Act.8-268 ファンデッド子爵家の波乱のその後 scene.2
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
「さて、ここからは陛下にお任せするよ」
「おう、例の件だな。まあ、簡単に言ってしまうと、『這い寄る混沌の蛇』のブライトネス王国におけるナンバーツーを捕らえるのに貢献したファンデッド子爵家に伯爵位を叙爵し、更に領地を与えようと考えている」
「はっ、伯爵位に、りょ、領地ですか!?」
お父様だけでなく、お義母様もメレクもこれには驚いていました。いえ、私だって驚いていますよ! だって伯爵ですよ!? この弱小子爵家のファンデッド家が!?
「俺はそれだけの貢献をファンデッド子爵家がしたと思っている。それに、アルマも侍女として長く仕え、母上からの信頼も厚い……いや、勿論俺だってかなり信用しているぞ? ……一番評価しているのはレインとローザだろうが。まあ、俺達もそっちの方が好都合だし、ルーセント伯爵家のオルタンス嬢との婚約も、伯爵位を持っていた方が釣り合いが出てくるだろう?」
「私としては子爵だろうと伯爵だろうと構いませんが、叙爵自体は良いことだと思いますし、確かにアルマ殿の功績を考えれば妥当でしょう。……しかし、王家にとっても都合が良いとは、なるほど、そういうことですか」
クィレル様が何故か私と王弟殿下を交互に見て、納得気に頷いていますが……それってどういうことですか!?
「しかし、その領地は一体どこから捻出を……なるほど、そのためにパーバスディーク侯爵家の領地の三分の一の返上を求めたのですか」
「流石はクィレル様、その通りですわ」
えっと……つまり、パーバスディーク侯爵家の三分の一の領地がファンデッド子爵家のものになって? 更に、パーバスディーク家が男爵にまで落ちて、ファンデッド家が伯爵家となるから……それってつまり、ファンデッド家とパーバスディーク家の位置関係が入れ替わるということで?
お義母様は複雑な気分なんじゃないかな? と思って視線を向けても、あまりそう言った感情はないようですね。ただ純粋に叙爵を嬉しがっている様子ですね。
「わ、私が伯爵……」
「ぼ、僕が次期伯爵、ですか!?」
「領地が増えて大変になるとは思うけど、何か困ったことがあればボクも相談に乗るし。……まあ、そもそも長年領主を務めたロウズさんの補佐も受けられるから問題はないと思うけどねぇ。それと、これは前祝い的なものなのだけど、もし良ければ無償でファンデッド子爵家の屋敷を建て直させてもらいたいと思ってねぇ。勿論、リフォームと増築という形になるけど、伯爵に相応しい屋敷にしておいた方が良いかと思ってねぇ。強制じゃないし、もし興味があればということで」
「……そこまでして頂いていいのでしょうか?」
「そりゃ、勿論。大切な先輩への後輩からの細やかなプレゼントだと思ってください、アルマ先輩」
細やかじゃないだろうと思うけど、それを突っ込むのは野暮ね。
この話はまた家族会議で相談しないといけないわね。
「ファンデッド子爵家のリフォームの話もしたし、爵位の話もしたし、クィレルさんには後日疑問点の解決のために時間を用意させてもらうことも伝えたし……ふぁぁ。まだ、何かあったっけ?」
「俺達の用事は以上だな。……あー、そういや、バルトロメオ。アーネストの奴に頼んで有給一日勝ち取って来たからな。ファンデッド子爵、ってことで俺の弟を一日泊めてやってくれないか?」
「へっ、は、はい! きゃ、客室の用意をすぐにさせますのでッ!!」
「クィレル、くれぐれも邪魔はするなよ?」
「えぇ、承知しております」
?? えっと、一体何の話をしているのかしら? というか、王弟殿下が泊まっていくの!? どうしてそんな話になっているの?
そんなことを考えていると、バタンという音がして、そちらに顔を向けると、圓さんが机に頭をぶつけていた。
「えっ、ろ、ローザ様が意識を失って!?」
「……疲労溜めてやがったな。また無茶なことをしていたんだろう……最近は寝ているって言ったが、きっと蓄積疲労で限界を迎えたんだな。……別に命に別状はないし、問題はない。俺が王女宮の執務室まで運ぶから任せてくれ」
「へ、陛下! ここは私が」
「カレン、お前も仕事を終えたばかりだろう? ラピスラズリ公爵家に戻って公爵に報告して今日はゆっくり休め。……ってか、俺だってたまには親友に恩返しがしてェんだ」
陛下は圓さんをお姫様抱っこして、そのままシーラさんを連れて《蒼穹の門》を使って転移されてしまいました。
カレンさんもその後を追うように《蒼穹の門》を使い、ラピスラズリ公爵家に戻ってしまいました……本当は圓さんとカレンさんにしっかりとお礼を言いたかったのですが、残念です。
◆
滞在者が死刑判決を受けたり、どこかの屋敷に連れ去られたりと様々ありましたが、最終的な滞在者は王弟殿下、クィレル様、パーバスディーク次期侯爵様の三人になりました。
狭い屋敷ではありますが、客室も多少はありますので問題はありませんでしたよ。……まあ、王弟殿下を迎えるのに相応しいものだったかは微妙でした。
クィレル様はサロンを出る際に「君はファンデッド子爵夫人と少し話をした方がいいのかもしれないね。まあ、それよりも前に話す必要がある人がいるけど」と仰っていました。……親子で改めて真っ向から話し合う必要はありますし、そこにはお義母様も含まれていますが……なんなのでしょう? やっぱり、パーバスディーク侯爵様絡みで? でも私、関係ないと思うんですが?
クィレル様が言うことを無視することは容易いですが、あの方が仰ることは何だか大事な気がしてなりません。あの方も聡明な方ですし……って、私の周り、聡明な方が多過ぎますよね!? その中でもやっぱり圓さんは数段上のような気がしますが。
お父様とお義母様、メレクもサロンを後にし、片付けをする侍女達と共に何故か王弟殿下だけが残っています。
クィレル様は「それよりも前に話す必要がある人がいるけど」と仰っていましたが、それって王弟殿下? でも、王弟殿下とする重要な話って一体なんでしょうか?
「アルマ、今からちょっといいか?」
「はっ、はい」
王弟殿下に連れられて向かったのは、以前王弟殿下が滞在した時に無防備な姿を見られてしまったバルコニーでした。いえ、あの時は実家に居て油断していたので、悪いのは私なのですが……。
「懐かしいなぁ……って、まだ数ヶ月しか経ってねぇのか。色々とあったからなぁ」
「確かに、色々ありましたね。あの時は私が社交会デビューするとは思いませんでしたし、メレクがオルタンス様と婚約するとも思っていませんでしたし……とても濃い時間だったと思います」
「まあ、ローザ達と一緒にいるとこれがずっとだからなぁ。ローザはかなりせっかちな性格で、一度決めたら軽いフットワークですぐ行動しちまう。そこは兄上も似たようなところがあるからなぁ。互いに策謀巡らしあって、誘導しあって、その誘導すら互いに読み合って、どっちがどっちを振り回しているのか最近はよく分かんなくなってきているが、まあ、アイツらと一緒にいると退屈しねぇってのは確かだ」
圓さんも規格外であれば、彼女と渡り合える陛下も規格外か。振り回されるのは大変だけど、でも、終わってみると不思議と嫌な気持ちにはならないのよね。
それは、きっと、圓さん達の行動には常に相手を慮るところが含まれていて、身勝手なだけではないからだと思う。
圓さんは残酷だけど、それと同じだけきっと優しい人なのね。
「ところで、以前ここで会った時に俺が言ったこと、覚えているか?」
……何故、そんなことを王弟殿下はお尋ねになるのでしょうか? あれは、ただ、私を揶揄っただけのものなのではありませんか?
「覚えてないから? 俺はお前に『お前のこと、好みなんだ』と言ったんだ。……社交会デビューの時といい、全く伝わっていなかったみてぇだな。……俺はお前のことが好きだって言ってんだ。この国の美的に外れているからと随分と過小評価しているみたいだが、お前の見た目が悪いってことはねぇし、もっと自信を持って欲しいけどな。少なくとも、俺は好みだし。……それに、見た目だけじゃねぇ、仕事への直向きさも、不器用ながらも家族と向き合おうとするその凛々しい姿も、俺は素敵だと思う。……まあ、いきなりって訳でもないけど、改めて言われても困惑するだけだろうし、告白の返答は好きなタイミングでしてくれていいぜ?」
えっ、ええ!? 嘘、ですよね!? いくら殿下との付き合いが長いと言っても、まさか恋愛的な意味で好意を持たれているとか……予想外というか、反応に困るというか。
いえ、素敵な人だと思いますよ。イケメンですし、人を振り回すのを楽しんでいるところがあるちょっと性格の悪い方ですが、ところどころに優しさは垣間見えますし……。
ただ、周囲の貴族女性との噂は絶えないですし、城下からもラブレターが止まないといいますし、そんな方がどうして私を、と思うのですが。こんなモテない不美人の象徴みたいな行き遅れを、ですよ? は国中の美女を思いのままにできるようなこの方が。
というか……ファンデッド家の伯爵位叙爵そのものが、私と王弟殿下の婚約のためのもの、ということですよね? 今ようやく気づきました。
王弟殿下との釣り合いは取れませんが、大公家に嫁入りをするためにはやはり爵位が高かった方がいい訳で……伯爵でもまだ釣り合わないと思うのですが、急激に上げる訳にもいきませんし、これが限界だったのでしょう。
陛下と王弟殿下は――バルトロメオ様はとても仲が良いですし(悪友的な仲の良さだと思います)きっと恋を応援したいと思ってこういうアシストをしたのでしょうね。
「……私で、本当に後悔しませんか?」
「後悔はしねぇよ? ってか、もっと自分に自信を持ったらどうだ? まあ、難しいかもしれねぇけどな。俺が聞きたいのは、良いか、悪いかのどちらかだ。後悔とか、そんなことじゃねぇ。俺のこの気持ちを受け取ってくれるか、それとも嫌なのか」
「私は、釣り合いが取れるとは思いませんが、王弟殿下が望んでくださるのであれば、その気持ちを受け取りたいと思います。――私も好きですわ、王弟殿下」
「王弟殿下、じゃなくて、バルトロメオって呼んでくれ。……良かった、受け取ってくれないんじゃないかって、拒否されるんじゃないかって心配だったんだ」
侍女見習いの頃、中庭に鳥の巣を見つけて雛を観察していて、木の枝に髪が絡まって解けなくなって半べそで困っていたところを通りがかったのが執務から逃げ出したバルトロメオ様に笑われるという出会いを果たしたあの時、私はこんな未来を想像できていたでしょうか? いえ、ついさっきまでできていなかったのですから、できていた筈などありませんね。
……心配するも何も、バルトロメオ殿下に告白されて拒否する人など、いないと思いますが……えっ、もしかして、その可能性が私にあったってことですか?
自分の思い通りにならない相手だからこそ、好きになったとか……そういう物好きな嗜好ではきっとないのでしょうね。
私と一緒に過ごした時間を振り返って、それ故に私が良いと言ってくれたのです。とても嬉しいことだと思います。
……私に大公夫人が務まるか不安ですが……というか、苦手な社交界にも本格的に出ることになると思いますが、こ、こうなったら覚悟決めて頑張るしかありませんね。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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