Act.8-291 王子宮次席侍女ジェルメーヌ=ディークス scene.1 下
<三人称全知視点>
「ブライトネス王国の王宮には、王宮、王子宮、王女宮、離宮、後宮、内宮、外宮の七つの宮が存在することはアルマ様もよくご承知しておられると思います。王宮は統括侍女、王女宮は王女宮筆頭侍女、離宮は離宮筆頭侍女、後宮は後宮筆頭侍女、内宮は内宮筆頭侍女、外宮は外宮筆頭侍女がそれぞれ頂点に立って仕切っており、それを統括侍女が統括しているという形式です。このうち、王宮は統括侍女が睨みを効かせています。しかし、他の宮にはなかなか睨みが効きません。ある程度、各宮の筆頭侍女に力が与えられているのは、各宮の使用人を統率し、必要があれば統括侍女の指揮を仰ぐ必要があるからです。勿論、これも説明するまでもない話だと思います。では、視点を変えまして、ローザ様を含む皆々様の目が届く範囲、統率の取れる範囲という点で考えてみましょう。ローザ様親派は、王宮、離宮、後宮の三つ――そこに、ローザ様ご自身が統括する王女宮を含め、この四つは何か不穏な動きがあった場合、いち早く対応することが可能です。王女宮以外の宮にも私のような人間は送り込まれていますが、彼女達の出番はほとんどないと思われます。彼女達は上司への報告と共に、事情を説明した各宮の筆頭侍女へ報告が義務化されております。問題は、内宮、外宮、王子宮の三つです。このうち内宮と外宮については、ローザ様の親派ではないことから、ローザ様達にとって何かしらの不利益になるような行為が報告されれば、その情報を上司に報告し、その上司からローザ様に報告が上がり、そこから打つ手を検討することになると思われます。王子宮については少々複雑で、アルマ筆頭侍女様もご存知だと思いますが、第一王子専属侍女、第二王子専属侍女、第三王子専属侍女、第四王子専属侍女の四名の上に位置するという形をとっており、ある程度の裁量が専属侍女に与えられています。このうち、第一王子専属侍女と第二王子専属侍女はローザ様の親派、第四王子専属侍女は親派ではありませんが、特に危険はないと判断されております。問題は第三王子専属侍女で、私の役割の一つには彼女の監視も含まれています。勿論、それだけではありません。アルマ筆頭侍女様はバルトロメオ王弟殿下との婚約が決まりました。結婚後も侍女として仕事をなされると思いますが、負担も当然増えることが予想されます。そこで、私はアルマ筆頭侍女様の補佐として活動し、更にアルマ筆頭侍女様が筆頭侍女を退官為される際には私がこの宮を取り仕切るようにと指示を頂いております」
「……つまり、王弟殿下と婚約し、今後侍女業務に専念できない場合に備えて補佐と、私の退官後は筆頭侍女を引き受けるために次席侍女として王子宮に来てくださったということね。とても心強いわ。……でも、他にも潜入している方がいるなんて……まるで公安みたいね」
「ローザ様は公安をモデルに、諜報メイン、暗殺も可能な組織を作り上げたと仰っていました。正式な組織の名称はビオラ商会合同会社警備部門警備企画課、通称、諜報部隊フルール・ド・アンブラル。ちなみに、私の直属の上司はこの局長で、ローザ様は、その上司の上司ということになります。お姉様は雲上人になってしまわれました」
「……お姉様?」
――えっ、今、圓さんのことをお姉様って呼んでいたわよね!? 確かに、女性として生きる幸せを教えた圓さんはジェルメーヌさんにとってはお姉様……なのかな?
というか、頬を染めた姿はまるで恋する乙女みたいで……あれ、これって私より女子力高いんじゃない!?
「えっ、ええっと……ジェルメーヌさんは侍女になったばかりだけど、分からないこととかってないのよね? 本来はお仕事の内容を教えないといけないのだけど」
「問題ありませんわ! 書類仕事からダンス、掃除やお茶の淹れ方や暗殺に至るまで全てローザ様にお教え頂きました」
「……暗殺は、いらないんじゃないかな?」
そんな物騒なことはやめて頂きたいです! ……って、万が一の場合は指示を受けて処断する役目もきっと彼女は担っているんでしょうね。
「ですが、まだまだ未熟者です。至らぬところが沢山あると思いますが、これからどうぞよろしくお願いしますわ。アルマ先輩」
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
デートで使った分も取り返そうと、人払いをした筆頭侍女の執務室で書類を宙に回せながら超高速で仕事を進めていく。
《神の見えざる手》って便利だよねぇ。
「おや、ローザ様、お早いお帰りですね。逢引きは楽しかったですか?」
ちなみに、一緒にいるのはオルゲルトとソフィスの二人。
オルゲルトは今日の侍女達の仕事内容の報告のメモを机に置くために、ソフィスは仕事がひと段落着いたところで、もしかしたら筆頭侍女の執務室に戻ってきているかもしれないと思ってきたらしい……凄まじい先見の明というか、それって超能力? ディランの友情センサーとレーダーを笑えないよ!!
「合い挽き肉は買ってきていませんよ?」
「オルゲルト執事長……揶揄うのはおやめください。ローザ様はあの近衛騎士に対して何も思ってはいないのです。しかし、姫殿下とヴァルムト宮中伯子息のことを思うからこそ、こうしてしたくもないデートに付き合うことになっているのです。……それに、これほど早く戻ってきたということは何らかのトラブルに巻き込まれたのではありませんか? ……あの近衛騎士も、ローザ様のことを大切に思うなら身を引くべきだというのに」
「まあ、ソフィスの言う通りだと思うよ。つくづく、あのクソ陛下は面倒なことをしてくれたものだ。……ボクはただ、プリムラ姫殿下とシェルロッタの関係を良好にして、彼女をプリムラ姫殿下の母親代わりにできればそれで十分だっていうのに……今世紀最大級の妙手だよ、悔しいことに。アイツはアルベルトを使って外濠を埋めようとしている。……ボクが陛下の立場ならそくするってことは、まあ、当然あれほどの策士がやらない訳がないし、ボクとしても打つ手はない。アルベルトは、ソフィスさん達と違って元々恋人になる最低条件すら満たしていないから、候補にすら上っていない。園遊会が終わった時に全てを告げて振るつもり満々だけど。実際、この件を切っ掛けとしてルークディーン=ヴァルムト宮中伯子息とプリムラ姫殿下の婚約に何らかの破壊工作をしないように言い含めてきたから問題はないのだけど」
「圓様、最低条件とは何なのでしょうか?」
ソフィスは興味津々だねぇ。でも、そのハードルを超えたから今があるんだよ?
「ボクはスティーリアのことも、ソフィスさんのことも、ネストのことも、ルーネス殿下のことも、サレム殿下のことも、アインス殿下のことも大切に思っている。恋人になっても良いと思うくらいにねぇ。……ルーネス殿下達に関しては今でもまだ多少は生徒として見てしまうことがあるんだけど。ただ、そういった気持ちとは別の次元で何様だと思うかもしれないけど、二つのハードルを用意しているんだ、平等な形にするためにねぇ。一つは、後見人がいるかどうか、その恋愛を肯定し、応援する人がいるかどうか。ソフィスさんの場合はアクアマリン伯爵家がそれに当たる。そして、もう一つは抱えている問題の解決――ソフィスさんの場合はその容姿と向き合って、外の世界に踏み出すこと。ソフィスさんはそれを成し遂げた、自分の力でねぇ」
「わ、私は……私が外の世界へ足を踏み出せたのは圓様のおかげで」
「でも、最後に覚悟を決めて一人で足を踏み出したのソフィスさん自身なんだよ。今のソフィスさんは本当にかっこいいと思うよ……たまに暴走するけど」
「……それは、申し訳ございません」
分かるけどねぇ、大好きな人のためならと思うとちょっとだけ暴走するのは。ボクも月紫さんに危害を加えようとする人がいれば躊躇いなく殺すし……って、ボクの方が危険か。
「まあ、話を戻しますが、逢引き……に見える、日頃のお礼の手渡しについては無事に終えました。一緒にお食事もして、それから本屋に行こうということになったのですが、ヴィオリューテ嬢と遭遇しまして、面倒だったので後はアルベルトにお任せして帰ってきてしまいました。まあ、あの方は私を傲慢な令嬢だと信じているタイプですし、自分はアルベルトをボクから解放したのだから、有難く思えみたいなことを本気で考えているんじゃないですかねぇ。まあ、ボクがそのまま居ても収拾はつかなかったですし、お邪魔虫は消えて正解だったと思いますよ。ちなみに、ヴィオリューテは侍女服の姿でしたので、まあ、アウトでしょうね」
「まずいでしょうなあ……」
「本当にあの近衛騎士は何を考えているのですか! それに、ヴィオリューテ侯爵令嬢も! 圓様が傲慢な令嬢、ですって!? これほど慈悲に溢れ思慮深い御方はこの世にいらっしゃらないのに!! ……揃いも揃って圓様が大変な時期に雑事を……ここは、アクアマリン伯爵家の影を使って……ラピスラズリ公爵家ほどの力はありませんが、侯爵令嬢一匹仕留めることなど雑作もありませんわ」
「ソフィスさん、どんどん過激になってきたけど、それは流石に大問題になるからやめてねぇ。……まあ、悪い兆候っていうのは事実だよ。これでもボク、前世は全く関与する気ない痴話喧嘩に巻き込まれて殺されてて、ちょっと根に持っているんだよねぇ。だから、誰得な痴話喧嘩に巻き込まれたくないというか、好きでも無い人間のためにいらない恨みを買いたくないというか……アルベルトはボクのストライクゾーンに指一本分も引っかかってないけど、女性人気高いでしょう? 本当に面倒なことこの上ないよねぇ」
「そうですわね……本当に、あの近衛騎士は何を考えているのやら。愛しているなら、迷惑を掛けずに身を引くべきなのに。それから、邪魔なものを徹底的に排除して圓様のお手を煩わせないかのいずれかですわ! それができないなら、ただの圓様を困らせるだけの存在です!」
ソフィスの怒りが心頭に発してしまったようで、オルゲルトと二人で宥めるのが大変だった。
……ソフィスってたまにキャラが変わるよねぇ、まあ、そこもまた可愛いんだけどさ。
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