Act.8-255 ファンデッド子爵家の波乱の婚約 scene.5
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
「まあいいわ。ねえ、午後には父上と兄上がご到着なさるから、その前にある程度のことは決めておいた方が良いと思うのよ。それから私とアルマは着替えてお出迎えをしなくてはいけないわ! 替えのドレスは持ってきているかしら? 地味なものでは失礼になるでしょうし」
「お義母様、一つ確認したいのですが……」
「あら、どうしたの?」
さて、いよいよ本番ですね……これ、荒れるなぁと思いながら言い出すの辛いのですが、私が言い出さないとこのまま最悪の事態に突っ走ってしまいますし……もう、こうなったら腹を括るしかない!
それに、ここでちゃんとしないとメレクの婚約がろくでもないことになりそうな気もします。パーバスディーク侯爵家が首を突っ込んで掻き回した結果、最悪破談に……ということもあり得ますし、その結果、ファンデッド子爵家だけが貧乏籤ということも考えられます。お義母様はちゃんとその点、分かっているのでしょうか? ……きっと分かってないでしょうね。
「もし、パーバスディーク侯爵様が我々が決めた内容が『全くなっていない、自分達が全てセッティングする』ともし仰った場合、それに従われるおつもりですか」
「……えっ。アルマ、貴女……何を、言っているの」
「ただの確認です。当然のことではありますが、今回の件はルーセント伯爵家とファンデッド子爵家の婚約です。他家の方が口出しをしたと知れれば、ファンデッド子爵家の名誉の失墜だけではなく、ルーセント伯爵家から見ても情けないと判ぜられて婚約を反古される可能性がございます」
「……それは言い過ぎよ! パーバスディーク侯爵家は私の生家。況してやメレクは私の実子、外戚なのだから他家などという言い方は」
……まあ、そうなのよね。私と違ってメレクはパーバスディーク侯爵からすれば、一応孫だ。……その割にはうちではパーバスディーク侯爵家からのお祝いなんて全く見たことがないのだけど。
血筋どうのこうのもお父様が本当に大変だった時も情報を掴んでいただろうけど知らぬ存ぜぬだったし、それならメレクとお義母様だけでも助けようとかそういうことも無かったし……そういう時は勝手に滅びればいいみたいな態度なのに、いざ役に立つと知れれば鮮やかな掌返し。まるで、宝籤が当たって増える親戚みたい。甘い汁を吸いたいだけ、そのついでに家を乗っ取りたいだけの害虫のためにのうのうと主導権を握らせるなんてどう考えても愚かな行為でしょう。それに気づいていないのかしら? それとも、本気でファンデッド子爵家を生贄にしようとしている?
「こちらからお願いしたことなのでしょうか? お父様」
「……いや、あちらからだ。私が、至らぬ領主だから、孫の婚約が泥臭いものになってはならぬからと」
「お父様も孫であるメレクのことを案じてのことなのよ?」
私に視線を向けられたお父様が超高速で目を逸らした。
お父様は爵位が上というだけでなく、かつての仕事の上司だったという点でもパーバスディーク侯爵に頭が上がらない。それ故に強く出られないというところもあるんだろうけど、更に浮気の件で致命傷だ。お義母様は今回の件を凄く喜んでいる――そこに冷や水を浴びせれば、浮気話も持ち出されてただでさえちょっと家での立場がないのが更に危うくということでしょう。
一応まだ当主なのでもう少ししっかりしてもらいたいものですが。
まあ、とにかくパーバスディーク侯爵が貴族としての常識が欠如した極めて面倒な御仁であるということはよく分かりました。普通、支援をしたいというのであれば、頼まれてから動くか、動いていいか聞いてからという段階を踏む訳で……それをしないということは本当の莫迦か、それかファンデッド子爵家を見下しているかのいずれかでしょう。
「それはメレクも、了承済みということなのですよね?」
「メレクは関係ないでしょう?」
「お義母様。メレクは今回の件の当事者であり、同時に次期当主でもあります。当然、当主夫妻が子のために動くことは前提かもしれませんが……この婚約が調い次第当主代理として収まることが決まっているメレクを軽んじてはならないと、お義母様もよくお分かりではありませんか?」
「それは、そうだけれど……でもメレクは、まだ。それに、パーバスディーク侯爵家の力を借りてルーセント伯爵家とも繋がりさえ持てば、今後ファンデッド子爵家は発展すると思うのよ! アルマだって、王弟殿下との仲が進展しているのでしょう? 屋敷にもお越しになられていたし、それに、第一王女殿下の誕生パーティでだって……今が、今がチャンスじゃない!!」
「――母上!」
若干風向きが悪いことを察したらしいお義母様が、半ば叫ぶようにして立ち上がった時、きゅっと唇を噛んでいたメレクが意を決したように口を開いた。
……お義母様の気持ちも分からない訳では、まあ、ないのよ? でも、これは客観的に見れば明らかに罠で。
お父様と同じでこの人も、私が見目が悪くて仕方なく働いている不器量な先妻の娘ってイメージなんでしょうね……それが何故か、王弟殿下に見初められて……見初められて? いえ、それは流石にないんじゃないかしら? 揶揄ってるだけだと思うけど。
『この国の美的に外れてるだとか何だっけか……まあ、そういうのはあるんだろうけどよ。お前自体は悪くないってこった』
『勿体ねぇだろ……まあ、お前がそういうなら仕方ねぇか。俺はお前のこと、好みなんだけどなぁ』
『美しい姿、と表現したのは何もお世辞ではないってことだ』
『アルマ、お前は自信がないみたいだけど十分魅力的だぜ? ダンスをしている時は優越感があったからな?』
『とにかく、さっき俺が言ったことは全く嘘偽りない感想だってことだ』
『前にも言ったが、俺はお前のこと、好みなんだけどなぁ』
あれは、ただの遊び人の、一夜の……いえ、二夜の過ちなんだと思う。あれは、間に受けては絶対にダメな奴だ。それを勘定に入れてしまっている時点でもうダメだと思う……遊び人なんだよ、浮名を流しまくっているんだよ?
あゝ、身内にそんな風に連続で言われると胸が苦しくなってくるよ。とはいえ、打ちひしがれている場合ではないですけどね、もう覚悟を決めたんです! 例え格好悪くてもこのままきちんと話し合いに持ち込みますよ!
でも、その前に厳しい声を上げたのはメレクなのですが。
「母上、もうこれ以上余計なことを口にするのはお止めください。そして、姉上に対しても謝罪を。――父上も、何故黙っておられるのですか!」
「……メレク」
「姉上、今回の件先に手紙でお知らせしておくべきでした。僕が、自分の力で両親を諫められると過信した結果がこのザマです。申し訳ございません」
しゅんとしたメレクに、私は何とも言えなくなる。……まあ、それはつまり婚約の話が出てすぐにパーバスディーク侯爵家の干渉を察知し、お義母様が浮かれる中でメレクは孤立無援で奮闘していたということですよね? 私がこの件に気づく、ずっと前から。
メレクは朝食を片付けるよう指示を出し、人払いをするようにと言いつけました。
ディマリアさんとカレンさんが残る中、それに対してお義母様が口を開こうとするのをお父様が首を振って止めています。
あー、予想以上に険悪な状況からのスタートだ。
まあ、切っ掛けは私だったのだけど……とはいえこれは誰かが口火を切らないとどうにもならない問題であって、どうやらメレクが穏便に解決しようとしたものの全く効果がなくて今に至る、ということなのでしょう。
そもそもは当主で夫のお父さまがしっかりしてくれるのが一番なんだけど、まあ見ての通りだし、こういう時に威厳の欠片もなくて全く役に立たないし。
お義母様も私の言い方が悪くて引くに引けなくなっているというところもあるかもしれないけど、私とお義母様の考えはどこまで行っても平行線。ならば、どちらかが折れるまで決着はつかないのよね。
「メレク、あの二人も」
「母上、あの方は護衛騎士。我々が動かせる方ではございません。姉上の御身をお守りするよう指示されてきておられるのですから。それに、あのメイドさんは――」
「アルマ、貴女からもなんとか言って頂戴!」
「えっと……ディマリアさん」
「申し訳ございませんが、ファンデッド夫人。私は王太后様の命によりアルマ様の身辺警護を仰せつかっておりますれば、夫人のご意向に添うことは致しかねます。私のことは石像と思いお気になさらず」
「……っ、な、な、んで……」
「私も旦那様の命を受けてこの場におります。もし、私を動かしたければ、国王陛下か旦那様の許可を得てからにしてください」
ぱくぱくと口を開閉するお義母様は、私とディマリアさんとカレンさんを交互に見て泣きそうな顔をしていました。
私としてもこの情けない感じの家族会議になると思っていませんでしたから、どうせだったらドアの外にいて欲しいなぁと思うのですが……ディマリアさんとは付き合いが短いですが、親身になってくださっていますから、きっと、お義母さまの先程の発言にイラついたのでしょう。
……問題は、カレンさんの方です。
「カレンさん、一つお聞きしてもよろしいでしょうか? 今回の件のラピスラズリ公爵家の思惑をお教え頂きたいのですが」
本格的にごちゃごちゃの家族会議に入る前に、私はこれまで立場が不明瞭だったカレンさんの立場を明らかにすることにした。
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