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Act.8-297 じゃじゃ馬娘、王女宮へ。 scene.4

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「つまり、ローザ様は前世の記憶を持っていて、二歳で記憶を取り戻してから様々な行動を起こし、その過程で陛下と出会うことになったと。そして、ビオラのアネモネ閣下もローザ様と同一人物だと……俄には信じられないけど、アネモネ閣下の姿を見せられたら信じるしかないわね」


 ちなみに、前世の記憶の中身とか、この世界の真実とかには触れていない。まあ、別に話さなくても問題ないしねぇ。


「ちなみにこいつの恋愛対象は女性だ。男には更々興味はないってことらしいぜ。まあ、最近は性別とは別に人間性とか、魂とか、そういうところも加味してくれるようになってはいるが。チャンスは広がっているってことだな。……それで、お前も気になっていそうなソフィスについてだが、アイツはローザに片想いを寄せていて、それが成就しつつある。お前も聞いたことがあるんじゃないか? 老人のような白い髪と血のように赤い瞳という容姿のアクアマリン伯爵令嬢の噂。あれは、まあ、奇異な容姿と超優秀過ぎるアーネストに対するやっかみが結晶したものだが、あの噂でソフィスは外の世界を恐れるようになって閉じこもってしまった。そんなソフィスを、三歳のローザは勇気を与えて外の世界へ連れ出した。ソフィスにとって、ローザはとても大切な存在なんだ。それこそ、アクアマリン伯爵家と縁を切り、ローザとの恋が実らなければ一生独身で過ごすと、半ば脅し気味に告白するほどだ。お前は、自分の大切な人が罵倒され、巻き込まれただけなのに罵倒した相手が解雇の危機に立たされて仕方なく引き取ることになったのに、飼い犬に手を噛まれるように、更に罵倒され、大切な人が心から大切にしているこの王女宮という場所を馬鹿にされ、それで黙っていられると思うか?」


「そういうことだったのね……だから、あの伯爵令嬢は」


「ボクにとってもソフィスは大切な存在なんだ。仲良くしてとまではいかないけど、彼女のことも少しは慮ってあげてもらいたいなぁ」


「でも、アルベルトのことはどうするのよ! あの近衛のホープから想いを寄せられるなんて、そんなこと前例がないのよ! 令嬢達が喉から手が出るほどの欲しがっているその立場を易々と手に入れたのに」


「そんな立場に元々興味ないからねぇ」


「ヴィオリューテ、そもそも前提が間違っているぜ? アルベルトが選ぶ側じゃねぇ、選ぶのは常にローザ側だ。ローザに想いを寄せる奴は大勢いる。スティーリア、ソフィス、ネスト、フォルトナの三王子、そして前世の友人である柊木咲苗。しかし、ローザが本当の意味で想いを寄せる相手はたった一人――ローザの前世の最古参の使用人の常夜月紫だ。彼女だけを恋人として愛したいと願うローザを少しでも振り向かせようとして、ソフィスを中心に頑張った結果、ようやく可能性を掴んだばかりだ。それなのに、アルベルトが努力もせず、ちっぽけな近衛のホープというだけの地位だけで射止められると思うか? その地位にも、イケメンである容姿にもこいつは何一つ価値を感じていないというのに? アイツはいい加減に気づかねぇといけねぇんだけどな。自分が高嶺の花じゃなくて、挑む側だと。ローザに挑むってことは、何度フラれても諦めない心の強さが必要だ。まあ、アルベルトは執念深いみてぇだし、一回フラれたくらいで諦めないとは思うが」


「ボクとしてはその一回で諦めてくれると本当に有難いんだけどねぇ。要らぬやっかみを受けたくないし。……どっかの令嬢がアルベルトを堕として婚約まで進んでくれたら本当に有難いんだけど。勿論、誠実なやり方でねぇ」


 ジトーっと期待の篭った視線をヴィオリューテに向けたけど、「な、何よ!」というだけで真意は受け取ってもらえなかった。残念。


「まあ、恋愛云々は置いておこう。月紫さんと再会するまではいずれにしろ進展しない話題だしねぇ。というか、はっきり言ってヴィオリューテの方が容姿的にはアルベルトより可能性あるんだよ? 少なくとも、性別の条件は満たしている訳だし」


「ワタクシの方がアルベルトより……って、そもそもワタクシが何故ローザ様に恋愛感情を持たないといけないのかしら!?」


「そうムキになりなさんな。例え話だよ、例え話。あっ、言い忘れていたけど今の口調が素だから、普段は王女宮筆頭侍女らしいキャラ作りをしているって訳。ヴィオリューテもこういう感じで令嬢のキャラと侍女としてのキャラを使い分けられるようになれるといいと思うよ。まあ、難しいとは思うけどねぇ」


「……というか、今更だけど凄い変わりようね」


「流石にこの口調じゃ貴族令嬢も侍女も務まらないからねぇ。これは、ボクという人間を本当の意味で理解している人にしか使わないボクの素の面なんだ。……ってか、令嬢らしい口調でラインヴェルド達に接していると、気持ち悪いとか、似合わないとか言われるんだよ? ボクって純正の公爵令嬢なのに」


「ってか、公爵令嬢なんて不安定な立場じゃなくて、普通に公爵と辺境伯だけどな? ヴィオリューテ、お前は侯爵令嬢であることに矜持を持っているみたいだが、その立場は親が侯爵だから保証されている身分だ。だけど、こいつはラピスラズリ公爵令嬢であるのと同時に二つの爵位を持つ貴族でもある。お前の理屈だと、俺の親友の方がお前より上ってことになるからそのつもりでな。まあ、それで何かが変わるってことではないが」


「わ、分かっておりますわ! 侍女としても貴族としてもローザ様の方がワタクシより圧倒敵に上ですわ!」


「逆ギレしなくてもいいんだけどねぇ。まあ、とりあえず一応上司っていうことになるからそのつもりで仕事の指示に従ってくれればそれで十分。ただ、指示待ち君は要らないから、最終的には指示されたこと以外も自分で必要なことが何かを考え、行動できるようになってくれると有難いんだけどねぇ。まずは、その異動届を書いて提出して、それから、今日は貴女が今まで内宮でどのような仕事を任されていたのか教えてください」


「引継ぎで聞いたんでしょ……聞いたのですよね?」


「確かに内宮筆頭侍女から引き継ぎを受けました。内宮で貴女が何を学んだのか、どこまで教えられたのかについては一通り確認しました。しかし、それをどこまで習得できたのか、貴女が何を苦手にしていて、何を得意としているのか、具体的なことは何も知らない訳ですからねぇ。内宮の侍女が貴女はこれはできると思っていても、実際はできないかもしれない。そういうことは往々にしてありますから。まずは、貴女の口から何ができて何ができないか、何を教えられて何を教えられていないのかを説明する、そうすれば改めて自分ができることとできないことがよく分かるんじゃないかな? 後はできないことをできるようにしていけば、できることをより磨いていけば良いだけのこと。敵を知り己を知れば百戦危うからずだよ」


 一度やると決めたんだから、ヴィオリューテを立派な侍女に淑女に育て上げないとねぇ。そのためには最初からしっかりと丁寧にやって行かなければならない。


「あっ……そうそう、肝心なことを忘れていたぜ。叙勲の件が大方決まった。それに伴い、上位の爵位を叙爵する貴族や、新しく貴族となる代官などを一堂に集めることになった。ローザ、お前にはオルトザール公爵、ウォルザッハ侯爵、インヴェルザード伯爵、ジードラバイル子爵、ヒューレイツ男爵の爵位を叙爵するからそのつもりでな。はい、これ、お前の担当する新領地と、他の叙勲される奴等の名簿だ」


 旧フンケルン辺境伯領と旧インドリス子爵領を統合したオルトザール公爵領、旧フンケルン大公領の三分の二が該当するウォルザッハ侯爵領、旧ジェイザーク子爵領と旧フンケルン大公領の三分の一と旧クロスフェード公爵領の一部が含まれるインヴェルザード伯爵領、ジャサント=ダルファルシア伯爵夫人の闇の魔力への関与に対する罰則として、四分の一が王国に返還されたダルファルシア伯爵領だった地域と旧ヴァールダイン男爵領が該当するジードラバイル子爵領、旧ヴァールダイン男爵領と旧クロスフェード公爵領の一部が該当するヒューレイツ男爵領……うん、無茶苦茶だ。


「これで宮中伯以外はコンプリートだな! 親友!」


「……ヴィオリューテ、今すぐ侍女をやめてどれか一個引き受けてくれるとか……ってないかな?」


「さ、流石に領主なんて無理よ!!」


「おい、親友! 流石に譲渡はダメだろ!! ってか、親友の功績を考えたらこれでもまだまだ足りないと思っているんだぜ?」


「……まあ、領主の仕事自体は大丈夫だけどねぇ。ビオラで引き受けるし。それより旨みのありそうなのは新しく領地の増える貴族や叙勲された新貴族の方だねぇ。ノウハウが無かったり人員が足りないところに、これまでのビオラで領地経営に携わって来た人間を派遣するコンサルタント業……ある程度の収益も期待できるし、新貴族の領地の監視もできる」


「お前もジワジワこの国を支配していっているよなぁ。怖いなぁ、監視社会」


「それはこっちのセリフだよ。気に入らない貴族の爵位と領地どころか命まで奪う『暴君』さん」



 ラインヴェルドが去っていった後、ボクはヴィオリューテの書く書類を上から眺めながら、ヴィオリューテから内宮での仕事内容を聞いていた。


「なかなか綺麗な字を書くねぇ。字を綺麗に書くということは貴族にとっては最初の学び――これはヴィオリューテが少なくとも努力をしてこなかった人間ではないことを裏付けていると言えるよ。ヴィオリューテ、君が凡人か、それとも天才かはまだ分からない。君の言う通り才能があるかもしれなくて、それがまだ発現していないだけかもしれないし、伸ばす機会が無かっただけなのかもしれない。まあ、正直どうでもいいことだよ、君が凡人でも天才でも。凡人でも努力すれば超二流にはなれる。そして、超二流は努力しない天才よりも上だと思う。ヴィオリューテはとりあえず超二流を目指せばいいんじゃないかな? そこで才能が開花すれば超一流になれるかもしれないし」


「……ローザ様は良いわよね。国王陛下にも信頼されているし、天才だし……私とは違うってそう言いたいんでしょう?」


「勘違いしているようだけど、ボクは凡人だよ。天才っていうのは、例えばブライトネスの第三王子殿下のような人のことを言う。まあ、でも、本当に本当の天才っていうのは彼よりも遥かに上だけどねぇ。ボクは一度そういう人に前世で会っている。――勝てないんだよ、そういう人にはどう足掻いたって。努力しなくたってその高みに簡単に到達できる人はいる。だからそういう人のことは考えない、比較しない。自分は自分なんだから、ヴィオリューテはヴィオリューテの速度で上を目指すといい。君は少なくとも努力する才能は持っていると思う、それで充分なんじゃないかな?」


 そういえば、影澤さん(本物の天才)がボクのことを努力の天才だって言っていたっけ? すぐに上達しなくたって努力を重ねればいつかは高みに到達できる。

 ボクがそうだったんだ。ヴィオリューテだって努力の方向さえ間違えなければきっといつか誰の前に出しても恥ずかしくない一流の淑女と侍女にきっとなれる。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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