Act.8-275 ブライトネス王国に巣食う蛇の指先 scene.5
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「万物を解き崩す砲」
無骨で螺子が剥き出しのバズーカ砲みたいな武器を取り出し、フランシスコが勢いよく引き金を引いた。
「暗黒の守壁」
闇の魔力を使って壁を展開したけど、砲台から放たれた熱戦のようなものが命中するとまるで糸が解けるように分解されて消え去った。
「ヨホホホ、我が神話級――『万物を解き崩す砲』の威力はいかがですか? おやおや、まだ防ぎきれてませんでしたね。まあ、万物を構造を無視して原子レベルで分解する『万物を解き崩す砲』を止める手立てはありませんが」
「――破滅光芒! 天降八枝刃」
火・氷・雷の三属性の魔力を強引に重ね合わせることで生み出した虚数エネルギーにより対象を最小の単位までレベルまで分解消滅させるオリジナル分解魔法で相殺を狙いつつ、ボク自身は空歩を使ってフランシスコの頭上に位置取って、そこから剣士系四次元職の剣帝が習得する特技を使ってまやかしや残像ではない実体のある分裂した八つの剣先を降り注がせる。
八つの剣先はフランシスコのパワードスーツを貫通してフランシスコを刺し貫いたものの、『生命の輝石』で復活されてしまった……まあ、死亡に伴い生じた一瞬の隙を突いて『万物を解き崩す砲』は奪わせてもらったけど。
「ヨホホホ、まさか盗まれてしまうとは、なかなか手癖が悪いですねぇ。それに、『百万力の外鎧』を貫くとは……少々、侮っていたかもしれませんね。では、これならどうでしょう! 『黎明に至る光』」
なるほど、そのペストマスクは視線上に光線を放つという力を持つ武器なのか。狙ったもののみにダメージを与えるというなかなか使い勝手の良い武器みたいだねぇ。
ただし、これは『黎明に至る光』に注意を向けさせるためのもので、メインは鞘に収まった刀身のない剣の方か。
「《天照日孁大御神》」
だけど、残念。ボクには《天照日孁大御神》の派生――《太陽神》がある。
『黎明に至る光』の攻撃速度は速いけど、光の速度で移動すれば躱し切れないものでもないし、無数の鏡を生み出す《神聖鏡》を展開しておけば、ラインヴェルド、シーラ、カレンにも被害が及ぶことはない。
「万物を解き崩す刀」
……こっちも神話級か。二つも神話級を持っているってアリなの? 冥黎域の十三使徒は必ず一つ神話級を持っているって言っていたけど、二個以上持っている可能性もあるのか。
こちらも、『万物を解き崩す砲』と全く同じ効果のようだけど、当たらなければどうということはない。というか、当たっても『生命の輝石』を装備しているから問題ないんだけど。
光の速度で『万物を解き崩す刀』の斬撃を躱して、光の速度の圓式でフランシスコの腕を切り落とす。
『万物を解き崩す刀』を統合アイテムストレージに放り込み、これでフランシスコの神話級はボクの手中に収まった。
そのままフランシスコの首を切り裂いて、二度目の撃破……ちっ、『生命の輝石』の効果でまた復活された。
どうやら、フランシスコは『生命の輝石』を体内――肋骨の中に埋め込んでいるようで、簡単に取り出すことはできない。『生命の輝石』狙いで行くよりも、残っている『生命の輝石』は五つだから、このままフランシスコを六回殺した方が早そうだねぇ。
復活した瞬間を狙い、圓式の斬撃を叩き込む。フランシスコは切り札の二つの神話級を失った時点でボクへの対抗手段を完全に失ったようで、魔法を使うこともせずに……いや、圓式の斬撃が速過ぎるが故に詠唱が間に合わないのか、そのまま為すすべなく斬撃を浴び続けた。
「これで終わりだよ。――崩魂霊聖剣」
たった一撃で魂諸共消滅させる力を持つ神聖魔法「魂霊崩壊」を纏わせた「崩魂霊聖剣」を放ってフランシスコを魂諸共消滅させる。
と同時に、フランシスコの保有していた二つの神話級の所有権がボクに移行した。……ヘリオラ戦でははっきりしなかったけど、今回の件で神話級は使用者が殺されると、殺した人間――より強い者にその所有権が移ることが分かった。……後残っているのは生死を問うかというところだけど、この点は別に調べなくても大して問題ないかな?
「さて、と……ラインヴェルド陛下、この場はお任せしてもよろしいでしょうか?」
「後処理はジルイグス達に任せるし、何の問題もないぜ?」
「……そこは、ジルイグスさん達を助けてあげてくださいよ。暴れたらちゃんと後片付けしないと」
「暴れたって……全然物足りねぇけどな。ってか、ほとんど遭遇した奴はお前が拉致ったし、死体残っているのもゼームズとダルファルシア伯爵夫人だけだろ? まあ、ほとんど一直線でしっかり探索はしてねぇから、敵の捕縛をしつつ、闇の魔法の実験に巻き込まれた子供達の保護はしておくぜ。ついでに事情の説明もな。だから、ローザ――お前はとっととラファエロ=ヴァイドカインを救ってこい」
あー、やっぱり陛下にはお見通しか。実はさっきダルファルシア伯爵夫人の記憶を盗み見てラファエロのいるダルファルシア伯爵家別邸の位置を特定しておいたんだよねぇ。
「さて、シーラ。ここからが君の本当の戦いだよ。――君の手で、その言葉でラファエロを助けるんだ」
◆
ヴァイドカイン伯爵家別邸にボクとシーラの二人で転移する。
正門から堂々と入った結果、衛兵に見つかったけど、「影片蝙蝠」を放って眠らせた。
「便利過ぎるわね、その魔法」
「これって本当に便利だよねぇ。最近開発した魔法なんだけど『高が蝙蝠、その程度の攻撃を食らったところで私には通用しない!』みたいなちょっとだけ自分の力を過信している奴にいい感じに刺さるこの眠りの状態異常が最高だとボクは思っているよ」
「……やられる方からしたら最悪だと思うけど」
「状態異常発生とか、デバフとか、そういうのが得意な闇魔法の使い手のシーラさんだけには言われたくないかな?」
まあ、流石に伯爵邸といっても別邸だし、重要施設の闇の魔法の研究施設に比べたら戦力は遥かに少ないし、ついでに練度も低い。
シーラも闇の魔法で触手を作り出して拘束したりしていたけど、普通にそれで止められるぐらいだから、もしかしたらシーラ一人だけヴァイドカイン伯爵家別邸にポンと転移させるだけで問題無かったかも。いや、ここまで来たら最後まで手伝うけどねぇ。
「えっと、その廊下を真っ直ぐ行って突き当たりの左側のドアの先がルビウス=ダルファルシア伯爵令息の部屋のようです」
「――待て! 侵入者!」
「……うじゃうじゃ湧いてくるねぇ、一匹みたら三十匹はいると思えっていう、あの黒光りして滑空飛行するカサカサ動く名状したくないあんにゃろみたいじゃないか」
「……それのこと、口に出さないでくれないかしら? 想像してしまったわ」
「それは、申し訳なかったねぇ」
「影片蝙蝠」を嗾けてから、扉に向かって武装闘気を纏わせた脚で空中回し蹴りを叩き込む。
扉は吹っ飛んで窓ガラスを突き破り、そのまま庭まで飛んでいった。
「……器物破損」
「まあ、これくらいインパクトのある登場の方がいいでしょう? 交渉っていうのは、心の揺さぶりが大切なんだよ。それに簡単に直せるし」
「……まあ、良いことにしておくわ」
「それじゃあ、ボクはここに居て必要ならフォローするから、まずはシーラさん一人で頑張ってきてねぇ」
ルビウスはかなり驚いていたようだけど、すぐに笑顔を作った。
何も知らなければ作り物だとは思えないほどの自然な笑顔……大好きな母親を奪ったヴァイドカイン伯爵夫人の寝首をかくために、ずっと磨き続けてきた笑顔。
「君達は何者かな? 侵入者ってことだと思うけど、僕に何の用事があるのかな?」
「――ラファエロ、私よ! シーラよ! 子供の頃に花の押し花をくれたでしょう! 私はそれを栞にして大切にしていて……これがあったから、私はあの地獄を乗り越えられたの!」
「誰かと勘違いしているのではありませんか? 僕はルビウス=ダルファルシアです」
……ほんの少しだけラファエロの心を動かしたけど、足りなかったみたいだ。
寧ろ、過去の自分を知る危険な存在としてシーラを警戒してしまった。……いずれにしても、シーラではこれ以上の説得は無理か。
「シーラ=カナベラル。君にこれ以上の説得は無理だ。……悪いけど、ここからはボクが説得をさせてもらう」
「…………くっ、わ、分かったわ。……本当は私の力で何とかしたかったけど……お願い、圓さん」
さて……どういう風に仕掛けさせてもらおうかな?
「まだ何かあるのですか? そちらの方の探し人は僕では無かったようですが」
「ほんの僅かだけど心が動いていた。ボクの見気を騙せるとでも思っていたかな? 母親の『どうか仇を取って』という言葉だけを支えに、いつかダルファルシア伯爵夫人に復讐をしようとルビウス=ダルファルシアのフリをしてきたんだよねぇ? ……ボクには理解不能だよねぇ。臥薪嘗胆はいいけど、人間なんて探せば隙の一つや二つ、簡単に見つけられる。殺したいならすぐに殺せるでしょう? フランシスコやジェム、ゼームズじゃあるまいし」
「……貴女ならそうかもしれないけど、私達凡人にはそんなこと無理だわ」
シーラにジト目を向けられたけど……人はどれだけ頑張ってもずっと気を張って警戒していることはできないし、ダルファルシア伯爵夫人はそもそもルビウスを溺愛して絶大な信頼を寄せていたのだから、ルビウスに対する警戒は薄かった筈。暗殺は別にいつでもできたんじゃないかな? とボクなんかは思ってしまうけどねぇ。
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