Act.8-278 ブライトネス王国の貴族秩序の大混乱 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
ボクの保有している屋敷の一つ、今は無人になっているドゥンケルヴァルトにある屋敷に転移したボクは、神聖魔法を込めた指輪を嵌めた。
「聖界の神虎獣」
聖なる魔力で形作られた虎に、ボクはありったけの霊力を注ぎ込む。
リーリエだったらこの行程でかなりのダメージを喰らっていただろうけど、アネモネなら問題ない。
「仮名を与えられし聖なる獣よ、君に真名を与えよう――『白夜』、君の名前は『白夜』だ」
その瞬間――銀霊の力で聖界の神虎獣に大いなる業が起こり、銀色の文字が聖界の神虎獣の周囲に生まれて少しずつ収束していき、やがて首輪となって彼女の首に収まった。
聖界の神虎獣――白夜は白い扇状的なミニドレスを纏った虎耳を持つ長身の女性へと変身して、ボクの目の前に傅く。
『白夜という素晴らしい名前を私にお与えくださり、ありがとうございます。全ては貴女様の御心のままに、何なりとお申し付けください』
「初めまして、白夜。ボクは百合薗圓だ。まあ、他にも色々と名前はあるんだけどねぇ。……それと、ボクは君のご主人様という訳ではなくて、君とも良好な、友人のような関係を築いて行きたいと思っていてねぇ。とはいえ、君にはちょっとだけ大変な役割を担ってもらいたいのだけど」
『――身に余る光栄でございますわ。私、白夜は身命を賭して圓様の役に立つべく頑張らせて頂きます』
「気持ちは嬉しいけど、そういうものを求めていないというか。……色々とお願いしたかったけど、その前に一つだけ大切なことを話しておかないといけないみたいだ。白夜、ボクのために命を賭ける必要はないし、そんなことは望んでいないよ。ボクのために頑張って、結果として命を落とすような、そんなことになったら悔やんでも悔やみきれない。だから、何よりもまず、自分の命を大切にすること。ボクは別に白夜を捨て駒みたいに使いたいってことじゃないし……君も今日からボクの大切な家族の一員なんだ。まあ、当然そんなことを言われても困惑するだけだろうけど」
『……いえ、とても嬉しく思います。承知致しました、私の命を危険に晒さないように細心の注意を払いつつ、圓様の願いを叶えるべく任務を遂行させて頂きます』
「よろしくねぇ。さて、君にお願いしたい任務は二つ――まずは、諜報部隊フルール・ド・アンブラルという新設された女性のみの諜報部隊のリーダーだ。彼女達から上がってくる報告をボクに上げつつ、必要であれば、君からも指示を出して欲しい。中間管理職みたいな大変な仕事だけど、白夜さんならきっとできるよ。もう一つは天上の薔薇聖女神教団に聖女候補として潜入してもらいたい。天上の薔薇聖女神教団はブライトネス王国の国教で、ボクのある意味本来の姿といえるリーリエを信仰している教団なんだけど、昨今は色々なところに面倒な連中が潜入していることがあってねぇ。天上の薔薇聖女神教団も一部が汚染される可能性はないとは言えない状況なんだ。上層部だけでは見えないところもあるだろうから、白夜さんには天上の薔薇聖女神教団の内部から厄介な行動を起こそうとしている連中がいないか確認と、必要であれば対処をお願いしたい。どちらも大変な仕事だけど、引き受けてもらえるかな?」
『承知致しました。二つの任務、どちらも謹んで引き受けさせて頂きます』
「良かった、これで心配事が一つ減ったよ。さて、白夜さんも顕現してばかりで結構色々なことをお願いされて少しゆっくりしたいと思うけど、その前に強化だけサクッとさせてもらってもいいかな?」
『お心遣い、ありがとうございます。私はまだまだ大丈夫ですわ。強化、よろしくお願いします、圓様』
名前:白夜
種族:聖霊、聖界の神虎獣、霊獣、白虎
所有:リーリエ
HP:60,000,000
MP:30,000,000
STR:50,000,000
DEX:40,000,000
VIT:40,000,000
MND:20,000,000
INT:10,000,000
AGI:90,000,000
LUK:10,000,000
CRI:21,000,000
銀霊によって引き起こされる『名付け』という名の大いなる業によって生まれたことを示す聖霊という新たな種族を持つ白夜に、『妖怪神獣系』の白虎の種族を加えた。
完全な虎の姿になる聖獣態、虎の要素が残る獣人態、完全な人型になることのできる人形態の三つを持ち、聖女候補としての活動は、この人形態で行ってもらうことになる。
「さて、と。実はこれからラピスラズリ公爵家――ボクの生家で夕餉を取ることになっているんだ。君のことも紹介したいし、一緒に来てくれるかな? 白夜」
『喜んでお供させて頂きますわ、ご主人様』
◆
<三人称全知視点>
闇の魔法に関わっていた『這い寄る混沌の蛇』に与する貴族達の処分は、公式の場でラインヴェルドが各貴族に対する処分内容を述べただけでは終わらぬほどの大きな混乱をもたらした。
この一件でブライトネス王国で大きな勢力を築いていたフンケルン派閥は崩壊し、フンケルン派閥に関わっていた貴族達は叛乱に与する可能性があったとして、全く事実を知らなかった貴族達も含めて処分を逃れることはできなかった。
あまりにも強硬なラインヴェルドの下した処分に異論を口にしようとする貴族も居たが、その貴族も巻き添えを食って爵位降格と領地の一部の没収という処分が下された。
前例のなかった爵位降格だが、今回の大規模な処罰で判例は大量に増えたと言える。
ラインヴェルドは断罪の場において、何よりも先に口にしたのは、貴族達に対する国王としての立場の表明であった。
「我はこれまで我慢に我慢を重ねてきた。王位を継ぐ筈のない王子として生まれ、愛した女性と結ばれて幸せに暮らしていく筈だった。……血の洪水の引き金となったアログサンディマルア公爵家派閥と隣国シャムラハによるブライトネス王族大量殺人事件、国王に即位する交換条件として出したメリエーナを正妃として迎えるという約束の反故及び、ラウムサルト公爵家によるメリエーナ暗殺、そして、我が盟友アネモネに対する数々の侮辱……そして、今回のフンケルン派閥による国崩し未遂……流石に温厚な我でも愛想が尽きた。――我ら王族は貴様ら貴族に力を与え過ぎたようだ。その結果、貴様ら貴族は王族を軽んじ、このような愚かな行為を繰り返す。もう、次はない。『這い寄る混沌の蛇』に与する者、この国に叛旗を翻す者、徒に国を危険に晒す者、ブライトネス王家に対し不利益を与えようとする者――その全ては今後極刑に値すると思え! 安心しろ、殺す時は一族郎党揃ってあの世に送ってやる」
後に『暴君』としてその名を残すラインヴェルドの宣言――しかし、ローザを含め事情を知る者はよくここまで耐えたものだという感想を抱いたという。
そして、この宣言から波及して裏から手を回してメリエーナに嫌がらせを行っていたクロスフェード公爵家も子爵まで転落――クロスフェード公爵は正妃カルナに縋ろうとしたが、カルナ自身がクロスフェード公爵家の行ってきた数々の嫌がらせを証言し、クロスフェード公爵家の没落は決定となった。
「――くっ、カルナ! お前だってメリエーナに嫌がらせをしていたではないか! 寵愛を受けていたメリエーナに、お前も嫉妬していたのだろう!! それなのに、お前は何故――」
「お前は知らなかったようだが、カルナはメリエーナのことを守るために色々と動いていたみたいだ。残念ながら、その頑張りもラウムサルト公爵家が帝国の凶手を招いたことで水泡に帰したが。良かったじゃねぇか、もし、お前らがメリエーナを死に追いやっていたら、今頃ラウムサルト公爵家のように皆殺しになっていたぜ」
「――やはり、ラウムサルト公爵家の皆殺し事件の犯人は!?」
「さぁ? どうだろうなぁ?」
と、まあ、このようについでとばかりに地球であれば時効な案件も纏めて処理した結果、ブライトネス王国の貴族が相当数没落し、爵位の上下によって混乱も生じ、また、王家の手に戻った土地の再分配についても問題が発生した。
このブライトネス王国始まって以来の大混乱は今なお続いている。
アーネスト宰相を中心とする文官達がラインヴェルド達と共にこれまでの功績などを参照したり、またディラン大臣がアクアと、普段はあまり王都から出ないヴェモンハルト第一王子がスザンナとレインと共に新たな貴族に相応しい人物を代官などの中から目星を付けつつ探したり、と連日大忙しで、普段から国王や大臣や軍務省長官などの仕事をいくつか流してもらって手伝っているローザも、普段よりも遥かに多くの仕事を抱え、園遊会前にも拘らずシェルロッタにプリムラの専属侍女を完全に一任してしまうほど余裕のない生活を送っていた。
「……ローザ、大丈夫かしら? ここ数日姿を見ていないけれど」
「お嬢様は大丈夫……だといいのですが。今回はかなり仕事を抱えてしまっていますからね。それに、普段はサボり気味の皆様も今回ばかりは一瞬もサボることなく働いておられるようですし……ただ、流石に長くは続かないと思いますわ。あの方々がそんなに長く仕事をしていられる筈がありませんから。お嬢様もすぐに侍女の仕事に復帰なされると思いますよ。園遊会の準備もありますし」
「そうね……そうなのよね。こんなに忙しそうなのに、それに加えて園遊会の仕事まであるなんて……大丈夫、じゃないわよね。どこかでローザにお休みをあげないといけないとは思っているのだけど……一日だけだと流石に少ないと思うし、シェルロッタ、いつ頃が良いかしら?」
と、ローザのことを心配したプリムラが、自分がローザになかなか会えなくて寂しいという気持ちを押し殺してローザに休みを作ってあげようとして、シェルロッタに相談するという一幕もあった。
直近にソフィスとのデートのために有給を取っているが、その日もきっと終わった後に仕事を入れるだろうと思っているシェルロッタは、ローザが確実に休まないことを知りつつ、プリムラの気持ちを尊重するためにローザの休みの日時を一緒に考えるのだった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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