありがとうございます! 頑張ります!!)
さて、あっちも大丈夫かな?
「ローザ様、少しよろしいでしょうか?」
声を掛けてきたのはソフィスだった。どうやらあんまり周りに聞かれたくない話のようなので、二人で少し離れる。
「圓様から頂いた『典幻召喚』の本を持ってきました。……私では足手纏いにしかならない戦いであることは理解しています。それでも……」
「ソフィスさんは戦えない女の子だと思っていたんだけどねぇ、目算を誤っていたみたいだ。聖人に至り、闇の魔法も習得し、八技のいくつかを身につけ、そして、遂には『王の資質』まで開花させたソフィスさんはもう弱者ではないよ。ただ……君には守られる側で居て欲しかったと思うけどねぇ。……無理はしないでよ」
「勿論ですわ。私も身の程は弁えているつもりです」
「……念のため、一応これを渡しておく」
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・最窮極の腕輪
▶︎時空魔法を発動させるために必要な全てを内在させた腕輪。「生命の輝石」を七十七個埋め込んだ特別製。
搭載機能:擬似魔力炉・擬似魔力回路・魔力変換器
【管理者鑑定】
分類:『異世界ユーニファイド』アイテム
レアリティ:独創級
付喪神度:0/99,999,999,999【該当者:多種族同盟の時空騎士/神話級化条件、付喪神度の最大化+装備に認められる+主君のために百以上の命を奪う】
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ソフィスに手渡した『最窮極の腕輪』は多種族同盟の時空騎士に予め渡しておいた『時空魔導剣クロノスソード』の代わりとなる武器だ。
今回、主力メンバーには予めこれと同じものを供給している。これを持っている者が、この戦争で暴れる者達ということだから分かりやすいよねぇ。
「時空属性の魔法を使えるようになる腕輪だ。お仕着せの袖の下につけておくといい。……でも、それで万全という訳ではないからねぇ。くれぐれも無茶はしないように」
「ありがとうございます、ローザ様。……その、この腕輪はこの戦いが終了したらお返しすれば良いのですか? 私は時空騎士ではありませんし」
「今回は武器はなるべく持ち込まない方がいいということで、『時空魔導剣クロノスソード』と交換で『最窮極の腕輪』を渡しているんだけど、終わったら『最窮極の腕輪』を返還してもらい『時空魔導剣クロノスソード』を返却してもらうことになっている。でも、ソフィスさんはそれに当てはまらないからねぇ。返還の必要はないよ。……ただ、『生命の輝石』は消耗品だから必要に応じてボクのところに持ってきて欲しい。メンテナンスは必要だからねぇ」
「承知致しましたわ」
……ソフィス、無理をしないといいんだけど……本当に大丈夫かな?
◆
ソフィスと共にスカーレット達のところに戻る。
……見ていないうちにメアリー、メイナ、ヴィオリューテの緊張が大変なことになっていた。
「三人とも、大丈夫?」
「だ、だだだだ大丈夫よ! ワタクシを、だ、誰だと思っているの!」
「ヴィオリューテ、口調が崩れてるわ。今日はお淑やかに。はい、にっこり笑って」
「どうしましょう! うちのお父さんも来るんです! 身内がいたら余計に緊張して……コケてテーブルひっくり返しちゃったりなんかしたら……!」
「大丈夫よ、メイナ、落ち着いて。落ち着いて、やってきたことを思い出せば絶対に失敗しないわ」
「ききききき緊張してきました……心臓がバクバクいっています、か、帰りたい」
「落ち着いて、深呼吸。ひっ、ひっ、ふー」
「そ、それは違うと思いますわ」
「突っ込める余裕があるなら大丈夫です。……ここにいる皆様は……まあ、少なくとも王女宮の全員は国の代表として恥ずかしくないと判断されたからここにいるのです。メイナ、泣きそうな顔にならないの。可愛い顔が台無しだわ。ヴィオリューテもこういう大きい場で侍女として振る舞うのは、特に異動したばかりだもの。緊張しても仕方がないことだわ」
「……はい……」
「き、緊張なんて、し、してないわよ!」
「貴族の子女として立派な振る舞いをと思っているのでしょうが、今日の貴女は侍女です。まあ、どちらでも同じこと、貴女の立ち居振る舞いが綺麗なことは知っているから、心配はしていないわ。……ただこれだけ大勢の人間がいると個性的な方もいらっしゃるでしょうから、その時には私に教えてくださいね」
「……いいわ、教えてあげる」
「メアリー、貴女は自分のことをドジで、ダメダメだって思っているのでしょうけど、私はそんなことはないと思うわ。……王女宮に集まっているメンバーは凄い人達ばかりで気後れしているかもしれないけど……他の同世代より少し遅れているかもしれないけど、でも確実に成長しているわ。努力家の貴女が人一倍頑張っていることは知っている。勇気を出して、貴女がそれまでやってきたことは、決して貴女を裏切ったりしないわ」
「……はい、が、頑張ります!」
「筆頭侍女はこちらへ。他の者達はそのままお客さまが来るまで所定の位置で待機をするように!」
おっと、そろそろ時間のようだ。
「スカーレット、ソフィス、ジャンヌ、フィオネ、メアリー、メイナ、ヴィオリューテ――全力を尽くして必ず園遊会を成功させましょう!」
円陣を組んで手を重ね、気合を入れてから、ボクは統括侍女の元へと足を向ける。
さあ、激動の園遊会! 開幕だ!!
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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