Act.8-267 ファンデッド子爵家の波乱のその後 scene.1
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
「まあ、どうせそんなことだろうと思ったよ。……でも、全ての貴族を恨んでいる訳ではないでしょう?」
「そりゃ勿論だ。あの時から親友だったディランも、アーネストも、今の俺の周りにいる大切な奴らはみんな俺のためにと色々と手を打ってくれた。ナジャンダだって、俺の無茶な頼みを聞いてメリエーナを養子にしてくれた。……俺がそいつらを恨む訳がねぇよ。……まあ、特別パーバスディーク侯爵を恨んでいるってのは確かだ。お前ら蛇はあの戦争の時からこの国に潜伏していたのに、何故あの時、この国を滅ぼさなかった? 【ブライトネス王家の裏の剣】に恐れを成したからか? 違うか? それなのに、何故今だ? 今になってブライトネス王国を滅そうとする? タイミングが違うだろ? お前らは本当に嫌いだよ、俺の嫌いなことを尽くする。俺を怒らせて楽しいか? そうか、じゃあ、その怒りで身を滅ぼしたっていいよなぁ? ……ローザ、奴らの研究施設の位置は分かったか?」
「見気の派生――記憶の読み取りでようやくねぇ……しかし、魔法で記憶を取り出した方が楽だねぇ。やっぱり、慣れないことはしない方がいい」
「そっか、じゃあ、もうこの老人の顔を見たくはねぇし、必要な情報も読み取れた。シーラ、お前の手で殺したいかもしれねぇが」
「分かっているわ。万事、【血塗れ公爵】とその一族に一任する。私では決して復讐は果たせなかったから」
「何か悪いねぇ、じゃあ陛下。あちらは準備が整っていますので、どうぞ、お好きなタイミングで」
「パーバスディーク侯爵、お前のことを俺の手で殺してやりたいところだが、残念ながら俺は国王だ、それを許してはもらえない。その代わり、ラピスラズリ公爵家がお持てなしのために用意してくれているみたいだ。――人生最後の瞬間を、地位にしがみついたその人生が全て無意味になって、何も持っていないただの老人に戻って死ぬその瞬間を、その愚かな行いを噛み締めながら死ね。――《蒼穹の門》」
ナイフがパーバスディーク侯爵の足元に突き刺さり、光に包まれて消えた。
「様々説明をしなければならないこともありますし、一度サロンの方に移動した方が良いのではないでしょうか? アルマ先輩、お願いできますか? 給仕の方はボクの方で行いますので、アルマ先輩が気を回す必要はありません。連戦でお疲れでしょうし、不快なものをお見せしてしまいましたからね。……しかし、クソ陛下、流石に壊し過ぎじゃありませんか?」
「まあ、丁度良かったと思うけどな? しかし、夏だから大丈夫かと思ったけど、窓全部割ったら夜風が入ってきて寒っ」
「……はぁ、やっぱり直しておいた方が良さそうだねぇ」
時間が巻き戻るように屋敷の破損が修復されていく。相変わらず、凄い魔法ね。
「さて、エイフィリプの件は後でやることにして……とりあえず、眠らせてどっかの屋敷にぶち込んでおくか」
何かの魔法でエイフィリプ様を眠らせ、氷の鎖を砕くと、そのままぞんざいに空間の穴を開いてポイっと投げ入れた。やっていることは凄いのでしょうけど……それを塗り潰してしまうほどの扱いのぞんざいさがね。
どんと床で跳ねたエイフィリプ様はそのまま床を滑って空間魔法で繋がった屋敷の壁に激突した。
パーバスディーク次期侯爵様も、自分の息子に対する扱いに何かを思ったのでしょうが、あまりに圓さんが恐ろしいのか何も言い出すことができませんでした。
◆
サロンに到着したところで、圓さんがティーカップとコーヒーカップを運んできました。
圓さんを除く全員が座り終えたところで飲み物が丁度配り終えたようで、圓さんも着席しました……下座に。
何故か、私達ファンデッド子爵家の面々が上座で、陛下達が下座に座るというよく分からない状況になっています。
「まずは、アルマ先輩に謝罪を。……今回の件を隠していて申し訳ございませんでした」
「いえ……ローザ様は私がパーバスディーク侯爵の罪という新たな問題を背負ったままパーバスディーク侯爵家御一行を迎え入れ、その負担が倍増することを避けたかったのですよね?」
「流石はアルマ先輩、本当に聡明で助かります。ファンデッド子爵家の皆様にも謝らなければならないことですが、今回、ボク達はパーバスディーク侯爵を断罪するためにこの場を利用しました。それが最善だったと、ボクは今でも思っていますが、皆様にとっては不快なことだと思います」
「……最善、ということはどういうことでしょうか? 別にこの場を使わなくても、パーバスディーク侯爵様は断罪できた筈です」
「えぇ、流石はメレク次期子爵様、その通りですわ。……まず、目的の一つは、アルマ先輩を試したかったということでした」
「……私を、試す?」
「えぇ、ファンデッド子爵様が起こした例の問題――あれは、ボクが半分くらい手を貸してしまいましたから。なので、今回はボクの最低限の助力でどこまで行けるのかを測りたかったという意図がありました。実際、アルマ様先輩はパーバスディーク侯爵の怪しげな行動を事前に読み取り、ボクにその可能性を尋ねました。ボクがしたのはディマリアさんとカレンさんを同行させるように手を打ち、お持てなしに必要な最低限の用意をしただけ。そこからは、アルマ先輩とファンデッド子爵家の皆様が奮闘した結果です。ファンデッド子爵家の中に蟠りがあることは知っていましたから、その解決の機会を用意したかったということもあります……こういう問題は第三者が介入するより、当事者達で解決した方が禍根が残りにくいものです。それに、ディマリアさんであれば、絶対にアルマ先輩のことを気に入ってくださると思いましたから、きっとアルマ先輩にとっても心強い存在になってくださると確信していました。今回、ディマリアさんの派遣を依頼したのも、そういったことを勘案してのことです」
「もし、私がアルマ様を気に入らなければ、その時はどうするおつもりだったのですか?」
「その質問に意味はありませんよ。何故なら、これほど真摯に侍女として勤め上げている方をディマリアさんが嫌いになる筈がないと、そう確信していたのですから」
まるでそれが、当然のことだと言わんばかりに、圓さんはニッコリと微笑みました。
何というのでしょうか……この方、やっぱり先見の明があり過ぎでは?
「今回の件でよく分かったと思いますが、アルマ先輩はボク達の助力抜きでもファンデッド子爵家の問題を解決できるだけの力があるということがこれで証明できたかと思います。勿論、これはファンデッド子爵家の皆様がそれぞれ思い悩まれ、対立し、その上で示された結果だと思いますが。ボク達が来る以前の時点で、既にパーバスディーク侯爵家の力を借りないという結論に、フラン様は微妙でしょうが、それ以外の方々は同意され、そのためにしっかりと行動を起こしておられております。メレク様も毅然として、パーバスディーク侯爵の乗っ取りに真っ向から反対しました。クィレル様、メレク様にはオルタンス嬢と釣り合うだけのものがあると思いますが、いかがでしょう? なんなら、ボクが最低限の助力しかしていないという証拠をご提示しましょうか?」
「いや、その必要はありません。私もメレク殿とオルタンスの婚約を認めるつもりでいますから。……ところで、そろそろお話ししてくれてもいいのではありませんか? ローザ様、今回の件の詳細な説明を」
「そうですわね。色々と疑問を解決しておくべきでしょうが……その前に、パーバスディーク次期侯爵の耳には入れたくないのでご退場頂きましょう」
キラっと光った瞬間にはパーバスディーク次期侯爵様の姿は消えていた。
……きっと滞在用に用意した部屋に転移させたのね。一緒に掴んでいたカップも転移したみたいだし、特に問題は無かった……のよね?
それから、圓さんはこれまでの『這い寄る混沌の蛇』との戦いについて語ってくれた。
そして、このブライトネス王国にもその尖兵が潜んでいることを……そして、ブライトネス王国に潜む尖兵のトップがフンケルン大公様であるということを。
まるで、点と点が繋がっていくようだった。あのアネモネ大統領がフンケルン大公様へ喧嘩を打った結果、ネスト次期公爵様が誘拐され、その誘拐を利用してシーラさんを捕らえ、そして、今度は大公様の右腕であったパーバスディーク次期侯爵様を断罪しつつ、闇の魔法の研究施設を押さえ、そして、いよいよフンケルン大公様を。
そして、それも通過点。――本当の戦場は園遊会。
圓さんがかつて言っていたように、『這い寄る混沌の蛇』の冥黎域の十三使徒が一人、オーレ=ルゲイエを誘い出すために、圓さん達は動いている。でも、まさかその計画の中にパーバスディーク侯爵様のファンデッド子爵家の介入が組み込まれているなんて……まあ、それをあのタイミング想像できていたら、それこそ圓さん並みの先読み力があるということなのだけど。――私には到底無理な話ね。
ちなみに、あれほど地位に固執していたパーバスディーク侯爵が何故国家転覆など企てたのかというと、ブライトネス王国滅亡後の新体制で地位が保障されていたからとのこと。つまり、どっちに転んでもいいように動いていたということね。
クィレル様とパーバスディーク次期侯爵の関係は、昔、剣の勝負で負けたのを根に持っているということだった。エイフィリプ様は目をつけていた女性が悉くアルベルト様を選ぶからとアルベルト様を目の敵にして、その結果、圓さんに噛み付いていましたし、その、何というか、パーバスディーク侯爵家の人って執着心の強い面倒な人ばかりですね。
「他にもクィレル様がお聞きになりたいことがあると思います……寧ろ、そちらの方がメインだとは思いますが、そちらはまた後日、機会を作らせて頂きますわ。それでよろしいでしょうか?」
「えぇ……今ここで話せないことも含まれるのでしょう。当日は様々常識が破壊されるでしょうから、覚悟して参ります」
「あらあら、それはまるでボクが常識外れな化け物みたいではありませんか?」
なんて、圓さんは言っていますが、絶対に常識破壊ですよね!? 転生者である私ですら、色々と飲み込めなかったことがあるのですから。
そんな風にジト目を向けられても、その事実は変わらないですよ!
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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