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Act.8-269 ファンデッド子爵家の波乱のその後 scene.3

<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


 バルトロメオ様からの告白という一大イベントがありましたが、その話はまた明日家族にしようと思います。……今日は激動の一日でしたから、ここでもう一つ大きな話をするのは憚られますからね。


 バルコニーを後にし、私は少し迷いながら廊下を歩いていました。

 きっとお義母様は、お部屋にお戻りになっているでしょう。あの騒ぎで、顔色も酷くて、家族問題……きっと私達もパーバスディーク侯爵家も、両方のことで悩んでいると思います。挙句、パーバスディーク侯爵様は国家転覆を企てた罪と闇の魔法に手を出した罪で処刑されていますし……そんな時に、何を話しに行けばよいのでしょうか?


 しかし、クィレル様だけではなくメレクもお義母様と話して欲しいと言ってきましたし……そのことを軽く考えてはいけない気がします。

 お義母さまの部屋の近くまでは来ているのですが……どうしても足が上手く動かないのです。


 けれどグジグジしていてもしょうがありません! 変に悩んだって良い結果は出ないって学んだではありませんか。当たって砕けろです……いえ、本当に砕けたらダメなのですが。


 ということでノックをすると、すぐに中から返事がありました。

 私が名乗るとお義母様は少しだけ躊躇したのか、少し間を空けてから「……どうぞ、入って」と言ってくださいましたのでドアを開けて入ると、お義母様は椅子に座ってぼんやりと窓の外を眺めておいででした。

 普段はキリッととして、活発な印象を受ける女性でしたが、今は……ぱっと見てもわかるほどに、憔悴しているようです。まあ、あれだけのことがあったのですから、当然ですよね。


「お義母様……お加減はどうでしょうか。医師を呼ばなくても、大丈夫ですか?」


「えぇ、ただ……少し、疲れただけだから。貴女も疲れたでしょう?」


 椅子を手で示されて、私は向かい合うように座りました。

 お義母様はまだ窓の外をぼんやりと眺めていらっしゃいましたが、溜息を一つ吐き出してから、私の方へと向き直りました。


「……さぞかし滑稽だったでしょう?」


「……え?」


「ああ、いえ、別に嫌味とかではなくて。貴女が私達を嘲笑うなんて思ってはいないの。……だけど、自分でも思うのよ。滑稽だわ、って」


「お義母様?」


「私も貴女も、貴族の娘として生まれたというのにどうしてこうも違うのか、とさっき思ったわ」


「……そうでしょうか?」


「ええ。パーバスディーク侯爵様――私のお父さまはね、嫁入り先を見つけることをあまりお好みになられなかった。どうしてか分かる? 頭を下げるのが嫌だから。だから、あの人が奥様を亡くされて、子供のことで悩んでいると知った時に恩着せがましく私を嫁に出したのよ。ああ、悩んでいるというのは別に貴女を持て余したという意味ではないわ。あの人は、心底家族を愛してくれている。……私は、ちょっと違うかもしれないけれど」


 お義母様はちょっと寂しそうに笑いました。

 私はなんと言っていいか分からなくて戸惑っていた訳ですが、お義母様は多分、色々な気持ちを吐露してすっきりしたいんでしょう、そのまま話を続けました。


 それには恐らくお父様には妻として言えないし、メレクには母として言えない。そういう矜持があったのだと思います。

 私に対して娘だからというよりも、同じ貴族の娘としての立場、義理の親子という関係、そういうものが話しやすく、そしてこの家にいる誰よりも話しやすい相手だったのではないでしょうか?


 クィレル様がそこまで見抜いておられたかは分かりませんし、メレクもどこまで分かってていたのかはわかりませんが。


「ごめんなさい。面倒よね」


「お義母様」


「分かっているのよ、頭では。私はファンデッド家に嫁いだ段階で、パーバスディーク侯爵家よりもこの家のことを優先すべきだったってことは。そしてこの家で私はきちんと妻として、母として、大切にされている、そのことには何よりも感謝しているわ。女であり、他所から求められるほどの器量もない、そう言われていた実家の暮らしに比べたら雲泥の差だったもの。手放してなるものかって思ったもの」


 ああ、この人も私と同じなんだなぁ、と思いました。

 器量良しじゃないと言われて誰が嬉しいのでしょう? 家族なら尚更に。


 そこで押し付けるように嫁がされた家は家格が下で、厄介払いされたのだとお義母様も感じたのでしょう。

 でも、お父さまはあんな感じに弱腰でも、亡くした妻を今でも愛していたとしても、少なくともお義母様を蔑ろにするようなことは無かったと思います。

 そして長男であり跡継ぎとなるメレクも生まれ、ようやくご自分の自尊心を満たすことができたのでしょう。


 私のことは怖かったのかもしれません。同じように、器量の良くない貴族の娘なのに、不器量と言われてもへこたれず、父親に愛されて、弟に慕われて、仕事も始めて生き生きして、挙句に生き甲斐だ何だと言い出して地位を得て……そして、まだお伝えしていませんが、恋人もできた。あれは不意打ちでしたが……えっ、不意打ちじゃないって?


 私は、お義母様からすると正反対の道を歩んでいるように思えていたのでしょうか?


「……家族に認められたい、お父様に認められたいと思った結果、待っていたのはお父様の死で……いえ、お父様は裁かれるべきだったと思うわ。この国に憂いをもたらそうとしていたのだから。あのままお父様に認められたい一心で頑張っていたら、きっとパーバスディーク侯爵家と共倒れになっていた。……私がやっていたことは、ファンデッド子爵家を破滅に追い込む行為だったのね。……私がまだパーバスディーク侯爵家の娘としての感情を持っていたから、見返したいと思っていたから、ファンデッド子爵家の一員として認められていたのに……私はそれを踏み躙って、とんでもないことをしてしまった」


 ファンデッド子爵家がパーバスディーク侯爵家に取り込まれていたら、きっとファンデッド子爵家も無事では済まなかった。例え無関係だったとしても爵位が落とされ……子爵だから最悪の場合は爵位剥奪で平民落ちの可能性もあった。

 貴族の責任が重いと感じているお父様はそれでも良かったかもしれないけど。


「……ファンデッド子爵夫人として、意見を求められて。お父様や息子を前に、あの時、私は何も考えられなかった気がするわ。それでも、夫が私をファンデッド子爵夫人として尊重してくれた、そのことにようやく気が付いたの。……遅過ぎたのだけど。……もう、あと少しでファンデッド子爵夫人になって二十年になるというのに、息子が婚約者を得るくらいに大きくなったというのに、私は、私の家族が誰なのかすら見失って、取り返しのつかないことをしてしまった。……それでも、もし、赦してもらえるのなら、家族の一員として認めてくれませんか」


 お義母様は考え過ぎだと思う。結局、お義母様の目論見は潰えて、ファンデッド子爵家は伯爵位を賜ることになった訳で……赦す赦さないも、その罪はないものだし。

 それに、それは私が決めることではないと思う。家族というものは、誰かが決めてなるものではないのだから。


「お義母様は、この家に来られた時から私にとってお義母様です!」


 この時、きっと私達は本当の家族になれたのだと思う……雨降って地固まるといいますか、いえ、だからといって、もうトラブルはごめん被りますが。


「あの人も私も、親としては未熟ね。娘と息子に助けられてばかり。だからこそ、これからは領主夫人としての時間は短いけれど、親としては頑張っていくわ。メレクのお嫁さんにも、あまり変に口出しをしない。顔合わせもメレクが望むように、どこかおかしいと思う所だけ、話し合っていきたいと思うの」


「私も……至らぬ娘ですが。どうか、これから。もう少し帰省する日を増やしたいと思います。その時には、もっと、お話しして、頂けますか」


「ええ……ええ、勿論よ!」


 悩みに悩んで訪れたお義母様の部屋ですが、結果としては来て良かったと思います。

 私達の互いの姿を、その気持ちを知ることができたのですから。



「あ、姉上が……お、王弟殿下と、婚約!? そ、それは本当ですか!?」


 翌朝、私は朝食の席でバルトロメオ様と婚約したことを家族とクィレル様の前で話した。

 ちなみに、バルトロメオ様も同席していて、パーバスディーク次期侯爵様はここで食べても居心地が悪いからでしょう、部屋に食事を運んでもらうようにしたようです。


「で、でも……昨日の夜に会った時はそんなこと言っていなかったわよね?」


 昨晩はそんな素振りを見せなかったから(というより、あの場はお義母様と和解するのに精一杯だったので、そんな余裕は無かったですし、朝に伝えるべきだと思ったので話さなかったのですが)、お義母様も相当驚いています。驚いていないのはクィレル様だけですね……というか、顔に「ようやくか」みたいな感じの表情が滲んでいるんですが。


「今朝、家族が揃ったところでお伝えしようと思っていましたので」


「そうなのね。でも、王弟殿下と婚約なんて本当に予想もしていなかったわ……良かったわね、アルマ」


「おめでとうございます、姉上!」


 お父様の方は……あっ、完全に魂を飛ばしていますね。


「ありがとうございます、お義母様、メレク」


「まあ、気持ちはずっと伝えてたんだけどな。……全く気づいてもらえなかったってだけで」


「それは、浮名を流しまくっている王弟殿下が悪いでしょう?」


 何の魔法が使われた訳でもないのに、突如として圓さんが姿を現しました。

 ……こういうところは特に突っ込んで聞かない方が良いのでしょう。説明されたところで、絶対に私には使えないでしょうし。


「ローザ様、昨晩は大丈夫だったのですか?」


「ご心配をおかけして申し訳ございません、アルマ先輩、皆様も。まあ、昔からよくあることで、溜まった疲労から別に徹夜もしていないのに意識が飛んでしまうことがたまにあるのです。何となく疲れているなぁ、と感じつつも、今回の断罪は重要なものだったので、多少無理をした結果です。しっかり寝ましたからご安心ください」


 圓さんは大したことがないという風に仰っていましたけど……徹夜で働くって、それ、貴族令嬢がして良いことなのでしょうか? というか、この方、どれだけ仕事を抱えているのでしょうね? 本当に謎ですね。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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