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Act.8-251 ファンデッド子爵家の波乱の婚約 scene.1

<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


 かた、かたたん。かた、かたたん。


 上質な馬車は内部まで静かで、クッションはとてもふわふわだ。

 特別な設えの馬車だと聞いていたけど、やっぱり凄いわね。


 私は今日、ファンデッド子爵領に帰省するために馬車に乗っている。

 圓さんの用意してくれた(ラピスラズリ公爵家のものではなく、圓さんの私物の一つらしい)の黒塗り紋無しのこの馬車の中には私の他に二人の女性の姿がある。


 一人は王女宮を守護する白花騎士団所属の護衛騎士を務める凛々しい女性――ディマリア=ブランディッシュさん。

 そして、もう一人はラピスラズリ公爵家の使用人であるという癖のある赤茶色の髪を強く結い上げ、銀縁の眼鏡をかけた知的な雰囲気を感じさせるメイドのカレン=エレオノーラさん。


 今回、ディマリアさんは王太后様と姫殿下の同意を得た王女宮筆頭侍女の圓さんが王太后様からの命令という形で騎士団長のラーニャさんに指示を出して、その指示を受けたラーニャさんの指示を受けたという複雑な形で護衛として派遣された。

 その中にラピスラズリ公爵令嬢――つまり圓さんの思惑が絡んでいることはディマリアさんも承知しているんじゃないかしら? 今回の護衛役を兼ねたメイドと気怠げな表情の馭者の男――ヘクトアール=ヴァンジェントさんはどちらもラピスラズリ公爵家の使用人のようだし。


「……なんで俺がまた馭者役なんですか? せっかくの快晴なんですからゆっくり庭仕事をしていたかったのに」


「今回はお嬢様直々の指名ですから、もし文句があるならお嬢様にいうべきではありませんか? ……私個人はサボり魔の貴方はもっと働くべきだと思いますので、丁度良かったと思いますが。しかし、お嬢様が直々にヘクトアールさんを指名するなんて、よっぽど信頼されているのですね。お嬢様もなんでこんなサボり魔に信頼を寄せているのでしょうか?」


 カレンさんは毒舌のようで、怠そうに鞭を動かしているヘクトアールさんに毒の籠った言葉を投げかけていた。


「そもそも根本的なことを聞いても良いでしょうか? 今回の王子宮筆頭侍女様の帰省に護衛をつけることについては特に問題はないと思います。しかし、それならば王子宮の護衛騎士に頼むのが自然ではありませんか? それに、今回の件には王女宮筆頭侍女様が大きく関わっていることが素人目から見ても分かります。王女宮筆頭侍女と王子宮筆頭侍女様が格別仲が良いという話は聞いたことがありませんが、どういった事情でこのような状況になっているのでしょうか?」


 本来、護衛騎士のディマリアさんが疑問を持つべきものではない。

 王太后様から与えられた指示だもの。そこに疑いを持って、その指示の裏に隠れたものを探し出すことは求められていない。ディマリアさんに求められていることはただ任務を遂行することだけ。


「……まあ、疑問に持つのも仕方のないことだと思うわ。お嬢様からも許可を得ているし、説明するけどこれは他言無用よ。ローザお嬢様とアルマ様は同郷から転生した同じ記憶持ち転生者なのよ。同郷の出身者だから気に掛けているというところが大きいわね。他には、前王子宮筆頭侍女のレイン様をローザお嬢様は大変尊敬していらして、レイン様が格別目を掛けていたアルマさんにもその直向きな職務態度を高く評価していて尊敬しているというところもあるわ。お嬢様は同格の筆頭侍女のことは職務名で呼ぶのだけど、格別尊敬している人には尊敬を込めて先輩呼びをしているそうよ。アルマ様もローザお嬢様から先輩呼びをされているんじゃないかしら?」


 確かに私のことも先輩呼びしているわね。でも、あの先輩呼びは尊敬というより自分の正体を知る者とそうでない者を線引きするようなもののように思えるのだけど。

 でも、先輩呼びすることで他人行儀さが消えて距離感が縮まったように思えるというのは確かね。


 ディマリアさんは私と圓さんが記憶持ち転生者であることを知らなかったようだけど、アクアさんとディランさんという前例を知っているから大して驚いてはいないようだった。

 それから、私の前世がどのような感じだったのか、どういう世界で暮らしていたかを説明したわ。


「……アルマさんが転生者だってことはお嬢様から聞いていましたが、その前世が水上(みずかみ)宇井羽(ういは)さんというOLで、死因が節約のつもりで寒い中暖房をつけずにゲームをしていた結果の風邪を拗らせた肺炎だったという話は初耳でしたね」


「……本当にしょうもない死因でごめんなさい」


「しかし、そういうことだと納得できることがありますね。私もローザ様があまりにも聡明で博識なことに驚いていましたが、もし転生者であったのなら腑に落ちます」


「ああ、それがどうもローザお嬢様に関しては記憶持ち転生者だから凄いって訳じゃないみたいんですよ。俺も気になって、お嬢様と一緒に庭仕事をしている時に前世の話を聞いたことがありましてね。えっと……一歳にして言葉を発し、二歳にして平仮名、片仮名、漢字、アルファベットを操るに至り、三歳からは父親や母親の資料を漁って古今東西の様々な文学作品に浸るようになって、八歳にして諸事情で義務教育の小学校を中退して投資の仕事を始め、様々な企業や個人と繋がりを持ち、投資した企業にアルバイトで就職し、多くの技能を身につけた。資格も多数保有。ふと思い立って高等学校卒業程度認定試験を受けて特に勉強もせず一発合格して、その後大学に通って教師の資格を取って卒業。医療にも興味を持っていて、医学部への入学も検討していたようです。幹部の化野氏の評価だと、既に現役の医師に匹敵する医療知識と技術を持ち合わせていたとか。……幼少から達観していたようですが、皮肉屋ながらも割と純粋な性格であったと言ってましたが、それについては割と怪しいなぁと俺は思っています。……ローザお嬢様は前々世の記憶を全く持っていないようですが、いくら圓様が天才だったとしてもこの神童と呼ぶ以外に表現のしようのない圓様の急激というか、異常過ぎる成長はあまりにも不自然です。これは、ローザお嬢様ご自身も不審に思っているようで、魂の無意識的な部分――阿頼耶識が深く関わっているのではないかと考えておられるようです。一回生で本来、魂の記憶は消えるようですが、阿頼耶識という部分に蓄積されたその記録は消えずに残ります。魂の中で唯一、その一回生を保証するものが阿頼耶識なのだそうです。その無意識の魂の蔵が何らかの天が二物以上を与えた才能に深く関わっているのではないかとローザお嬢様はお考えのようですが……まだ可能性の域を出ない仮説だそうです。……説明している俺も何がなんだかさっぱり分かりませんが」


「アルマさん、阿頼耶識ってどういうものなのかしら?」


「さぁ……さっぱり分かりません。少なくとも日常会話で出てくるようなものではないと思いますが」


 いずれにしても、圓さんが途轍もなく賢いということがよく分かったわ。いえ、元々賢いとは思っていたのだけど。


「でも、これほど仰々しく護衛を引き連れていく必要はないと思いますが。……もしかして、何かあるのですか?」


「そうですか? そんなに多いって訳でもないと思いますけどね。俺は馭者の仕事が終わったら帰って寝ますし。それに、アルマ様は筆頭侍女という重役で、王太后様からも覚えめでたいのですから、これくらい当然なんじゃないですか? お嬢様もそう言っていたんじゃないですか?」


 ヘクトアールさんの答えを聞いても腑に落ちない部分があったものの、こう言われてしまったらこれ以上詮索できない。

 嫌な予感を抱きつつ、私は馬車に揺られながらディマリアさんとカレンさんから「ディマリアさんの指揮権は王太后様が、カレンさんの指揮権はラピスラズリ公爵と国王陛下が握っている」という圓さんからされた説明を改めて聞いた。



 ヘクトアールさんは邸に着いて、荷物を全て下ろすなりすぐに出発してしまった。お茶でも……と思ったのだけど。まあ、ファンデッド子爵家にできるおもてなしは、ラピスラズリ公爵家のものと比較するのも烏滸がましいものかもしれないけど。


「ヘクトアールのことを気にしなくても問題ありませんよ。あの人はどんなおもてなしよりも怠惰に過ごせる時間の方が幸せなのですから」


 まあ、カレンさんがそういうなら大丈夫……なのよね? 多分。

 私達が荷物を屋敷の中に運び込もうとしたところで、お父様が姿を見せた。


「あら、お父様わざわざお出迎えくださったんですか? ありがとうございます」


「あ、アルマ……先触れは確かに来ていたが、先程の馬車は」


「今回の帰省に際してローザ様がご用意してくださったものです。また、王宮に戻る際には馬車を手配してくださるそうですわ」


「そ、そうか……ローザ様が」


 あの方の規格外さを先の不祥事でよく知ったお父様はさしたる驚きもないといった様子だった。

 「後でお礼の手紙を認めなければならないな」、と言うお父様の表情は硬い。そういえば、少し痩せたかしら? ……ストレスで痩せたとしたら、あの後にまた何かあったのかもしれないわね。悪い予感が当たっていないといいんだけど……と言いたいところだけど、その予感が当たっていることは既に圓さんが断言しているのよね。


 とりあえず積もる話は確かにありますが、外で待たせても申し訳が立ちませんし、家の中に入れてもらいました。


「お父様、こちらは王女宮勤めの護衛騎士のディマリアさんと、ラピスラズリ公爵家のメイドのカレンさんです。此度の帰省で私の護衛を務めるため、二人は私と共に来てくださいましたので客人として遇していただけるようお手紙でもお願い致しましたが……」


「あ、ああ。部屋は用意してある。ファンデッド子爵家へようこそ、お二方。ご緩りとお寛ぎくだされ」


「ありがとうございます、ファンデッド子爵様。護衛騎士のディマリアと申します。アルマ様の護衛の任を王太后さまより拝命しておりますので、どうぞ滞在中も帯剣をお許し頂けますようお願い致します」


「初めまして、わたくしはラピスラズリ公爵家のメイドを務めているカレンと申しますわ。今回はメイド兼護衛として参加させて頂きます」


 ディマリアさんに続いて挨拶をしたカレンさんも流石は公爵家のメイドというべきか洗練された動作で礼をしたのだけど……そのメガネの奥に隠された眼の中に獣のような光を感じたのだけど……気のせいよね?

 というか、本当にただのメイドなのかしら? 戦えるメイドって…………まさか、暗殺者を兼ねた戦闘メイドとかではないわよね?

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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