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Act.8-266 ブライトネス王国の『暴君』と蛇の手先の断罪 scene.1

<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


 現れたのは四人。白いエプロンを外した黒い侍女服のワンピース姿の圓さんと、国王陛下、王弟陛下、そして、私も見たことのない黒髪の少女だった。

 圓さんと同じくらいのその少女は、黒く濁った眼をパーバスディーク侯爵様に向けている。


「カレンさん、お疲れ様。しかし、少々頂けないかな? 『こういう頭の悪い『女の敵』は、痛みで教育しなければ理解しないもの』って言っていたけど、そういう奴は痛みを与えたところで理解しないと思うよ? とはいえ、こういう子供の過ちは、しっかりと躾けられなかった親の責任だ。毒親みたいに子供の全てを制御するというのは行き過ぎだけどねぇ、でも、社会人として貴族として当然の道徳的なものを教えるのは君達親の義務ではないのかな? まあ、今回の件でパーバスディーク侯爵やパーバスディーク次期侯爵に親としての資質は皆無ということは理解したし、君達に親の資格はない。この子は引き取らせてもらって、こっちで教育させてもらうよ。――女性に対し、どのように接するべきかをこのボクがしっかりとお教えして差し上げよう」


「おう、怖い怖い。ローザって割と女尊男卑の傾向が強いからなぁ。妙に女に優しいところがあるし……ってか、逆に男に対して容赦が無さ過ぎると思うけど」


「別に女性だから手を抜くということはないよ。女だろうと、男だろうと、ボク達にとって障害となるのならば排除する。ただ、女性に対して優しいというか、甘いというのは確かだねぇ。シーラさんの件だってそう、別に殺したって何の問題も無かった訳だし。……どんな事情にせよ、敵に回ったら殺さなければならないっていう極端な考え方もあるし、確かに危険性を限りなく排除するなら、そちらの方が正しいのかもしれない。人を殺すなら穴二つと言うけど、その例外は皆殺しだよ。恨みを晴らそうとする人間を全て殺していけば、理論上は復讐されるこもはない。まあ、そんなことやってたら人類が全滅しそうだけどねぇ。……誰を殺し、誰を生かすか、そういった傲慢な考えは強者のみが許される特権だよ。勝った者にだけ許される権利だ。……勿論、こんな生き方をしてきたボクが楽に死ねるとは思わないけどねぇ。まあ、前世は殺された者の家族による報復で死んだんじゃなくて、よく分からない恋愛愛憎劇に巻き込まれて死んだんだけど。……とりあえず、カレンさん。その腕、氷魔法で止血しておいてくれないかな? まあ、その腕はもうぐちゃぐちゃでダメだろうけど。ほら、得意でしょう? 水操作」


「――承知致しましたわ、お嬢様」


 カレンさんがエイフィリプ様の腕を離すと、ぐちゃぐちゃになった腕が一瞬にして凍りついた。

 それと同時に、無数の氷の鎖がエイフィリプ様を縛った。


「……ろ、ローザ=ラピスラズリ。権力を持つだけの世間知らず小娘が。アルベルトに目を掛けられているのも、王女殿下のお気に入りであることと、格上の公爵家の娘であるからだ! 何も知らない小娘が……」


「黙りなよ、誰が発言を許した? まあ、いいや。アルベルトの件は、そもそも前提が違っている。……ボクが本当に、一途に愛しているのはあの人だけだ。抜き身の刃みたいに危なっかしくて、でも、ボクのことを心から大切に思ってくれている、不器用な、彼女だけだ。……ただ、他にも許されるのなら、その思いに応えたい人達がいる。だけどね、そこに、アルベルトは入っていないんだ。……あっ、この話、万が一口外したらいい死に方できなくなるからそのつもりでね」


 圓さんは――ローザ様は満面の微笑を浮かべたけど、全てを飲み込むような黒に染められた瞳は悍ましいほど濁っていて、黒い何かが渦を成していて……悪役令嬢ローザとは比較にならないほど、恐ろしく見えた。


「さて、パーバスディーク侯爵。貴方には国家転覆罪の嫌疑がかけられている。嫌疑というか、最早確定で、死刑一択なんだけどねぇ」


「ってことだ。ローザの言う通り、ここにいるシーラが証言してくれたぞ。お前がその研究が禁忌とされている闇の魔法や暗黒魔法に手を染めていることを。その研究施設の重役であることを。まあ、それも氷山の一角――お前、いやお前達の真の狙いは国家の転覆と王家の打倒だ……違うか?」


「何のことやら? そもそも、そのシーラという娘と儂に面識はありませんが? それに、その娘が嘘を吐いている可能性もあるのではありませんか? 私には何が何やらさっぱり」


「――ッ!? マキシア!? お前が、お前が私達を監禁し、酷い実験をしたことは、この私がよく知っているわ。何度も何度も、お前の顔を、あの地獄で見たのだからッ!」


「さあ、何のことやら?」


「シーラ、落ち着いて。……大丈夫、ボクは分かっているし、陛下も、王弟殿下もコイツが悪いことは分かっている。だけど、この男は本音を器用に隠してしまう狸爺だ。正攻法でいったって解決し無さそうだし……敬虔な信徒という訳でもなさそうだから、『這い寄るモノの書』にも反応しないでしょうし……仕方ありません。陛下、闇の魔法の使用許可を」


「――や、闇の魔法ッ!? 陛下ッ! 何故、ラピスラズリ公爵家の小娘が闇の魔法を使うことを許されるのですかッ! その力は――」


「おっ、言ってたお前の新作だろ? 俺達みたいな人間には不要だが、拷問よりも効果ありそうだし――遠慮なくぶっ放しちまえ!」


 陛下が楽しそうに笑った瞬間――しかし、私には何も起こったようには見えなかった。


「ふふふ、バカめ! この儂が話す訳が無かろう! ようやくジェム=フンケルン大公様の思惑に気づいたかッ! だが、儂が証言しない限り、あの方が反乱を企てていることなど明らかにはならん。しかし、つくづくバカな女だ。少し優しくすればころっと騙される。地獄から救い出してくれたあの方? そのジェム様こそが元凶だというのに! アハハハ、やはり女は愚かだ――ッ!?」


 シーラさんの目に涙が溢れ、圓さんは彼女を抱き寄せてそっと背中をさすって優しく慰めていた。

 パーバスディーク侯爵様は、ようやく自分の心の中に隠していた、エイフィリプ様以上に醜悪な部分が全て外に出てしまったことに気づき、血走った目で圓さんを睨め付けている。


「な、何をしたッ!?」


「何って、洗脳魔法の応用だよ? ほら、ご存じない? 『精神支配・服従の法マインドコントロール・インペリオ』。それの応用だよ。マキシア、ボクは君を洗脳しただけ、君も気づかないように、君に、本音しか喋ることができないという暗示をね。お前の頭に浮かべた思考が、本人の意思とは裏腹に口から飛び出す。『真実語り(トゥルー・トーク)』という魔法だ。ほら、痛みを伴う拷問なんて前時代的でしょう? こっちの方が、よっぽど建設的だ」


「ってことだ。パーバスディーク次期侯爵、お前は今回の件とは無関係みたいだが、親が悪事に手を染めていたことに気づけなかった。よって、領地の三分の一の返上と、男爵位への降格を命じる。これだけで済ませてやるんだ、ありがたく思え」


 いや、それはいくらなんでも重過ぎると言いますか、パーバスディーク次期侯爵様は全くこのことを知らなかったのですよね? それが、いくら家族が国家転覆のために動いていたとはいえ、これほど重い刑に処せられるものなのでしょうか?


「へ、陛下ッ! 確かに親父のしたことは大罪です! しかし、パーバスディーク侯爵家はそのことを全く知りませんでした。どうか、どうか、寛大な裁きを。これでは、まるで『暴君』ではありませんかッ!」


 これまで全く影が薄かったパーバスディーク次期侯爵様が陛下に温情を求めた瞬間、私は決定的に何かが変わったことを肌で感じました。

 空気がピリピリと張り詰めて……何か、絶対に踏んではならないものの尻尾を踏んだような、そんな気配が。これは……本当にヤバいかもしれません。


「その『暴君』を国王にしたのは、貴様ら貴族じゃねぇのかぁァ!?」


 圧倒的な怒りがそのまま衝撃となって駆け抜け、廊下の窓ガラスが全て割れ、壁にヒビが入りました。

 魔法ではなく、意志の力によって……これが、霸気ですか。


「俺はなぁ、なりたくて国王になった訳じゃねぇんだよ。本当は国の民の命なんて守りたくはねぇ。だけどなぁ、あいつがこの国をいい国だと言ってくれた、王となって民を導いて守って欲しい、そう願われたから、俺は王になったんだ。俺が欲しかったのはお前らが欲しがっている王権じゃねぇ、あいつの、メリエーナとの幸せな人生だったんだ。それを、お前ら貴族は奪った! あいつが平民だったから、あいつは正妃にはなれなかった。あいつは俺と釣り合うために大公家に養子入りして、俺はくだらない戦争の処理に明け暮れて、ようやくこれであいつと一緒になれると思ったのに、あいつはクソ忌々しい正妃となったあの公爵令嬢に散々いじめられ、挙句毒殺され……俺は何のために、王になったのか、それでも俺が踏み止まれたのは、プリムラが居てくれたからだ。あいつの忘れ形見が居てくれたから、俺は踏み留まれた。本当はなぁ、俺は平民だから釣り合わないと言い、くだらない権力のために娘を押し付けてきたラウムサルト公爵家とクロスフェード公爵家を破滅に追いやり、メリエーナにその運命を強いた無言で、あるいは言葉で、態度で強いた貴族達を皆殺しにしてやりたかった。だけど、それをメリエーナは望まない、それは俺が一番理解している。だけどなぁ、醜態を晒した、まるで断罪されたいと言わんばかりの貴族を見つけたら、それを断罪しない、我慢しろという方が無理があるってもんだろ?」


 これが、陛下の思い。……大切な人を奪われた人の歪みなのね。

 陛下は、貴族を恨んでいる。その陛下がこれまで模範的な王として君臨し続けることができたのは、相当な理性でその衝動を抑えてきたから。

 そもそも、これ以上の温情を期待する方が愚かなのね。何故なら、この決定は陛下にとって最も譲歩した結果なのだから。


 私達貴族は生かされている――陛下の慈悲によって。それが失われたらどうなるのかを、この日私達は理解した。


「――ようやく、陛下の本音が聞けたよ」


 ただ一人、圓さんだけがその狂気を真正面から受け止め、陛下に優しく微笑んだ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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