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Act.8-299 使用人寮前の庭は修羅場と化した scene.1 下

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「アルベルト様、貴方もです。こういった問題は第三者を立てるべきです。それも、中立の立場の人物を。多少騒ぎを荒立てても厳正な審判を下すべきでしょう。その方が見せしめにもなりますし。別に良縁を結ぶために侍女になることを悪いことだとは思いません。しかし、節度というものがあります。侍女としてお仕着せを着ているならば王国の使用人に、近衛騎士の隊服を着ていれば近衛騎士団に所属しているのです。それをお忘れにならないように」


「……王女宮筆頭侍女殿、我々は何も間違ったことはしていない!」


「それは貴方が決めることではありません。それと、ここから先は私が尋ねた時のみ必要な情報をできるだけ簡潔に答えてください。感情が混ざればそれだけ真実というものが分からなくなります。……私に従いたくなければご自由に。ただし、勿論、貴方が決して誠実な人間ではないという評価はシモン様とエアハルト様に私の方からお伝えしておきますので」


 流石にここで直属の上司の名前を挙げられたらどうしようもないか。ボクの方を一睨みしてから口を噤んだ。


「エディル、もう良いのよ! ねぇ、もうやめましょうよ! 園遊会を控えてみんなピリピリしているしお忙しい筆頭侍女様を引き留めるだなんて良くないわ!」


「エルヴィーラ様、もう今更ですわ。既にギャラリーはできていますし、私も巻き込まれてしまった後です。外宮の筆頭侍女に自ら報告なさいますか? それとも私が伝えておきましょうか?」


「私が、自分で。今すぐ。ええ、今すぐ参ります。色々と誤解があるようですので、きちんと釈明させて頂きたく存じます!」


「分かりました」


 まあ、どうせボクやアルベルトを悪者に仕立てるような報告をするんだろうけど。それならそれで結構、外宮筆頭侍女が彼女の肩を持つなら外宮筆頭侍女諸共潰すだけだからねぇ。


「では、まずはアルベルト様から。単刀直入に尋ねますが、あの侍女から言い寄られたことは?」


「……さて」


「正直に」


「ありますがお断り致しました」


「アルベルト殿、嘘を仰るな!」


「エディル殿、発言は許しておりませんが? それに、それが事実かどうかを判断するのは私であって貴方ではありません。続いて、エディル殿、あの外宮の侍女エルヴィーラとはどのようなご関係で?」


「婚約者だ。私の婚約者だと公言してあるにも関わらず、そこのアルベルト=ヴァルムト様が地位に物を言わせ我が婚約者に言い寄っていると聞いている。事実私が今日この場でこの男が彼女に言い寄る現場に遭遇している! 他にも多くの侍女達がこの男の甘言に惑わされていると……」


「ちょっと待ってください、とんでもないことです! 騎士の名誉に誓って、そのような真似は一つもしていません。そもそも、貴女の婚約者であるというあの侍女は私に何度も手紙をくれていましたがその都度お断りをしておりました。しかし、彼女は何度となく私に声を掛け続けた! 今日もそうです! 私は自分に非がないことを証明するために人の多い場所を選んだ! 隠れてどうこうしようというならばこの場所は似つかわしくないでしょう」


「私の婚約者がそのような真似をすると!? それこそ侮辱ではないか!」


「はっきり申し上げましょう、私には意中の方がいるのでどなたとも懇意にするつもりはありません!」


「なんだと! ではその女性を連れてきて身の潔白を証明するが良かろう!」


「意中の方がいると申し上げただけで、その方と恋仲だなんて言っていません」


「……お二人とも、私の言葉が通じていませんか? とりあえず、お二人の言い分はよく分かりました、もう結構。……さて、ここからどうしましょうか? ……えっと、そこの使用人寮で賄い方の給仕を担当なされているザビーネ様、貴女は彼らの話を聞いて心当たりはありますか?」


「……えっ、あの」


「大丈夫、お話を伺いたいだけですわ」


 ボクに突然指名されたザビーネは何故ボクが名前を知っているのかと困惑した。

 ……まあ、そっちも十分困惑の材料になるだろうけど、その結果、「自分の方が正しいだろう!!」というような目を勢いよく双方から向けられたら、そりゃ食堂のおばちゃんは恰幅が良い体を委縮させてしまうことは目に見えている。うん、予想通りだった。

 噂を聞くならまず使用人達の台所で働く女中だろう。大局なら貴族の方々、細やかな市井のことは使用人達に聞くのが意外と有効なんだよ。使用人の中でも賄い方の人というのは食堂に出入りする人間と会話することが多い。

 何気ない日常に関する話は、彼女達に聞けば案外出てくるかもしれない。


「ごめんなさいね、お忙しいでしょうに」


「い、いえ!」


「ただ他の使用人からの、アルベルト様の評価を教えて頂ければ良いのです」


「あ、アルベルト様はどの女性のお誘いにも乗らないと一部の女性達から不満があがっていました。特定の女性を作らないことで有名です」


「なんだと!」


「ありがとうございます、ご婦人。ほら言った通りでしょう!」


「お二方とも静かに! ザビーネ様、ご協力感謝致します。後ほど、お手数ですが王女宮までご足労頂けないでしょうか? 今回の件に巻き込んでしまった埋め合わせを何らかの形でさせて頂きたいと思います」


「い、いえ、滅相もございません」


「お気になさらないでください。私の方でお礼をさせて頂きたいのですから。……さて、エディル殿、全くご納得されておられないようですね。では、こうしましょう。……リディア、居ますね?」


 ボクが声を掛けると、黒い影が一瞬にして野次馬の中から現れ、ボクの背後に控えた。


「彼女は外宮に配属されたリディアという侍女です。まあ、私の部下の一人のようなものだと思ってください。直属の上司は別に居ますが」


「ローザ様、貴女は一体!?」


「リディアには外宮に配属後、問題を起こしそうな、或いは既に問題をいくつか起こしている使用人についての情報を集め、それを報告するという任務を与えていました。つまり、ブラックリストに載るような使用人の監視と、その報告です。勿論、私は各宮の権力を手中に収めようとは思っていません。ただ、問題を起こされる前に確実な対処をしたいだけなのです。特に今回のような面倒なことにならないように予め情報を集めておくために。……リディア、エルヴィーラ様について報告を」


「はっ! 既にローザ様も把握済みのことだとは思われますが、エルヴィーラ様が内宮や後宮の文官を妄に誘惑しているという報告が上がっており、私の方でもそのうちの一件をこの目で確認しております。時刻は昨日の……二十時頃、場所は使用人寮の裏で、丁度防犯カメラにその映像が映っており、証拠として提出できるかと」


「――なんだと!?」


「よくやりました、リディア。では、他の件についても立件すべきでしょう。宰相閣下の元に赴き、中央監視システムの開示請求を行ってきなさい」


「はっ、承知致しました! 仰せのままに」


 先程現れたようにリディアは一瞬にして姿を消した。俊身の精度、かなり上がっているなぁ。


「真月、出番です!」


『ワォン!』


 影から飛び出た真月にこの場に集まった全員が驚き、ほとんどのメンバーが魔物が現れたと思って警戒心を露わにし、或いは恐怖で身を震わせている。アルベルトとエディルも剣の鞘に手を掛けた……が恐怖で動けないみたいだ。


「真月、使用人寮に防犯カメラがあります。その中からメモリーカードを持っていって統括侍女様に提出してください」


『ワォン? 防犯カメラ? メモリーカード?』


 ……あっ、人選間違えたかも。

 仕方なく、超能力を使ってボクの頭の中にあるイメージをテレパシーで真月に送る。


『ワォン! よく分からないけど、分かったよ! それじゃあ行ってくるよ!』


「……真月、狼の姿だと怯えられるから人間体になって行ってきてねぇ」


 真月が犬耳の生えた黒髪の美少年の姿になって使用人寮に向かって走っていく……ちょっと、というか、相当心配だなぁ。


「――契約応用式召喚魔法・琉璃」


 召喚の魔法陣が庭の一角に顕現し、水の渦が発生――その渦が収束すると、小さな塒を巻いた竜――琉璃が姿を表した。

 更に、地面にその尻尾が触れると同時に、漆黒の髪と瑠璃色の双眸を持つ青い着物ベースの戦衣を纏った美しい女性へと変身する。


『ご主人様、いかがなさいましたか?』


「突然呼び出してごめんねぇ。実は真月に仕事を頼んだんだけど、ちょっと心配で……使用人寮に向かった真月のフォローを任せても良いかな?」


『承知致しました』


 さて、と。これでとりあえず一旦終わりかな?


「エディル殿、後日今回の件について呼び出しがあると思いますのでそのつもりで。恋人を心から信頼するというのは確かに大切かもしれません。婚約者が揉め事に巻き込まれたのかと逸ってしまったところもあったとは思いますが、結果としてアルベルト様にご迷惑をおかけした、だけでなく近衛騎士全体の品位を損いかねない真似をした、その行動の意味を今一度よくお考えください。恋人との関係は私達には関係ありませんから、エルヴィーラ様と今一度よく話し合ってみることをおすすめします。……一つの方向からしか物事を見なければ大局は見えてきませんわ。頭に血が上るのも分かりますが、こういう時こそ冷静に、ですよ」


「……王女宮筆頭侍女殿、アルベルト様、今回の件は本当に申し訳なかった。今度正式に謝罪をさせて頂きたい」


「それは結構です。私も暇じゃないんで。謝罪はアルベルト様だけで大丈夫かと。後は迷惑をかけた私を除く関係各所ですね。……これでよろしいでしょうか? アルベルト様」


「ええ、ありがとうございます。疑いが晴れたのであれば満足です」


「しかしアルベルト殿。僭越ながら意中の異性がおられるならば、早めに関係をはっきりなさるが良いかと思う。そうすればこのような誤解が生まれることも減るのではないか? 相手がどのような方かは知ったことではないが、横から掻っ攫われる可能性もあるだろうしな」


「……掻っ攫われる、ですか」


 ……最後まで本当に余計なことしかしねぇな、この脳筋騎士。


「親友! 会いたかったぜ――!!」


 そして、ボクの方に向かって両手を広げて走ってくるディラン。また面倒なことに……。


「ディラン大臣閣下、またサボりですか?」


「他人行儀だと悲しくなるぜ……ん? 何かあったのか?」


「面倒ごとに巻き込まれました。それで、何か用があったのですか?」


「面倒ごと? ……アルベルトに、それと、そっちは近衛所属の騎士だな。何があった?」


「そちらの騎士様がアルベルト様が彼の婚約者を妄に誘惑すると騒ぎ立てたのです」


「……あー、そして、その事態を収拾させるために親友を引き込んだってことか。……アルベルト、後でオジサンとサシでゆっくり話そうや。俺はお前に言いてぇことがあるんだ」


 ……あっ、これ、ディランがガチで怒っている。珍しいなぁ……パパって呼ばれた時とアクアやオニキスをバカにされた時にしか怒らないのに。


「で、結局用事はなんだったんですか?」


「おう、そうだった! 親友、王女宮にお前の客が二人来ている。面会希望だ、会ってやってくれ」


「分かりました。……統括侍女様への報告は申し訳ないとは思いますが、代わりの者に任せましょう。――契約応用式召喚魔法・欅」


 欅を召喚し「統括侍女様にこのメモを手渡して欲しい」と伝え、《神の見えざる手インビジブル・ハンズ・オブ・ジュピター》でたった今書いた今回の騒動に関するメモ書きを手渡す。


『承知致しましたわ、お姉様。……いつもよりお疲れのようですわ。顔に疲労の色が見られます。ゆっくり休んでくださいね』


「お気遣いありがとう。大丈夫、私は私のできる範囲で動いているだけだから」


『だと良いのですが』


 欅はアルベルトを一度睨め付けてから、俊身を使って統括侍女の執務室へと走っていく。

 その後ろ姿を見届けてから、ボクは王女宮に向かって歩き始めた。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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