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Act.8-273 ブライトネス王国に巣食う蛇の指先 scene.3

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「私は、かつて冥黎域の十三使徒の一人であるフランシスコ・アル・ラーズィー・プレラーティ様に仕えておりました。彼の研究は大変興味深かったものでございます。慈愛に満ちた心で子供達を保護し、大いなる世界の発展のためにその命を惜しみなく使っていたのですから」


 もう、この時点で狂人確定というか、相容れないというか。

 オシディスと違って同情の余地がないというか、オシディスが歪む要因の一つになったというか……最早、その事実は残っていないのだけど、それでも度し難い存在であることに変わりはない。


「そして、その縁で私はオーレ=ルゲイエ様ともお近づきになることができました! 彼の技術は大変素晴らしい、その素晴らしいお考えを、親友であったフランシスコ様にすら明かされなかった秘密を私だけにお教えくださり、大変可愛がって頂いたものですよ」


「……へぇ、オーレ=ルゲイエの秘密ねぇ。まあ、予想通りというか、何というか。……肥大化した脳のみを厳重に保管し、脳内に小型の制御装置を埋め込み、これで意識を同調させることで対象となる人間の意識を乗っ取り、意識を奪った者とその意識をタイムラグ無しに同期させることで、まるで指先のように思うままに動かしているというところか。ルヴェリオス帝国で相対したオーレ=ルゲイエも、その一人に過ぎなかったというところだねぇ。……クローンではなく、他人の意識を乗っ取る形というのも、なかなか考えられている。クローンの染色体を使用してクローンのクローンを作るという行為は、染色体の劣化と変異体の発生という二つの問題を抱えているからねぇ。まあ、どちらにしろ吐き気を催す邪悪な研究であることに違いはないんだけどさ」


「ほう、どうやったのか分かりませんが、私の心を読んだようですね。ああ、ルヴェリオス帝国の件は私も耳にしましたよ。『皇帝の魔剣エンペラーズ・レイヴンテイン』に選ばれた彼は、オーレ様の百三十八体目のクローンですよ。既にクローン作成に限界を感じていた彼は、自らの肉体への執着を捨て、他人に意識を移し替えることにしたようですが。あの頃は、まだ『心霊隷属器マインド・テナシティー』もありませんでしたから。……心霊科学の最高傑作『心霊隷属器マインド・テナシティー』は素晴らしい! 自分の意識を他人へと植え付けることで自分を増やすことができるこの機械は、精神の混乱、複製体の裏切り、自他境界の喪失、肉体の制御不能、自意識の崩壊などを発生させてきた曰く付きの代物で、あのオーレ=ルゲイエ様ですら廃棄することを決めたようなものですが、オーレ=ルゲイエ様とは別のアプローチで精神のクラウドネットワーク化が可能になるこの技術は実に惜しいものでした。実際に使ってみましたが、発狂など起こりませんでしたよ。定期的に同期を図る必要はあり、それが少々面倒ではありますが。……私はオリジナルではありますが、そもそもオリジナルである私が生存する必要などありません。私以外でも、誰かが私の意思を継いで願いを叶えることができれば、それで十分なのですから。――フンケルン大公の使用人は、下男や小間使いも含めて全て私です。上書きしたとはいえ、平素の時にはそれぞれの自我が僅かに顔を出しますが、それも最早、かつての彼らではないということです。そして、いざとなれば、私を含め、全員が願いに殉じる覚悟がある! そう、全ては、あの方を、ジェム=フンケルン大公様を世界の王とするために! あの方こと、私が生涯をかけてお仕えすると決めたお方! 私はあの方に出会った時、この私の全てを、いえ、人類全てを賭けても仕えなければならない存在であると、そう理解したのです!」


 六つの部屋から、執事服やメイド服などを身に纏った老若男女が姿を現す。


「まさか、フンケルン大公家の使用人が、全て貴方だったなんて」


「……私は後悔しておりますよ。貴女にも『心霊隷属器マインド・テナシティー』を使っておけば良かった。そうすれば、フンケルン大公様を裏切るなどという大罪を犯させずに済んだのですから」


 ボクに抱えられていたシーラが、ゼームズの狂気に当てられて震えている。

 もしかしたら、シーラはゼームズに乗っ取られていたかもしれなかったんだから、そりゃ、恐ろしいよねぇ。


「陛下、フンケルン大公家の使用人達は闇の魔法研究に直接関与はしていないようです。関与していた使用人は、このゼームズ――ただ一人のみ。どうか、寛大な処罰を」


「「「「「「何を言っているのです? ここにいる使用人は全て、この私、ゼームズなのです! つまり、それはここにいる全ての使用人を殺すに等しいッ! それを寛大な処罰? 何を寝ぼけたことを」」」」」」


「いいぜ? その代わり、ゼームズはここでしっかり殺しておけよ。本当は俺の手で殺してやりたいが」


「……どうしてもっていうなら、ボクも流石に止めないけどねぇ。国王は正しい人であらねばならない――そのために、ラピスラズリ公爵家は存在する。まあ、それでも、陛下が己の手で殺したいというなら、ボクにだって、ラピスラズリ公爵家にだってそれを止める権利はないし、そのために道を切り拓くのが役目だと思う」


「役目ねぇ……ラピスラズリ公爵家はともかくお前はそういうキャラじゃねぇだろ? とりあえず、こいつらをゼームズから解放する手段があるんだろ? じゃあ、こいつらはお前に任せる。俺は……ゼームズの奴と剣を交えてもいいか?」


「……ってことだけど、カレンさん、陛下に万一のことがあれば加勢してもらえるかな? それまでは待機ということでお願いしたいんだけど」


「畏まりました、お嬢様。陛下、お嬢様、ご武運を――」


 まあ、その万一の時というのは、万に一つも起こり得ないんだけどねぇ。


 『漆黒魔剣ブラッドリリー』を統合アイテムストレージから取り出して構える。

 「時間停止魔法-クロック・ロック・ストップ-」でゼームズ以外を完全に時間停止させてから、《天照日孁大御神アマテラス・ヒルメノオオミカミ》の派生の一つ――《縁の神》を発動する。


 ゼームズへと繋がる縁の光の糸が可視化されたのを確認し、『漆黒魔剣ブラッドリリー』の本来の力を解放する。


「我と共に歩みし漆黒の魔剣よッ! 今、その真なる力を解放し、遡りてその絆を抹消せよ! 魔皇魔剣・絆縁遡断-圓式-」


 金色のゼームズと他の使用人達を結びつける絆を一つ一つ、魔皇魔剣の効力が消える前に確実に両断していく。

 斬った瞬間から絆がグニャリと曲がって時空の歪みに飲み込まれるかのように消えていった。


 フンケルン大公家の使用人達は次々と意識を失っていく……まあ、上手く辻褄が合わせられてこの場に居合わせたことになっているだろうし、とりあえず、彼らは女体化した調教待ち連中とは違う屋敷の一つに避難させておくか。


 闇の魔法の被験体の子供達のケアのために数日間滞在することを見越して、念のためにフィーロ、ブルーベルを屋敷の一つに派遣しておいて良かった。とりあえず、二人にメールをして事情を伝えておけば大丈夫……だよねぇ? フィーロの方は心配だけど、ブルーベルの方はしっかりやってくれる筈。

 対象となる人が子供から使用人に変わっただけで業務内容の本質は変わっていないし、人数は増えるけど、きっと大丈夫。……念のために、琉璃と紅羽を派遣しておくか。こっちもメール、と。真月の保護者がいなくなるけど、そっちはラピスラズリ公爵家の使用人の誰かに任せておけばいいか。


 このレベルだと、真月を召喚して加勢してもらうほどのこともないからねぇ。


「現れなさい! 闇の使い魔達よ! 黒鵺! 暗黒宿儺!」


 黒い魔法陣が展開され、その中から猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇という闇で構成された化け物と、計八本の手足に頭の前後両面に顔を持つ闇で構成された化け物が姿を現した。

 ……へぇ、それが、ゼームズの闇の使い魔か。


「シーラさん、闇の使い魔って使える?」


「えぇ、一応使えるわ。といっても、一体が限界だけど。……それに、あんな化け物は流石に出せないわ」


「それじゃあ、どっちか担当してもらえないかな? もう一体はボクが殺るから」


「分かったわ。現れなさい! 闇の使い魔・黒虎」


 闇の魔力が収束して黒い虎の姿となり、黒い鵺に向かって襲い掛かった。

 ……さて、ボクも。


「――影片蝙蝠ナイトメア・ブリックバット


 ボクの影が一瞬にして四散し、無数の小さな黒い蝙蝠となって黒い宿儺へと殺到する。

 黒い宿儺が蝙蝠の突撃を浴びて眠りに落ちたところを狙い、蝙蝠が収束して生まれたリーリエを模した影が双刀から圓式の斬撃を浴びせて両断した。

 バラバラになって蝙蝠の形で影を元に戻す前に一体を黒い虎を追い詰めていた鵺にぶつけ、眠りに落とす。


「……ありがとう、助かったわ」


「いえいえ、どう致しまして」


 さあ、残るは陛下とゼームズだねぇ。


「わ、私の闇の使い魔が、こんなあっさりと」


「そんな簡単に俺の親友を――圓を止められると思ったか? それじゃあ、処刑の時間だ。七撃にて必ず敵の息の根を止める聖なる奥義――七彩虹輝終焉刺突(アルク・アン・シエル)


 聖属性の魔力にて魂に干渉――七撃によって魂を破壊し、敵を死に至らしめる刺突技……ラインヴェルドならたった一撃で魂諸共消滅させる力を持つ神聖魔法「魂霊崩壊エーテリアス・ディスインティグレーション」を纏わせた「崩魂霊聖剣メルトスピリチュアル・ブレイド」の方が楽な筈だけど……まあ、いいか。


 剣の達人であるラインヴェルドと、剣の素人であるゼームズでは、勝負など最初から決まっていた。闇で剣を作り出しつつ、あらゆる闇の魔力で妨害を仕掛けてきたゼームズだけど、それを悉く打ち破って七つ目の刺突を浴びせてゼームズの魂を破壊する。


「さて、次はフンケルン大公だな。行こうぜ、親友」


 ゼームズの処理は後から来るであろう王国騎士団に任せるとして、ボク、ラインヴェルド、シーラ、カレンの四人はいよいよ敵の本丸――ジェムの待つ地下三階の執務室へと扉を蹴破って突撃した。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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