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Act.8-261 ファンデッド子爵家の波乱の婚約 scene.11

<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


 さて、ここからどう手を打つか。私は血縁ではないから、私がいくら言ったところでこのアプローチでは何もできない。では……これならどうかしら?


「しかし……そうなりますと、そのまま繰り上げでランジェロ=パーバスディーク様が次期伯爵になられるということですのよね。ランジェロ=パーバスディーク様も領地を継いだばかりの折はお忙しいでしょうし、次期当主の教育には当主筋が携わるのが常というもの」


「……俺が、次期侯爵」


「そして、ランジェロ=パーバスディーク様が跡目を継がれるのであれば、その嫡子であられるエイフィリプ=パーバスディーク様が次期侯爵と指名されるのは貴族としては当然です。ですが、爵位交代の折は混乱が生じないとは申せませんのでパーバスディーク侯爵様がそのまま後見としておそばにいてくださったらきっと心強いのでは思います」


 この次期侯爵という言葉でにやぁ、と笑ったエイフィリプ様。嬉しいんでしょうけど、社交界的には顔に出さないってことも必要だということを覚えた方がいいんじゃないかと思いますね、他の家の私が思うのもあれですし、正直心底どうでもいいですが。


 私の言葉に次期侯爵であるランジェロ=パーバスディーク様も思うところがあるのでしょう。父親の方に視線を向けていますし、パーバスディーク侯爵様が独裁者として君臨しているという推測は間違っていないのでしょうね。

 その視線に対する反応がニタァという不気味な笑みというのが、また……。


 勿論、顔には一切出しませんでしたけどね。


「それで、ルーセント伯爵家との顔合わせはどのようにするか決まったのかな?」


「ファンデッド子爵家の嫡子として、恙なくとだけ申し上げておきます。お爺様にご心配をおかけするようなことは何もございません」


「――貴様、お爺様が折角田舎貴族のお前が粗相をしてルーセント伯爵の前で恥をかかぬようにと遠路遥々来てくださったというのに! 頭を地べたに擦り付けて助言を乞うくらいの気持ちを見せたらどうだ!?」


「――これ、エイフィリプ。鎮まりなさい。お前はもう少し落ち着きを持ったらどうじゃ? メレクの言い分は次期当主としては当然の事じゃぞ?」


「――しかし」


 三文芝居にしか見えないのですが、エイフィリプ様は全く気づいてないんでしょうね。

 そしてやはり、こうやってファンデッド子爵家から「パーバスディーク侯爵家の意向に染まらない」と言われることは想定済みだったのでしょう。


 やはり、圓さんの仰っていた通り、ファンデッド子爵家の掌握の方はついでだったようですね。あわよくば、両方の目標を達成するつもりだったようですが。

 エイフィリプ様に叱責している姿からも、ちゃんと教えようという雰囲気が感じ取れませんし、ただのポーズにしか見えません。


「儂は歳のせいか、あまり最近は社交界にも出れておらぬ故、世事には疎い。息子も社交界はあまり好きではなくての」


「……必要最低限は顔を出しております」


「それで人脈が広がるとは思えんがな」


 息子と孫があまり社会的に慣れていないことを嬉しそうに笑うとは……よっぽど息子と孫が模範的な貴族ではないことが喜ばしいご様子ですね。

 パーバスディーク侯爵家としては、次期侯爵やその息子が優秀であった方が繁栄の可能性が高く、喜ばしいことの筈ですが、パーバスディーク侯爵様が全てを支配して掌握しておきたいという支配欲を満たすためには、やはり無能であった方が良いのでしょうね。本当に悪趣味です。


 あくまでこの場はメレクの婚約を祝いに来てくれたパーバスディーク侯爵様御一行をお持てなししているという形ですから、当然ホスト役は私ではなくファンデッド子爵夫妻、そして主役であるメレクでなければなりません。

 私の方が場慣れしているというのが残念でなりませんが、まあそれも王城という場に居たからっていうのを今とても実感しております。王子宮筆頭侍女になってからは大して時間が経っていませんが、これまで数々の行事で給仕を行ってきた、その経験が身についているなぁ、と実感しています。


「仮にですが、お祖父様が助言下さると仰るのは……それはパーバスディーク侯爵という立ち位置からでしょうか、それとも僕の祖父という個人の立場からの助言でしょうか? 先程も会話に出ましたがここではっきりさせておく必要があるかと思います」


「――貴様ッ!」


「――め、メレク!?」


「僕は社交界でルーセント伯爵様とお言葉を交わさせて頂いた上で、あの方が誰かに依存するような子供に大切な妹君を預けて下さるとは到底思えません。ですのでパーバスディーク侯爵という立場でお話しをなされるのであれば、申し訳ございませんが僕はファンデッド次期子爵としての立場でそれをお断りせねばなりません」


 メレクも成長していますね……とはいえ、その成長をもっと早くお父様とお義母様に向けていれば……ということが悔やまれてなりませんが。

 ルーセント伯爵様がどの程度メレクを将来性のある人として見ているかは分かりませんが、次期子爵としてある程度現当主の過ちを修正したり、といった点も評価されている可能性はあるのではないでしょうか?

 

 私の知るルーセント伯爵様はとても友好的な方ですが、外宮所属の外交官としても忙しくなされていて、予期せぬ状況で跡目を継ぎながらもそつなくこなしているという方ですから、その合格点は非常に高いものなのではないかと不安に思うのですよ。

 とにかく、今回の件で選択を誤れば……高確率で婚約解消という可能性も高い訳で。

 そう言った点もパーバスディーク侯爵様は理解しているのか? それとも、メレクの婚約など知ったことじゃなく、ファンデッド子爵家さえ傀儡にできればそれで十分とでも思っているのか? まあ、上手くルーセント伯爵家も掌握できれば、などと考えているのかも知れません。いずれにしても自分の懐が痛む訳ではありませんからね。


「僕としては、お爺様が孫として案じてくださっておられるというお言葉を、とても嬉しく思っているんです」


 メレクのフォローはお義母様を気遣うものだったのでしょうが、お義母様はハラハラしてそれどころではないし、肝心のパーバスディーク侯爵様は最早こちらにしか目を向けていませんし、無意味なものになってしまったのかもしれません。

 ああ、本当になんて居心地の悪いお茶会なのでしょう。とはいえ、ここで私がでしゃばってメレクの頑張りを無駄にしてはなりません。

 オロオロしているお父様にはもう期待してませんから、とにかく今は表面上だけでもどっしり構えていてください。


「そうじゃなぁ……儂としては、引退を予定しておる身。個人として捉えてもらっても良いのじゃが、第三者がどのように見て来るか、じゃな?」


 その第三者というのは、私のことですね。

 王子宮を思い浮かべてホームシックになりそうです。……あの蠱毒みたいな王子宮を、ですよ。いよいよヤバい感じになってきている気がします。


「失礼致します」


 そんな雰囲気の中、子爵家の侍女がお父様に歩み寄ってお辞儀をしました。角度も完璧、抜かりはありません。


「お客様のお部屋の準備、整いましてございます」


「そ、そうか。さて、まだ積もる話もありましょうが、お疲れでもありましょう。パーバスディーク侯爵様も皆様も、宜しければ一度お部屋の方へご案内をさせますがいかがでしょうか?」


「そうじゃの……老骨はやはり長く馬車に揺られると少々辛いものがある。お前達も子爵の言葉に甘えさせてもらうが良いよ」


「では、そうさせて頂こう」


「……フン」


「相分かりました、お前達、お客様をご案内しておくれ」


「畏まりました」


 控えていた使用人達が頭を下げて部屋を後にしました。

 この辺りはお父様と事前に打ち合わせておいた通りだったので、当主らしく立派な振る舞いでした。……早くこの雰囲気を脱したくて必死な空気も感じましたけど、そこは見なかったことにします。


 パーバスディーク侯爵様一行がサロンから出て行くのを見送って、私は溜息を吐き出しました。

 それと同時に他のみんなも……ですけどね。


 それを見てディマリアさんが少しだけ笑ってましたけど、やっぱりご令嬢ってのは大変なものですねぇ、なんて他人事のように思ってしまいました。


「皆様お疲れ様でした」


 パーバスディーク侯爵様一行が完全に客室に入ったのを確認し、カレンさんが戻ってきました。


「とりあえずは第二段階、お疲れ様でした。これで峠は越えましたね」


「……峠を、越えたのですか?」


 まるで未来がどうなるかをご存知のように語るカレンさんに、メレクが不思議そうに尋ねます。


「えぇ、これからはずっと楽になるとだけお伝えしておきましょう。そろそろあの方がご到着なされる予定ですからね」


 と、カレンさんは意味深に笑うだけ。ただ、これから来る人が強い味方になってくれるということは確かなのでしょう……強い味方、というと圓さんかな? でも、どのような言い訳を使って押しかけてくるのかしら?


「……ちなみに、段階は全部で何段階あるのですか?」


「私が聞いている限りだと、最短で第三段階ですわ。修羅場と化したお茶会をとても楽しく拝見させて頂きましたが、あの状況だと、比較的早くこの件の解決に持ち込めそうです」


 修羅場と化したお茶会をとても楽しくって嫌味にしか聞こえないわ。

 まるで見せ物のように扱われたことで、お父様もお義母様もメレクも少し不機嫌な顔を見せた。

 ……かくいう私は不機嫌よりも、「比較的早くこの件の解決に持ち込めそうです」というところに引っかかっている。そもそも、勝利条件とは何か? しっかりとお持てなしをして帰って頂く、そう何日も滞在することは流石にないだろうけど、最短でも数日は掛かる計算で……それを、比較的早く、と表現するかしら? それに……それに、今後もパーバスディーク侯爵家との関係は続いていく。

 今回の件を凌いだからと言って、それを解決とは、本当に言うのかしら?

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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