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Act.8-280 ブライトネス王国の王都にて、〝トリプル・デート〟 scene.2

<三人称全知視点>


「素晴らしい演劇だったわ。私も色々な演劇を見てきたつもりだったけど、これほど感動したのは初めてよ」


 ブライトネス王国で有名なものを挙げるとすれば、必ず演劇が上がる。それほどまで演劇文化が栄えている国だ。

 王妃であるカルナも、招待を受けて何度か見に行ったこともある……こちらはほとんど公務がメインと言える状態ではあったが。


 公爵令嬢時代にも家同士の繋がりを強固にするため、派閥の貴族の同年代の令嬢達と一緒に演劇を見に行くことはあった。しかし、それはどちらかといえば演劇そのものというよりも、その劇場という場を利用した社交を目的にしているのであって、これまでカルナは演劇を満足に楽しんだことが無かったのである。


「なんかアイツらしい脚本だったなぁ。いや、勿論、それを上手く表現する役者も大切だ。……だけど、俺はやっぱり本っていうのは大切だと思うんだ。いくら上手い役者を集めたって、本がダメなら台無しだ。役者は最悪、代役を立てるってこともできるし、配役を変えることだってできるが、脚本家は替えが効かない……いや、別に替えることはできるが、それじゃあ、もう別の演劇になっちまうだろう?」


「流石は陛下。私も脚本家の端くれですが、本というものの大切さは実感しているつもりです。勿論、我々がいくら素晴らしい本を書いたところでそれを演じてくれる人がいなければ意味がない、それも確かです。しかし、この劇はアネモネ様に支えられていると、何度見ても実感します。あの方は当て書きというものを好んでおられるようで、モブのような登場人物まで一人一人の演者の性格や仕草などを読み込み、上手くその要素を取り入れられます。私にはとても真似ができません」


 ラインヴェルドとカルナのもとに再び現れたヴィンセントは、嬉しそうにアネモネのことを語った。

 とても彼女のことを尊敬しているのだろう。それがひしひしと感じられる。


「ローザ様は、敵役のメリッサまで幸せにして……本当に優しい方だと思います。本当に登場人物、一人一人を愛していることが分かります」


「まあ、そうやって敵役のことも幸せにしようという考えに至ったのは転生してから、らしいけどな。ただ、一人一人の登場人物に愛着を持っているということは間違いないと思うぜ。……アイツは本当は嬉しかったのかな? 自分の創作した登場人物が間近で生きているのを見て。……それとも、苦しさの方が強かったのか。……俺は少しでも嬉しさが勝っていてくれたら嬉しい。アイツが一度は夢見て、夢破れ、ハートナイアが一生懸命作り上げようとした、圓の理想の世界。……アイツには、この世界で幸せになって欲しい。罪悪感に駆られるんじゃなくて、全てを捧げて贖罪をしようとするんじゃなくて、俺達にしっかりと向き合って、そして一緒に歩いて欲しい。……いい加減、アイツだって幸せになっていいと思うんだ」


「そう、ですわね。……あの方は何も悪くないのですから。それに、ローザ様はこの世界をこの劇のようなハッピーエンドに変えようとなされています。……悪役令嬢だか、なんだか知りませんが、あの方はそんな方ではありません。とても優しくて、色々なものが見え過ぎて、ちょっとだけ捻くれている、普通の女の子なのですから」



 まだ昼食までは時間の余裕がある。ヴィンセントもローザにタイムスケジュールを聞かされているので、二人を劇場の地下へと案内した。

 そこは、俳優達の控室もあるバックグラウンド――しかし、ヴィンセントの目的地は控室ではなく、これまでに劇で作られた小道具を展示してある小さな展示室であったようだ。

 ヴィンセントはそこで「また、時間になりましたらお迎えに上がります」と伝えると、その場を後にした。


「よっ、ラインヴェルド。デートか? カルナ王妃も久しぶり!」


「お前も来ていたんだなぁ。そっちは両手に花デート?」


「お久しぶりでございます、オルパタータダ陛下、イリス王妃殿下、シヘラザード王妃殿下」


「まっ、そんなところだ。先日、うちの王城に来て、誘いを受けてな。『クソ陛下のことだから、どうせ結婚してからイリス王妃殿下とシヘラザード王妃殿下のどちらか一方でもデートに連れて行ったことはないんでしょう? 三人の王子殿下ももうしっかりしているんだし、王城に残しても大丈夫だろうから、たまには三人で劇を見て、ゆっくり食事をしてもいいんじゃない?』って痛いところを突かれて、そのままセッティングされちまった」


「お久しぶりですわ、カルナ王妃殿下」


「お久しぶりです、カルナ様。……デートのお誘いなんて珍しいこともあって驚きましたが、ローザ様の差し金だったのですね」


 シヘラザードにジト目を向けられ、「俺ってそういうタイプじゃねぇの、よく知っているだろ?」と真っ向から言い返すオルパタータダ。

 いくつになっても、やっぱり夫と過ごす時間は大切だし、できるなら二人きりの甘い時間を過ごしたいと思っている女性陣達の反応は冷ややかだ。


「オルパタータダ……お前」


「ってか、お前だって俺と同じタイプだろ!? 絶対にアクア達と冒険している時間の方が長いじゃねぇか!!」


 妃達との甘い時間よりも、男の友情というか、自分達の楽しみを優先する似た者同士のラインヴェルドとオルパタータダである。


「……しかし、本当にそっくりですね。ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下は」


「イリス、本当にそう見えるか? 俺とラインヴェルドって全然似てねぇだろ? こいつの方が性格が悪い」


 似たり寄ったりじゃないかな? と思うカルナ、イリス、シヘラザードの三人。


「まあ、冗談はいいとして、元々ブライトネス王国とフォルトナ王国は一つの国としてデザインされていたみたいだからなぁ。俺とオルパタータダも、ローザによれば比較的近い魂らしい。それに、ブライトネス王国とフォルトナ王国の妃の立ち位置にも結構な共通点があるだろう?」


「お前の方はメリエーナで、俺の方はアーネェナリアだった。そして、どちらも早いうちに死んでしまっていうことも共通しているなぁ。ただ、シヘラザードがアーネェナリアの死に直接関わっている訳じゃないのに対し、そっちは正妃がメリエーナ暗殺に関わっていたり、そっちはカルナが密かにメリエーナの擁護に動いていたのに対し、こっちはイリスが大々的にアーネェナリアと良好な関係を築いてカルナを牽制していたって違いもあるが」


「…………本当に、悔やんでも悔やみきれないことを沢山してしまったと思っていますわ」


「まあ、過ぎたことだし仕方ねぇだろ。シヘラザードは結局、直接的にはアーネェナリアに対して何かしらの危害を加えている訳じゃないしな。……俺もラインヴェルドほどは怒っていない」


 メリエーナが平民だったのと、アーネェナリアが下級貴族の生まれだったのは、その立場にも大きく影響した。

 また、カルナが側妃だったことも表立って正妃シャルロッテに対抗できなかった一つの原因となっている。


 オルパタータダが僅かにラインヴェルドより恵まれていると考えるのは、最後までアーネェナリアが一人にはならなかった故だ。アーネェナリアにはイリスが居たが、メリエーナの周りには誰も居なかった。

 きっと、ラインヴェルドの苦しみは自分の比ではないのだろう。


「ブライトネス王国とフォルトナ王国が一つの国でしたら、どのような形になったのでしょうか?」


「カルナと全く同じ質問を俺もしたことがあるが……ブライトネス王国の魔法とフォルトナ王国の騎士団を兼ね備えた最強の国になっていたみたいだ。フォルトナ王国の三王子の方は、隣国が欲しいということでブライトネス王国から派生させた際に設定したということだから、きっとブライトネス王国の四王子と姫が優先されていた」


「……ブライトネス王国の魔法に、フォルトナ王国の騎士団……恐ろしいわね」


 カルナは自国の王宮を破壊しながら毎度暴走を続ける騎士達に、更に魔法戦力が加わった姿を想像し、ブルっと震えた。


「それよりも、ラピスラズリ公爵家が騎士団と共にいるって方が恐ろしいんだけどな」


「……そう、ですわね」


「まあ、それよりも今は展示室だ。折角入れてもらえたんだし、じっくり見ていこうぜ」


 演劇で使われた衣装や小道具は全て細かいところまで作り込まれていることが分かる。その中でもいくつかあるローザ作の衣装や小道具は他のものより明らかに抜きん出ており、ドレスなどはそのまま夜会に参加しても全く問題ないどころか注目の的になるであろう仕上がりだ。


「流石はローザさんね。……本当に綺麗だわ。私も無理を承知でドレスを作ってもらえないかお願いしてみようかしら?」


 イリスはドレスを惚れ惚れと見つめながら、ビオラ経由でお願いできないか早速考えているらしい。


「イリス王妃殿下、うちの母上も頼めば作ってもらえたようなので、きっと大丈夫だと思いますよ」


「あら、ローザ様が王太后様のドレスを? それはとても羨ましいお話だわ」


「イリス様、流石に今はやめておいた方が良いと思いますわ。……数日前に宰相のアルマンが二十人ほど若い文官をブライトネス王国に派遣していました。事情は分かりませんが、ブライトネス王国で何か重大なことが起きたのですわよね?」


「別に緘口令は敷かれていないし、アルマンも知っているなら問題ねぇだろう。『這い寄る混沌の蛇』の件を切っ掛けに大規模な断罪を行ったんだ。その結果、かなりの貴族に影響が出てな、お取り潰しやら降格やら、逆に昇格やら色々で、特に腐った一部の貴族連中の代わりを探すのに苦労している」


「……私の生家のクロスフェード公爵家も子爵まで転落致しました」


「……それは、お気の毒ですわ」


「いえ、お気遣い頂くような話ではありません。私も、あの家にほとほと愛想が尽きておりましたから。あの家は私に縋ってきましたが、メリエーナ様の件で随分と邪魔をしてくださいましたので、遠慮なく縁を切らせて頂きました」


 カルナの言葉に二の句を告げなくなる、イリスとシヘラザード。

 とはいえ、イリスもカルナの気持ちはよく分かる。イリスもアーネェナリアの側妃就任に生家の公爵家があまり良くない反応を示したことを覚えている。

 まだ多少は良心を持ち合わせていたようで、アーネェナリアを追い落とすように指示を受けたことは無かった……が、カルナはその指示を恐らく何度も生家の公爵家から受けていたのだろう。


 その強引なやり方は決して褒められたものではない。しかし、横暴を繰り返してきた生家に面と向かって三行半を突きつけたカルナに、イリスが内心天晴れだと感じたのも事実だ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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