Act.8-276 ラファエロ=ヴァイドカインとシーラ=カナベラル scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「まあ、それはさておき……まずは、一つ誤解を解いておくべきだと思う。よく思い出すと良い、君のお母さんが何という遺言を残したのかを。……ボクはねぇ、親にはなった経験はないけど、『仇を取って』なんて遺言を残すのはよっぽど狂気に満ちた母親だと思うんだ。それって、生き残った人に人生を全て捧げて仇を取るためだけに生きろっていうことでしょう? ボクならねぇ、こういうと思うんだ。――「どうか、生きて欲しい。生き残って、幸せになって欲しい」ってねぇ?」
ボクが核心をつけば、ラファエロから闇の魔力が溢れ出し、まるで「そんなことは出鱈目だ!」とラファエロ自身に思い込ませようとするようにラファエロを飲み込んだ。
だけど、ラファエロもようやく思い出したようで、自分の中に潜むダルファルシア伯爵家の使用人だった男に心の中で「お前は誰だ?」と尋ねたようだ。
『……くっ、気づいたか』
『……ずっと、僕のフリをして僕を良いように操っていたんだな』
『お前の望みを叶えるために手を貸してやっていただけだろう? 母親のために復讐を成し遂げたいと、それがお前の願いだったのではないのか?』
『……確かに、僕もアイツらを酷く憎んだ。……でも、僕が生き残ったのは復讐のためなんかじゃない! 僕は幸せになるために生き残ったんだ!』
「あの……お取り込み中失礼してもいいでしょうか? ラファエロさんの中にいる、使用人のコズネーロさん? ダルファルシア伯爵夫人に利用され、妻子も殺されて相当恨んでいると思いますが……この世にもう貴方達の殺したい復讐の相手はいませんよ?」
『――なに!?』
「それは、どういうことでしょうか?」
「だって、ボクが殺しましたから。ジェムを処分しに行く途中で立ちはだかって邪魔でしたので。――国王陛下の勅令で、ダルファルシア伯爵夫人も処罰の対象に含まれていました。この国の禁忌である闇の魔法に触れ過ぎた結果ですねぇ。まあ、そこまではまだ許されたとしても、ジェムの一派に与して国を破滅に追い込もうとした、その責任は命で以って贖うべきでしょう」
「……どっちが正義か分からないわね」
「シーラさん、何を寝ぼけたことを。ボクは決して正義の味方ではない。悪を殺すのは、ボクみたいな悪の役目ですから。だから、シーラさんやラファエロさんみたいな中途半端に良心がある人間はボク達の領分に踏み込むべきではないと思うのですよ。まあ、覚悟決めたんなら仕方ないですけどねぇ。で、どうします? コズネーロさん? 復讐する相手がいないのですからねぇ……もうこの世に留まる必要、ないんじゃないですか? とっとと家族の元に行きなよ、この世にお前の留まる理由はねぇんだから」
ラファエロに張り付くように存在している黒いラファエロに向かって聖属性の魔力を放ち、黒い靄を完全に消し去る。
ゴズネーロの支配を解かれたラファエロはそのまま眠りに落ちた。
◆
「……やあ、起きたようだねぇ」
ルビウスの部屋のベッドで眠っていたラファエロが目を覚ましたようだ。
まだ状況を理解できないのか、ボクとシーラの顔を交互に眺めている。
「僕は……そうか、あの男の呪縛を解かれて」
そんなラファエロにシーラは真っ先に抱きついた。
もしかしたら目を覚まさないかもしれないってさっきまで怯えていたからねぇ。
「……あの時の女の子か。ごめんね、心配を掛けて」
「いいのよ……私だって、貴方のおかげであの地獄でも心が壊れずに済んだから。それに、私は何もしていないわ。全部、圓さんのおかげだわ」
「いや、ボクもシーラさんがいなかったら普通に見捨てていたか、先送りにしていたからねぇ。ラファエロ、感謝ならシーラさんにするといいよ。……さて、少しだけこれからのことを話させてもらうからお付き合いしてもらってもいいかな? 何、あんまり長話をするつもりはないよ。それと、ラピスラズリ公爵家の方で二人の料理を用意しておくから、あんまり遅くならないうちにラピスラズリ公爵家に赴くように。さて、ボクがしないといけないのは今後の処分についてだ。ダルファルシア伯爵夫人はフンケルン大公に協力して国家転覆を企てていた。その罪でボク達……というか、カレンさんの手で処断されたんだけど、ダルファルシア伯爵家そのものは特に罪を重ねていないので存続する。遊び人の伯爵については、まあ、陛下と相談の上で何らかの責任を取らせるつもりだから、近いうちに伯爵の爵位が転がり込んでくると思うよ。まあ、この程度は迷惑料代わりに相続しておけばいいんじゃないかな?」
「……罪の捏造かしら? 恐ろしいわね」
「でも、実際にダルファルシア伯爵が遊び人であちこち遊び歩いていた結果、ダルファルシア伯爵夫人には息子以外に縋るものが無くなって、結果として闇の魔法に手を出したんだから、元々の責任はダルファルシア伯爵にあるでしょう? 大丈夫大丈夫、叩いて埃の出ない貴族っていないから」
「……確かに、叩いて埃の出ない貴族っていないわね」
「……こっち見て言わないでもらえないかな? まあ、暗殺者を逆暗殺したり、他国に侵攻して皇帝抹殺したり、革命幇助したり、まあ、結構色々ヤバいことはしているけどねぇ」
勿論、自覚はあるよ? それに、報いを受けていつかは凄惨な死を遂げるんじゃないかと思っている……まあ、前世は言うほど凄惨な死に方はしなかったけど。
「まあ、ルビウス=ダルファルシアとして生きても、ラファエロ=ヴァイドカインとして生きても君は君なんだし、好きに生きればいいんじゃないかな? それじゃあ、ボクは失礼するよ。パーバスディーク侯爵家のエイフィリプと、闇の実験に関わっていた研究員達の調教をしっかり済ませないといけないし」
「……ドSだわ」
「ドSで悪かったな。はい、これ、《蒼穹の門》のナイフ。これ使えばラピスラズリ公爵家まで行けるから、遅くても六時くらいには行くように。それじゃあ、シーラ、頑張ってね」
顔を赤くするシーラと、不思議そうなラファエロを残して、ボクは捕らえた者達を収容している屋敷の一つへと転移した。
さて、お楽しみの時間だ。たっぷり可愛がってあげるよ。
◆
<三人称全知視点>
エイフィリプが目を覚ましたのは、見慣れぬ屋敷だった。
縄で縛られたまま椅子に座らされているのか、手足を動かすことはできず、視界も遮られていて状況は把握できない。
「やあ、ようやく起きたようだねぇ」
目隠しを外され、開けた視界に映ったのは薔薇を象徴するような赤い髪と灰色の瞳、白雪のような白肌。
吊り上がり気味でキツい目をした、可愛いというよりどちらかというと美しい系の少女だ。
しかし、その表情には悪意的なものが込められているようで、まるで悪役のような微笑を浮かべている。
「ローザ=ラピスラズリ!! ――ッ!!」
エイフィリプは自分に散々なことをしたローザを目視するなり、怒りを込めて叫び――すぐに、聴き慣れぬ声が耳朶を打って驚いた。
普段よりもキーの高い、まるで女性のような声だ。
「随分と可愛くなったねぇ。流石はボク……って、自画自賛か。まずは、その姿をとくとご覧あれ」
ローザはどこからともなく鏡を取り出すと、ボンとエイフィリプの前に置いた。
茶色の髪を肩まで伸ばした、白磁のような白肌に青い瞳の、思わず見惚れてしまうほど可憐な少女が、その可憐な美貌が台無しになるような表情で鏡を覗き込んでいる。
見れば見るほど、エイフィリプ好みの少女だということがよく分かる。発育も良く、胸も大きい。
無意識に比較してしまったアルマと比べても遥かに可愛らしく、アルベルトに奪われた片思いをしていたメイドよりも可愛らしかった。
しかし、それが鏡ということは自分がその少女になってしまっているのだろう。エイフィリプはこのような少女を抱きたかったが、このような好みの少女に自らがなることは望んでなどいなかった。
「……ローザ=ラピスラズリ、貴様は何を企んでいる!! 俺を女にして何をするつもりだ!!」
「何って……女の子の気持ちを理解してもらうんだよ。君は、随分とアルマさんに酷いことを言ったようだねぇ……ボク個人としてはアルマさんは別に醜女という訳ではないし、あれは何というか、自分が野暮ったいと思ってそういう格好をしているだけだと思うよ? 磨けば光ることも証明されているし……まあ、侍女とは本来目立ってはならないものだからねぇ。主君より目立つ侍女など三流だよ。ボクも正直、姫殿下の側に控え、影のようにひっそりとその場にいる、そのような優秀な侍女になりたいものだよ」
さて……といって、ローザは一瞬にして姿を変えた。
途端に、圧倒的なプレッシャーがエイフィリプを襲う。
緋色の瞳と濡れ羽色の艶やかな黒髪を持つ白肌の圧倒的な美貌を湛えた少女が、黒百合をイメージしたドレスを身に纏い、蝙蝠のような羽を広げていた。
「まさか、天上の薔薇聖女神教団が崇める、女神リーリエ!?」
「あれ? 随分と勘が鋭いねぇ。正解だよ。……公爵令嬢ローザであるということも、間違いではないんだけどねぇ。さて、君は理解しているかな? 天上の薔薇聖女神教団が崇める女神であり、ブライトネス王国と同等の力を有するビオラ=マラキア商主国の大統領でもあるこのボクに喧嘩を売った――その意味が。いや、それはもういいんだよ。君は知らなかったからねぇ、でもさぁ、ようやく侍女という天職を見つけ、一心不乱に仕事をしていたアルマさんに、男の価値観で不器量だとか言って心に傷を負わせた……彼女は自分のことを過小評価する傾向があるけど、それを君如きに指摘されて傷を負わされる理由はないと思うんだ。アルベルトのことだって一方的な逆恨み、しつこくアプローチをした挙句フラれたそうだよ? その侍女はフラれるとすぐにくだらない噂を流してアルベルトを傷つけようとしたそうだよ。まあ、あまりにも職務態度が悪かったようで、すぐに解雇されたようだけどねぇ。まあ、そんなことはいいんだ。……パーバスディーク侯爵家は男尊女卑の激しい家だ。そこで育ったことが、君の性格形成に大きな影響を与えているのは言うまでもない、けど、君はあまりにも度を越している。……本当は、女の子の良さをいっぱい知って、男になんて戻りたくないと、そう思えるようになって欲しいんだ。おめかしして、可愛らしい服を着て、目一杯女の子になれたことを楽しんで欲しい。……だけどさぁ、それじゃあ、ボクの怒りがおさまらない。だからねぇ……君の記憶は読ませてもらった。君がこれまで女性達に掛けた暴言の数々を、その暴力を、今度は女になった君自身が体験してくるといい。さあ、行ってらっしゃい」
リーリエの瞳が怪しく光り、エイフィリプの視界が暗転した。
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