Act.8-258 ファンデッド子爵家の波乱の婚約 scene.8
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
「今、ディマリアさんから聞いたことが全てではありませんが、ルーセント伯爵様の為人の一つとして考慮すべきだと私は思います。それらを加味して考えるならば、メレクの選択は間違いではなかったと思いますが、どうお考えですかお義母様」
「わ、私? 何故それを私に聞くの!?」
「まずはお義母さまのご意見も頂いて、お父さまのご意見も頂こうかと。その上で家族の合意としてパーバスディーク侯爵様が侯爵家の意見をくださるのでしたら、失礼のないようご返答すべきと思ったのですが……」
流石に伯爵家の人から意見された時にぐらついた答えなんて出したら失礼だからね? 筋が通ってないからっていうのはある程度理由にはなるだろうけど、禍根を残すのは良くない……一応親戚だし。
私からすると他人もいい所だし、これまでの付き合いを考えるとファンデッド子爵家にとっても赤の他人ですが……それでも、お義母様が居心地悪くなってしまうことは望んでませんから。
私だけが分かって、私だけが行動して、では良くないから全員がきちんと意見を言えるようにしておくべきだと思うのだけど、何か間違っているのかな?
「では今度はお父様、お義母様、パーバスディーク侯爵様の為人についてお教えいただけませんか?」
「な、何故そんなことを?」
「そうよ、一体何の必要が?」
二人が怪訝そうな顔をしましたが、これは最も大切なことだと思っています。
「遠路よりお客様がおいでになられるのでしたら、まずはお迎えするためにお客さまのお好みを知りそれをできる限りご用意するものです。人によって好みは違いますから。そして温かく迎えられて悪い気分になられる方もおられませんでしょう? パーバスディーク侯爵様御一行をお迎えするのですから、まずはそのために必要な情報を共有しておくべきだと思うのです」
私が微笑んで見せればお父さまが、ちょっとだけ驚いた顔をした気がする。
「まずは、パーバスディーク侯爵家へのおもてなしの準備を整えましょう。どのような方針で動くにせよ、話はそれからです」
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「どうやら、無事に第一段階は越えられそうだねぇ。まだまだこれからパーバスディーク侯爵家という難所が待ち構えているものの、とりあえず一つの峠を越えたことを祝福したいねぇ」
王宮地下の会議室で、ボクは紅茶を淹れながらカレンの掛けた「E.DEVISE」とカレンの仕掛けたいくつかの盗聴器から流れてくる音を聞きつつ、ボクはファンデッド子爵領で頑張っているアルマにささやかなエールを送った……届くといいのだけど。
「おう、サンキュー。しかし、悪かったな。俺とバルトロメオの分の仕事を引き受けてもらって」
「こっちこそ、真面目に謁見の仕事をこなしてくれてありがとう。こうして時間を捻出できたのは、単にラインヴェルド陛下とバルトロメオ王弟殿下のご尽力の賜物だと思いますわ」
「ってか、それってまるで普段から俺達ダメな子みたいじゃん」
「ダメな子ですよね?」
ボクがグサリと笑いながら尋ねると、ラインヴェルドとバルトロメオが揃って致命傷を受けたという演技をした。そう、演技。こいつら、言っても全然治さないタチの悪い確信犯なんだよ。
「……全く、仲の良いことね。国王と王弟に向かって随分な態度じゃないかしら?」
そう辛辣な言葉をボクに浴びせながら、シーラは紅茶を受け取って、そのままクッキーに手を伸ばす。……って、飲み食いするんかい!
「あら、美味しいわ」
「そりゃ美味しいに決まっているだろ! ってか、俺達とローザは大大大親友なんだぜ!! 寧ろこいつに他人行儀にされるとマジで心折れるから」
「ご機嫌麗しゅう国王陛下、王弟殿下。僭越ながら紅茶をご用意させて頂きましたわ。お口に合えばよろしいのでございますが」
「ほら、だろ? ってか、本性知っているのに猫被られても気持ち悪いだけだって」
「えっ、ええ……確かに気持ち悪いわ」
「オホホホホ、それはどういうことかしら? ボクだって淑女なんだけど?」
「だから、その言い方がまるっきりアクアと同じなんだっ――」
バルトロメオの頭に思いっきり鉄拳制裁。ラインヴェルドとシーラが揃って「うわぁ」という顔になった。お前ら初対面なのに随分仲良いなぁ。
「まあいいです。これから、パーバスディーク侯爵家御一行がファンデッド子爵家に到着します。そして、タイミングを見計らってカレンに預けたナイフを使って《蒼穹の門》で攻め込みます。そこで、マキシア=パーバスディークの口から真相を確かめ、それと同時に現在の敵の拠点――闇の魔法の実験施設がどこにあるかを割り出します。そちらと関連する貴族の邸は、後日ブライトネス王国軍で制圧するのでとりあえず今回は情報を得るだけということで。現当主以外の関与の確認も重要ですが、当主が闇の魔法の研究だけでなく、国家転覆を目論んでいるとなれば無関係でも領地剥奪や……前例はありませんが、爵位の降格といった措置を取らざるを得ないかと」
「……まあ、無関係なら爵位剥奪は流石にやり過ぎだよな? とはいえ、そのままって訳にもいかねぇし。一応形骸して序列しか表さないものになっているから問題はないか。とりあえず、男爵辺りに落とすのが妥当か?」
と、まあ、こんな感じで明日の晩御飯を何にしようレベルでパーバスディーク侯爵家の処分を検討していたらシーラにジト目を向けられた。……なんで? 重要な話じゃないか。
「そうそう、それとは別に確認しておきたいことがあったんだよ。バルトロメオ殿下、実はアルマさんのことが好きだよね?」
「本当に直球で聞いてくるよな? ……正直に言えば、好意を持っている。恋愛的な意味でだ」
「バルトロメオ殿下ってあちこちで浮名を流していると言われていますが、実際のところはただの不器用な方ですよね、確認したところ恋愛に発展したこともないようですし。……アルマさんは真面目ですからね。そういった遠回しなやり方ではきっとただの遊びだと勘違いされてしまうと思いますよ? もういっそ直球で思いを告げられたらいかがですか? アルマさんもバルトロメオ殿下に好意を持っているのは確かでしょうし。……先に進むおつもりがあるなら、そのための場を用意させて頂こうと思います」
「ローザ、滅茶苦茶悪い顔しているなぁ。策士の顔っていうか、なんというか……お前ってただ周りの恋愛の進展を面白がっているだけじゃないよな?」
「ラインヴェルド陛下、流石にそれは酷いですわ。……アルマ先輩はとても真面目な方で、ボクも尊敬しています。それに、バルトロメオ殿下とも付き合いが長いですから、それなりに情は持っているつもりです」
「……それなりに、って」
「なので、二人が幸せになって欲しいという気持ちに嘘はありません。そりゃ、ウブなアルマ先輩がバルトロメオ殿下に翻弄されながら愛を育まれていく姿を楽しみに見物しようという意図もない訳ではありませんが」
「……最後のが無ければ完璧だったと思うわ」
シーラのジト目が突き刺さる。でも、お節介かも知れないけど、昔から恋愛を応援するのは百合の次に大好きなんだから仕方がないじゃないか。一方で、ボク自身が渦中に放り込まれるのはごめんなんだけど。
「さて、とりあえず準備は整った。これで、シーラさんの知りたかった真相も明らかになる。……例え最悪の結果であろうと、それが真相だ。残酷なことを言っているとは思っているけど」
「はぁ……本当にローザさんって優しいのね。今でも私は、あの方が私を助けてくれたって信じているわ。でも、それが間違っていたとしても貴女には何も責任がないでしょう? 何一つ関与していないのだから。その時は……私も覚悟を決めるつもりよ。あの方の言葉が、優しさが全て嘘だったら、私は……」
◆
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
「ようこそお越し頂きありがとうございます、パーバスディーク侯爵様」
「久しぶりだね、ファンデッド子爵。元気そうで何よりだ」
午後になり、予定通り馬車が到着した。
色々と準備は済ませたものの、お父様とお義母様の緊張が尋常じゃない……一応、親戚でしょう?
現れたのは、三人の男性でした。一番前にいる小太りの杖をついた老人がパーバスディーク侯爵様で、パーバスディーク侯爵様の一歩後ろに立つ中肉中背の男性がお義母様と顔立ちが似ているのであの方が次期当主でしょう。そして、三人目はパーバスディーク侯爵様の孫ですね。この方は以前お会いしたことがあります。
……年の頃は私と同じかそれより少し上といったところだと思うんですが、小馬鹿にした表情でお父様を見ていることに若干の苛立ちを覚えます。しかも、以前私のことを面と向かって馬鹿にしてきたことがあるんですよね。
一応、侯爵の直系にあたる孫……だとしたら、爵位持ちの人間に対してあの不遜な態度はないと思いますし、何故それを父親なのか分かりませんが、次期当主が咎めないのか理解できません。貴族の常識が通じないというか、自分ルールで生きている方々なのかな? と感じます……そういう人達って本当に質が悪いのですよね。
まあ、腸が煮え繰り返るような気持ちも顔に出してはいませんし、問題はありません。
まだ、向こうも兆候があるというだけで態度や言動にはっきりと侮蔑を表している訳ではありませんし、一見、パーバスディーク侯爵様も友好的にお話をなされているようです。こういう方が一番厄介なのですけどね。
「失礼致します、お父様」
「あ、アルマ?」
「ご歓談中に申し訳ございません。お父様、よろしければ私をご紹介頂けませんでしょうか?」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




