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Act.8-296 じゃじゃ馬娘、王女宮へ。 scene.3

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 今日のプリムラの今日の日程は、お昼にマナーレッスンを兼ねてのミランダ伯爵夫人との会食、午後にはルーセント伯爵が奥様を伴って海外情勢を話に来るようだ。彼、現役の外交官だしねぇ。そして、そこにバルトロメオが同席するつもりらしく、朝から珍しく執務室に篭って書類と格闘していた。

 いつもこんな感じだといいんだけど……うちの国家中枢はどいつもこいつもやる気出さないのがデフォルトだからねぇ。

 ……アーネストの忙しさが圧倒的でストレスがマッハなブラック職場だよ。


 まあ、プリムラもやることは多いし、ボクだって色々と忙しい。ここで躓く訳にはいかない。

 朝から他国のお客様を覚えようと書類を片手に執事を従えてにっこり笑ったプリムラは、ボクとヴィオリューテを出迎えてくれた。今日も可愛い! アクアが見たらきっと跪いて鼻血を出しそうな可憐さだ。控えめに言って天使!!


「貴女が新しく入った侍女なのね。今日からよろしくね」


「この者はヴィオリューテ、ピジョット侯爵家の七女でございまして、園遊会での給仕にも参加させるべく教育していく予定でございます」


「そう。今は園遊会が近くてばたばたしてるけど、頑張りましょうね」


 まあヴィオリューテが何かを喋ることはないんだけど。ヴィオリューテはただ貴族の娘らしく礼儀作法を守って頭を下げるだけ。ボクが紹介して、プリムラが受け入れるというまあちょっとした通過儀礼みたいなものなんだけどねぇ。


 ボクはこっちの制止も聞かずにヴィオリューテが『私が来たから大丈夫』とか『王女宮の格を上げて差し上げますからご安心を』とかそんなこと言い出すかとヒヤヒヤしていたんだけど、プリムラを見るなり目を丸くして固まった。

 まあ、圧倒的な美少女で、外観だけじゃなくて中身まで美少女な、完璧なお姫様を目の前にしたら、ヴィオリューテのちっちゃいプライドなんて一撃で粉砕されるよねぇ。うんうん。

 烏滸がましいとは思うけど、ボクじゃ逆立ちしたってプリムラには勝てないと思っているよ。


 新しい侍女が来るっていうので実はしっかり新しい髪型とドレスで出迎えているプリムラ。ヴィオリューテが新しい所に配属になってきっと緊張などしているだろうから、せめて温かく出迎えてあげたいという……本当にそういう細やかな気遣いと優しさが、その内面から滲み出るものがそのまま天使のような美しさや可愛さとして出ているんだと思う。


 とまあそういう訳で新人侍女の面通しというのはさっさと終わって「ローザについて学べば大丈夫。困ったことがあったら彼女に言ってね」というプリムラからの全面的な信頼を見せつけてボクとヴィオリューテは退室した。


「神は……不公平、だわ……同じ女ですのに……」


「ヴィオリューテ?」


「王女殿下は何故にあんなに可愛らしいの!? 綺麗で可愛くて将来性が見込めて、挙句に王女で噂によると天才とか……天が二物を与えるどころか完全無欠じゃないの」


「なんでって、そりゃ、内面まで美人だからじゃないですか? いくら可愛い美貌で生まれてきても、性格が悪ければそれが表情に現れます。生まれ持ったものも確かにあるでしょうが、内面から滲み出るものというものもあるのです。姫殿下は決して可愛くなることをゴールだとは考えておられないと思います。本当にヴィオリューテが会ったあのままのお方なのです。下々のもののことまで気遣い、やさしい言葉をかけてくださる。天使という表現も姫殿下の場合は不遜にはなり得ないと思いますわ」


 ホワリエルもあれで結構可愛いものが好きな乙女チックなところがあるし、プリムラと対面させたらきっと気にいるんじゃないかな?


「それに、姫殿下は何も努力をなされずにあのように立派になられたのではありません。王族として、民の上に立つ者として血の滲むような努力を重ねられてきた。先代の筆頭侍女様からもそのお話は伺っておりますし、私が筆頭侍女に就任してからもその努力されているお姿を目にしてきました。別に、ヴィオリューテが努力をしていないという訳ではありませんよ。誰もが努力をしていますし、そこに優劣など存在しませんわ。ただ、天が二物を与えた、天衣無縫のように思える姫殿下も努力をなされている、それだけは心に留めておいてください。優雅に泳ぐ白鳥も、水の下では脚をばたつかせているものなのですよ」


 ヴィオリューテと会話しながら筆頭侍女の執務室に戻り、棚から異動に関する書類のフォーマットを取り出し、ヴィオリューテに手渡す。


「紅茶か珈琲か、どちらがお好みですか? それとも、ハーブティーやジュースの方が良いですか? 私は生憎ヴィオリューテ、貴方の好みを知らないもので」


「紅茶でいいわ。……というか、貴女が淹れてくれるの?」


「ヴィオリューテ、言葉遣いに気をつけなさい。まあ、私一人の時ならば別に構いませんが、貴女は明日から正式に王女宮の侍女ですねらね。貴女の一挙手一投足がそのまま王女宮の、ひいては姫殿下の評価にも繋がるのです。別に貴女が淹れたいというのであればキッチンをお貸ししますよ」


「お願いするわ……お願いします」


「そう、その調子です。呑み込みが早くて助かります」


 意外と素直なのか? いやまあ不満そうな表情は隠してないし、見気で心を読んだら不満で溢れているし、でも、一応侍女をクビになったら困るって本人も自覚はしているから我慢しているってところかな。

 手早く紅茶を淹れ、ヴィオリューテの前に置く。一緒に薔薇と苺のアイスクリームを手渡した。


「書類を書く前に、まずはゆっくりするといいわ。慣れないところで疲れたでしょう?」


「ローザ……様って見かけによらず優しいわよね? ……優しいですね」


「見かけによらずは余計です。まあ、可愛い系じゃないことは自覚しています。本当は可愛いものが好きなんですけどねぇ……『Rosetta』というお店はご存知ですか? あのお店で最近売っているロリィタ系の服、ああいうのが好みなんですよ」


「意外だったわ。……じゃなくて、意外でした。確かに、そういう服はワタクシには似合わないわよね。豪奢な金の髪とか、空色の瞳とか、白皙の美貌とか、そういう恵まれたものを持っているプリムラ様のような女性の方が似合うと思うわ。それに、プリムラ様の側に控えていたあの侍女もとんでもなく美しかった。シェルロッタと言ったかしら? 家名は聞いたことがないし、平民なのよね? でも、立ち居振る舞いはまるで貴族のようだった」


「ヴィオリューテは自分の容姿にコンプレックスを抱いているようだけど、私自身は十分美しいと思いますよ。この国ではおとなしめの女性が人気ですので、好まれる容姿ではないというのが残念なところではありますが。赤茶色の髪にきりっとしたアーモンド形の釣り目、それに言動も相まって、ものすごい気の強い女性という印象を与えるのは間違いないなさそうですね。メイクも少々きつめですし、そういったイメージを強調するものであることは間違いないと思いますわ。もう少しメイクと言動を大人しくすれば大分印象も変わると思いますが、まあ、それはヴィオリューテがどうしたいかということですからね。イメージチェンジしたいなら相談に乗りますよ」


 ヴィオリューテはボクの言葉の何かがおかしいと思ったのか、目を丸くしてボクの方を凝視した。


「……やっぱり、ローザ様は傲慢な令嬢ではないと思うわ……思います。王女宮の侍女達からもプリムラ様からも慕われているし、アルベルトの件で迷惑をかけた私のこともなんだかんだ言って親身になって考えてくれているわ。そんな人、内宮には誰もいなかった」


「そりゃ、触れば針で突き刺してきそうなハリネズミに触る人はいると思いますか? 触らぬ神に祟り無しですよ、内宮の筆頭侍女も含めて。私は仕事だからやっているだけです」


「本当に、そうなのかしら? ……別に仕事ならもっと事務的にだってできるわよね? ……できますよね。……ローザ様、貴女はきっと傲慢な令嬢ではない……でも、何故、貴女は傲慢な令嬢だって言われているのかしら?」


「――そりゃ、ローザがそう思わせておいた方が都合がいいと思っているからだぜ」


 王女宮筆頭侍女の執務室の床にある隠し通路からひょっこり顔を出したラインヴェルドのことをヴィオリューテが二度見した。


「こ、国王陛下!?」


「よっ、邪魔するぜ!」


「お茶漬けでもいかがですか?」


「おっ、そりゃいい、作ってくれ。ちょっと小腹が空いてな」


「ちっ、文化が違うと嫌味が伝わらないねぇ」


 さっと保存しておいた冷やご飯と昆布出汁、焼き鮭でお茶漬けを作ってラインヴェルドの前に置く。


「ちなみに、お茶漬けを出すってどういう意味なんだ?」


「『ぶぶ漬けでもどうどす?』って言って、『早く帰りなさい』と暗黙に伝える言葉だよ。ってかさ、一応国王陛下なんだし、ちゃんと仕事しろよ、クソ陛下。全く、プリムラ姫殿下がこのクソ陛下じゃなくてメリエーナ様に似て本当に良かったよ。腹黒ってなぁにっていう感じに成長していて本当に良かった」


「お前酷くね! まあ、そうだけど! プリムラって本当に可愛いもんな! 純粋だし、聡明だし! 本当に俺に似なくて本当に良かったぜ。ってか、俺別にサボって来た訳じゃないからな。お前に伝言を……と思って来たんだが。――お前がピジョット侯爵家の七女のヴィオリューテだな? 噂は聞いているぜ。とんだじゃじゃ馬娘だっていうじゃねぇか。あんまりローザに迷惑掛けるなよ!」


「それ、お前らの台詞じゃないよ」


「……あの、陛下? 陛下とローザ様はどのようなご関係なのでございますか?」


 ヴィオリューテ、できるじゃないか、敬語での会話。なんでそれが普段からできない。


「どのような関係って……大親友?」


「悪友」


「まあ、そんなところだ。で、さっきのお前の疑問だが、ローザが傲慢っていう噂のそもそもの発端はお前も会っただろうシェルロッタという侍女だ。アイツはメリエーナと縁深い人物……まあ、プリムラの親戚でな。二人で過ごせる時間を作るために行動した結果、行儀見習いに自分のメイドを連れてくるという特別待遇をされた侍女として傲慢令嬢のレッテルを貼られたって訳だ。そして、こいつは無駄にメンタル強いから言いたい奴には言わせておけって放置しているってのが真相。ちなみにこいつが侍女になったのも俺がこいつにプリムラの侍女になって欲しいと頭を下げた結果だ。……そして、お前にとっては一番肝心なことについてだが、こいつはアルベルトを好いちゃいない。寧ろ、アルベルトの片想いだ。そうなるように俺が仕向けた。プリムラとヴァルムト宮中伯家の後継者のルークディーンが婚約に向けて動いているってのは知っているよな? そして、プリムラが臣籍降嫁するならば、側で身の回りの世話をするために家長に連なる身分の者が世話人としてつくことになっているのが通例。義兄嫁の立場ならその資格は充分だろう? 俺はアルベルトを利用して、ローザをプリムラの本当の意味での母親代わりにしたいと思っている。勿論、シェルロッタのことを考えたらお前の言いたいことも理解できるか、それじゃあダメだ。正直、俺はアルベルトのことはどうでもいい、ただ、俺はお前を物理的に繋ぎ止めることができれば、そしてプリムラにとって母親代わりとしてあり続けてくれれば、それで十分なんだ」


 疑問符を浮かべるヴィオリューテに結局、事情を色々と話すことになった。……別に、この件をヴィオリューテに伝えなくても良かったと思うんだけどなぁ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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