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Act.8-260 ファンデッド子爵家の波乱の婚約 scene.10

<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


 この時、ブライトネス王宮の地下で「うわ、何あの冒涜的な飲み方! クソウケるんだけど!!」と陛下が叫び、圓さんが露骨に青筋を立てていた、などということは当然知らない私は、手放しで褒めるかのようなパーバスディーク侯爵様の言葉に、私は言葉では応じず目礼でお応えしました。

 ……この日のやりとりの一部始終が実はしっかりと録音されていて、後で聞かせられたんですけど、何それどんな拷問だと思いました。


「しかしこうして考えるとアルマ嬢とエイフィリプは年齢も近い。娘を子爵に嫁がせると決めておったので婚姻は考えていなかったが今にして思えば勿体ないことをしたものだ。このように気遣いができる女性は家を盛り立てるに相応しい女主人になれるであろうからな」


「恐れ入ります」


「エイフィリプと面識は無かったのではないか? これを機に仲を深めてはいかがだろうか? 血の繋がりこそないが、我らは縁遠いという訳でもなかろう?」


「いえ、以前王城内でお会いしたことがございます。そうでございますよね、エイフィリプ=パーバスディーク様」


「ああ、貴様がまだ侍女見習いの頃だな。叔母が嫁ぎ先に困って行った先の娘がいるというので物見遊山に行けば、これまた地味な女が」


「エイフィリプ、口が過ぎるぞ!」


 あー、はい。今更ながら『王子宮の筆頭侍女』という地位の女を手に入れれば、色々便宜が図れるのだろうと孫をちらつかせてみたら、まさかという訳でもないけどエイフィリプ様の方から喧嘩を吹っかけて台無しにするという状況ですね。

 これには、流石のパーバスディーク侯爵様も予想外だったようで少しだけ声を荒げました。


『パーバスディーク侯爵は地位に固執するタイプのようでねぇ、次期伯爵も少しずつ引継ぎをしてもらっている筈なのに一向に進まない引継ぎに、パーバスディーク侯爵が地位を譲る気がないのだということに気が付いて最近では険悪な雰囲気みたいだよ? まあ、パーバスディーク侯爵は少しずつ権力を委譲しつつもパーバスディーク侯爵の頂点に居たいようだからねぇ、ファンデッド子爵家の掌握も狙っていると思うけど、その一件を利用して次期当主と次期当主の息子にダメージを与えられればと思っているかもしれない』


 この圓さんの言葉が的中しているのであれば、エイフィリプ様の失言は大きなプラスです。しかし、それを踏まえても今の失言はマイナスになり兼ねないものだと判断したのでしょう。

 この方はでき得るなら私も掌握して、更なる権力を得たいと考えているご様子ですし……権力に取り憑かれた老人というか、妖怪というか、甚だ迷惑な方ですね。


「構いません。私が地味なことは自分がよく理解しております。そのせいで両親には心配をかけてばかりで申し訳ないと思っております」


「おお、孫の粗相を許してくださるか。度量の広い女性でなによりじゃ」


 生まれてこの方恋人はいない私でも、流石にコレ(・・)とは……いえ、エイフィリプ様との婚約は有り得ません。

 エイフィリプ様も不本意でしょう。それを承知でこういうことをやるのですから、本当にタチの悪い御仁ですね。


 ここまで侯爵様は次期侯爵様に一切意見を求めていませんし、次期侯爵様も静観の姿勢を貫いてエイフィリプ様が失言をしないように見張るつもりのようですし、娘であるお義母様に私を止めるように言わない辺り、パーバスディーク侯爵様は全てを自分の思うがままにコントロールする、そういうタイプなのでしょうね。唯一空気を読まないのがエイフィリプ様、というところでしょうか?


 ……しかし、腹の探り合い、本当に肩が凝ります。そういうのって私の柄じゃないんですよね……とっとと終わらせて解放されたいものです。

 お父様は我関せずって感じというか、口を挟みたくてもどこから挟んでいいのか分からないという状況のようです。


「そういえばメレクや、オルタンス嬢とはどうかね?」


「はい、お爺様。仲良くしております」


「そうかそうか。今まで自領の方が忙しく、お前には何もしてやれなかった祖父を許して欲しい。今回息子を伴ったのもな、近く儂は引退をして侯爵家を息子に譲るつもりでな? そうすれば時間がいくらでもとれるゆえ、今更ながらで悪いが祖父と孫、改めて時間を持ちたいと思ってな?」


「……」


 さて、いよいよ本題に入ってきましたね。しかし、ここまで計算されている時点で圓さんより遥かに格下なんだなぁ……と感じます。それでも、狸で厄介な相手であることは間違いないのですが。

 あの人達は何というか、策略の巡らせ方が別物なのですよね。まるで一流の棋士のように何十手先、何百手先も読むことができるのだと思います。


 圓さんに比べれば小物……というのは、気持ちを楽にしてくれる、という訳ではありませんが。そもそも、圓さんは絶対に敵対してはならない類の人間ですよね? 恐らく、パーバスディーク侯爵様は圓さんに睨まれているのでしょうが、果てさてどうなることやら? それに関しては関知し得ない問題ですし、きっと私の守備範囲外でもあるのでしょう。もし、守備範囲であればカレンさんが何らか言ってくる筈ですし。


 メレクが答えを上手く出せずにいるのが見えましたが、ここで私が口を挟むのは良くありません。お義母様も何かを言いたそうですしね。

 あちらのエイフィリプ様は物凄くイライラした様子を隠せていない辺り、彼は私と同じ年頃でもあまり社交的な場数を踏んでいないことが分かります。


 まあ、次期侯爵が父親という段階ではそこまで世間では重要視されませんからね。侯爵家の直系。軽んじるほどでもないが、さりとて重んじることはないという微妙な位置です。将来を見据えて多少仲良くしておこうかなという方が大半でしょう。


 何せ彼の年齢でしたらメレクと同じく『次期』とか呼ばれる人の方が多いですからね……例えば、ラピスラズリ公爵家のネスト様とか。

 そういう意味で、パーバスディーク侯爵様が今まで隠居なされずに長く侯爵位に留まられていたのは、あちらの家にとっては色々な問題を孕んでいたのかもしれません。

 まあ我が家に関係ない、で済んでいれば別に気にするほどでも無かったのですが……そうも言っていられないのがこの現状。


 このタイミングで何故引退するのか……まあ、考えられるのは年齢、そして次期侯爵に何かしらの問題があったと仮定して、その問題が解決したから。

 しかし、もうその意味は分かっています。新たな寄生先を、傀儡になりそうな存在を見つけたからです。ファンデッド子爵家とメレクという。メレクがルーセント伯爵家と婚姻関係になったことで利用価値が増したことが引き金になったのでしょうね。


「息子に家督を譲り次第、儂をしばらくこのファンデッド家に置いてもらえんかな? 子爵。なに、領地運営の邪魔などはせんよ! 可愛い孫との時間を取り戻したいだけじゃて」


「は、は……いえ、それは、あの……」


「お待ちくださいお爺様、お言葉は大変有難く思いますが、僕は次期子爵として行動をせねばならない時期。幼い子供ではありませんので、ぜひこれからは社交界などで親交を深めていただけたらと」


「――メレク! 折角お爺様が仰ってくださる言葉に」


「……母上」


 おずおずと言わんばかりのお義母様は、どう見たってパーバスディーク侯爵様の顔色を窺っています。

 というか、今まで放置していた孫を可愛がりたいから準備期間をやるから自分が暮らす場所を用意しておけよってことですね。図々しいというか、ある意味直球というか……乗っ取り案件確定ですね。

 

 侯爵家の力関係は完全にパーバスディーク侯爵様に集中しています。それは、イライラしているとはいえ、エイフィリプ様もパーバスディーク侯爵様から叱責を受けないよう大人しくしているところから見ても明らかです。


「お義母様」


「な……なぁにアルマ」


「パーバスディーク侯爵様がご滞在なさることは、メレクにとってお爺様とのお時間。確かにそれは間違いありませんけれど……そうなると、ルーセント伯爵様にもお伺いせねばならないと思うんですが」


「……えっ」


「その点、どのようにお考えですか? パーバスディーク侯爵様」


「……そうですなぁ」


 パーバスディーク侯爵様は微笑を崩しませんでしたが、全く目が笑っていませんね。余計なことを言いやがって、というところでしょうか?

 そういうお顔は王城で沢山見ておりますから怯むことはございませんよ。

 寧ろ私の隣に座っているエイフィリプ様からの視線が痛いです。


「私は反対も賛成もできぬ立場ですが、ルーセント伯爵様とは光栄にも以前の社交界デビューの折りにお言葉を頂いております。今回あの方の妹君がメレクと婚約して頂くとなると、いくら引退済みとなっていようが、ご当主経験のあられたパーバスディーク侯爵様がご滞在となるとルーセント伯爵家としてもあまり良い印象をお持ちになられないのではと思うのですが?」


「姉上、僕もそうだと思います! ね、父上!!」


「そ……そうだなあ。でもパーバスディーク侯爵様はメレクの祖父であることも事実で……」


「えぇ。ただそうするならば、ご一報を入れないというのは失礼ではないかと思うのです」


「うむ、アルマ嬢は本当によく気が付かれる女性だ! 実に素晴らしい!」


「ありがとうございます」


「その点については儂から一筆書いて済ませようかと思っておったが、そうじゃなぁ、ついつい孫可愛さにファンデッド子爵家の顔を潰すところであったわ。儂の一筆と共にファンデッド子爵からの一筆もあれば良いのではないかな? ん? どう思われるかな、アルマ嬢」


 ニンマリと笑った顔が、ちょっと……というか、相当嫌なな雰囲気よね。生理的嫌悪感を感じさせるというか。

 私はにっこりと笑うことしかできませんが、そんな手紙をもらったらルーセント伯爵様が良い顔をなされないだろうなあってディマリアさんからの話を聞く限り思う訳で、ここで、なんとか阻止しないといけないわね。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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