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Act.8-253 ファンデッド子爵家の波乱の婚約 scene.3

<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


「……お父様や皆はいつも、いつ頃に起きて来られるのかしら?」


「そうでございますね、朝は六時半頃でございましょうか……」


「ありがとう」


 近場に居たメイドに尋ねて、答えを聞いて……真っ先に思ったのは、ああ、私って家族のことを全く知らないんだなぁ、ということでした。そりゃ、行儀見習いからずっと侍女をやっている箱入りなんですから、当然と言えば当然なのですが。

 じゃあゆっくりしてからお父様達が起きるのを待って一緒に朝食を食べよう、と思いました。帰省の挨拶をするにも丁度良いです。家族なんですから先に食べるよりも、一緒に食べるべきだと思いますし。


 しかし、今は五時……五時なのよね。まだ一時間半もあります。

 まあ、こういう時は書架を眺めるのが一番です……といっても、うちの蔵書は大したことがないのですが。……まあ、十歳の頃から殆ど帰っていないから増えている可能性も……ないな、寧ろお金に困って売った可能性も。


 そういえば、圓さんは個人で凄まじい数の蔵書を保有していると聞いたことがありますが、もしお願いすればコレクションを見せてもらうことはできるのでしょうか?


「私は書庫にいます。もし家族の誰かが早くに起きてくるようでしたら教えてくれますか」


「畏まりました」「承知致しました」


 こういう時にディマリアさんとカレンさんが真っ先に返事をしてくれるというのはちょっと悲しくなって来ますが。

 書庫に入って、適当にとった本を開いて読んでみる。……すると、懐かしい本がいくつもあった。たった十年だけど、この家に私は確かに住んでいたのだと感じることができた。


 昔読んだ物語の中に『この世は無数の綺羅星が煌く物語。一人一人が主人公であって、それぞれに物語がある。その物語同士は時に交わり、どちらかが否定されるかもしれないけど、その物語に優劣というものは決して存在しない。例え認められないものだとしても、それもまた一つの物語だ』という台詞を見つけて、そうよねえ、なんて他人事のように思ってしまった。


 侍女のお仕事って楽しい、から始まって、気づいたらここまで来たという風に今まで突っ走ってきましたけど。働く女のどこが悪いのか、私には今も分かりません。圓さんはどう思っているのでしょうか? 「男だろうと女だろうとどうでもいいじゃないか」と言いそうですね。あの方、何となく女尊男卑的なところがあるように思えますが、こと仕事に関しては完全な平等で、レッテルよりもその人個人のことをよく見ていますから。


 統括侍女様はちょっぴり怖い上司ですけれども、怖さよりもずっと尊敬できる方です。

 他の筆頭侍女の皆様も先輩として見習うべきところは多く、一刻も早く追いつけないとしてもついていけるようになりたいと思っています。レイン様に後任として選んで頂けたのですから、その期待に応えなくてはなりませんからね。……流石に圓さんに追いつくのは無理です。あの方のスペックはぶっ壊れですから。


 ……社交界で輝く王太后様達を見るとまあそういう道を本来ならば子爵令嬢として歩んで欲しかった、というお父様達の願いを理解できない訳じゃないんですよ。寧ろ、それが貴族社会での当然の考えなのですから。

 ですが、人には適材適所というものがあると思うのですよ! 私にはそういうキラキラとしたところで活躍はできませんから。


 私は私の考えを、生き方を曲げる気はないんです。……今更曲げようと思って曲がるものでもありませんし。

 デビュタントもしたし、一応貴族らしい所作もできるようになってきていると思っていますし……だから、そろそろ、お父様に認めて欲しいと思っている。


 働く娘のことを哀れに思わないで、誉だと言って欲しい。


 でも、それが難しいのよね。……いえ、そもそも私はお父様とも家族とも対話をせず、前世の記憶があるばかりに大人ぶって、『やりたいこと』を見つけて飛び出して行ってしまった。今の現状を作ったのは、私自身にもその責任があるんだ。


 ……お父様がもっとしっかりしてくれれば! と思っていたこともありますし、今でも少し思っています。


 さて、どう話せば良いのかしら? 昔はどう話していたのかしら? きっと前世の記憶があって、色々なものが見えていたから、冷めていて生意気な子供だったと思う。やっぱり可愛くない娘ね。

 ……今更仲良し親子というのは難しいし、今更軌道修正も難しいよね? かえって気持ち悪いし。じゃあ、どうすればいいのかしら?


「そのままで話せば良いと思うわ。今のアルマ様が思っていることを全てぶつければいいの。馬鹿正直に当たることも大切なのよ。アルマ様は前世の記憶があって成熟が早かったから、嫌なことから逃げるという選択ができてしまったのではないかしら? 傷つかないための立ち居振る舞いというものも賢い選択だと思うわ。でも、時には真っ正直に、バカみたいにぶつかってみることで光明が見えることもある。痛みを嫌がっていたら、誰かを傷つけることを、誰かに傷つけられることを恐れていたら、何も変えることはできないわ」


「……カレンさん」


「申し訳ございません。先程ファンデッド子爵様が我々に挨拶をしてくださった後、書斎に赴かれました。そのことをお伝えしようと思ったのですが、心の声が聞こえてしまって」


 私にアドバイスをしてくれたのよね? これから、どうお父様と向き合うべきなのか、迷っている私に。


「私はよく喧嘩早い性格だと言われます。隠し事は苦手で、そういった悩みとは無縁です。……ローザ様からお勧めされた漫画を読んだ時に、互いが互いを思いやり、行動し、嘘をつき、その結果関係が拗れ、大切な友達を失ってしまう、そんな姿を目にして、私が感じたのはもどかしさでした。……見気を使えば、人の心は見えます。理解できます。しかし、普通は人の心は分からないものです。どれだけ心で思っても、それは伝わらない。言葉にして、行動に移して、それでも完全には伝わらない。それでも、気持ちを伝えたいのなら動くしかないのです。どんなに言葉足らずでも、伝えようとしなければ何も変わらない。間違うことや、傷つくことや、傷つけられることを恐れていたら、何も変えられません。――アルマ様、貴女も主人公です。貴女という人生の主役ですわ。ですから、何も恐れる必要などないのです。貴女の思っていることを、その気持ちを全てぶつけてください。その権利が、アルマ様――貴女にもあるのですから」


「ありがとうございます、カレンさん」


「いえ、お力になれたになれたのでしたら良かったですわ」


 ……そうです、ここで悩んでいたって仕方がありません。

 お父様と話をするしかないのです。今までできなかった分も。そうしなければ、カレンさんのいう通り、何も伝えることができないのですから。



「お父様、アルマです。入ってもよろしいですか?」


 軽いノックをしてそう声を掛ければ、僅かに躊躇った気配がしてから「どうぞ」という声が返ってきました。


「失礼致します」


 小さい頃には秘密の部屋のような特別な印象があった書斎……まあ、実際は代々領主が仕事で使う書類や今までの記録書、書庫にしまっておけないような類のものや資料が集められているだけの部屋なのですが。ちなみに、執務室はまたまた別にあります。領地持ち貴族としては一般的な話ですからね、弱小貴族とはいえ領地持ち貴族ですからうちにもちゃんとあるんですよ!

 ここも、メレクの婚約が調えば、これからはメレクが中心に使う場所になるのでしょう。家の中からどんどん自分の居場所が無くなっていき、肩身が狭い思いをしているのかもしれません。

 勿論、許可さえあれば使うことができるんですけどね。それこそ、私であっても。


「おはようございます、お父様」


「ああ……おはようアルマ。昨晩はよく眠れたかい?」


「はい、おかげさまで。……今、お時間よろしいですか?」


「……えっ?」


 よっぽど意外だったのでしょうか? なんなんですかその反応! 流石に傷つきますよ!

 まさか、帰省した娘がちょっとくらい親子の会話をしようと思ったのではないかと想像が……あっ、付かないのですね。


「私が、お父様に会いたいと思うなんて、考えてもおられなかったということですか?」


「えっ、あっ……いや、ち、違うよアルマ!?」


 その反応、全然違っていないじゃないですか!? まあ、自業自得なところがあるのは確かですが……。

 それでもちょっとくらい、娘として愛されているんじゃないかと、そう期待していたというか、勝手に想像して、よく分からない希望を抱いていたというのか。

 手紙のやり取りもしていましたし、時に仕送りだってしてきました。関係は切れていなかったと思います。


 お見合いや結婚の催促が嫌で嫌で、あまり帰省しなくなったことは反省していますが、それでも、家族を蔑ろにしたつもりは一切ないのです。

 あの騒動の時だってお父様を守りたかったし、そのために東奔西走したつもりです……いえ、あれはきっと私よりも遥かに圓さんやジリル商会の会頭が骨を折ってくださったのでしょうが。傲慢な令嬢だと勝手にレッテルを貼り付けて、勝手に幻滅していた、そんな私のためにあの方は手を尽くしてくださいました。あれほど上手くことが運んだのは、圓さんの尽力の賜物なのでしょう。私はあの時、本当は何もできていなかったのかもしれません……いえ、やれるだけのことはやったつもりですが。


 あの後も私のことを案じているといいながら、可哀想な娘という視線を向けてくる父の姿にちょっとだけ泣きたくなりましたが、我慢してきました。


 あの時は色々あって、色々なことに追い立てられていて、私がしっかりしないとと思っていたから、侍女の仮面を被ってお父様に対峙することができた。凛と振る舞うことができていたのだけど……。


「……お父様……私、私はそんなにもお父様にとって親不孝な娘なのでしょうか」


 その侍女の仮面が剥がれた時、こんなにも不器用になってしまうのは、私が未熟だからなのでしょうか?

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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