Act.8-311 離宮にて、園遊会前最後のお茶会 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
プリムラとビアンカ王太后とボクの三人でお茶会……うーん、ボクの場違い感半端ないねぇ。
ちなみに、今日のヴィオリューテはオルゲルトがメイナと共に最後の仕上げということで二人の給仕姿勢の教育を買ってくれた。えっ、他のメンバーはって? 全員合格していますよ、勿論。メイナもちょっと不安があるということで参加しているだけで、普通に合格ラインは超えています。
「そういえば、報告書を読んだわ。私も把握していたし、近衛の方でも既に把握済みの情報だけど、やっぱり貴女の方でも掴んでいたのね」
「……私というか、アネモネ閣下ですが。あの方は王太后様と違って社交界に全く縁のない方ですが、色々なところに人を送り込んでおられますからね。特に最近は物騒ですから」
「えぇ、そうね。……物騒よね。貴族同士の腹の探り合いが可愛く思えてくるくらいこれからの時代は激動なのでしょう? 私は生い先短いから良いのだけど、プリムラの世代は大変そうで心配だわ」
……あー、プリムラが置いていかれているこの状況はあんまりよろしくないねぇ。
話せる範囲に押さえて会話に参加できるようにしていかないといけないけど……さて、どうやって話そうかな。
「プリムラ様、今年の園遊会はちょっと厄介なことになりそうなのです」
「え? そうなの?」
「そうよ、プリムラはちゃんとおばあさまのそばに居て頂戴ね」
「はぁい!」
ああ可愛い! プリムラ、可愛く、天使、ここに天使がいる!!
王太后様も優しいお顔で頭を撫でていて……ここは天国かな? 至高天なのかな!?
木の葉舞い落ちる秋の美しい庭で、愛らしい美少女とそれを愛でる美老女……これは後で絵画を描かないと! それでもって、クソ陛下に強奪される前に王太后様に献上しようそうしよう。
「プリムラにも念のために話しておくわ。先日デビューしたばかりの高位貴族の娘が、辺境に出るっていう魔物に興味があるって喚いたものだからその父親が辺境伯にお願いして小型の魔物を持ち込むつもりらしいの。サプライズって言い張る予定ね」
「魔物って、藍晶さんみたいな魔物なの?」
「もしかして、プリムラは藍晶さんに会ったことがあるの?」
「そうなの。モフモフしている毛並みに触りたくてお願いしたら触らせてくれたわ」
「地下鉄敷設計画について直接国王陛下にお伝えしたかったということで、その取り継ぎをお願いされたのです。藍晶さんも現場監督の仕事などがあって多忙な方ですし、このところあまり休んでおられないとお聞きしていたので、こちらから報告するとお伝えしてお帰り頂きました」
「……多忙だったのよね。引き留めてしまって申し訳なかったわ」
「大丈夫ですよ、プリムラ様。藍晶さんも、『私を切っ掛けにして魔物が必ずしも脅威ではないと、中には共存できる者もいることを知って頂けると嬉しいですし、こうした偏見が減っていってくれたらと思います』と仰っていました。魔物が必ずしも人間の敵ではないと知って頂けることができたことは良かったと思います。ただ、少し怖い見た目なのでプリムラ様の申し出には驚いていました。……ただ、アネモネ閣下の情報によると、今回の剥製として持ち込まれる魔物は意志の疎通ができない低レベルの魔物なのだそうです。……必ずしもということではありませんが、意思疎通が可能な魔物は高位のものがほとんどです。ちなみに、私の影の中にも実は魔物が一匹潜んでいます。――真月、少し小さくなって出てきてください」
『ワォン!』
ボクの影から仔犬くらいの大きさになってポンと飛び出す真月。
『初めまして、真月だよ!』
「真月君って言うんだね。わたしはプリムラよ」
『ラインヴェルド陛下の娘のお姫様だよね?』
「まあ、お父様のことを知っているの?」
『ワォン! 勿論だよ!』
「真月には明日の園遊会でプリムラ様の影に入って護衛をしてもらいます。こう見えて真月も相当強いのですよ」
「ローザの特別な力で人工的に作られた魔物のような生き物、だったわね」
『今の真月はフェンリルとティンダロスの大君主の力も持っているんだ! えっへん!』
「真月は私の闇の魔力から生み出した使い魔のような存在です。ボディーガードとしてとても頼りになると思いますよ」
「そうなのね! 真月さん、明日はプリムラのことを守ってね!」
『ワォン! 任せて!!』
仔犬姿の真月はそのまま元気よくプリムラの影の中に飛び込んでいった。
「ローザ母さま、真月さんってどんなものが好みなのかしら?」
「基本的に何でも食べますね。ただ、渋いものと苦いものが苦手で、甘いものが好物です。後はお肉やお魚も好んで食べます」
「そうなのね。メルトランに後で真月さんの分も料理を作ってもらおうかしら?」
「先ほど影を伝って王宮の食堂に行ってチキンの盛り合わせとプリンをお腹いっぱい食べていたので大丈夫だと思いますよ。お腹いっぱいになったら基本は起きてきませんし。勿論、明日はしっかり頑張ってもらいますけどねぇ」
……真月はアクアやディラン並みに食べるからねぇ。
「そういえば、こうしてプリムラと二人で来てくれるのは初めてよね? ずっとローザとプリムラに聞きたいことがあったの。……シェルロッタの件、プリムラに話したのかしら?」
このタイミングでそれを切り出してくるか。
「シェルロッタって、ローザが一緒に連れてきたのよね。とても頼りになる侍女だと思っているわ。でも、彼女が一体どうしたの? おばあさま?」
「実はローザは、他の侍女達から傲慢な貴族令嬢だって陰口を叩かれているの。その原因となったことはいくつかあるのだけど、その中でも大きいのが本来は連れてくるのが望ましくない自分のメイドを行儀見習いに連れてきたことなのよ。……ローザはね、例え自分が傲慢な貴族令嬢だと誹りを受けても、シェルロッタをどうしても王女宮に連れてこなければならない事情があったのよ」
「……ローザのことをそういう風に陰口を叩いている人達がいることは知っていたわ。プリムラもローザのことをそんな風に言わないでって、ローザはそんな人じゃないってずっと言いたかったの。……でも、何故シェルロッタを連れて来なければならなかったのかしら?」
「……私からお話致します。プリムラ様にはいつかしっかりとお伝えするつもりでした。ただ、タイミングを測りかねていました。……大公領でジリル商会の会頭にお会いしたことは覚えているでしょうか?」
「お祖父様よね?」
「はい、側妃様のお父上です。そして、側妃様には弟がいました。心から姉のことを大切に思っていて、陛下と側妃様の婚約に最後まで反対していた方です。かつては、ジリル商会の番頭として仕事をしていましたが、馬車の事故に巻き込まれて重傷を負ってしまいました」
「……お母様の、弟さん? でも、待って!? シェルロッタは!!」
「そこに偶然居合わせたのが、リーリエ様です。彼女は側妃様を巡る弟のカルロス様と陛下の確執をご存知で、最愛の姉と引き裂かれ、そのまま生き絶えようとしているカルロス様を不憫に思ったようです。ご存知の通り、平民であるカルロス様ではプリムラ様とお会いすることはできません。しかし、侍女として仕えるならば……そのために、リーリエ様は私に彼女をラピスラズリ公爵家の使用人として雇い入れ、王女宮の侍女にして欲しいとお願いされたのですわ。そのために、リーリエ様はカルロス様にある処置を施し、女性の姿に転生させたのです」
「……シェルロッタが、お母様の……弟。叔父様だったなんて。……でも、何故ローザはリーリエ様のお願いを引き受けたの? ……もしかしてローザが抱えている後ろめたさに関係があるのかしら?」
「――!? プリムラ様、一体それをどこの誰から!?」
「ジョナサン神父が私に教えてくれたの。何のことか、今でもよく分からないけど」
……あのドS神父!! また巫山戯たことを!!
「……プリムラ様、まだそのことは話せません。ただ、いつか必ずプリムラ様にお話をすることになると思います」
「今のプリムラではダメなの?」
「……もう少しだけ、こうさせてください。ほんの少しでいいんです……私にそんな権利がないことは承知していますが、それでも……」
「事情は話せないのね。……ローザ、私は、プリムラは貴女のことを母親のように思っているの。とても大切な人だわ。同い年だけど、貴女に母親になってもらえたらとても嬉しいって思うわ」
「……プリムラ様」
「ローザ、貴女はどうなの? 私と一緒に居て楽しいの? ……それとも……違うの?」
「決して、そのようなことはありません。プリムラ様とご一緒できることはとても嬉しいことです。これは紛うことなき本心です」
「ローザにも色々と事情があるのよ。本当に複雑な事情が。貴女を大切に思っているのは確かだけど、それだけではないこともあるのよ。……プリムラ、きっとこの先、貴女は大きな分岐点に辿り着くことになるわ。その時、絶対に後悔しない選択肢を選びなさい。おばあさまとの約束ね」
できるなら、シェルロッタとプリムラが幸せに暮らせるようになって欲しい……でも、一方でプリムラと離れたくないという気持ちもある。
どちらの気持ちも本当で、どちらも嘘はないんだ。
……プリムラはその時、一体どんな選択をするのだろうか?
ただ、例えどんな選択であっても受け入れる覚悟はしている。ボクがどんなにこうして欲しいって言ったところでプリムラにとってそれが不本意なものであるなら全く意味がないからねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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