Act.8-288 圓を取り巻く恋模様、動き出す scene.5
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
とりあえず、園遊会の後にアルベルトと会う約束をして、そこでこの恋愛擬きに決着をつけることになった。
プリムラとルークディーンの関係にヒビを入れないことも約束させたし、目的は大方達せられたというところだ。
空気が若干重くなっていたものの、料理がやってくると一変した。
「これは、なかなか美味しいですわね。しかも、価格も良心的ですし」
「気に入って頂けて何よりです。……ただ、少し不安ではありました。ローザ殿はビオラとの付き合いが深いですから、舌が肥えているのではないかと思っていたので」
「……まあ、ペチカさんが作る料理も美味しいですからね。……ただ、このお店をアルベルト様がとても気に入っている理由が私にも分かった気がします。王都の外れにある知る人ぞ知る名店といった感じですね。ゆったりとした空気感もとても落ち着きます」
「『Rinnaroze』ですか、近衛騎士の中でも評判になっていますよ。連日満員だとか……店の外にまで列ができると聞いています。繁盛しているのは良いことですね」
「その分、ペチカさんは休みもなく働きっぱなしなので、かなり心配ですが。店が終わっても次の日の仕込みや、新作の料理の考案などとても大変なのだそうです」
……全く、ほとんど休み無しで働くとか誰に似たんだか。
ホールスタッフと他のシェフは基本週休二日で、交代制でやっているみたいだけど、ペチカは毎日出勤して指揮を取っている。それだけ頑張っていることをみんな知っているし、実際に彼女の実力が高いことも知っているから、あれだけ多くの料理人がついてきてくれるんだろうけど、やっぱり、ペチカの体調を心配する人はホールスタッフ、キッチンスタッフ問わずかなりの数がいるものの、その忠告もあまり効果がなく相当無理をしているらしい。
休むことがあっても、それはボクの用事に付き合わせてしまう時と、他の料理人との情報交換をしている時であって……結局料理しているし。
……大丈夫かな? 少し心配だよねぇ。じゃあ、ボクが言って説得できるかと言ったら微妙なんだよなぁ……そもそも、お前が言うか? みたいなことになりそうだし。
パスタを食べ終え、いよいよデザートだ。
この店のデザートは日替わりで一品と決まっているようで、本日のデザートはキャロットケーキらしい。とても美味しそうだ。
「ローザ殿は甘い物がとてもお好きなのですね」
「まあ、そうですが……よくお分かりになりましたね」
「蕩けそうな笑顔で食べていますから」
そんなに蕩けていたかな? まあ、甘いものは好きだからねぇ。
神の舌とか、そういうのを別にして、ボクも甘いものを食べたら幸せになる。ただ、そこまで蕩けているとは思わなかったなぁ。
「苦手な方もいることは承知していますが、私も甘いものは人を幸せにすると思っていますから」
「私も同意見です。……しかし、ローザ殿と居ると退屈しませんね」
「それはどういう意味でしょうか?」
「色々な表情を見せてくれるなぁ、と思いまして。普段の真面目な表情と、時々見せてくれる愛らしい笑顔。あまり喜怒哀楽をはっきり見せてはくださいませんが、貴女と一緒に過ごして、色々な表情の貴女を見てみたいと私は思っているのです。……私は楽しみにしていますよ、園遊会の後の貴女のお話を」
……そんな喜怒哀楽を出していないっけ? アルベルトの前では見せていないけど、アクア達の前では結構喜怒哀楽見せている気がするんだよなぁ。
やっぱり、一番素の部分を見せられるのはアイツらだけなのかもしれない。前世だと家族には普通に見せていたんだけどねぇ、弱みとか。
「しかし秋のイベントは少しばかり気が重いですね」
「そうですか、やはり近衛の方々にもご負担を強いてしまいますからねぇ」
「いえ、今年は冬を前に活発化する魔物が多く見られるとの報告が上がっており、そちらにも人員を割かなければならないのです。それに加え、今年はかなり厄介な者達が王都を襲撃してくるのではないかという噂もあるようで」
「『這い寄る混沌の蛇』冥黎域の十三使徒が一人、オーレ=ルゲイエですわね」
「ご存知でしたか……近衛にも彼が主力として攻めてくるという情報が入ってきています。それ以上の軍勢が攻めてくる可能性も。こちらについては、闘気と八技を完全に習得していない騎士については近衛も含めて避難誘導に回れというお達しが出ていますが」
「ご心配には及ばないかと。アネモネ閣下から事情は伺っておりますが、こちらの戦力で対処できるそうですわ。あのアネモネ閣下も今回の防衛に全力を尽くすつもりだとお聞きしていますし、何の問題もないと思います。まあ、我々非戦闘員には避難誘導しかできませんが」
……といいつつ、ローザは混乱に乗じて途中で蒸発して、アネモネとして参戦するつもり満々だけど。一応、念のためにペルちゃんにローザになってもらってねぇ。
「避難誘導も大切な仕事ですよ。それに、私もなんとか滑り込みで八技と闘気を会得しましたが、参戦するのは難しいと思っています。アネモネ閣下主催の大会に参加した時に、最前線で戦う方々の強さを思い知りましたから」
まあ、実力が分かっているということは良いことだ。
八技と闘気習得して「ヒャッハー! 俺は強いぜ!」みたいに勘違いしていると、徒に命を散らすことになるからねぇ。
しかし、魔物の活発化か。妙な活発化が見られていた、というフラグからの巨大な魔物が出現してゲーム主人公の父親である傭兵が登場することになる。
いよいよ『スターチス・レコード』も本格的に始動する訳で……『冥黎域の十三使徒』にばかり気を取られていてもいいか? と思うよねぇ……まあ、しばらくは放置でいいと思うけど。
既にシナリオから大幅に外れているし、陛下は邪魔するなら排除する気満々、そうじゃなければ第三王子と結婚させて王妃に据える気満々だし、もうこれ、逃げられないと思うんだぁ、お姉さん。ご愁傷様です、南無南無。
「アルベルト様はそちらにご出陣なさるのですか?」
「いえ、私は城詰めとなります。寮で同室の、同期が行くんですが……正直どちらが良かったのかは分かりませんね」
「そうなのですか」
まあ、あっちはフォルトナ=フィートランド連合王国の騎士団を一つ派遣するって聞いているので問題ないだろう。主力は王都防衛戦に集結させておかないといけないし、なかなか大変だよねぇ。
あっ、ちなみに派遣されるのはカルコス=バーキンス率いる元ルネリスの街の警備隊からなる部隊のようだ。彼らなら、安心して巨大魔物の件は任せられるから、オルパタータダから話を聞いた時に内心素晴らしい人選だと褒めたよ……調子乗りそうだったから、裏の見気で本心は隠したけどねぇ。
◆
「アルベルト=ヴァルムト様じゃございませんの!」
まあ、概ね良い雰囲気? 微妙な雰囲気になることもあったものの、しっかりと髪飾りの借りは返したし、これで貸し借りゼロの状態に戻して、さあ、園遊会まで互いに頑張ろう、そして、園遊会の後にしっかりと説明した上で告白のお断りをしよう(ちなみに、アルベルトはかなり嫉妬深くて執着心が強いタイプなので、どこかの連中みたくアタックを続けてくる可能性は無きにしも有らずなんだけど、それについては考えないことにした。まあ、ボクの正体が外道の残忍な、まさに悪役令嬢と分かれば流石に手を引くだろう、そんな物好きはそうそういないだろう……し? いや、スティーリア、ソフィス、ネスト、フォルトナの三王子……って少ないという割には少々多過ぎるような気がするんだけど)と思いつつ店を後にし、それじゃあ帰る前に本屋に寄りましょうか、なんて会話をしながら並んで歩いていると後ろから大きな声が掛けられた。
勿論、アルベルトに対してだけですよ。ボクは無視です。そして、それについては何も思いません……強いて言うなら、面倒ごとには関わりたくないなという感じです。
こういうタイプって苦手なんですよねぇ、オハナシでは解決しないでしょうし、手っ取り早く口を聞けなくする……のは物騒過ぎますし、こういう相手は抹殺するに限る……って、物騒な思考になっていた。
昔は、ホテルと提携したゲームイベントを台無しにするクラッカーとかが現れたら、遠慮なく住所を特定して化野さんに始末させるとかしていたけど、その頃はまだマシだったからねぇ……ちょっと腹立ったからって消すっていう思考はちょっとタカが外れてきているのかもしれない。危険だ、危険。
えっ、昔も十分ヤバかったって? 反省はしていませんし、後悔もしていませんが、何か?
全く顔見知りではないけど、一応全ての王家に仕える使用人は把握しているので知っています。相当な問題児ですね、はぁ。
晴れやかな笑顔で、駆け寄ってくる燃えるような赤髪とアメジストのような瞳を持つ少女はヴィオリューテ=ピジョット――ピジョット侯爵家の令嬢で七女で、婚活するために侍女になった代表格みたいな人物だ。
他の家のことを論うのはあまりよろしくないとは思うけど……ピジョット侯爵家の資産はお世辞にも多いとは言えない。そのため、長男が跡継ぎとして次男が分家筋に、それ以降は各々で道を見つけなさいという方針という方針のようだ。
長女と次女は懇意にしている貴族の方と縁談があったが、三女以降は勤めに出て縁があればということになり、ヴィオリューテも婚活するために侍女になったという。
……一番面倒なのは、こいつが、隠し攻略対象アルベルトルードのライバルキャラだってことか。
ストーリーの中では、ワガママで、能力が低いのに自分はできる! って言い張って失敗ばっかりして、器用なヒロインを敵視しているという、そういうキャラクターだった。
まあ、描かれていないだけで実際は、本人が「特別」な存在であると頑なに信じ続けてしまった、彼女が凡人であると気づけなかったという、ある種悲劇的な性質を持っているんだけど。
というか、己が侯爵令嬢であることに誇りを持っているのはいいとして、侍女に就職した以上まずは侍女なんだけどねぇ……使用人が身分を振り翳すって、それ何? って感じなんだよ?
懇切丁寧に仕事を教えなかった、面倒だからと投げ出して、誰もヴィオリューテが凡人だと指摘しなかった、そんな先輩達にも責任はあるんだろうけど……まさか、ボクが責任を取るのか? いや、まさかね……。
まあ、ボクみたい凡人も努力したら超二流にはなれるのですから、ヴィオリューテもなれるんじゃないかな? ……まだ、巻き込まれると決まった訳じゃないし、ここは穏便に穏便に……面倒ごとが山積みなのに、これ以上面倒ごとはいらないよ!!
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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