Act.8-271 ブライトネス王国に巣食う蛇の指先 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「おっ、また何か作ったみたいだなぁ」
ラインヴェルドが興味深そうにボクの手元の拳銃に視線を向けている。
「……天恵の実って知っている?」
「知らねぇな」
「知らないわね」
「知りませんね」
まあ、ラインヴェルドとカレンが知らないのは予想通り。『這い寄る混沌の蛇』に関わりがあるシーラはもしかしたらこれについて知っているんじゃないかって思っていたんだけど。
「『トップ・オブ・パティシエール〜聖なるお菓子と死の茶会〜』に登場する願いを叶える実……のようなものかな? 天恵の実って言うんだけどねぇ」
ボクが高槻斉人とタッグを組んだ第十三作スマートフォン専用ノベルRPG『トップ・オブ・パティシエール〜聖なるお菓子と死の茶会〜』。
このゲームは天恵の実と呼ばれる特殊な実を食べたことで特殊能力に目覚めた少女達のサバイバル百合アクションファンタジーだ。
ノベルゲーで、スマートフォン専用ノベルRPG『False heaven〜偽りの神と銀河鉄道の旅〜』以来となるストーリーは分岐無しという形式ながら、様々なバックグラウンドを深掘りされた主役級の輝きを放つキャラクター達が命を散らす最後の煌めきを丹念に描き出そうとしていることが好評となっていて、全八章の予定ではあったものの、本編終了後に第二部が計画されていた。
FDMMORPG『SWORD & MAJIK ON-LINE』の発売の数ヶ月後に第二部第一章の公開が予定されていたものの……これ、結局どうなったんだろうねぇ? シナリオの方は九割完成していたけど、まあ凍結かお蔵入りになっているかな?
一応、高槻斉人とボクがタッグを組んだとなっているものの、百合ものということでややボクの独擅的なところがあり、ケモミミ派の高槻斉人やBL派の飯島綸那と雪城真央にはやや……というか、かなり不評だった。
とはいえ、登場人物の最も輝ける瞬間を切り取るということに全力を尽くして描いた物語は、高槻斉人や飯島綸那と雪城真央といった反百合派を納得させるだけのものに仕上がっていると自負している。
具体的な内容は、この世のどこかに存在する『楽園』という地に存在する伝説の木――天恵の神樹の力によって林檎が変化した天恵の実を食べた者は、特殊な能力に目覚めるが、その代償として「贄の儀式」に参加することを求められ、その『願い』というエネルギーを誰かが捧げる必要がある。
まあ、簡単に言えば、天恵の実を食べた者同士が命を散らす死闘に巻き込まれ、それぞれの願いのために特殊能力に目覚めた者達と戦うバトルものということになる。百合要素が強いけど。
主人公の甘蔗林結城はパティシエールを目指す高校二年生。母子家庭で兄二人、姉一人、妹二人という子沢山の家庭で育ち、あまり裕福では無かったが、子供の頃に母が無理をして買ってきた誕生日ケーキ(とは名ばかりのショートケーキ)が忘れられず、パティシエールを志す。
家族に頼らずにケーキ屋でアルバイトをしながら一人暮らしをして、パティシエールを目指していた。平日の昼は学業、夜は店長の厚意でケーキ作りの授業、休日はアルバイトという日々を送っていたが、ある日、店長からケーキを一つ作ってみないかと提案され、試作を重ねながらもなかなか上手くいかなくて困っていたある日、偶然林檎の木から落ちてきた見たことのない果実を拾い、この果実を試しに使って作ったお菓子を食べた結果、直接的・あるいは間接的に触れたものを菓子へと変える「お菓子の天恵」という特殊能力に目覚める。
「実はこのゲームの第一部を攻略すると、フリーバトルモードが解禁され、作成したキャラクターやゲーム内で獲得した登場人物にゲーム内で獲得した天恵の実や第一部クリア記念賞品として獲得できる「天恵の種」を使って作るオリジナルの天恵の実を食べさせることで、オリジナルのキャラクターを作成し、戦わせることができるようになる……まあ、特殊能力を自分で設定して、その特殊能力を持ったオリジナルのキャラクター同士を戦わせることができるってことだねぇ。この「天恵の種」は二つずつ配布され、専用フォームに名称と効果を書き、それが採用されると実装されるという流れになっている。この「女体化の実」はこの「天恵の種」を使ってボクが作り出した天恵の実だよ」
ちなみに、第二部以降にその実が採用されることもある。
その際には採用されたプレイヤーに「天恵の種」が配布されて補填されることが決まっていた。……まあ、不公平になるからねぇ。
ゲーム本編では何故か適合者は女性に限られるみたいな暗黙のルールが存在していたけど、このフリーバトルルールでは男性のオリジナルキャラクターも作成可能だからねぇ。「女体化の実」も十分意味があるんだよ……ネタアイテムなどでは断じてない。
というか、男性キャラの場合は女体化と同時に三十分程度気を失うことから、実質、特定の条件の相手に刺さり過ぎる鬼畜アイテムとして扱われていたねぇ。まあ、もう一つの方が鬼畜度合いが高かったんだけど。
「まあ、何となく天恵の実がどういうものなのかは分かったけどさ? でも、今のは銃を使ってその力を発動したんだろう? どういう理屈なんだ?」
「そうよね? それってつまり林檎の実みたいなものなのでしょう? それを銃――無機物に食べさせるなんてことは不可能だと思うわ」
「まあ、普通はそう考えるよねぇ。これはある実験の副産物みたいなものなんだよ。最近、ボクは魂というものについて研究していてねぇ。簡単に言えば、魔物と戦わずに神話級を作れないか? ということを考えていたんだよ」
神話級の条件は様々あるけど、その中で共通する最も厄介な壁が付喪神度。
これは、改めて武器を観察することで、魔物を殺した際にその魂の一部を吸収しているということが分かった。この魂の一部を蓄積していく果てにあるのが武器の付喪神化で、付喪神と化した武器を神話級と呼ぶ。
ただし、神話級化した武器は使用者を選り好みする。その武器が認めたものにはその真価を発揮するものの、武器が認めていない相手には神話級化する以前の元々の武器の力しか発揮しない。
これは、つまり武器そのものが意思を持って使用者を選り好みしているということになるけど、じゃあ明確な意識があるかと問われれば、そうではない。
……ここから、ボクは魂の意思の問題というものを深く考え始めた。参考にしたのは、魂魄魔法。
この魂魄魔法で作ることができるのは、擬似魂魄と呼ばれるもの。じゃあ、何が違うとかというと、阿頼耶識と呼ばれる魂の中心に存在する謎の多い核となる部分と、意識や人格にあたるものが存在するか否かというと二点。
この人格や意識は記憶から大きな影響を受けることが分かっている。
人の意識というものは、しっかりと存在しているようで、過去の記憶を参照して、その振る舞いを形作っているというところがあるからねぇ。
記憶持ち転生者は記憶が復活した瞬間にまるで別人のようになるのは、参照するべき前世の記憶が追加されてもう一つの人格というものがその転生者の中に芽生えるから。
転生以前の過去の記憶を参照できる場合もあるけど、前世の記憶を取り戻した瞬間、一回生であった筈の人生は輪廻する以前と以後に跨ったものとなり、当然、知ってしまったら透明な水に墨液を垂らしたように、もう元の状態には戻れない。
前世の人格か、今世の人格か、どちらが主導権を握るのかについては、両方の意識が融合するのか、将又片方の意識が片方の意識を支配するのかはケースバイケースだと思うけど、恐らく、仮に前世の意識が主導権を握ったとしても、今世の記憶を受け継いだ時点で、それはもう前世のそのままの意識とは言えないと思う。
結局、全ては認識の問題。どう生きたいかは、その転生者次第で、その過去世の記憶を丸々無視して新しい人生を歩むも良し、過去世の延長としてこの世を生きるも良し。その行き方次第で、きっと世界というものの見え方は変わるんだと思う。
世界とは、心が生み出すものである、という唯識的な考え方は存外間違っていないのかもしれないねぇ。
さて、少しだけ話題を変えよう。
――黒刀というものがある。これは、覇王の霸気を使うことで、武装闘気を武器の中心まで染み込ませ、分子一つ一つに至るまで武装闘気で染めることによって、永続した武装闘気の力を武器に付与するというものだ。
この永続的に武装闘気を纏わせた剣については試行錯誤の末に作成に成功したけど、もう一つ考えていた方法については完成の目処すら立たずに居た。
それは、武器自体が武装闘気を放出してその身に纏わせるというもの。
ただし、これは武装闘気を染み込ませるよりも遥かに難しい。
何故なら、闘気とは意思の具現であるからだ。意識がない武器に、武装闘気を自ずから放出させるなど、常識的に考えればできない。
だから、ボクは武器に人と同じ意志を持った魂を宿らせることができないかと考えた。
といっても、阿頼耶識を有する魂は試行錯誤を重ねても作ることができない……ならば、どうするか?
とりあえず、擬似人格を作成して付与魔法で付加し、これにより魂と意識が存在する状態を作り出すことまでは成功した。……ただし、『王の資質』は魂の無意識――阿頼耶識に宿るようだから、魂魄の霸気、覇王の霸気、求道の霸気は使えないんだけどねぇ。
「まあ、その結果、武装闘気を自ずから纏わせることができるようになったし、その副産物として武器自身の意思で天恵の実を捕食することが可能になった……って、なんか変なこと言ったかな?」
「貴女、闇の魔法を禁忌とか言っていたけど、こっちの方がよっぽど禁忌じゃない。魂の創造なんて、そんなの神の御技であって、人が触れてはならない領域だわ」
「別にボクは闇魔法や暗黒魔法を研究してはならないものだって言ってないけどねぇ? そりゃ、命を代償とするのは倫理に反しているけど……結局、どんな力でも力自体に罪はないと思う。重要なのは、それを使う人の為人、何のために使うかということだよ。ボクがジェム達と敵対しているのは、彼らがボクの敵だからだ。ボク達は決して正義も味方じゃないよ? どっちかっていったらダークサイドだよねぇ。まあ、数多くの罪を犯してきているし、その報いを受けずに楽に死ねるとは思っていないけど」
ラインヴェルドやカレンは理解しているだろうけど、その辺り、きっとシーラは実感していなかったんだろうねぇ。
ボクは決して正義の味方じゃない。ボクは、ボクの大切なもののためならいくらでも手を汚せる外道だよ。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




