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Act.8-300 王女宮への突然の訪問者〜藍晶とメアレイズ〜 scene.1 上

<一人称視点・アルベルト=ヴァルムト>


 ……どうしてこのような状況になったのだろうか?

 大臣の執務室で、目の前にはディラン大臣……と、途中で合流したリボンの似合うメイドのアクアさん。


 ローザ殿の生家であるラピスラズリ公爵家の使用人で、大公領について行った近衛の仲間から広まった噂によれば、フォルトナ王国の英雄【漆黒騎士】オニキス=コールサック殿の転生体だという。

 ディラン大臣はその副官を務めたファント=アトランタ殿の生まれ変わりで、この二人が身分や年齢を超えて一緒に行動している姿は度々目撃されている。


 さて、どうしてこうなったのか?


 元々面倒だった侍女を、しかし腕力や地位に物を言わせてどうこうする訳にはいかなかった……とはいえ放置していたというのはこちらの落ち度だったと思う。

 婚約者がいるのだし、こちらが応じなければそのうち諦めるだろうなんていうのは甘い考えだったと今は反省している。だが使用人館に行っている庭師に用があったし、毎日届けられる手紙にもうんざりしていたから、あの庭で彼女に会うことにした。


 まあ手紙の内容自体は大したことは無くて、会いたい、最近人に美しいと褒められた、外宮でこんなことがあった……とかまあ決定打には欠ける内容である点が小賢しいというか。

 今年の生誕祭の後、王都で開かれる年末のお祭りに一緒に行かないかはアウトだったが。


 たまたま通りがかったローザ殿に思わず助けを求めてしまったのは恰好が悪かったと反省している。

 でも彼女は嫌そうな顔をしていたけど、声を掛ければ助けてくれて、エルヴィーラと深い仲はないし、女性を弄ぶような人ではないと当然のように信じてくれたことがとてつもなく嬉しかった!

 そんな風に思われていたなんて事実があったら立ち直れなくなるところだった。


 正直今思えばもう少し冷静に対応だってできた筈なんだけどなあ……あの熱血というか、猪騎士は前から随分私に喧嘩腰だと思ったらあの女性の婚約者だったとは……全く、婚約者の意見だけを鵜呑みにして厄介なことをしてくれたなあ!

 だけど、彼が言った通り想い人がいつ掻っ攫われるか分からない、というのには同意だ。


 しかし、ローザ殿は一体何者なんだろうか? あのデートの時に園遊会後に明かすと約束してくれた彼女の秘密。

 その一端は、あの規格外の召喚魔法や外宮に潜ませた密偵にあるのだろうか?


 あのリディアという侍女は私を含め、あの場にいた者達を制圧できるほどの圧倒的な力を持っていた。浮世離れした美しく華のある女性だと思ったが、非力な女性と侮れば一瞬で返り討ちに合う。そのような恐ろしさを感じた。

 ……まあ、私は断じて彼女に興味があるという訳ではないが、あれほどの強さの女性がただの使用人として王宮内に紛れている、という事実は近衛騎士という存在の必要性を揺るがすものではないだろうか? ……いや、そもそも、守られるべき国王や大臣の方が強い時点で近衛騎士の必要性はグラグラなんだが。


「おじさんもさぁ、あんまり人のことを言えないんだけどさぁ。……やっぱり良くないと思うぜ、そういうのは。お前、親友のこと好きなんだろ? ならさぁ、その親友を修羅場に巻き込むっていうのはやっぱり色々な意味でアウトだと思うんだ。まあ、実際に親友は相当な手際で解決したみてぇだが。……じゃあ聞くが、一般論として自分の身の潔白も自分で証明を、自分じゃできない彼氏ってどう思う? まあ、仮に言い寄られてきたとしてもさ、普通、その恋人に潔白を証明してくれって頼むってめっちゃ恥ずかしくない? おじさんはそういうの死んでも嫌だわ」


「ディランの言う通りだと思う。……アルベルト近衛騎士殿、本当はお嬢様のこと、好きでもなんでもないんじゃない? それこそ、面倒な女性達の誘惑から身を守るための防波堤くらいにしか。今回の件、話を聞く限り全ての泥はお嬢様が被っている。敵意が全て自分に向くように巧みな論点の掏り替えと、ヘイト管理で。……正直な話、俺はお前がお嬢様に相応しいとは思わない。ラピスラズリ公爵もお嬢様の婚約とか、その辺りは放任しているし、そっちについては何の問題もないと思うけどな。……近衛騎士の期待のホープっていうのは、大抵のお嬢様方には通用するだろうが、うちのお嬢様にそういったものは通用しない。イケメンでモテモテで、自分が選ばれる側だと思っているんなら、とっとと諦めてお前を愛してくれる他の恋人でも作るんだな。正直、お前がやろうとしていることは素手で竜を殺しに行くようなものだ。それだけ見込みのない挑戦をしようとしていることを少しは自覚しておいた方がいい」


「まあ、言いたいことは言ったし、もう帰っていいぜ。俺らが言ったところで従うことはねぇんだろ? 人の気持ちはそう簡単に変えられるものじゃねぇからな。ただ、忠告はしてやったからな。よし、相棒! 飯に行こうぜ!!」


「お腹減ったしな! ディラン、行くぞ!!」


 私に言いたいことを言ってからアクアさんとディラン大臣閣下は競うように廊下を走って食堂へと向かっていった。


 ……私は別にイケメンでモテモテで、自分が選ばれる側だと思ったことはないのだが、傍目から見たらそう思えるのか?

 だが、今回の件で心証が悪くなったのは間違いない……我ながら何故、ローザ殿を巻き込んでしまったのか、今すぐにでもあの時の私をぶん殴りたい。


 最初に会った時から、私の容姿など全く気にしない方だったのだから、私の持っているものが通用しないことは分かっていたつもりだ。

 私が今やるべきことは真剣に誠実にローザ殿に向き合うこと。……まずは、今回の件をしっかりと謝らないといけないな。



<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 王女宮に戻ると、空気が少し……というか、相当おかしかった。

 王女宮に現れた巨体の魔物に怯えるメイド達、困惑した表情でその光景を見つめる侍女達、剣の鞘に手を置いて警戒を続ける白花騎士団の護衛騎士達。そして……。


「初めまして、ユミル自由同盟で三文長の一人として文官を纏めているメアレイズ=淡霞(ダン・シァ)=ブランシュ=ラゴモーファでございます!」


『これはどうもご丁寧に。私はビオラ商会合同会社の建設部門の建設主任を任されている藍晶と申します』


 そして、その人集りの中心でスーツ姿で名刺交換をしている社会人二人(藍晶とメアレイズ)……こいつらがボクのお客様ねぇ。


「筆頭侍女様、ビオラの所属の方ということで危険はないと判断していましたが、念のために警戒を行っていました。後ほど、藍晶殿に謝罪させて頂きたいのですが」


「ラーニャ様、謝罪は必要ないかと。彼も魔物が恐れられているということはよくよく理解していますし、犬狼牙帝(コボルトエンペラー)は二足歩行する巨大で筋骨隆々な狼という見た目ですから、怯えられることも承知していると思います。もっとも、彼は紳士的で、少々哲学的なところもある真面目な方なので、是非仲良くして頂けると幸いですが。もっとも、本来彼は現場主義の方でまず王女宮を訪れることはありません。本日は何やら御用があったようですが」


『ローザ様、園遊会の仕事でお忙しい中、アポイントメントもなく訪問してしまい申し訳ございません。すでに報告書を上げている地下鉄敷設計画について、一点お願いしたいことがございまして、お時間を頂けませんか?』


「承知致しました。メアレイズ様も園遊会関連ですか?」


「はい、私の方からも園遊会の警備についてお願いしたいことがありまして……大丈夫でございますか?」


「問題ありません。……スカーレット様、オルゲルト執事長にお客様とお話があるのでしばらく戻れないとお伝えして頂けますか?」


「承知致しましたわ。……ところで、給仕の方はどうなさいますか?」


「私が……と言いたいところですが、園遊会も目前に迫っていますし、実践も兼ねて……そうですね、メイナとメアリー様にお願いしても良いかしら? それでよろしいですか? 藍晶様、メアレイズ様」


『私のようなものにもてなしなど不要だと思いますが、園遊会という大舞台に向けての練習に貢献できるのは光栄だと思います』


「わ、私はローザ様の紅茶を楽しみにしていたので残念なのでございます」


 ……そんなしょんぼりされると、給仕役を務めるメイナとメアリーが可哀想じゃないか。

 メアレイズには今度個別にお茶を奢ることを約束して(ここで「仕方ないので今度アフタヌーンティーセットをお願いさせて頂きたいでございます」って言ってくる時点でどんな胆力だよって言いたくなるよ、この丁寧語系ブチギレ兎)、二人を王女宮の筆頭侍女の執務室に案内しよう……としたら、プリムラの部屋からひょっこりプリムラが顔を出した。……騒がしかったから気になったのかな?


「初めまして、わたしはブライトネス王国第一王女のプリムラです。……ユミル自由同盟の文官さんと、ビオラ所属のコボルトさんですね。ローザの友人ということで良いのかしら?」


『王女殿下、本来ならばご挨拶に伺わなければならないところ、このような形になってしまい申し訳ございません。私はビオラ商会合同会社の建設部門の建設主任を任されている犬狼牙帝(コボルトエンペラー)の藍晶と申します。ローザ様は我が社の会長であらせられるアネモネ閣下のご友人、畏れ多いお方でございまして……』


「藍晶殿は『剣聖』ミリアム・ササラ・ヒルデガルト・ヴォン・ジュワイユーズ様から盟友と称されるお方ですわ。かつては剣に興味が無かったそうですが、何かしらの心変わりの機会があったのか、最近では忙しい仕事の合間に正式にミリアム様と、もう一人の『剣聖』として有名なダラス様に弟子入りし、現在はアルベルト様を超える次期『剣聖』の最有力候補としてお二人から多大な評価を得ているお方です」


「まあ、凄いわね。……ところで、不躾なお願いで申し訳ないとは思うのだけど……その柔らかそうな毛並み、触らせてもらってもいいかしら?」


 もしかして、藍晶の毛並みを触ってみたいと思って出てきたのかな? あら、やだ、プリムラ様可愛い!


『私の毛並みですか? そういったお願いをされることはなかなかないので新鮮な気分ですが、どうぞお好きなだけご堪能ください』


 藍晶がプリムラの側に行き、プリムラが藍晶をモフモフしてうっとりした表情になった。

 これがメイド達の警戒も解いたらしく、プリムラに続いてメイド達が恐る恐る藍晶をモフモフしに行った……これは当分ターンが回ってこなさそうだなぁ。


「とりあえず、メアレイズさん。話を聞くよ」


「……私のうさ耳もモフモフなのでございますよ」


 ……そんなにモフモフされたかったの? メアレイズ? そういうキャラじゃないと思っていたんだけどなぁ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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