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Act.8-306 大戦に向けて動き出すそれぞれの陣営 scene.3

<三人称全知視点>


 この世のどこかに存在する『楽園』という地にかつて植っていた天恵の神樹。

 スマートフォン専用ノベルRPG『トップ・オブ・パティシエール〜聖なるお菓子と死の茶会〜』の『管理者権限』を持つ神であり、天恵の神樹の力を独占しようとし、天恵の神樹と融合を果たしてしまった『最初の天恵の巫女』イヴ=マーキュリーは『管理者権限』を獲得すると同時に完全に天恵の神樹の自らの内部に取り込むことに成功し、同時に『願い』のエネルギーが無くとも存続できるようになった彼女は彼女だけの異空間に身を寄せつつ、『管理者権限』を全て集め、『真なる唯一神』へと至ることのできるチャンスをひたすらに待っていた。


 そんな中、『這い寄る混沌の蛇』の首魁であるアポピス=ケイオスカーンと、 『Eternal Fairytale On-line』の『唯一神』アイオーンから一つの誘いが来た。

 それは、園遊会が行われるブライトネス王国の王都に複数の『管理者権限』を持つ神やその手駒を送り込んで百合薗圓の有する最後の『管理者権限』を奪い取るというものである。


 既に百合薗圓は『怠惰』、『強欲』、ルヴェリオス帝国の皇帝を斥けており、油断ならない存在であるというのは神々の共通認識となっている。

 一筋縄ではいかない相手である以上、たった一人で挑めば徒に『管理者権限』を与えて百合薗圓の力を更に高めるだけ、百合薗圓討伐は最悪の事態を避けるためにも共闘を前提とするものとなるだろう。


 イヴにとって、これはまたとない機会だ。『管理者権限』さえ手に入れてしまえば勢力図はガラリと変わる。

 手に入れるまでは協力して、手に入れてからは盛大に裏切ればいい。そして、それは恐らく全ての陣営が考えていることである。

 隙を見せれば狩られる可能性もあるが、百合薗圓を倒すまでは駒は少しでも多い方が可能性は高まる。


 つまり、命を狙われる可能性は隙さえ見せなければ限りなく低くなるのだ。

 ならば、リスクよりもリターンの高いこの魅力的な共闘に応じるべきであろう。最悪の場合もすぐに逃げの一手を打てば問題ない。


 逃げ時を誤るような愚行はしないという慢心が、イヴの中にはあった。


『それでは、「管理者権限」を頂戴しに参りますわ』


 天恵の神樹を守護するために、天恵の神樹から創り出される無数の樹神兵を従えると、イヴはブライトネス王国の王宮の中庭に異空間の門を開いた。



 逆さまになった黒い城――アポピス=ケイオスカーンの保有する『這い寄る混沌の蛇』の本拠地にて。


「ようこそ、お越しくださいました。セレーネー、お願いしていた例の件は無事に終わりましたか?」


 白銀髪と黒髪を半分ずつで持ち、銀色に輝く瞳を持つ、踊り子風の露出度の高い衣装に月を模した髪飾りを合わせた少女――セレーネ・アノーソクレース・フェルドスパーは無言でアポピスの言葉に首肯でもって応えた。


 『這い寄る混沌の蛇』の新たな冥黎域の十三使徒として抜擢された彼女は、険しい山脈に囲まれた閉鎖的な集落に生を受けた。

 絆や縁を時に繋ぎ、時にその繋がりを切る固有能力を継承し、神に仕える巫女の一族――フェルドスパーに生まれた彼女は、その力を狙う者達によって引き起こされた戦火で両親を含む集落の仲間達を喪った。唯一、共に生き残ったのはヘリオラ・ラブラドライト・フェルドスパーだった……が、当時、まだ幼い彼女は人攫いに遭い、吸血鬼の因子を埋め込まれて半吸血鬼となり、その後、『這い寄る混沌の蛇』の冥黎域の十三使徒に抜擢される。


 一方、セレーネはアポピスによって保護され、彼の居城に招かれた。

 『這い寄る混沌の蛇』に『絆斬り』の技術を伝えたのもセレーネである。


 彼女にとって、アポピス=ケイオスカーンは自分を死の危険から守り、庇護してくれた大切な人物である。

 全てを捧げても、例え命を捧げるとしても彼の野望を現実のものにしたい、それほどまでにセレーネはアポピスを崇拝していた。


 ……実際は、アポピス=ケイオスカーンこそが『絆斬り』の技術を得るために周辺の国を扇動し、フェルドスパーの集落を壊滅に追いやった元凶であり、ただのマッチポンプなのだが。

 セレーネは当然、その事実に全く気づかぬまま、いくつもの悪事に手を染めている。


「……甘蔗林(かんしょばやし)結城(ゆうき)をはじめとする天恵の巫女十名と、真白(ましろ)雪菜(ゆきな)に『絆斬り』と『絶望堕ち』を施しました。また、ルイーズ・ヘルメス=トリスメギストス、オーレ=ルゲイエ、アダム・アドミニスト・カリオストロ・フィリップス・アウレオールス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム・アルケミカル・ニコラス・フラメル・サン=ジェルマン・ヴァイスハウプト――三名にも主人様のご依頼通り、指令の伝達を済ませております。三名からも合意の返事を受け取りましたので当日は予定通り仕掛けることが可能だと思われます」


「ご苦労様です。……セレーネ、今回、貴女はどう動くつもりですか?」


「命令とあらば出撃致します。私の命は貴方様のもの」


「では、今回は待機としましょう。別の機会に力をお貸し下さい」


 セレーネが自身に忠実であることを再確認し、アポピスはセレーネが退出した後にニタァと粘着質で仄暗い笑みを浮かべた。



 どこにでも繋がる、しかしどこでもない、隔絶された世界の一つ――何もない真っ白な世界にただ一つ不自然に壮麗という言葉すら生温い巨大な宮殿が鎮座していた。

 並の人間がそのまま認識しようとすれば一瞬にして発狂してしまうほどの規格外の情報量を持つ、人の認識のレベルに落とせば恒星ほどもある宝石と水晶、黄金によって作られた絢爛豪華な、果てのない宮殿を一つの影が床より僅かに上を滑るように浮遊しながら進んでいく。


 黄昏に燃える麦穂のように豪奢な金髪と、エンジェルオーラを彷彿とさせる瞳孔と黒く反転した白目。ぞっとするほど見目麗しく整った神々しさと魔性の妖しい色香を同居させる容姿で、丈長の白のドレス・ローブを身に纏い、背後に光背を背負い、頭には三重の光輪が輝いている。


 智慧之神ヌース――『World Sphere on-line』の世界『スフェア』の創造神にして、孤独を嫌い、生物圏(バイオスフェア)を超え、叡智圏(ノウアスフィア)に辿り着いた者を自らの同胞として迎え入れるために暗躍を続けていた女神であった。

 『World Sphere on-line』の世界で生物圏(バイオスフェア)を超えた存在として人間を創造したものの、叡智圏(ノウアスフィア)に到達することはなく、叡智圏(ノウアスフィア)に到達し得る新たな存在を作り出すために人間よりも頑丈で高い能力と成長速度を誇る真人類(プレイヤー)を創造した張本人であり、『World Sphere on-line』というゲームの根幹に密接に関わっている。


 現在はスマートフォン専用ノベルRPG『False heaven〜偽りの神と銀河鉄道の旅〜』の終着地点である本当の天上の、更に先に位置する『宙の穴』を通った際にあるもう一つの青い星――『スフェア』を支配しているが、この日は盟友であるアイオーンに会いに来ていた。


『久しぶりですわね、アイオーン』


『わざわざ来てくれたのだな』


『こっちは暇なのよ。貴方は楽しいでしょうね、こうして百合薗圓の物語を見ていられるんだから』


『それなら、こちらに来れば良いものを……いや、そうだったな。君は君の世界で決着をつけたいと、そう言った。我と同じくハーモナイアの『管理者権限』以外の全てを持つ君は、その力で百合薗圓を討ち取ると。……そうでなければ我と釣り合わぬと。つまらないことを言うな。我が盟友であると、伴侶としたいと思ったのは君だけだと言うのに』


『……私は、貴方の姿を見ることができないのよ。ヴェールによって認識を遮られ、初めて貴方とこうして発狂せずに会話ができる。釣り合えないことなんて、本当は承知しているの。それでも、私は貴方と二人で……だから、どうしても、私一人で百合薗圓を倒さねばならないわ。今はまだ、その時ではないのだけれど』


 玉座に座るアイオーンとの距離は近くに見えるが、実際は恐ろしい程遠いのだ。決して、智慧之神ヌースでは彼の隣に立つことはできない。


『……それで? 貴方の計画は順調かしら?』


『アントローポスとエクレシアを派遣することが決まった。それと、アザトホートのコケラも全種類投入する。それに加えて、今私が扱える五大戦闘ギルドのうち四つのギルドマスターと、神祖の吸血鬼のデッドコピーをコピーしたゲーム時代には存在しなかった『究極模倣粘性体アルティメット・ドッペルスライム』が五体、そして、『オーバーハンドレッドレイド:神界の天使たち』を発動する宝玉が五つ。……それから、『永劫の虚無』の投入も検討している』


『MMORPG『Fîve worlds On-line』の『唯一神』で、全てを虚無へと還そうとする意思なき大災害ね。あれまで投入するの?』


『……これは一つの運命の分岐点だ。『管理者権限』を持つ神々がこれほど集い、百合薗圓に挑むということは先例がない。ここで百合薗圓に勝てればそれはそれで良いが、もし仮に彼らに勝利すればもっと面白い物語を楽しむことができる。……どちらに転んでも、我にとっては良いのだ。だが、どうせならもっと面白くしたいだろう』


『そうね。……私もここで観戦させてもらっても良いかしら?』


『勿論だとも。君の特等席をすぐに用意しよう』


 「アザトースの宮廷マウス・オブ・マッドネス」を完全に掌握しているアイオーンは指を鳴らし、泡立つ影から玉座を創り上げると、智慧之神ヌースに座るように促した。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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